ある男と河童の道理外   作:ありそーす

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見えないところで想いというものは募るのだ


閑話 ある河童の日記

某月 某日

 

どこからかは知らないがその妖怪はやってきた。

 

その姿は美しく、髪も瞳もまるで世界が讃えているかのような妖艶さを含んでいた。

 

新たな仲間が増えたので、宴会でも開こうという話になった。

 

たちまち、用意を済ませ、山を挙げての大きな宴会を始めた。

 

主役である彼女の周りにはたちまち、妖怪だかりができていた。

 

皆、彼女に興味津々なようで、彼女は質問攻めにあい、それに困惑しながらも少しだけ微笑みながら答えていた。

 

宴会も佳境となり、お開きになろうとしたとき少し問題が起きた。

 

酒癖の悪い鬼が河童に絡んでいたのだ。

 

会話を断片的に聞いていたので記す。

 

「おい!なんでおめぇなんかがあの女に手ぇ出してんだ!」

 

「ひっ!べ、別にそんな気は…」

 

「俺に口答えすんのか!」

 

「ぐぇっ、やめっ…」

 

どうやら、何か女性のことで揉めてたらしく、河童の方は逆らえないので抵抗らしい抵抗もできず、首を絞められていた。

 

それを、皆、遠巻きにして見ていた。

 

ある者は気の毒そうに、ある者は酒の肴に、ある者は無関心に。

 

そこにたった一人、近づく者がいた。

 

例の新入り、今日の主役の妖怪だった。

 

「おい、その辺で止めときなよ」

 

「なんだぁ?おめぇも俺にケチつけようってかぁ?黙ってみてろぉ!」

 

鬼がその妖怪を振り払おうと腕を振るった。

 

が、その妖怪はいつの間にか、河童を絞めている手の指を一つ一つほどいていた。

 

そして、数を数える間も無く、それは解かれた。

 

「大丈夫かい?」

 

「ゲホッ、ゲホッ。有り難うございます」

 

「なに、せっかくの宴会で死人が出たら目覚めが悪いからね」

 

それを見たとき、私は自身の不甲斐なさを恥じた。

 

彼女より付き合いの長い我々が仲間を助けず、今日の初めて会ったばかりの彼女が彼を救った。

 

私は彼女に対し、畏敬の念をはらわずにはいられなかった。

 

だが、鬼の方は違ったようだ。

 

「舐めおってぇぇ!このくそアマがぁぁ!」

 

激昂しながら突進し、今度は彼女の首を掴んだ。

 

私は思わず

 

「あっ!」

 

と声を挙げてしまった。

 

どうやらそれは私だけではないようで何人かの同僚も似たような声を出していた。

 

とにかく、その時はどうにかして彼女を救わないといけないと思い、刹那に考えに考えを重ねた。

 

しかし、どうしても我々が鬼に太刀打ちできる像が浮かばず、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 

すまない

 

そう彼女に謝りながらこれから起こるであろう惨状から目を背けた。

 

次の瞬間、肉の潰れる音と共に辺りに血飛沫が撒き散らされた。

 

あぁ と思い目を開けるとそこには頭が転がっていた。

 

()()()()

 

その時、その場にいる全ての妖怪の時間が止まっていたに違いない。

 

彼女は自らを河童だと称した。

 

頭の皿を見て、我々もそれを確信した。

 

いくら、あの鬼が下っ端の鬼だとしても、河童が勝てる道理はない。

 

彼女は嘘を言ったのかというとそうでもない。

 

 

確かにあの皿は同族でしかあり得ない。

 

では、この状況はなんなのだ!

 

思考が混乱している内に彼女は口を開いた。

 

誰にも聞こえないような小さな声で

 

「やってしまった」

 

と呟いていた。

 

火に照らされた顔を見ると雪のような肌がすこし青黒くなっていた。

 

明らかに彼女自身も動揺していた。

 

彼女に殺意がなかったことは明らかであった。

 

しかし、ここは妖怪の山。

 

理由はどうあれ、同志を殺めたのだ。

 

彼女は即刻捕らえられ、裁判にかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某月 某日

 

 

先日捕らえられた彼女の裁量が下された。

 

どうやら情状酌量の余地もあり、数十年の過重労役で済んだようだ。

 

このことを聞き、河童一同は胸を撫で下ろした。

 

ただ、一部の者は彼女の異様さを気味悪がっていたが、大半の者は彼女に対して嫌悪を持たなかった。

 

しかし、同族と言えど一枚岩では無いので彼女の力を利用して悪どいことを考える輩も現れた。

 

 

いわゆる下克上を目論む愚者がいたが、密告され、捕らえられていた。

 

馬鹿なやつらだ。

 

そんなことよりも私は彼女の身のことを案じて、普段の仕事もままならない。

 

次、彼女と話す機会が有るならば、美味しい胡瓜のなる場所でそれを摘まみながら彼女への愛を囁きたいものだ。

 

ただ、同じような考えをどうやら何人か持っているらしい。

 

好きにすればいいさ。ただ、負ける気もないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某月 某日

 

本日は待ちに待った彼女の保釈日だ。

 

片時も彼女のことを忘れたことはなかった。

 

逆に彼女への想いは募るばかりであった。

 

あぁ、楽しみだ。誰よりも早く、彼女に激励をして、そして親密なろう。

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れる。 

 

里の入り口で待っていても彼女はやって来る気配がない

 

どうしたのだろうか、何か不都合でもあったのだろうか。

 

翌日の朝まで待ったが結局、彼女が来ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

某月 某日

 

今朝、同僚に叩き起こされた。

 

どうやら、彼女を見た者がいるらしい。

 

話を聞く限り、どうやら彼女は我々と接したくないようだ。

 

なんと、労役所で壮絶ないじめを受けて他人不信になったらしい。

 

残念だが、だからといって無理強いはしたくない。

 

少しずつでもいいから、彼女との関係を築いていけたらいいと思う。

 

我々がすべきことは彼女を迫害するのではなく、彼女の傷を癒すことなのだ。

 

彼女と再び出会えることを切に願う。

 

 

 

 

某月 某日

 

本日、彼女との接触に成功した。

 

彼女と出会うまでにかなりの年月を要したがようやく実を結んだ。

 

久々にあった彼女の姿は以前と変わらなかった。

 

ただ、その目にあの日のような煌めきはなかった。

 

彼女との会話はまるで成り立たなかった。

 

各々がすれ違い、意思疎通とは程遠いものであった。

 

しかし、彼女と接触できたというだけでも儲けだ。

 

少しずつ少しずつ信頼を得て、彼女がまた笑顔で笑える日を我々がもたらすのだ。

 

我々は彼女を『ひとり』と呼ぶことにした。

 

名の意味は決して()()()()()ではなく

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

というものだ。

 

彼女自身にもそう伝えているが、まだ信用されていない。

 

だが、我々は諦めない。

 

仲間を救ってくれた英雄を我々は見捨てない!

 

彼女の傷が癒えきるまで、たとえ、この活動をするのが私一人になったとしても私は彼女のことを追い続けるであろう!

 

そして、いつか傷が癒え、生活を共にするようになったら

あの胡瓜畑で語り合いたいものだ。

 

 




籠の中を世界の全てだと決めつけ、自身は飛べないと思い込んでいる鳥は決して籠の外へ出ようとしないだろう。

だが、籠の外を知り、空を飛ぶということを知った鳥は一体どうするのだろうか…?
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