さらば、力は産まれん。
「四天王のおでましか…」
「久しいな河童のひとりよ。どうやらうちの部下が大層世話になったみたいだな」
「あぁ!花櫚様!」
虎金に次いで楓も到着した。
「ぁぁ…花櫚様。すみません、私がもっと早く…」
涙を流しながら花櫚に駆け寄ろうとするが
「待て、白狼の娘。無闇に敵陣へ向かうな」
「ぁぁぁ」
虎金が首根っこを掴み、止めた。
「どうやらそっちの天狗は心神喪失みたいだが?」
「黙れ人間。貴様さえいなければあの娘は死ななかった」
「こいつをここまで痛めつけたのはあたしだよ」
ひとりは花櫚の亡骸に指を差す。
「
虎金は拳を雅の方へ向け、そして輪ゴムを弾くように人差し指と中指を弾いた。
その一連の動作が終わる前に雅は本能的に体を横へ飛ばした。
──ピシッ──
「ぐぇっ?」
気がついたら右頬が横に真っ二つに裂けていた。
「ちっ、頭を割るつもりだったがギリギリで躱されたか」
「ぅ、ぐああああああ!」
徐々にその痛みを雅の脳は認識した。
ひとりは雅が傷ついたことに怒り、今日初めて明確な殺意を虎金に向けたが
「退くよ!掴まりな!」
雅の身を案じ、撤退という選択をした。
「逃がすか!白狼、追うぞ!」
「…必ず仇は打ちます。だから今一度、ここで待っていて下さいね」
楓は花櫚へ寄り添い、頬を撫でた。
「白狼!」
「解ってます。逃がしませんよ。いえ、逃げられません。だって、
「何?」
「賢者が動き出したようです。もはや彼らに逃げ場などありません」
雅たちは音速以上の速さで移動している。
しているのにも関わらず、一向に鬼たちの姿が遠ざからない。
「どういうことなんだ!?」
「あぁ、ちくしょう。
八雲邸にて、紫は縁側で酒を嗜んでいた。
月見酒をしているのか、それとも…
「遅かれ早かれ、よ。もう夢の時間は終わり。そろそろ起きないと健康に悪いわ」
それはスキマの先の光景が全てを物語っているだろう。
「どうやら、逃げ場はないようだが?」
虎金は再び拳を構える。
「やるしか、ないようだね…」
ひとりも雅を庇うように態勢を整えた。
「目を覚ませ、ひとりよ」
ひとりの様子を見て、虎金はそう呼び掛けた。
「は?何を言ってんだ?」
「その人間の能力、"洗脳"とやらでお前は操られているのだ。洗脳されているお前に言っても無駄だと思うがお前はその人間に─」
その言葉を言い切る前にひとりの弾幕が虎金を襲った。
「ふざけんじゃない!貴様らが!あたしたちを!否定するな!今まで!散々!あたしを─!」
弾幕の爆発と共に感情が爆発する。
「そう狭い視界で世界を決めつけるな…」
虎金は弾幕から脱出し、ひとりの横へ回り、蹴りを放つ。
「ぐっ!」
雅が近くにいるため、受け流すことは出来ず、正面からそれを受け止めるしかなかった。
「げはぁっ!」
「ほう、これをくらって割れてないなんて大したもんだ」
その蹴りの余波でひとりの後ろの地面は地平線の彼方まで割れていた。ひとり自身にもかなりのダメージが入った。
「雅…離れてろ…」
ひとりは膝を着きつつ、雅の方へ気にかけるがその姿はない。
「む!奴め!どこへ消えた!」
そのことに虎金も気づき、辺りを見渡すが姿を確認できない。
「しまった!もう奴の能力が及び始めたか!」
虎金は集中するが、やはり気配は感じられない。
「糞、せめてひとりだけでも回収して退くか」
その雅はというとひとりの横から虎金の脇へ回り、刃をその胸に振るっていた。
そしてひとりもまた、その虎金が狼狽えている隙を突いて一撃、鳩尾にぶちこんだ。
「ぐぉっ!」
初撃はひとりの一撃。雅のことに気をとられた虎金はその一撃をモロに食らった。
そして態勢が崩れたところに雅が刀を振るう。
二人は連携攻撃を仕掛けていた。
その攻撃は確かに決まっていたであろう。
雅の振るった刀は割り込んできた刀によって弾かれた。
「なっ!」
「死ね。花櫚様の仇だ」
楓はまるでそこに雅がいるかのように刀を振り下ろす。
「うっ…」
雅は避けようと思ったが、体がついてこない。
「ちっ、まさか
間一髪、ひとりがそこへ割り込み、刃を受け止める。
「あぁ、そうだ。この下郎は花櫚様を殺したのだ。だから、必ず私が殺す」
怒り、殺意、恨み、怨み。 それらの情念を抱きながら楓はずっと雅を殺す隙を窺っていた。ずっと
まずい。どうする。逃げる→無理。戦う→勝てない。どうしよう。
雅は混乱していた。まさか自身の能力を破られるとは思っていなかった。
「ふんっ!」
虎金がひとりを殴り飛ばす。
ひとりは防御するが、随分と遠くへ吹き飛ばされた。
「白狼、奴が視えるのならそちらは任せたぞ」
「御意」
「糞っ!雅、なんとか持ちこたえてくれ!すぐ向かう!」
「ほぉ、この私に勝つ気でいるのか。それも簡単に…舐められたものだ!」
少し離れた場所で、二人の闘いは始まった。
「さて、人間よ。何か言い残すことはあるか?あっても言わせないがな」
楓は躊躇いなく、雅へ斬りかかった。
その時、雅は走馬灯を観た。
今までの人生。外での空っぽな日々。空虚であった自分。意味を求め、意味もなく死を選んだ憐れな人間。
そうか、俺は死んだんだ。自分から死を─
そして、そこから始まる幻想郷での日々。そこは前の世界と何一つ変わらなかった。
残酷で、無慈悲で、生きる意味など考える暇などなかった。
ただただ
生きたい
それだけを考えていた。
そして、ひとりと出会った。
彼女との出会いは俺に意味を与えてくれた。
俺が生きる意味を。
彼女の存在が俺が俺たらしめる。
俺は
その意志故か、それともただの生存本能故か
雅は無意識に結界を展開した。
「なっ!」
振り下ろされた刃はその障壁を破ることなく、塞き止められた。
「これは…」
雅に霊力的な才能はない。勿論、それは今も変わらない。
だが、雅は図らずとも外部からその力を取り込んでいた。
迷いの竹林の土は魔力を含む。
夜を照らす月の光によってそれは取り込まれる。
そして、そこから生える筍には─
その魔力は生物濃縮的に雅の体にも取り込まれている。
それだけではない。
妖怪の敷地と知らず、そこから取っていた食物たちにも微力ながら妖力やら魔力やらが含まれていた。
雅は知らず知らずの内に力を蓄えていたのだ。
ただそれを本人は理解していなかった。自身は非力な人間だという固定観念に囚われていたからだ。
だが、この瞬間、彼は理解した。
「俺も、戦える!」
月の光は人とっては毒。
なぜかって?
それは寿命を縮めてしまうから。
あの星から漏れ出る力に地上の人体は耐えられない。
まぁ、大半の人間は影で眠っているから関係ないのだけれどもね。
それでも、もうそろそろ対処しておこうかしら。
我々地上の勝利を持って ね。