「うおおおおっ!」
雅は雄叫びをあげた。それは力があることの歓喜ゆえかそれとも己を奮い立たせるためか。
「ちっ、まさか、結界を張れるとは。だが、殺りようはいくらでもある!」
楓は後ろへ飛び退き、弾幕を展開させる。
「私の妖力が尽きるか、貴様の霊力が尽きるか。根比べと行くぞ」
その無数の弾幕を一気に雅の方へと発射した。
一方、ひとりと虎金は共に一進一退の攻防を続けていた。
「やるじゃないか、河童!」
「鬱陶しい!さっさとくたばりな!」
あちらの二人とは対称的にこちらは肉体のぶつかりあいだった。
もし、弾を撃ったとしても小細工だと言わんばかりに共に弾き返してしまうに違いない。
ほぼ互角の戦い。気を抜けばたちまちどちらかが挽き肉となってしまうだろう。
「山を割り、地を割り、海を割り、空を割るこの力をここまで耐えた奴は酒呑様を除いて貴様だけだ。尊敬に値するぞ!ひとり!」
「なら見逃してもらえればこっちも助かるんだけどね」
「それはならん。貴様らは花櫚を殺した。柿祢の方はまだ容疑の域を出ないがあやつの方は事実だ。それ相応の報いを受けてもらう」
虎金は一旦構えを解き、再び構え直す。
「ガァっ!」
「なっ─」
─
─ドガァッッッッッ!─
虎金が放った突きがひとりの顔面にモロに入る。
「ブッ」
ひとりの意識は完全に飛んだ。
「貴様の強さは河童ながらにしては異常だ。もはやそれは天狗さえ、鬼さえ超えた力だろうな。だが、舐めるな。私は
虎金は拳を納める。
「さて、意外にも白狼が苦戦しているようだな。少し手を加えてやるか」
虎金が雅たちの方へ向いた瞬間
─ドゴォッッッッ!─
ひとりの蹴りが彼女の横腹に刺さる。
「ゲェ!」
あまりの激痛に腹を抱えて膝を着いた。
「あんたこそ、あたしを舐めるなよ。あんたが鬼だろうが、四天王だろうが、あたしはあんたをぶちのめしてあいつと生きるんだ!」
「なるほど…。一筋縄では行かんか!」
再び猛攻の応酬が始まった。
この嵐が止んだ時にはどちらかが地面に伏していることだろう。原型が残っていればの話だが…
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
楓は自身に残っている全ての力を弾幕に使いきった。
「どうだ人間。さすがにこれは防ぎきれまい」
煙が晴れ、そこには何かが横たわっているのが見えた。
─殺った!
能力で雅の様子を確認し、その勝利を確信した。
歓喜に身を震わせながらも確実なるとどめを刺すために雅へと近づく。
「花櫚様、今その無念を晴らします!」
自身の直の眼でも雅の身体を確認する。
全身に酷い裂傷、頭部からの出血、右腕の一部欠損。万が一、生きていたとしてももはや抵抗すらできまい。
「死ねっ!そして地獄でその罪を償いながら花櫚様に侘び続けろ!」
──ドスッッッッッッッ!─
その音は
楓の胸から響いた。
「えっ?」
次の瞬間、楓は浮いていた。
霊気の大刃に胸を貫かれ、持ち上げられていたのだ。
「そ、ん、な」
「死ぬのはお前だよ。犬コロ」
「貴様、わざとぉ」
「あぁ、死んだふりでもすればお前は喜んで近づいてくるだろうと思ったよ。油断してな」
「ぐぅ、む、無念…」
あぁ花櫚様、今そちらへ─
虚空へと手を伸ばし、そして楓の体は完全に脱力した。
「勝った、か。はぁ、楽じゃないな勝利ってのも。おかげで体はボロボロだ」
傷は確かに酷いが見た目ほど重傷ではなく、致命傷もなかった。
「あっちに加勢してやりたいが、ちょっと無理そうかな。いや、弾の一発でも撃って奴の気を逸らせれば…」
「それは贅沢ってものじゃないかしら?」
突然、雅の後ろから声が聞こえた。
「なっ、誰だ!」
「あら、ひどいわ。自分の殺した女の声も忘れたの?」
その声の主は八雲 紫であった。
「そんな、お前は─!」
「おかげさまで苦労したわ。まさかあなたがあんな力を持ってたなんて」
「糞っ!」
雅がなけなしの力を振り絞って立ち上がり、構える。
「そんな身体で私に挑むの?勇ましいわね。それも愛故かしら?」
雅は弾を三発ほど、時間差で紫へ向けて放った。
紫はそれを避けず、わざわざ当たった。
「弾で気を逸らして、能力発動 ね。頑張ってるようだけれどもう対策済み。種さえ分かればどうとでも防ぎようはあるのよ?」
紫は服に付いた埃を払い、大きな欠伸をした。
その姿を見て少し憤りを覚えつつも雅は冷静に状況を判断する。
こいつ今
雅が思考巡らすこと数分、ついに紫は動きを見せた。
「もしかして逃げたのかしら?思ったより臆病なのね」
こいつもしかして視えてないのか!?なら─
雅は手頃な石を拾う。
「逃げたとしても、まだここにいたとしても無駄よ。
紫はスキマに腰かけ、弾幕を展開する。
その弾幕が展開しきる前に、雅は紫と自分との距離を底辺とした二等辺三角形の頂点となる部分の茂みへと石を投げた。
─ガサッ─
「あら、そんなところに隠れてたの?」
間髪入れずに今度は短刀を投擲する。
「頑張ってるわねぇ」
紫はスキマを開き、短刀を防ぐ。
そのスキマが閉じた瞬間、雅が目の前に現れた。
「うおおおおおおお!」
霊力で作った刀を目一杯振り下ろす。
「上出来よ。素人にしてはね」
振り切る前に雅の動きが ピタリ と止まった。
「なっ、体がっ」
「極限の状態で限りなく勝ち目の薄い相手に対して一筋の勝算を追った。敵ながら勝算を贈るわ」
パチパチパチ と紫は拍手をする。
「なら、離せ!もう俺たちを放っておいてくれ!」
「それは出来ない相談ね。あなたの命だけは見逃してあげる なら叶えてあげるけど?」
「それなら死んだ方がましだ!」
「そう。なら、死ぬ?」
紫は扇子で口元を隠し、眼を曲げた。
「─ッ!」
その笑みに雅は背筋を凍らせた。
「冗談よ。今あなたに死んでもらったらこちらとしても困るのよ。あなたが死んで、彼女が死んだら、こちらとしてもかなり痛手なのよね」
「どういうことだよ…」
「仕方ないわねぇ。機密事項だけど、特別に教えてあげる。他言しちゃだめよ?」
「だからなんだよ!」
「近々、私たち地上の妖怪は月の民との戦争を始めるの。能力、基礎力、共に大妖怪である彼女はこちらの戦力の要になる存在よ」
「は?」
「彼女の"道を示す"能力はあなたが思ってるよりかなり貴重なのよ?それに別に月の民との戦のためだけに彼女を貴方から離したいわけじゃないわ」
「待てよ。話の整理が…」
「彼女にはもっと広い世界を知って欲しいの。ただでさえ狭いこの幻想郷の中で
「それはひとりが決めることだ!お前の価値観で勝手に決めつけるな!」
「なら
解している
という