─お詫び─
私情により、投稿が遅れてしまったことを深くお詫び申し上げます。もう少しでこのお話も完結するため、後少しお付き合いいただけたら幸いです
ひとりは確かに雅を愛していた。
それは紛れもない真実。歪なれど、そこに愛は有った。
それゆえ、八雲 紫は
彼女の馴れ初めが
ひとりは
そこからは簡単だ。動揺して空いた穴に
「あたしは…そんな…」
すべては賢者の描いた道筋を辿る。
それを雅はただ黙って見ていた。決して状況が飲み込めなかったというわけではない。むしろ、ひとり本人よりもこの状況を理解していたかもしれない。
ならば、なぜ黙っているのか。
それはタイミングを見計らっていたからだ。ここでいたずらに騒いだとしてもひとりを余計に混乱させるだけ。そう判断して雅はじっとしていた。
「恋人が取られそうだというのに、貴方、やけに静かね」
その雅の様子に疑問を抱いた華仙が口を開く。
「………」
「話す気はない、と。つまらないわね」
「選択権は貴女にあるのよ、ひとり」
「あたしは…どうすれば…」
ひとりは否定しきれない。紫の言うことはでまかせだけでないから。
妖怪の精神は脆い。特にひとりのような他と関わることを避けてきた精神的未熟な妖怪は少し小突いただけで簡単にぐらつく。
「そうね。これだけじゃ不満なら、今後、彼の生活も保障するわ。これならもう迷うこともないでしょう?」
「っ!」
雅の生活も…?
「愚かなる死を選ぶか、利しかない生を選ぶか。賢い貴女なら明白よね?」
「…あたしは─」
それならもあたしはもう…。ここで死ぬのはどちらにとっても不幸なんだ…
「ひとり」
ひとりが選択を終える直前、雅の声が響く。その声は叫び声ではなく、決して大きな声ではなかった。だが、それでもその声は
「
「でも、雅、それは間違ってなくて─「なぁ、ひとり。頭でっかちなるなよ」
「え?」
「俺たちの仲に正しいとか、間違ってるとか、そんな道理なんて必要ないだろ?
「華仙、その男の口を閉じなさい」
「はいはい」
華仙は雅の頭を掴み、地面に叩きつける。
「ブァッ!」
グシャ という音と共に間抜けな声を出して雅は地面と衝突する。それでも雅は地のなかで喋り続ける。
「いいか、ひとり。俺は
「華仙!」
「………」
紫は語気を強め、華仙に雅の口を完全に塞ぐように要求するが、華仙は逆にその手を離した。
「ゲホゲホッ」
雅は地面から解放され、いきなりの空気にむせたのか咳き込む。
「どういうつもりかしら…?茨木 華仙…」
「どうもこうもないわ。ただ、この子を抑える気が失せた、それだけよ。不満なら自分で処理しなさい」
華仙は悪びれもなく、そう言い放ち、この件に関しては傍観するような態度を取った。
「ちっ…」
紫は小さく舌打ちをし、手を雅の方へ向けるが、その手をひとりに掴まれる。
「今、何をしようとしてたんだい?」
「離しなさい。離さなければ、あの男の無事は保障しないわ。手元が狂ってしまうかもしれないから」
「そうかい。なら、そもそも手元が狂わないように千切ってやろうか?」
ミシミシ と紫の腕が軋む。
「ひとり殿!何してるんです!」
そのふたりの間に例の河童が顔を出す。
「その方は貴女を助けようとしてるのですよ!?間違った道から貴女を導こうとしてるのです!」
「は?」
ひとりはすっとんきょうな声を出す。
「大体の事情はそちらの賢者様から聞きました。いいですか、河童と人間の夫婦などというのは道理外れなことなのです。きっとひとり殿は寂しさのあまり、勘違いをなさっているだけなのでしょう。しかし、大丈夫です。もう、貴女には我々がついています。なぁ?皆」
その河童の呼び掛けに河童たちはうんうんと頷く。
「だから、我々と一緒にやり直しましょう?」と手を差し出した。
その言葉にひとりはハッとした。
そうか。あたしは思い込んでた。そうであるって。勝手に味方であるとそう勘違いしてた。でも違った。
悪意はなかれど、本質は同じだ。
ひとりは他の河童たちの眼を見る。
やはりそうだ。あたしを見ているようでまったく別の何かを見ている。まるで
「ひとり殿?」
河童は差し出した手が握り返されぬどころか、まったく反応しないひとりに疑問を示す。
「違う…」
「はい?」
「あたしはお前らが思っているような妖怪じゃない」
「それでも構いません。我々は貴女の
「はは、
「ええ!」
「はぁぁ…」
ひとりはその返答にため息をつきながら隙を見て抜け出そうとした紫の脳天に一発ぶちこむ。
あぁ、やっと
「なら、もう間に合ってるよ。あんたらよりあたしを理解してくれようとしてる奴が既にいるんでね」
最初から最後まで
雅 だけだ
「雅、悪かったね!少々、取り乱しちまったよ!」
ひとりの語気に力が戻る。
「それで?答えは出たのか?」
雅の問いかけにひとりは雅に駆け寄り、抱きついた。
「あぁ、どうやら最初から決まってたみたいだ。あたしとあんたはずっと一緒さ」
その二人の情景を華仙は何も言わず、ただただ眺めていた。
一方、ひとりが元居た場所には気絶した紫と状況が飲み込めずにいる河童たちが残されていた。
「どういうことだ?」
「結局人間を選んだのか?」
「なぜだ?」
「ひとり殿…」
「運命、かしらね」
ポツリと華仙が呟く。
「様々な紆余曲折を経ても、たどり着く結末は変わらない。
その問いかけに紫は答えることはなかった。そして、空中に一人の影が現れる。その姿は紅と白で彩られ、まさしく紅白と言えるものだった。
「なんだかやけに竹林が騒がしいと思ったら、どうやら役者が揃ってたみたいね」
その人物は振り袖を、髪飾りを、フワフワと揺らしながらゆっくりと地へ降り立った。
「博霊の巫女…!」
「そう、あなたが例の河童ね。それで、そっちが例の人間と」
また、増えるのか!
雅は、もはや極限状態であった。これ以上の戦闘は望めない。
「話を聞く限り、あなたたち夫婦になりたいそうね」
「そうだ」
ひとりが即答する。
「ふぅん。まぁ、散々言われてきただろうけど、一応私も口を挟ませてもらうとするわ」
博霊の巫女はそう言うと、一息ついて、髪をかきあげた。
「楽園の巫女として
その言葉を聞いた瞬間、ひとりの眉間に皺がよる。しかし、巫女の声は途切れない。
「
「え?」
その意外な言葉に雅は驚き、思わず声が漏れる。
「あくまで私の権力が働くのは幻想郷のみ。それ以外は関与しないわ」
「
「何か勘違いしているわね。私の仕事は
「排除…」
「排除といっても話が付くなら
「ならあたしたちは
ひとりは迷いなくそう答えた。
「貴方もそれでいいかしら?」
巫女が雅に問いかける。
「あぁ」
「即断即決、話が早くて助かるわ」
「待て!」
その叫びは今にも消え去りそうな露ほど弱かった。
「そいつらにはまだ
その声の主は虎金であった。巫女は彼女の姿を一瞥し、
「そう。悪いけど貴女たちの
「くそが…!」
虎金は立ち上がろうとするが、腕に力が入らず、陸に打ち上げられた魚のようにのたうち回っていた。巫女はそれを無視して話を続ける。
「いいかしら。これから貴女たちを幻想郷から追放するわ。その際、守って欲しいことがあるの」
「「必ず守ると約束する(さ)」」
「一、もう二度と幻想郷には戻ってこないこと。これはこの先どちらかが死んでしまったとしてももう戻ってくることは認めない。もし、幻想郷であなたたちの姿を確認したらいかなる理由があろうとも即刻排除する」
二人は相槌を打つ。
「一、幻想郷に関する情報を流布しないこと。今の幻想郷はとても不安定なの。時空や境界があちこちで歪んで乱れている。その状態で外部に此処の存在が知れるのはまずい。分かってくれるわね?」
「わかった」
「これくらいかしらね。それじゃあ二人とも、さようなら」
そう言うと巫女はお祓い棒を地面に突き刺し、印を組む。
「させるかぁ!」
その叫び声の主は紫であった。ひとりからの一撃により意識を失っていたが、最後の最後に意識を取り戻したようだ。地面に這いつくばりながらもスキマを伸ばす。
「紫、貴女も
そのスキマがたどり着く前に二人の姿は消えていた。
愛に勝るモノなし!