──クルルッルホッホホー──
「ん、ふぁぁぁ」
朝に鳴く謎の鳥の声で目を覚ます。
隣ではひとりが眠っていた。
半強制的に住まわされたこの家はそれなりに広く、就寝具も数人分あったのでひとりが住んでも困ることはない。
そう言えばひとりは俺と一緒にすんで大丈夫なのだろうか?
昨日の話を聞く限り、妖怪にも組織があり家族もいるようだ。勿論、ひとりも例外ではないだろう。河童という組織に属し、家族もいるはずだ。
だが、彼女はそれについて話さなかった。つまり、話したくないのだろう。ならばあえて聞く必要もない。彼女が話してくれるまで待てばいい。
そう思うと俺はひとりのことを知らなすぎる。彼女は幻想郷のことはよく教えてくれるが自分のことは滅多に話さなかったな。
知っているのは彼女が河童であり、普通の河童より強くて変わり者だということくらいか。
「ぼやぼや考えても仕方ないか。とにかくひとりが起きる前に朝食でも作っておこうか」
そんな独り言を言いながら、着替えて、顔を洗い、台所へ向かった。
「朝は焼き魚に味噌汁といきたいとこだが、生憎味噌なんてもんはないからな。すまし汁で我慢だ」
だが、昨日の丸米茸があるおかげで汁物の質は上昇した。
それに魚もまだ干乾しした物がある。
「悪くないな」
俺は米を研ぎ、火をおこし、さらに米を炊きながらとなりの竈で湯を沸かしと作業を平行しながら飯を作る。
今では慣れたものだが、来たばっかりのときは苦労したものだ。
火のおこし方すらわからず、竈の使い方もわからない。
もちろん教えてくれる人なんていない。
四苦八苦しながら何とか使いこなそうとしていた。
自分が生きるために必死だったんだ。
だが、今は違う。
ひとりがいる。
彼女の優しさで俺は生かされている。
俺はそれに応えないといけない。
生きる目的ができた。
「うおっ」
気がついたら汁が煮詰まっていた。
「ひとり、起きろ。飯が出来たぞ」
ひとりはまだ気持ちよさそうに寝ているが飯が冷めたらいけないので起こす。
「ん、あぁ、悪いね。寝過ごしちまったみたいだ」
目を擦りながら眠そうに話すひとり。かわいい。
「構わない。着替えて顔を洗ってこいよ。飯が冷めないうちに食おう」
「先に食べてな。すぐいくよ」
朝食を終え、雑談をしながら片付けをする。
「そう言えば、この家、やけに整理されてるね。それに物資、食料も安定してる。とてもあんた一人じゃできそうにないが、どういうからくりだい?」
「あぁ、この家の掃除とかは暇なときにその都度やってるんだ。食料に関してはお前の方がよく知ってるんじゃないか?ここって野菜や穀物が自生してるんだよ。ちょっと歩けばそこら中にある。川で魚も釣れる。それも大漁だ。幻想郷さまさまだよ」
「へぇ。盗みまでやってんのかい。よく今まで生きてこられたね」
「盗み?何言ってんだ。自生してるやつって言っただろ。人が育ててるやつは採ってない。あくまで里の管理外のやつだけだよ」
「そうだね。あんたの主張はわかるよ。
「あぁ!そうだよ」
「馬鹿だね。まだ分かってないのかい。昨日話したことを思いだしな」
「昨日の?…あっ」
「そう。
「妖怪も農業なんてするのか…」
「当たり前だよ。野菜はともかく穀物が自生してるなんてまずあり得ないよ。
「まじかよ…」
「よく見つからず済んだものだよ。いくら野菜や穀物が妖怪にとって娯楽食だからといって殺されない例はないからね。それで、どこのを盗ってきたんだい?」
「湖あたりにはよく行ってたな。言われてみれば確かに自然に生えてるにしては手入れされてたような…」
「なるほど、よりにもよって
通称 妖怪の山。そこには鬼を筆頭とした大きな組織がある。天狗や河童などの多数の妖怪がそこには所属している。
「なるほど。運がいいというわけでもなさそうだ。今までの言動や態度を見てみてあらかたあんたの能力がわかってきたよ」
「隠密系だな?昨日の話を聞けば嫌でもわかるさ」
ひとりの話によると幻想郷の人間や妖怪には何か特別な能力があったりなかったりするらしい。
どうやら俺にはあるようだ。
「おそらく、だね。まだ正確にはわからないけどあらかたそんなものだろうさ。天狗の見張りを潜り抜けるなんてたいしたもんだよ」
山の見張りは白狼天狗と呼ばれる妖怪がしているらしい。
千里眼を持っていて、山に入ろうものなら即見つかってしまう。だが、どうやら俺は能力のおかげで見つからなかったようだ。
今まで、妖怪たちに見つからずに済んだのはこの能力のおかげみたいだ。ただ、ひとりやこの前の女妖怪には効いていない。おそらく、強い妖怪には効果がないのだろうか。
「ん? 待てよ、俺、あそこから
俺は重大なことをやらかしたかもしれない。
「はは、こりゃばれたら楽には死ねないねぇ。さすがのあたしも鬼とくりゃ厳しいもんだよ」
「そのときは俺を見捨ててくれ。巻き込むわけにはいかない」
「さぁ、そのときの気分しだいだね」
「いや、これは俺からのお願いだ。お前に迷惑をかけたくない」
「えらく強情じゃないか。まぁ、顔が割れてるわけじゃない。今後行かなかったらばれることもないんだ。杞憂だよ」
「…そうだといいな」
ひとりのあの返答。俺の要求に対して触れず、論点をずらした。
俺が弱いからだ。
きっとひとりは助けに来てしまうだろう。
だめだ、そんなことをさせては。
なら、強くなるしかない。
「報告、麓の湖の底にて
「で、その何者って誰?」
「現在調査中です。ただ、人間ではないことは確かです。資料によりますと人里の祓い屋に柿祢様を殺せるような人物はいません」
「人里以外の人間は?」
「それもないかと。こちらの資料によりますと、人里外に強力な人間を確認していません。総じて非力な人間です」
「それじゃあ私たちに喧嘩売ってきた馬鹿な妖怪がいるってこと?」
「はい。その可能性が高いです」
「高いっていうかそうでしょ。そうなるとある程度犯人は絞れてくるんじゃない?」
「はい。柿祢様を殺せるほどの実力者。この山外部に絞ればある程度目星がつくのですが…」
「なに?なにか問題でもあるわけ?」
「如何せん柿祢様の人柄です。その性格ゆえに恨みをもった内部犯の可能性が浮上しています」
「あぁ~たしかに~。あいつの性格終わってるからねー。そう考えると殺されても納得だわ」
「しかし…」
「わかってるわかってる。仲間内の殺しはご法度。どちらにしろケジメはつけさせないとね」
会話を終えると2匹の天狗はそれぞれ違う方向へと飛んでいった。
「何が彼女の琴線に触れたのか。彼が自分を受け入れたから?たったそれだけ?」
「なにかお悩みですか? 紫様」
「いえ、下らないことよ。それよりもあなたは早く修業をしなさい。あなたには尾を九つにしてもらわないと困るのよ。まだ、尾は六つ。他人のことを慮る暇があるなら自分のやるべきことをこなしなさい」
「はっ、失礼しました。では、行ってまいります」
自分の式が去ったのを確認すると、八雲 紫は大きなため息をついた。
「別に
紫はパチンと扇子を閉じる
「この郷での人間と妖怪の関係を崩壊させうる危険性がある」
空間を撫でるようになぞり、スキマを開く。
「せめて、時代が違えば、また違った結末があったのかもしれないわね」
賢者は憂う