「人の家で勝手に何をやってんだ?」
こいつは朝の!まずい!まさかここに住んでたなんて!
「おおげんか、しちまって、ね。すぐに、でていくから、すこしだけ、やすませてくれ」
「嫌だ、と言ったら?」
「は、は、そりゃ、こまるね」
「頼む!少しの間だけでいいんだ!ひとりの怪我の処置だけでもさせてくれ!」
雅は土下座をし、必死に懇願する。
「…別に好きにやれば?私は寝床さえあれば困らないし」
「ありがとう!ありがとう!」
雅は感激のあまり、立ち上がり、少女の手を握り上下に振った。
「っ!」
少女は顔を歪め、雅の手を振り払う。
「あっ、すまない。興奮し過ぎた」
「夜には出ていってくれよ」
「ああ、おんに、きるよ」
少女は自分は外へ出ると言い、家から出た。
「助かった」
「そうだね、話の、わかるやつで、よかった」
「あぁ、それにひとりの傷も治ってきてる。よかった。あのときはもうダメかと思った」
「ふふ、妖怪はあれくらいで、死なないよ。まぁ、でもこっぱみじんにされたら、流石に死んでたけどね」
妖怪の死とは存在の消滅。
だが、肉体的な死も勿論ある。
ただ、それは人間の死とはまったく違う。
人間が死ねば、閻魔に裁かれ、地獄に行って刑務をこなすか冥界で次の転生を待つかをして、最終的に魂が浄化され新たな生を受けることとなる。
妖怪の場合、生前の罪を裁かれるのは人間と同じ。
その後、お勤めを終えて此岸へ還るとき、その魂は生前のものとまったく同じなのである。
それは恐怖から生まれたものだから。
口伝、風土、噂、伝承、そこから生まれる彼らはそれ自体が魂の源。
つまり、源泉が同じであれば取れる水も同じであるように彼らの魂もまた、同じなのである。
逆に言えば源泉が枯れれば彼らもまた消滅する。
それが、妖怪のとっての 死 だ。
その源泉が枯れぬよう、妖怪は種として組織を作るのだ。
だが、その肉体的な死から、現世に戻るまでにかかる年月は時によって人の寿命を軽く越える。
つまり、どちらにしても片方の死はもう片方の死に繋がるということになる。
「もうあんなことはするな」
「気分、しだいさ」
「お前が死んだら、俺も死ぬ」
「ばか、あたしとまさ、とじゃあ地獄に、行くにしても、人間と、妖怪で別れるから、無理だよ」
「珍しく弱気だな。らしくないぜ」
「それほど、監視の目がキツいんだよ、あの世は」
「八雲 紫よりもか?」
「
「そんなにも差があるのか」
「あぁ、それが
「神と妖怪……そんなことより、大分良くなってきたんじゃないか」
「あぁ、かなり回復したよ。全快まであと半刻もかからないね」
「あんなに重症だったのに、流石だな」
「あぁ、
「ひとり…俺は『ひとり』が『ひとり』でよかった。本当にそう思う。誰が、なんと言おうとも」
「雅…」
二人は見つめ合い、そして抱きしめあった。
「かぁー、なんだい
額に手を当てながら呆れているのは家主である白髪の少女。
彼女は、外へ出ていくと言いつつ、壁の隙間から二人の様子を見ていた。
「人間と妖怪が事ありげに家に乗り込んで来たから、興味本位で居させてみたけど、まさか本当に恋人なんてね。今まで何度かお目にかけたことがあるが、大抵人間が喰われて終わりだ。多分、こいつらも男の方が喰われておしまいか」
少女は やれやれ と、ため息を吐く。
「あぁ、年取ると、独り言が多くなってやだね」
毛先を指で弄びながら、少女は竹林の奥へと消えていった。
「
「はい、かの匂いはこの場所に境に途絶えてます」
「ということは、柿祢殺しの犯人は既に死んだってこと?」
「はい。おそらく間違いないかと」
「はぁ~つまらないわぁ。せっかくいい運動ができると思ったのに」
「仕方ありません。報告に……む?」
「ん?どうしたの?」
「これは、
「どうせ、そいつが喰った残り香でしょ」
「いえ、
「へぇ、なにそれ、人間と妖怪が一緒に住んでたってこと?すごく面白そうじゃない!
「【天狗通信】のことですか?
「まだまだ楓も青い青い。この世の中、楽しいことや面白いことで満ち溢れてるの。そんなの骨の髄まで楽しまなきゃ損でしょ」
「はぁ、理解しかねますが私自身もその人間から情報を得たいと思います」
「決まりね。追うわよ、その人間」
「追跡はお任せください。人間は
酉の刻
ひとりの容態はかなり前に回復したが、大事を取り日暮れギリギリまで休んでいた。
「そろそろ出ようか、もうすぐ夜だ」
「そうだな」
「おや、もういいのか?」
二人が支度をしていると、いつの間にか帰ってきたのか少女が尋ねてきた。
「あぁ、いきなり入ってすまなかった。それに礼もできそうになくて申し訳ない」
「礼ならあたしがひとつ情報をやるよ」
「へぇ、それはありがたいね。是非とも教えてもらいたいもんだ」
「次の満月の刻、竹林の天を映す場所にて探し人見つからん」
「……それは信用していいのか?」
「さぁ、それはあんた次第さ。
「そうか、参考にするよ」
「とにかく、ありがとう。えっと、」
「私の名は妹紅。これも何かの縁だ。次会った時は酒でも呑もう」
「あぁ、じゃあまたな」
妹紅は二人を見送る。
手を振る内に、二人は闇夜に溶け、消えた。
「探し人、か。ようやく、ようやく会えるな。輝夜!!!」
妹紅は燻っていた。
文字通り、身体から煙を吹き出しながら─
「ふむ、目的は近いですよ。花櫚様」
「さすが楓ね。この竹林、他の子なら目を回すのに」
「他の有象無象と一緒にしないでください。能力
「その自信過剰なとこも好みよ」
「む、花櫚様。どうやら、人間と供に
「ほんと、貴女を部下にして良かったとつくづく思うわ。ね、そう思わない?お二人さん」
花櫚という天狗がそう言うと同時に辺りの竹は全て吹き飛ばされた。
正確には
「おお、特種発見♪」
「私情は挟まないでくださいよ。まずは、妖怪の身柄の確保。そして、山への引き渡し。人間の方は…私がいただきます。話は押送中に妖怪の方からにでも聞いてください」
「しょうがない。可愛い部下の言うとおりにしましょうかね」
「糞!なんでバレた!」
「落ち着きな、雅。冷静に対処するよ」
「さてさて♪さっさと捕まえて取材♪取材♪」
「久々の人間。味わって食べないと…」
空に浮かぶは三日月。
それは雅とひとり、二人の運命を嘲笑っているかのように見えた。
平穏はまだ遠い