[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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裏:主従関係に関して

ジークフリートと無事合流できたカルデア一行は、明日敵の本拠地であるオルレアンへと乗り込む。少なくともそこに行けば、竜の魔女の本拠地を落とすという目的のために動ける。

敵の目的は、ファヴニールにより無限に生まれるワイバーンをジャンヌが操ることで、現地人へと復讐を果たすこと。その結果により大量の人々が死に、許容以上の人命が損なわれれば人理は崩壊してカルデアの敗北となる。

快進撃を続けてきたカルデアは、決戦で敵を打ち破る必要があるのだ。極端な話、ファヴニールに乗り、移動しながら行く先々の人間を手分けして殺されてしまえば、カルデアの負けになる。ファヴニールはジークフリートを殺しに来るのだが、それに賭けなくて良いように此方から挑みにいくのである。

 

勝利のための条件は、敵の戦力を集結させた所を叩き、再起までの時間を稼ぐと同時に首魁へとたどり付き、特異点としている原因の聖杯を回収すること。

だが、明確な敵の拠点にて待ち構えていることがわかったのだ。次の戦いで全てを決する。それができなければ負ける。わかりやすい状況だ。

 

故に決戦前夜の今はマスターとサーヴァントは身体を休める必要がある。一人として欠けることなく、ここまで来れたので、各々話すべきことはあるが、無駄な戦闘など以ての外であった。

 

「だぁ!! 負けた!!」

 

「マスター、お疲れさまです。ゲオルギウスさんもお付き合いいただきありがとうございます」

 

「いえ、仮初の関係とはいえ、マスターのご命令ですから。戦いは苦手ですが、お役に立てたのならばなによりです」

 

 

そんな中でシンドバッドは、自身のサーヴァントであるゲオルギウスに訓練をつけてもらっていた。

最初はゲオルギウスも難色を示したが、明日の戦いで突っ込んでいかない事を約束させて受けることにしたのだ。結果は当然のようにマスターの負け。アスカロンを拳で受け止める、腕で流し攻め込んだのだが、ゲオルギウスの守りを崩せずに動きが鈍った所に連撃を決められて、ダウンした首元にアスカロンを突きつけられれば、敗北を認めざるを得ないであろう。

 

「お前もつえーな。蹴りも拳も肘も全部止められた」

 

「これでも守ることに関しては、一日の長がありますから。ですがそうですね。マスターは攻撃を躱す事、受け流すことに関してはかなり熟達されてますね。ただ、私の守りを抜くほどの攻撃はお持ちではないように、攻撃に関してはまだ大きな伸び代があるでしょう」

 

ゲオルギウスは、マスターの攻撃を全て正確に捌いていた。背後に庇うべきものがいて注意を自身に引きつける必要もなければ、防御に専念した彼を白兵戦で抜けるサーヴァントは実のところそこまで多くない。

そのためかなり余裕を持って対処ができていた。しかし攻撃に転ずると、本当に現代の人間かと疑いたくなるような高い膂力と、鋭い防御の技術で攻め倦ねることになってしまった。結局は防御を固めできた隙にゲオルギウスが踏み込んで得た勝利である。

 

「ありがとな、ゲオルギウス」

 

「礼には及びません。それでは、私は戻りますので、息を整えたら休むように。後の護衛は任せましたよ」

 

「承りました」

 

シェヘラザードにそう告げて彼は他のメンバーが居る場所へと戻っていく。広い草原にはシンドバッドとシェヘラザードの二人だけが残る形となる。

剣戟の音が聞こえないように、少し離れた所にいるが、周囲には敵影もなく、多少離れているが現地フランス軍も着陣しているこの一帯は味方勢力圏で、気を抜けるわけではないが、過剰に警戒する必要はなかった。

 

「改めてお疲れさまでした。マスター」

 

「いいや、疲れたけど。そんなにじゃない。疲れ始めたらやられたから」

 

シンドバッドのスタミナが枯渇寸前になり、鈍った所をやられたのでなく、マックスパフォーマンスでなくなった辺りであっさりと返されたのである。少し休めば十分に回復する程度である。

 

「強かった、ゲオルギウスは。あの宝具って奴を使われなかった」

 

「そんな物を撃たれたら、死んでしまいます……」

 

「なあ、キャスターも宝具があるんだろう?」

 

シンドバッドは、何度もシェヘラザードに説明されて専門的な用語などは兎も角、大まかなニュアンスで現状や魔術について理解していた。だから、一番一緒にいる彼女の宝具に関しても、大まかにしか分かっていなかった。

 

「ええ、私の宝具『千夜一夜物語』は、私の語る物語を本物として、召喚するものです」

 

「普段使っているやつの、凄いやつってことだな?」

 

「……まぁそうですね。私が語ったお話、語っていてもおかしくないお話、私が語りたいと思ったお話。現実がその通りになります。そしてそれは等しく、恐ろしい王を遠ざけてくれます」

 

世界が本文だと信じ込むほどの語り手。それがシェヘラザードという真名の彼女。その宝具は、世界を騙す固有結界だ。自分の世界を外に出して世界を塗りつぶすのではなく、自身の現実をそのままに、世界を騙して顕現させるものである。

 

「前にも言ってた、王様に強い攻撃ってことなんだろ? 」

 

「そうですね、私が恐ろしい王と思ったものへの攻撃としては、より、その、何といいましょうか、威力が増します」

 

「ゲオルギウスみたいに、敵を王にできないのか?」

 

 

シンドバッドからすると、科学技術も魔術も同じようなもので、何ができるのか、どうすればできるのかというのはよくわかっていない。

それでも、戦いにおいてこうなったら有利になる。そういった判断ができる頭は備わっていた。

 

「そう……ですね。それでしたら、本当に危ない時だけにしていただきたいのですが、私に相手を王だと思い込ませる……それが良いかと思います」

 

「そんなことできるのか!! 」

 

「はい。マスターの左手にある令呪。それを使えば……あの、使い方わかりますか?」

 

「なんか、気合を入れて命令するんだろ? ガンド!!とか、場所変わる奴!! とかと同じで」

 

「はい、手に意識を集中させてこう言ってくださいね『全ての令呪を以て命ずる。敵は全て王である。それらを宝具を以て打ち払え』と」

 

シェヘラザードはゆっくりと、自分にとって危険な状況を打破させるために言うべき事を彼に伝えた。

 

「ん、相手は全部王様だぞ、ぶっ放せ!! ってことだな」

 

「はい。その気持ちを込めて、お教えした通りに命令してください」

 

口元を隠す布の下で、薄い笑みを浮かべながらシェヘラザードは己のマスターにそうお願いした。言うとおりにしたら良いことがありますよ。そう彼女は伝えただけだ。今日までと同じ様に。

 

「わかった。よし、それじゃあ帰ろう、キャスター。ここ寒いだろ?」

 

「ゲオルギウスさんが気を使ってくださったようですが、そうですね」

 

「特異点にいる間は、お話をしてくれるのだろ? リツカ達も聞きたがってたし、速く戻ろう」

 

シンドバッドは、仰向けになっていた体勢を脚を蹴り上げた勢いで身体を浮かせてその場に立ち上がる。軽く汚れを払い、焚き火の方向へと歩き出す。彼女も続こうと立ち上がり歩き出そうと向き直ると、此方に戻ってきたのか目の前にシンドバッドがいた。

 

「いくぞ、キャスター」

 

「はい……マスター」

 

彼はシェヘラザードの手を取り再び歩き出した。わざわざ戻ってきた理由も、手を引く理由も彼と彼女のどちらも確信を持てないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間になるってコト? 」

 

「はい、先程アマデウスさんとお話して、色々伺えたんです。いろいろなものを見て、いろいろなものを残す。それが大事だって」

 

「うーん難しい話だね」

 

 

マシュ・キリエライトとそのマスターである藤丸立香も二人で話していた。話題は先程アマデウスから言われた言葉だ。この後の彼女の人生において、非常に大きな影響を与える、そんな言葉だった。

 

 

「俺なんて、ただただ流されるように生きてきたからね。今の状況だって流されてきているわけだし」

 

「そ、そんな! 先輩はこの特異点では、流されているようには見えません」

 

「いや、そうじゃないんだ。なんと言うかな。オレには凄いやりたいことがないんだよ」

 

 

藤丸立香は、普通の少年だった。日本の地方都市で生活していた、会社員の父と専業主婦の母がいる、ただの学生だった。街を歩いていて、そういえば自分も献血ができる年齢になったのだ。と思い出し、献血をご協力くださいという声について行き、あれよあれよとカルデアという、雪山の奥地に。

 

よくわからないままに使命を説明されたが、うたた寝している間に世界が滅んだ。彼が自発的に行動したことは、カルデアについて優しくしてくれた女の子が危険だと聞いて、助けに行きたいと思って、燃える部屋に飛び込んだこと。彼女の手を取ったこと。それだけなのだ。

 

あとはそう、言うならば状況がそうだから彼は目の前の選択肢を選んでいる。目の前にしか道がないから歩いているのだ。燃える街冬木で聞いた助けられなかった人の悲鳴は今でも耳に残っているけれど、それでも今人類最後のマスターの一人として頑張っているのは、マシュという女の子が隣りにいたからだ。

 

そういった意味で彼のやりたいことははっきりしているとも言えるのだが、彼自身がそういった感情に名前をつけらたことがないために、自身の中で何かが噛み合っていなかった。

 

「英霊の皆は、やっぱ凄いよね。皆自分を持っているんだ。何かをやり遂げた人もいれば、何かを作った人もいる。オレだって知っているような歴史上の人物達。言い方は悪いけど凄いのは当然だ」

 

「先輩、それは」

 

「わかってるよ、マシュ。皆は頑張った結果なんだ。そしてシンドバッドもね」

 

「シンドバッドさんですか?」

 

 

立香はここまでのフランスでの戦いを思い出す。今でこそ槍使いのドラゴンのエリザベートや、ゲオルギウスという前衛で戦えるサーヴァントがいるけど、最初の5人だった頃、マシュよりも前に飛び出して、ワイバーンを倒していた事を。森の木々の幹や枝を自在に足場にしてウェアウルフを仕留める様を。自分より強いサーヴァントに挑みかかるのを。

 

「あの人は、よくわからないけど、無茶苦茶まっすぐ生きてるよね? 」

 

「そうですね、シンドバッドさんは私もビックリするぐらい知らないことが多いです」

 

「ドクターに何時も怒られてるのに突撃やめないし。人間ってあんなに高く飛んだり速く動けるんだね」

 

「どうでしょう、ドクターは何か知っているようですし、もしかしたら理由があるのかも知れません」

 

 

二人は、シンドバッドがなぜアレだけ好戦的なのかの理由も、彼の生い立ちもほとんど知らされていない。山で修行していた所をカルデアにスカウトされた。そんな昔話みたいな内容の説明だけだ。

 

「そんなすごい人が、人類を救うために頑張ってるのに、オレは自分が何をしたくてここにいるかも見えてこないんだ。勿論、マシュとナポレオンのマスターとして頑張るつもりでいるし、頑張りたいと思ってるけどね」

 

「先輩のお悩みも難しいですね」

 

「そうだね、お悩み仲間だ」

 

立香は、笑いながらそう言うと地面に倒れ込んだ。マシュの横顔を見上げながら、フランスの旅路ももうすぐ終わるのだと改めて思う。

 

「一先ず、ナポレオンが褒めてくれた、目を鍛えるのを頑張るかな?」

 

「目ですか?」

 

「うん、事ある毎に、よく見ているって褒めてくれるんだ」

 

立香は事も無げに言うのだが、英霊同士の戦いを見ることができているだけでも十分以上に異常なことなのである。加えて今まであった人間の顔と名前が全て一致することも、学校においては、不良っぽい人も、ガリ勉ぽい人も、オタクぽい人も、先輩も後輩も。大抵の人と仲良くなれたことも。全てが『普通の範疇の中で』普通ではないことなのだ。

 

「でも、オレも一回やってみたいな、飛び蹴りでワイバーンを撃ち落とすの」

 

「それじゃあ、シンドバッドさんにやり方を聞いてみては如何ですか? 」

 

「アハハ、聞いてできるようになるかな? でも、そうだね。フランスが終わったら聞いてみようかな」

 

手探りでマスターをやっている立香は、フランスの特異点の最終決戦前夜にまた一つ自分のやるべきことを見つけた。それは、隣の後輩にもっと頼ってもらえるように、どんな形でも良いから成長したいな、という。

 

そんな、彼くらいの年頃の男の子ならば、誰だって持って然るべき感情の発露だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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