[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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裏:交友関係に関して

 

 

「やぁ、レオナルド、シンドバッド君から何を頼まれたんだい?」

 

「ああ、ロマニじゃないか」

 

 

無事正式な1つ目のレイシフトから戻り、特異点の修復を終えたマスターたちは、先程マタ・ハリの召喚に立ち会い、二人共部屋に戻っていた。

現状最高責任者である、Dr.ロマニもその召喚に立ち会い、問題児のマスターに注意をした後、ダ・ヴィンチのいる部屋へと脚を向けていた。

 

「フランスの特異点で倒したワイバーンやウェアウルフの素材。今回彼が持ってきたものだけで一財産になる程の量だけど、極めつけはファヴニールの鱗だね。彼が魔術師だったら、こんなに簡単に預けたりしないだろうね」

 

「そうだね……」

 

ダ・ヴィンチの指示で、どの部位を持って帰るべきかをしっかり聞いた上で、現地で解体して回収した数多の素材。当時のフランスにすらいないような魔獣や竜を含めて、非常に貴重なものだ。まともな魔術師であればカルデアに譲渡する際にも取り分をきちんと決めてからになるであろうが、彼は無頓着に可食部の肉の幾分かを除いて、あとは頼んだとばかりに全てを預けていった。

 

「此方に全幅の信頼を向けている、というよりも、疑うという概念があまりないのであろう。ある意味マシュよりも世間知らずだよ、彼」

 

「それはわかってるよ、今回のフランスで現地の勢力と上手く協力できたのは、藤丸君のおかげだった」

 

「そして、藤丸君が無事に帰ってこれたのは、彼が体を張って守ったからさ。適材適所だろ?」

 

「君は、随分彼の肩を持つね」

 

「そうかい? それよりその差し入れは私の分はないのかい?」

 

ロマニは持ってきたコーヒーを渡してないことに気が付き苦笑すると、軽く肩をすくめてから渡す。

 

「キャスターの言うことはきちんと聞いているけど、僕はあれは母親を重ねていると思う、どうかな?」

 

「ロマニもそう思うのか、まあ概ね同意だね。私も母とミラノで再会できた後、私の万能な才能に更に磨きがかかった。彼も同じか、少し違うかもしれないかな?」

 

ダ・ヴィンチはシンドバッドの置いていった素材を種類ごとに棚に選別しながら、ロマニに軽い口調で返す。彼女はそれ程大きな問題とは捉えていないようだ。ロマニはそれでも自分が感じる、少しばかりの焦燥感のような物が拭えないことが不安であった。

それでも目の前の万能の天才は、今の自分よりもよっぽど状況が見えているのであろうが、嫌な予感が消えないのだ。

 

「彼はマスターなのに戦闘の時前に出て行く。それがまるで全く別のなにかを基準に動いているように感じるんだ」

 

「彼の育ってきた環境と能力を考えればむしろおとなしい方だと思うがね?」

 

こればかりは、ダ・ヴィンチが正しいであろう。物心ついて以来、たった一人で山の中で命のやり取りをしながら生きてきた人間が、人類の危機だからといって、周囲の指示を聞いて動く?

そんな事三流作家の喜劇にすら書かれない話だ。

 

「私も何かしらが彼を突き動かしているとは思うさ。だけどそれに悪意は無いと思う。現状害はない、ならそれでいいじゃないか。自ら仕事を増やすこともないさ」

 

「……そうだね、それにあのマタ・ハリまで彼のサーヴァントになったんだ。何かあればこっちにもわかるような変化があるだろう」

 

「彼が敵に情報を漏らさないことを祈ろうじゃないか」

 

「ひどい冗談だよ、レオナルド」

 

「今の君の表情ほどじゃないさ、Dr.ロマン」

 

 

まだ、若干の違和感はあるものの、二人で話せたせいか、彼の持っていた疑いは少しばかり晴れていった。

この時はまだ、軽口が叩けるだけの余裕が二人にはあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、よろしくね、マスター」

 

「ああ、俺は、シンドバッド。好きに呼んでくれ。名前もキャスターに付けてもらったくらいだしな」

 

シンドバッドの自室。彼がフランスに行っている間に、家主が読めないネームプレートが飾られる様になったその部屋で、彼は己の2名のサーヴァントを備え付けのソファーに座らせ、その前の床に胡座をかいて座っていた。

 

「私は、マタ・ハリ。陽の眼をもつ女と呼ばれたわ」

 

「マレー語で太陽や陽の目という意味ですね……失礼いたしました、私はシェヘラザード。キャスターとして召喚されました」

 

「二人共アラビアン・ナイトの? お話の中の人じゃなかったのね」

 

マタ・ハリは、マスターから隣に座る女性に視線を移す。褐色の肌に、中東風の扇情的な衣服を身にまとった美女だ。

そして何より、所作の一つ一つに、自分と同じ男性からの気を惹くための物を感じる。今スラリと長い脚を自然に組み直したのもそうだろう。この場にいる男性は1名のみ、先程の発言も加味すれば……彼女の頭脳はすぐに正解を叩き出していた。

 

「シェヘラザードに名付けられたの? 養子入りでもしたのかしら?」

 

「養子入りはわからねーけど、俺は名前がなかったからな」

 

「ええ、その……後ほどお話しますね、かなり込み入った話なのに、マスターがよく理解しておりませんので」

 

「そう? わかったわ」

 

マタ・ハリは一先ずそう返しながら、自らも脚を組み替える。床に座ってもあまり目線の高さが変わらない程度には巨躯の彼の視線が、自分の身体の下方へと向く事をしっかり確認しながらだが。

 

「よし、初めてあった人には好きなことを聞くんだよな? マタ・ハリは何が好きだ?」

 

その目線が下半身から順に上がっていき、双方の眼と眼が合った時に、見ていたものを悟られたのに僅かばかりの逡巡も感じられない様子をみて、マタ・ハリはもう少し話を聞いてみようと考える。

 

「そうね……気高い人間は好きよ。それが男でも女でもね。マスターがそうだと嬉しいわ」

 

「気高いってなんだ? 悪い、難しい言葉はわからないんだ」

 

「しっかりと自分のやりたい事を持っていると言ってわかるかしら?」

 

「えーと、頑張るのは得意だぞ?」

 

「あら、それは素敵なことね」

 

先程から、適宜フォローを入れていたシェヘラザードが助け舟を出さなかった結果、ややズレた納得の仕方をしている。どうやら嘘や虚飾ではなく素のままの反応が、珍しいことに成人した男性らしからぬ、ほぼスレたところのないようね。そう彼女は納得することにした。

 

「それじゃあ、嫌いなものは何だ?」

 

「私に対して権力を盾にする人間は嫌いよ。貴方はどうかしら?」

 

「命令されるのが嫌だってことか」

 

「私達はサーヴァント、貴方のその左手の令呪があれば逆らう事はできないの」

 

「ああ、赤いやつか。んじゃあ、今なら逆らえるんだな」

 

彼の左手にはたしかに令呪はなかった。カルデアのマスターの令呪は特異点に入る前に3画補充されるものの、今は帰還したばかり。全て使い切った彼は絶対の命令権をもっていなかった。

当然聖杯より知識を得ていたマタ・ハリは契約したタイミングで確認していた。自分の素性を知っている以上、男性のマスターと二人きりにすることなど無いであろう。そのために隣にシェヘラザードを座らせているのだと、理解も納得もしていた。

 

「よし。それじゃあ次の旅まで俺は令呪を貰わない。だから嫌なことがあったら言ってくれ。俺には難しかったらキャスターに言ってくれ」

 

「……本気かしら? 」

 

「おう! だってお前がなんか悪いことしても、ナポレオンとかマシュが止めるだろ。そうしない程度だったら何でも良いぞ。あと、俺の肉もやるよ、ワイバーンっていうでっかいトカゲの」

 

「マスター、あれは何度も言う通りドラゴンです」

 

突然漫才を始めた主従に、マタ・ハリはおかしくなってしまった。彼女の主観だと、ぼんやりと読み取れる程度だが、今まで自分を呼び出したマスターは男性であろうと、女性であろうと、彼女の事を真の意味で信用することはなかった。

だからこそ、こうして一挙手一投足を観察しながら、いかに自分の心がまた傷まないように関係を作っていくか。そう思ったのに。

 

「ねぇ、マスター貴方にとっての価値ある物はなにかしら? そのお肉なの?」

 

「いいや、俺の大切なものは勝つことだ。勝って……凄いことをして、俺が、俺の中にあるものが価値あるものだって証明するんだ。よくわかんないけど、今は人間皆が無茶苦茶になってて、きっとそれを倒した時、俺『達』は凄いやつになれるって思う。だから、勝つことが価値あることだ」

 

急に饒舌になったマスターの辿々しい弁舌を、マタ・ハリは殆どの部分で理解することはできなかった。ただ、彼女の新しいマスターは、生きることを、素晴らしい人生を送ることを諦めていないことはわかった。

 

「これからよろしくね、マスター」

 

「おう、よろしくなマタ・ハリ」

 

「『ご主人様』って呼んで欲しい?」

 

「好きに呼んでくれよ、最初に言ったろ?」

 

「ああ、マスターまたお教えすることが増えてしまいました……」

 

踊り子の彼女と、語り手の女性、そして世間知らずな主人。少し不安だけど、不思議と楽しくやれそうだ。マタ・ハリはそう思ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「持ってきたぜ」

 

「あ、ああ。ありがとう。そこの壁の前においてくれ」

 

ある日のカルデアの昼下がり。残された数十名の職員たちは、ようやっと見えてきた余裕を使って、施設の復旧を始めていた。遠くの備蓄倉庫にしまっていたものを、より近くの空き部屋へ。崩れてしまった部屋を修復して瓦礫を邪魔にならないところへ。言葉にすれば簡単だが、その多くは重労働であった。

カルデアは国連直下の組織であるため、非魔術師も若干名在籍しているが、業務の性質上ほとんどが魔術師であり、研究者気質の者たちであり、端的に言ってモヤシ集団であった。

 

フィールドワーク担当のマスターチームはほぼ全滅しており、身体強化などで補うにも限界はある。流石にこの状況で魔術をそんなことに使うなどと、というような輩は一人もいないものの、効率が悪いことは否めなかった。

 

「わかった、んじゃあ報酬をくれ」

 

だからこそ、マスターの片割れ仮称『シンドバッド』が見かねたのか自発的に手伝いを申し出たのは、彼らの感情を抜きにすれば、非常にありがたかった。今も食堂に保存食と調理用品の運搬をまとめて頼んだのを一度に持って来たくらいだ。

 

人間離れした膂力。まだ完全に力を引き出せていないものの、デミサーヴァント化したマシュに近接戦闘で上回れる。特異点では生身のまま何名かのサーヴァントと渡りあったという規格外の戦闘能力だ。

成程、肉体的には一流の専門家なのであろう。精神的にも手伝いを申し出る程度には善良だ。報酬を要求しているが、それだって

 

「ほら、ワイバーン肉の燻製とステーキだ。燻製は兎も角ステーキは早めに食えよ」

 

「ありがとな」

 

元々は彼が持ち帰ったワイバーンの肉を加工したものだ。他のスタッフも多少の制限はあれど無料で食せるものであり、功労者の彼にこそ所有権があるべきものだ。

 

全く嫌味を感じさせないで受け取り、礼を言って去っていくその姿は途上国に住んでいる少年のような純朴さがある。それでも彼が急に声をかけられて強張ってしまう理由がある。

 

「私も食料に見えているのだろうか……いや、やめよう」

 

重要なお知らせと今は亡きオルガマリー所長の署名入りで回ってきた連絡。それは彼の経歴であり、人の肉を貪り食う事で20年生き長らえた化け物であるという情報だ。

20年も監禁されて、食料として襲いかかってくる人間のみが渡される環境。そんな物を経験した人間は果たしてまともな精神状態なのか。悪意も害意も見えない素直な人間だからこそ、彼のように多くの職員が恐怖感を覚えているのだ。

 

 

肉を受け取った彼が軽い足取りで、他に困っている人はいないか、広いカルデアを巡回していると、目の前にフランスで共に過ごして話すようになった少年が通りかかる。

 

「リツカ」

 

「あ、シンドバッド良い所に」

 

「なんだ? マシュは一緒じゃないのか?」

 

藤丸立香。彼がリツカと呼ぶその少年はもうひとりのマスターであり、マシュ・キリエライトのマスターであった。

 

「何時も一緒にいるわけじゃないよ。それで今暇かな?」

 

「なにもしていないぞ」

 

「それなら、俺に護身術教えてくれないかな?」

 

彼とリツカは年齢も、生まれも、育ちも何もかも異なっていたが、シンドバッドは、人生で初めて友好的に話しかけてくる男に興味があり、立香も自分が魔術的なことや歴史的なことがわからないと、ちらりとシンドバッドを見て安心している。そんな不思議な関係だった。

 

「戦うのか?」

 

「いや、俺もシンドバッドみたいに戦えたらそれに越したことはないけど、せめてとっさに動ければ助かる命もあると思うんだ」

 

「強くなるのは良いことだな。いいぞ」

 

特に断る理由もないので、快諾するシンドバッドに対して立香はにこやかにお礼を言いながら、支給された端末を操作した。

 

「ありがとう。俺もこういう動きをやってみたいんだよね、流石に無理かな?」

 

シンドバッドは知らないが、板状のそれは立香には比較的直感的に操作できるタブレットであり、先程資料室から、教われそうな内容の映像をダウンロードしたところだった。

再生されるのは、二人の男性が何らかの武術の組手をするだけの動画だ。技をかける側が、変則的な動きで一方に迫り、受ける側も踊るような動きでそれをいなしている。

 

「……この動きだ……」

 

「ドクターに聞いたらカラリパヤットっていうんでしょ? ヨガみたいで格好良よね?」

 

「カラリパヤット……そうだ、カラリパヤット!!」

 

「うわぁ!! ど、どうしたのシンドバッド」

 

シンドバッドは、動画を見た時から、石のように固まり、目を皿のようにしてそれを見つめていた。その動きは、自分が思い描いていたものとよく似ていて、懐かしさと痛みを強く感じさせる。そんなものだった。

 

「俺のやってたのは、カラリパヤットだ」

 

「うん、そうだよね? なんか亜流っぽいってドクターは言ってたけど」

 

「ああ!! 俺はこんな動きがしたかったんだ、格好良いから!!」

 

「ええ!? シンドバッド、泣いてる!?」

 

彼は、自分の動きの名前を知らなかった。カルデアに入って知る可能性もあったが、誰もまさか本人が武術の名前すら知らないでやっているとは思わなかったのだ。彼自身のデータに、技能・カラリパヤットと書かれているのにも関わらずだ。シェヘラザードも当然把握しているのに。

 

「ありがとう、リツカ!! 俺は思い出せた。俺のやりたかったことを」

 

「えーと、どういたしまして?」

 

「それじゃあ、一緒に練習だな!!」

 

「あ、ちょっとまって、手加減、手加減はよろしくね!!」

 

シンドバッドは喜びに任せて、リツカを肩に担ぎ上げて走り出した。この後気合が入りすぎたシンドバッドの訓練を終えた立香は『カンフー映画を見ている方が勉強になった』とマシュとナポレオンにこぼしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、今宵はとある王のお話をさせていただければと思います」

 

消灯時間直前。今日も彼がお駄賃としてもらってきたワイバーンの肉のステーキを部屋で3人で食べていると、シェヘラザードがそう切り出した。

シンドバッドは、今日はどんな話をしてくれるのか心躍らせていたが、それでも何時もと違うその言葉の紡ぎ方感情の込め方を何となくだが、本能のようなもので感じ取っていた。

 

「とある国に王様がいました。彼はひどい裏切りを受けて、女性を信じられなくなってしまいました」

 

「なので彼は、毎日一人若い娘を閨に呼び、朝が来るとともに殺してしまいました」

 

「やがて街からは若い女性が消えて、国は暗く街の人から笑顔が消えてしまいました」

 

語りだしから、情感たっぷりにその唇から紡がれる話。シンドバッドは、無意識にしっかりと座り直して、彼女の話に耳を傾けた。隣のマタ・ハリも微笑を浮かべたまま、シェヘラザードを見つめていた。

 

「その国の大臣の娘は、そんな状況を憂い、自ら王のもとへと向かいました。夜も更けた頃、彼女は妹に王の部屋を尋ねるように申し付けており、そこで姉の話を聞かないと眠れない。そう駄々をこねてもらいました」

 

「……そして、姉は長い、とても長いお話を紡ぎ始めたのです」

 

「その話は夜明け間際まで続き、いつの間にか姿を消した妹ではなく、王が聞き入っていました。彼女は白み始めた空を見て、こう告げたのです」

 

「「今宵は此処まで」だろ、キャスター」

 

 

シンドバッドは、シェヘラザードの初めて見せる悲しむような、寂しいような表情を見ながら、今まで閉ざしてた口を開いて話に割り込んだ。

 

「お前の話なんだな、生きてた頃の」

 

「えぇ……よくおわかりになりましたね?」

 

「ん? なんとなくそうだと思った」

 

シンドバッド自身、なぜそんなふうに思ったのかは全くわからなかった。毎晩続く物語。そんな夢をどこかで見た気がした。

 

「聞いていただきたかったのです。マスター、私が閨で語るお話は、私が生存するために紡いだお話です。どうか、ゆめゆめお忘れなきよう」

 

「キャスターの話はわかり易いから、大丈夫だ。死にたくないんだな?」

 

語り手EXのおかげか、シェヘラザードが語った話は彼も容易に理解できるのであった。だからこそ、込められた感情の重さに彼は彼女の痛みを見たのである。

 

「……はい、私はもうあの夜のように死ぬ事に怯えて生きるのは嫌なのです」

 

シェヘラザードは、そう言いながら寝台に腰掛けていたシンドバッドの胸に撓垂れ掛かる。彼は前に教わった通り、ゆっくり髪を梳きながら、肩に手を回す。甘い香油の香りが彼の鼻を擽った。

 

「私をもう殺さないでください……」

 

「……うん、わかったよ、シェヘラザード」

 

シンドバッドは教わった通りにそう呼びかけながら、優しく髪を指に絡ませる。2幕目が始まろうとする時、ふと物音が聞こえてそちらに目線を向けると、いつの間にかマタ・ハリが目の前に立っていた。

 

「マスター、シェヘラザード。二人共甘やかしてあげるわ……ふふっ」

 

彼女はそう告げると、シェヘラザードを挟むようにシンドバッドの背中に腕を回して、彼の耳に口元を近づけて囁いた。

 

「力を抜いて……マスター」

 

シンドバッドは教わっていなかったが、大人しくその言葉に従ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでいいかしら? シェヘラザード」

 

夜更けどころか、夜明けが近い頃、『السندباد』と書かれた部屋より、二人の女が姿を表した。

 

「はい、ありがとうございます。マタ・ハリ」

 

二人は誰もいない廊下で、周囲に聞かれていないことを確認して言葉を交わした。

 

「同じマスターのサーヴァントですもの、お礼はいらないわ。それにしても貴方の言うとおりだったわね、疲れちゃったわ……睡眠はいらないけど私は少し眠るわ、お休みなさい」

 

「はい、おやすみなさい、良い夜を」

 

シェヘラザードはマタ・ハリを見送り彼女も自室へと入り、寝台に腰を下ろす。

マタ・ハリに語った事も嘘ではない、こうして夜を共にする事が大変であることは理解してくれたであろう。彼がこうしないと、より肉を、それもウェアウルフのような『近い物』を求めてしまうことも嘘ではない。

特異点では我慢してくれているが、その分がカルデアに集中しているのも本当だ。

なにより、カルデアに来て以降、彼がシェヘラザード以外に自ら手を出そうとしていないのも事実なのだ。だからこそ、マタ・ハリも納得して協力してくれたのだ。ここ2週間程話を続けた事、二人でいた事。全てが彼女の手段だった。

 

だが、彼がこうして、より普通の人間が欲する欲求にとらわれていくほど、彼は困難に打ち勝とうとするモチベーションをきっと下げていってしまう。

自己肯定感を勝利以外で得られることを覚えてしまえば、きっと彼もわかってくれるはずだ、自分の行いの恐怖を。常に生を勝ち取ることの絶望を。

 

普通の人はこうあるべきだと知っていけば、普通の人が求めることを知っていけば、彼は自分の生い立ちの歪さをどんどん克明に理解してくれる。

そうすれば一番信頼している彼女の言葉にきっと耳を傾けてくれるだろう。

 

「私は、ただ死にたくないだけなのです。もう二度と」

 

夜明け前のカルデアで、シェヘラザードは夜が明けることを強く願っていた。

 








また、裏が長引き始めたゾ



今まで言っていなかったのですが、改めて。
感想、批評お待ちしております。
RTA風パートは兎も角、通常小説はリハビリも兼ねてますので。








先程、殺生院キアラの絆が10になりました(小声)
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