[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
西暦60年のローマ。そこでは2つの集団がぶつかり合っていた。
方や少数ながら、赤ドレスの美女に率いられた奮戦している集団。
方や大人数で押しつぶすように包囲を続ける軍団。
美女に率いられた少数は、健闘しているが多勢に無勢であり、徐々に押し込まれている。奮戦虚しく敗走も視野に入れなければならない、そんな最中、敵陣の後方で混乱が発生したのか、統率が乱れはじめる。
この隙を見逃さず、軍団を指揮しながら最前線で隕鉄の剣を振るっていた彼女は、大声で指示を飛ばし兵士に隊列を組み直させる。
追撃に備えて呼吸を整えながらも、油断なく構えていた彼女の周りにできた空白に飛び込んできたのは、まだ初陣も知らぬような年頃にしか見えない少年と少女であった。少女は巨大な盾を手にしており、様相は違えど兵士である事はわかる。
「助太刀します!!」
「うむ、その異様な装飾の服。ブーディカがよこした援軍か? 兎も角良いタイミングだ、余に続くがよい!」
敵から庇うように此方に背を向けて構える二人に、すぐに味方であることを察した彼女は、この好機を物にすべく動き出す。敵右翼集団で兵士が空へと吹き飛ばされているのを確認して、そちらに自らが切り込みに行き混乱を広げさせる。左翼側へは配下の兵士に押し留めさせ対応する。
勢いに身を任せて幾分も切り結べば、敵は一度後退していった。
すぐさま負傷兵を治療するように指示を飛ばし、今来た少年と少女に礼を述べる。
「先程は良い働きだった、貴殿等名は何と申すか?」
「カルデアより来ました藤丸立香といいます」
「私はそのサーヴァントのマシュ・キリエライトです。あちらの皆さんも我々の同胞です」
『自分はロマニ、遠方より彼らを指揮しています』
「うむ、立香がカルデア現場指揮官だな、そして声だけするロマニとやらが魔術師で、責任者というわけだな」
最近良く聞くサーヴァントという存在であり、味方であることを確認したネロはその後もいくつか質問を重ねていくのだが、それを妨害するように、雄叫びが戦場へと響き渡る。
「伯父上……」
「ネロオオオオオオ!!!」
「リツカ、任せろ」
それに立ちふさがったのはシンドバッドだ。周囲の静止よりも前に相手へと向かっていき、その恐腕とも言える攻撃を見事にいなしながら、自らの脚を敵の胴体へと叩き込む。以前よりも動きがスムーズになっている。
驚くべき身体能力ではあるが、周囲のローマ兵の反応は、化け物を見るような反応ではなく、強者を見るようなものであった。
「メートル、大丈夫だ万が一のときは俺も撃てる」
「うん、わかってるけど……多分必要ないみたいだ」
荒れ狂う獣のように襲いかかっていたカリギュラが、思い出したかのように、後ろに身体をそらして足で距離を取る、何かを仕掛けることが明白なそのタイミングを彼は見逃さなかった。
「マタ・ハリ、キャスター頼む!!」
「はいはい、これね? 」
「そう望まれるのなら」
すると荒狂っていたカリギュラの動きがピタリと静止する。その狂っている意識すら混濁しているような状況に、この場の誰もが明確な隙を見出した。シンドバッドはすかさず駆け寄り全力を込めての蹴りをカリギュラに叩き込んだ。
その拍子に、カリギュラは動きを取り戻したのか、一度大きく咆哮すると、全力で退避していく。
ナポレオンがすかさず追撃するものの、片腕を犠牲に攻撃を防ぎ走り去っていった。
「成程、あの者のようなサーヴァントを従えているのだな!!」
「ええと……道中お話しますね」
これが、この特異点でのローマ皇帝、ネロとのファーストコンタクトであった。
「俺に勝てたら、皇帝様からもらった金の残り、全部くれてやるぜ!!」
────ウォォォォォ!!!!!
西暦2000年代において、ジェノヴァと呼ばれる街、そこは連合ローマ帝国という、謎のローマ帝国によって実質支配されていたが、先程皇帝の派遣した少数の軍勢によって解放されていた。
もとより駐留していた軍勢の数は大したものではなかったが、絶対的な力を持つ王を名乗る化け物がいたために、住民は支配に逆らえずにいたのだ。それを打開したのは、白い服に身を包んだ浅黒い肌をした筋骨隆々の青年であり、佇まいからさぞ故郷では高名な戦士であったことがひと目に伺える出で立ちだ。
「これで良いのか? キャスター」
「はい、こうして占領された方へと広く知らしめることができます。そしてその間にマタ・ハリに情報を探ってきてもらえますので、マスターは挑戦者をひたすら怪我をさせないように倒して下さい」
「わかったぞ」
そんなシンドバッド将軍は、すべての市民そしてすべての兵士に対して、自分を倒してみろと広場で高らかに声を張り上げていた。彼の戦い振りを見ていた同行してきたネロ直下の兵も、見ていなかった力自慢もこぞって彼へと挑みかかる。
じゃれついてきた子供を剥がすような気楽さで、一人、また一人と猛者たちが倒されていき、周囲では解放された喜びからか、葡萄酒を片手に賭け事まで始まっている。
「どうした! ローマの男はそんなものなのか!? 5人まとめてかかってきやがれ!」
「お前ら! 将軍様の命令だ! まとめてかかれ!!」
「ウォォぉぉぉぉ!!」「行くぞおおお!」
肉体と肉体が激しくぶつかる様をシェヘラザードは少し離れた木陰より見ていた。周囲にはローマ兵士が立ってイベント事になってしまったこの場を管理している。将軍のお付きであり、彼に類する強者であると思われているからか、その美貌と惜しげなく晒した肌を前にしても声をかけられることもなかった。
「あら、マスターはまだやってるのね」
「おかえりなさいませ。ええ、あのように楽しんでいらっしゃいます」
そんな彼女のもとにマタ・ハリは戻ってきた。表情は明るくどうやらしっかり成果は合ったようである。
「それじゃあ、止めるのは悪いかしらね?」
「ですが、そろそろ挑戦者もいなくなるでしょう」
その言葉を待っていたかのように、シンドバッドが拳を突き上げると同時に、周囲が歓声を上げる。その声はどんどん大きくなっていき、「ネロ皇帝万歳! シンドバッド将軍万歳!」という声に変わっていく。シェヘラザードはそれを眩しそうに見つめていたのであった。
3人はその後、食料と馬を3頭貰い受けて、ジェノヴァを後にしていた。ロマニを挟んで情報の共有を行った結果、マタ・ハリの入手した古き神を見た船乗りの話は、港町であるジェノヴァでは大きく噂になっており、マシュたちも立ち寄った街で似たような話を聞いていた。情報を統合しネロに奏上して、ガリアを奪還したら、マッシリアで落ち合うことになったのだ。
荷物だけを積んだ馬2頭と、マタ・ハリが乗る馬は透き通るような青色の地中海を眺めながら、予定よりも早くマッシリア近郊へと到着していたのである。
街から少し離れた場所で一度休憩という事になると、シンドバッドはまた海へと駆け出した。彼はこの旅路の間、産まれて初めて見る海に心を奪われてしまったのか、泳ぐということを知らなかったのに、飛び込んでいったのだ。
カナヅチだということを知らなかったサーヴァント二人が、子供のように海へと入り上がってこない主人を微笑ましく見ていたが、やがて異変に気が付き慌てて助け起こしたのは笑い話であろう。
休憩の度に繰り返されるその子供のようなはしゃぎように、いつしか泳ぐこともできるようになったこともあり、二人は苦笑を浮かべながら適当な木により掛かるように腰を下ろした。
「マスターたら、あの調子じゃまだ暫く泳いでそうね。それまで少しお話しましょうか?」
「ええ、構いませんよ」
マタ・ハリはそう言ってシェヘラザードの横に体を寄せる。そのまま不意をつくように、彼女の腕を取り抱きつくように絡みとる。顔を耳に近づけて、周囲に聞こえないようにするためだが、手慣れている彼女がやると一気に妖艶な雰囲気が漂う動作だった。
「貴方は、マスターの事好きなのかしら?」
それは唐突な問いであるが、シェヘラザードも何れ聞かれることを想定していたものであった。
故に彼女は何時もと同じ様に、涼し気な微笑を浮かべながら、口づけができそうなほど近くにあるマタ・ハリの美貌へと言葉を返す。
「……ええ、私を殺そうとしない、良い王だと思っております」
「ふーん、そう。だから私もお誘いしてくれたのね? 」
「ご迷惑でなければとお伺いを立てた上ですが、不快でしたら私からマスターに申しますよ」
マタ・ハリはそんな顔の距離でも、変わらぬ明るい笑みを浮かべながら、シェヘラザードの言葉を否定する。
「いいえ、自分で決めたことですもの。演じる事は慣れていますし、必要なことでしょう?」
「はい、この人理が焼却された今、マスターの状態を良いものにするのは大事なことです」
「それに、あの子は悪い子じゃないもの。私がサーヴァントになって、こんなに楽しい旅ができて笑えるだなんて思ってなかったわ。なにせ私は陽の目を持つ女。あの街でしたように情報を集めることくらいしかできません」
マタ・ハリは短いながらも、此処までの旅路を改めて振り返る。
「でも、あの子はそれを自分のことのように褒めてくれた。戦うのは自分がやるから、調べるのをしてくれるのは嬉しい。一緒に来てくれて嬉しい。ですって……本当単純よね」
「ええ……そうですね」
海にきらめいて反射する光に眩しそうに目を細めながら、マタ・ハリは絡ませた腕を更に引き寄せる。
「だからこそ、もう一度聞くわ。貴方が彼を今みたいに導いたのは、彼が好きだからなのかしら?」
「彼に救ってもらうために必要と……そう思ったのでいたしました」
「……わかったわ。今は聞かないであげる。貴方がお話を紡ぐ事で此処にいるように、私も話を聞き出すことで、此処にいるのですもの」
マタ・ハリはそう言って、絡めていた手を離して立ち上がる。今までの会話を感じさせないいつものほんわかとした人当たりのよい笑顔を浮かべながらマスターへと手を振り呼びかける。
「マスター! そろそろ行きましょう? マシュ達を待たせてしまうわ」
「ああ、マタ・ハリ!! 」
シェヘラザードは、暑さの為なのか僅かばかりに浮き出た汗を自然な動作で拭いその様子を見つめていた。
無事女神ステンノより託宣を受けたカルデア一行は、一度ローマに戻り体制を整えてガリアを前哨地として着陣していた。これより陣形を整えて連合ローマの本拠地へと進軍するのである。
「さて、立香よ此処までの尽力誠に大儀であった。うむ、希望すれば総督として任命して属州を預けても構わんぞ!」
そして今、バーサーカーを除くサーヴァント達と共にネロは軍議を開いていた。
最も話題は大分それており、まるでアイスブレイクのように切り出しているが、彼女は素で本気で話していただけである。
「いいえ、ネロ陛下。俺達はやることがまだあるので」
「むぅ……まあよぃ。だが、やるべきことが終わった後は必ず余の元を訪ねるのだぞ」
頬を軽く膨らませながら、ネロは立香に対してそう言った。それはともに行動している間に、立香がそれだけの信頼を得ていたということの証左であった。
「なあ、ナポレオン。リツカ無茶苦茶気に入られてるけど、何をしたんだ?」
「ん? そうさな、メートルは最大限自分のできる事をしていただけさ。キメラと戦った時にお前も感じたと思うが、メートルの目は既に一級のものだ。俺のグランダルメにも欲しいと思えるほどにな」
「そっか、アイツも頑張ったんだな。俺との特訓がきいたのかな」
シンドバッドは、会議というものが今ひとつわかっていなかったために、近くにいたナポレオンにそう尋ねるも、彼は気を害した様子もなくそう返した。そしてこの場はシンドバッドのそんな言動を咎めるようなものはいなかった。
「そして、シンドバッドも聞いたぞ。余の兵と共に都市を開放し兵士の慰撫までこなしたと」
「慰撫? ああ、街の皆と戦ってみたぜ。弱いやつはいなかったぞ、ローマは強い国だな」
「うむうむ! その通りである」
「ほらほら、ネロ公。話が全然進んでないよ」
それにそれた議題を修正したのは、ネロの宿敵であったはずのブーディカであった。先程シンドバッドも少しばかり話をしたが、ナポレオンと同じ兵に命令をするのが得意な人なんだ程度の理解である。
「そうであったな。我々ローマ帝国と連合ローマ帝国の決戦。その舞台である、敵本拠地は判明している」
『立香くんにわかるように言うとマドリードの辺りだね』
「魔術師のいう地名はわからぬが、ともかくそこまで進軍する必要がある」
ネロは小柄な身体を目一杯そらしながらそう宣言する。威厳に溢れた連戦連勝のローマ皇帝のカリスマがあった。
「ならば、私は先頭だな。斥候の真似事くらいはしよう」
『立香君達も前のほうが良いだろうね、レフの顔がわかるのは君達だけだ』
「当然余も前方で指揮をするぞ」
都市を攻略するほどの軍勢だ。普通に列を作って歩いても途方も無い距離になってしまう。着陣の位置を予め決めるのは重要であった。
「呂布将軍とスパルタクスはどうする? 前において敵が来たら追いかけていっちゃうよ」
「殿を任すとしよう」
「ネロ皇帝、バーサーカーの二人には舵取りがいるのじゃないか?」
「ナポレオンの言う通りだね、それじゃあ私が後ろに行こうか?」
ナポレオンの指摘に、ブーディカも納得してそう提案する。ネロもその点は考えていたようで頷こうとしたタイミングで、シンドバッドが声を上げた。
「いや、俺がいたほうが良いだろ。何かあったら連絡できるから」
「……確かにメートル、マシュとシンドバッドは、カルデアからの通信ができる。俺達に魔術師による通信ができない以上、どちらかが後方にいるべきだ」
「俺はレフって奴の顔知らないしな」
「シンドバッドさんもお会いしていたはずですが……いえ、ドクター私も賛成です」
『そうだね、シンドバッド君がバーサーカーの舵取りをできるかは……二人にかかっているけど、配置としては悪くない』
「決まったようだな! ブーディカは中央で全体の管理を頼む、一番早い故、何かあったらどちらにも救援に行けるようにな」
「了解よ」
その後、他にも敵が出てきた時の対応や、進軍速度などをネロが議題に出し、ナポレオンがそれとなく修正を促す発言をして、全体としての動きは決まり軍議は解散となった。
「マスターお疲れさまです」
「いい子に座ってられたわね~」
特に発言をせずに聞き手に徹していた二人が、シンドバッドへと労いの声をかける。実際じっとしているのが苦手なシンドバッドはローマに来てからは、今のように集団行動ができていた。
それは特殊な立ち位置とはいえ、軍の中という規律によって動く集団とともに活動したことが良い作用をもたらしたものかも知れなかった。
「ん、二人とも。ナポレオンってすごいんだな。俺あんなに難しいことわかんねぇ」
マタ・ハリに頭を撫でられながらも、シンドバッドは悩むような素振りを見せながら、そう呟いた。それは彼にとって、戦う者であったナポレオンが人を動かす事もできるという事実を再認識しただけであった。
「そうね、私もパリでお仕事してたけど、ナポレオンは彼らの誇りだったわ」
「彼のお話は、大変おもしろいものが多いですね」
「強いだけじゃないって……すごいな」
シンドバッドは自分が多くの物事を知らないことを、最近段々と強く自覚してきている。だからこそ自分よりも強い存在が、自分よりも見識が深い事で、周りが凄い事を日に日に理解していっているのだ。
「ナポレオンのようになりたいのですか?」
「いや、そうじゃない。でもそうだな、憧れる? っていうのか」
シェヘラザードは、目を少しばかり細めながらシンドバッドへと尋ねた。シンドバッドは珍しくはぎれが悪く何かを考えながら、必死に自分の感情を言葉として紡ぎ出した。それは1月前の彼からすれば考えられないほどの成長である。
「目標を持つ事は良いことよ。マスター」
「ああ、でもまずは、しっかり仕事をしないとダメだな」
マタ・ハリがゆっくりと優しく頭を叩きそう告げると、シンドバッドは気持ちを切り替えて立ち上がり歩き出した。向かう先は任されたバーサーカー2名の所だ。
自分よりも腕っぷしが強いであろう二人の所で何が学べるだろうか、シンドバッドは楽しくなって段々と足を早め、やがて駆け足で急ぐのであった。
リハビリ作品なので、感想批評募集中です。