[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
最初に異変に気がついたのはマタ・ハリだった。アサシンのサーヴァントである彼女の聴覚は人間を優に超えている。次にシンドバッドが空気が変わったことを感じ取り、そしてロマニからの報告がその事実を裏付けた。
『既にリツカ君には伝えて交戦中だけど、前方でサーヴァントとの戦闘が始まった。ブーディカもすでに援軍として到着している。そして敵は推定だが、レオニダス王だ』
「誰だ? キャスター」
「たった300の手勢で、ペルシャ軍数十万人を食い止めた守勢の王です、一筋縄ではいかないことでしょう」
シェへラザードもそう補足してシンドバッドは、前に強い敵が来たのだとしっかり理解することができた。だが彼の嫌な予感はその前方での戦いに起因するものではない。正体がわかったのに、理由のわからない震えのような感覚が彼にはあるからだ。
「多分こっちにも来る……うまく言えねえけど、嫌な予感がする。マタ・ハリもキャスターも気をつけろよ」
『シンドバッド君! そっちにもサーヴァント反応がある、警戒してくれ!』
シンドバッドのその嫌な予感は果たして正しかった。軍団が足を止めて前方に進めなくなったこの時に、後方より騎兵が突撃してきたのである。
「圧制!」
「■■■■■―――!!」
まるで反射行動のように、襲い掛かってきた敵へ飛びかかる狂戦士二人。指揮されている兵士も将軍に続けとばかりに突撃していく。敵の部隊と接敵しすぐさま敵味方入りまみれ混沌していく戦場。
だが、徐々に騎兵が弓を射掛けながら遠ざかっていくのが見える。サーヴァントならば、脅威度の高い者から潰すであろう、敗走する騎兵へと、此方の歩兵を活かせないように戦線を保つ敵歩兵は、彼らにとっては倒すべき敵ではなく障害程度でしか無いのだ。
シンドバッドは軍団同士の戦闘には明るくない、だが戦闘の駆け引きならば肌でわかる。今のこの膠着状態は、誘いである事を、彼は動物的な本能で察した。
「マタ・ハリ、宝具であいつらを止められるか?」
「まかせて! と言いたけれど、この数はちょっと不安が残るわ」
「令呪ってのを使う。できるか?」
「それなら任せて頂戴!」
シンドバッドは、マタ・ハリの宝具が対軍宝具であり、同時に100人を射程に入れることも言葉としては知らなかった。しかしたくさんの人間を惑わせる技だということは知っていた。彼の戦闘における動物的な感性が、今はそうすべきだと判断したのである。
「令呪を持って命ずる! マタ・ハリ! 宝具で味方ごと動きを止めろ! 」
「了解よマスター。さあ皆さん。結び、開き、私という女に溺れて頂戴!」
美しく舞う踊り子の宝具は、戦場へと広がっていく。桃色の風が吹いている用に錯覚できるほどの濃厚な色気が、軍団を包み込む。誰もが中心で舞う妖艶なる女性の虜へと堕ちるのだ。
たちまち敵味方問わずに多くの戦っていた兵が、恍惚と夢を見瑠うような形でその場に棒立ちへとなる。
「逃がさない様に囲め!!」
「隊長。多分、あいつらは囮であの岩の向こうに敵がいるんじゃねーか……ほら来たぞ!」
結果的に敗走していく敵を逃がさぬように組んだ包囲は、待ちぶせのため隠れていた兵が攻め込んできたこともあり、双方の敵集団に双方が囲まれるという、ひどい乱戦の状況を作ってしまった。
陣形は不利、勢いは同じでも、質に関しては呂布とスパルタクスを有しているこちらの方が上であろう。つまりは彼らの魅了が解けるまで耐えればこちらへと天秤は大きく傾く。
「マスター! また騎兵がこっちに来ているわよ」
なればこそ、その天秤の傾きを止めて取り戻そうと、敵の精鋭が飛び込んできた。シンドバッドにもわかる、一糸乱れぬ騎兵隊、それを率いている赤髪と隣の変な格好の男はサーヴァントであろう。
「キャスター!」
「承知しました」
今度はシェヘラザードの魅了をかけて飛び込んで来た2名へと妨害を仕掛ける。さらにどうやら片方は王だったようで、急激に脱力し、またがっていた馬にもたれこむように硬直してしまう。
「よし、一旦引く、」
戦って勝てないことはないほど理と勢いはある、しかし混戦の中で背後の二人を守る余裕もなく、何よりもそろそろ此処は危険になる。
そう判断したシンドバッドは、敵の動きだけ封じて、自身のサーヴァント二人の腰を抱え後ろに大きく跳躍する。まるで羽があるような高さと勢いで、その場を離脱した直後。
「愛!」
「■■■■■―――!!」
雄叫びと共に狂戦士が動きを止めた2名の敵へと攻撃を仕掛けた。土砂崩れが起きたような轟音と土煙を見下ろしながら、彼は抱えた二人の無事を確認する。
「あら、マスターいつの間にこんなに逞しくなられたの?」
「島で手に入った肉食ってから無茶苦茶調子がいい! ちょっと暑いけどな」
「ああ、こんな高さ、落ちたら生身なら死んでしまいます」
一先ず山場は過ぎたようだ、軍団の指揮を任されている隊長が再編する間、抵抗する敵を魅了しつつ無力化すれば良い。後方の戦いは過剰な攻撃戦力とそれを上手く支援する妨害により、早々に決着が着いたのであった。
「すごい防御です、一人一人が盾の扱いに熟達していて、そして自分ではなく隣の人を守ってます」
「マシュたちの攻撃でも崩せないのか」
「リツカ! 余とブーディカが突撃を仕掛ける、続け!!」
翻って前方の戦場に置いては
レオニダス王の展開した宝具によって、完全に進軍を阻まれていた。並のローマ兵士どころか、攻撃に特化してないサーヴァントの攻撃ではびくともしない堅牢な守り。攻められこそしていないが、千日手な状況である。
過去に存在した、脳筋理論を地で行く都市国家スパルタと、その精神の体現ともいえる王レオニダスに率いられた300の精鋭たち。それが街道の狭くなった渓谷にファランクス隊形で陣を敷いて、本居地への進行を守っているのだ。
単純な能力や膂力だけでも恐ろしいのに、この軍勢は今まで戦ってきたローマ兵ではなく、それよりも数百年前の人物たちであり、レオニダス王の宝具である。
それはすなわち、概念として彼らが守った物に近ければ近いほど、より強固な強さを持つということである。物理的な攻撃手段しか無いのならば巨大な竜が来ようと問題なく守りきれる。多数の軍勢を押しとどめて、本拠地を守るに関してはこれ以上の物はないといっても過言ではなかったのだ。
その証拠にネロやブーディカ、荊軻の攻撃は集中させてようやっと一人のスパルタ兵をひるませるにとどまる。
「ともかく、このままじゃあ守りを抜けない」
「はい、さすが伝説の盾を持ったサーヴァントの一人です」
マシュは妙な納得のし方をしているが事実として火力は足りていなかった。しかし突破口になり得るバーサーカーは此処まではすぐに来ることはできない。
「それでメートルどうする? 俺の宝具で蹴散らしてもいいが、俺の砲撃も王様までは届かない、それでできた穴もすぐにふさがれちまう」
「いや、敵を半分まで抜けるのならば……ネロとブーディカに切り結んでもらえばいける」
立香は今までずっと、300敵兵1体が倒される速さと、味方の被害を見ていた。
そしてこのまま続けても無駄であることを明確に理解した。
「ネロ、ブーディカ、荊軻!! 合図をしたら突っ込め!! ナポレオン! 頼む」
「ダコール!! 虹よ。虹よ!今可能性の橋を架けろ!空を征け 『凱旋を高らかに告げる虹弓』」
凱旋門の名を関した宝具が敵の堅牢な守りを溶かしていく。本来は神という神秘を殺すことに優れているこの宝具だが、出力自体も凄まじい。ランクAの対軍宝具というのは、とてつもない破砕を巻き起こしながら、確かに好機を作ったのだ。
直様ネロとブーディカとマシュの3人が飛び込む、兵士達も後に続いていき強引に穴を開けていく。レオニダスも召喚形態のためか鈍い頭で、敵の指揮官通りの3名の勇士が飛び込んできたのを確認し、槍と盾を握る拳に力を込める。
目前へと迫られたことで、いよいよ決戦と大きく盾を前に突合して、槍を振りかぶる。それが彼の最後の行動となった。
「次の死は私か、それとも敵か。それもまた人生さ。『
影に潜む暗殺者の凶刃は、確かにスパルタ王の命脈を立ったのである。
レフ・ライノールがその化け物に転じた時、その場にいるすべての戦力の反応は狼狽であった。いや、スパルタクスだけは新たな圧政者の気配に笑みを大きく深めていたが、それ以外の心にはえも知れぬ拒否感という、生理的嫌悪のようなものが浮かんでいたのも事実であった。
『魔力数値計測不能いや、前例がないから測れない!!』
カルデアから届くロマニの言葉も軽口とは全く異なる切羽詰まるトーンであり、目の前にそびえる目玉と肉の柱は、それだけいびつでおかしい存在なのだと、この場の多くが認識を共有した。
「ダメ! 攻撃が通りにくい!」
「余の剣もだ!」
戦端が開かれ、ナポレオンの凱旋のカリスマによる支援があるうちは、ダメージが通っている感覚があった、しかし効力が薄れたのか今は耐え忍ぶので精一杯であった。
巨大な切り株に無数の目が生えたようなそんな化け物は、その日から無数の目より光を放ち、周囲の英霊たちに攻撃をしていた。いや、攻撃と言うよりもサイズからみれば駆除に近い。
狙いを定めて殺すのではなく、この辺にいるだろうとまとめて殺鼠剤をばらまく行為に過ぎないわけだ。
だからこそ、この場で戦えているのも事実であり、付け入る隙を探す精神的な余裕もあった。
「マスター! 私の後ろから動かないでください。」
「わかってる、けど、このままじゃじり貧だ」
既に神祖ロムルスという強敵を倒し、その前も都市を攻略するためにここまで攻め入っているのだ。消耗は無視できるほど小さいものではない。
「きゃ!」
「マタ・ハリ!! キャスターも大丈夫か?」
「ええ、よけるだけならばなんとか。ですがこのままでは、死んでしまいます」
カルデアのサーヴァントはナポレオンを中心とした支援と打撃のチームであり、現地勢力は荊軻、ネロ、スパルタクスが攻めて、ブーディカがその戦車で守るという数は十分にあったが、状況を返す手がこの場の戦力にはなかった。
もう一度ナポレオンが全員に支援をかけて、各々の攻撃を叩き込む。それができればあるいはと立香は思っていたが、時間が足りなかった。
そして、そんな時に突破口というのは、予期せぬ物事から始まるのだ。
シンドバッドは、マシュから少し離れた所で攻撃を躱していたが、だんだんとその動きを小さくしていった。まるでどのような攻撃が来るのかを見定めるような動きを繰り返していた彼は、戦闘の際にできた瓦礫をつかみ、突如魔神柱へと駆け出した。
「マスター!! 危険です!!」
シェヘラザードはそう叫ぶものの、彼はしっかりと落ちてくる光の軌跡が見えているかのように、危なげなく躱しながら速度を上げていく。
「無様ッ!」
だが、そんなこと敵は意にも介さない。羽虫が多少飛び交う軌跡を変えただけで人は何もしないように。
だが、その虫が顔にめがけて物が飛んできたら別だ、それが痛みを覚えさせるものであればなおさらである。
「無駄な動きをするなッ!」
「ッ喰らえ!!」
持っていた瓦礫を勢いに任せて投げつけると、紫色の破片を撒き散らしながら魔神柱に当たり砕け散る。その瞬間一斉に目がシンドバッドを捉え光を放つ。
それでもシンドバッドは勢いよく地面を転がるように逃げて、ついに敵へとたどり着く。そのまま勢いを殺さず渾身の蹴りを叩き込み、即座に切り返す。跳ねて、跳んで、走って、転がって。そうして彼は敵の攻撃を引き付けながら、此方まで戻ってくる。わずか30秒にも満たない時間であったが、確かに十分な時間を稼げた。
「マシュ! ネロ! 皆一斉攻撃だ!!」
火力支援を受けた味方達が一斉に魔神柱へと攻撃を開始する、いやその姿は既に蹂躙であった。サイズの差など関係ない、魔神柱は哀れ刈り取られるかのように致命傷をおびている。
それは、そのままこの世の終わりのような悲鳴を上げて崩れ始めていく、彼らは人のみで魔神柱を撃退することに成功したのである。
「ああ、マスター、なぜあなたは、そう死に急ごうと」
「キャスター、どうした。あの攻撃は平気と分かっていた。それに、場所を変えるのもあった」
どうして彼はわかってくれないのであろう。それがシェヘラザードの心境の全てであった。たしかに身体に力はみなぎっている、怪我も最後に脇腹を掠めた光が、戦闘服を溶かした様に焼き切っているだけ。アンダーウェアは多少汚れているに過ぎない。
だが、もし当たりどころが悪ければ? 彼は既に帰らぬ人となっているであろう。そして連鎖的に自分もまた1度死ぬのだ。
「ああ……マスター」
千と一つの夜。その毎夜に潜む死の影から逃げ続けて。きらめく朝日を掴んだ頃には心は擦り切れてしまった。そして始まったのは、千を超える無限の死の記録が刻まれている。
彼女は意図的にもしくは無意識的に他の自分の死、即ち『記録』を見ないようにしている。それは彼女にとって正しい自己防衛である。
もう、戦場に立たねば死んでしまうこと。それは慣れてしまった。恐怖はある。されどそれは外を歩いていれば物取りに刺されるのと同じ、ありふれた恐怖だ。
されど、自分をここに留めている重石であるマスターが死ねば、夜明け前に自分は夕暮れへと戻るのだ。あまりにも喜劇で、どこまでも悲劇であろう。長い長い夜の先に待っていたのが、終わらない夜なのだから。
だから、自分は導いてきた。
サーヴァントは使い捨てにしてはいけません。
無茶な作戦をさせてはいけません。
危険なことをやらせてはいけません。
優しく接しないといけません。
上手く行っていたのだ、どんどん自分の言うことを素直に聞き、少しずつ賢くなり、無茶苦茶とも言えるアイデンティティが鈍ってきているのを感じていた。後少しだったのだ。マタ・ハリを抱き込めた結果、より早く進んでいた。少なくとも進軍中は戦うことよりも、自分たちのそばにいることを好むようになってきていた。それなのに、いきなり得体も知れない敵に飛び込んでいくのだ。
「大丈夫、俺は死なない、勝つまで死なない。だから大丈夫。キャスターをいじめない」
そんな彼女へと降り注ぐのは、彼女が教えた語彙を拙く紡いだ言葉の雨。
「さっきは、こうするのが早かった」
それは少しずつ彼女の心を抉る、だがこのようにしたのは彼女なのだ。
「死なせたりしない。痛いのと怖いの嫌なんだろ」
自分の思う通り動いてくれている、しかしそれが今は怖かった。
「だから泣くな、まだ戦いは終わってない」
それなのに、どうしてこんなにもその言葉を聞いていたいのであろう。
「ああ、マスターどうしてあんなに危険なことを?」
「キャスターが怖がってたからだ」
どこまでもまっすぐ彼女のために動いた彼は、彼女がそれをどうして喜ばなかったのかはわからなかった。そして彼女も、自分のために動かせた彼が、どうして此処まで愚直なのか、それが安心できないのかわからなかった。
「無理をしないで下さい、貴方が死ぬと私も死んでしまいます」
「キャスターがいないなら、俺は生きられない。だからきっと無理をする。でもそれが嫌だったら怒ってくれ、俺はわからないから」
想定通り自分を守る事の喜びと、それによって失われる可能性の恐怖。
想定を超えて守ろうとする恐怖と、それにより起こる想定以上の喜び。
彼女はそれを何と言うのかを、知識と紐付けができていなかった。
「いくぞ、キャスター。マタ・ハリ。またなんか来る。最後の敵だろうし、気合を入れるぞ」
「あら、お話は終わった? それなら了解よ」
「……はい、承知しましたマスター」
3人は目の前の敵を倒す為動き出す。
倒すべき敵だけを見つめるマスターの後ろには、自嘲のような笑みを浮かべる二人の美女がいた。
裏終わり!!
次からオケアノス準備編
それと、下の方ですが日間ランキングに乗っていたようです。
ご愛読ありがとうございます。
GW中まではこのペースが維持できると思いますので、今暫くお付き合い下さいませ。
感想批評お待ちしております。