[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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裏:人食いの化け物について

そのうち人間でなくなってしまう。

言葉にすれば一言であるその事実は、言われた側の本人がよくわかっていないようだった。

向かい合せで椅子に座る医者と患者。正確に症状を告げて、患者が理解できないことは背後の付添人にわかるように噛み砕いてて話し終えた。

 

噛み砕いて説明したし、二名のサーヴァントはマスターの状態についてしっかり理解したようだ。しかしながら、やはりという表情である。この神秘の薄い現代で尋常じゃない身体能力を持ち、それが成長し続けている。此処に来るまでの食事と生活環境。それを考えてしまえば、そういう代償があっても不思議なことではないのだから。

だが、本人はそうまるで、余命宣告を受けた患者というよりも、ただ明日の天気が残念ながら雨だと言われたような。その程度の感じ方をしているようだった。

 

「この前渡した礼装。それで君の中の竜属性を補強している。竜由来の肉であれば、その礼装が安定化させてくれる。摂取した魔力をフィルターしてくれるんだ……といってもわからないか。ともかく、今後は特異点で拾った肉を食べるんじゃないよ、多少なら問題ないけど、続けていたら君は本物の化け物になる」

 

「あのワイバーンっていう竜のトカゲと、ホムンクルスっていう人間みたいのなら食べても大丈夫なんだな。それ以外は、食べると強くなるけど食べすぎるといけない。わかったぞ」

 

「……本当にわかっているのかい? 君は死というものが、わかっているかどうかも確認したいのだけど」

 

ロマニからしてみれば、最初から自由気ままに好きなように、限られた制限の中で最大に自由に振る舞うシンドバッドに思うところがないわけではなかったが。それは嫌悪というものではないし、そもそも感情で仲間や患者への態度を変えることはない。

それでも今のカルデアにおいては大変貴重なマスターであり、何よりも彼がその身を削って戦っていることは知っている。だからこその重ね重ねの確認だった。

 

「ロマン。俺は今すごい楽しい。皆大変だっていうのは知ってるけど、凄い楽しい」

 

「……あまり大っぴらに口にしてほしくないけど、君の過去と今の状況を比べれば、そうだろうねとしか言えないよ」

 

彼は背後に立って、少しばかり悲しそうな顔をしていたが、大きな狼狽も動揺も見せてない自分のサーヴァントの手を両手でそれぞれ引き寄せる。それを愛しげに自分の頬にこすりつけながら、強く宣言した。

 

「ロマン、人理修復が終わるまで、俺が戦えるなら、それで良い。仲間たちと戦えるのならばそれでいい。終わったらその時次にしたいことを考えればいい」

 

刹那的と言えるであろう、だが、希望というものがなく人生を消費していた彼にとっては、自由な1年間というのは、大きすぎて消化できないほどのものだ。ならば、最後に死のうが、化け物になろうが、その最後まで楽しいのならばそれで良いのだ。

 

サーヴァントとは、きっとこの戦いが終わればお別れなのだろう。今の自分に仲間と一緒に戦って強くなっていき、価値を証明する以上に、人生に価値を見出すことはできないのだ。

 

そもそも、カルデア以前の人生に価値を見出すとしたら、それは憧れたあの動きをしたいという情動だけであり。楽しいかどうかという測りはなく、それしか無かったからそうしていただけだ。

刺激というものはまったくない代わり映えがしない生活でしか無い、そんな彼の半生とよぶにはあまりにも長い時間。それしか知らないのだから。楽しい余生、この後やってみたいことなんて思いつくこともないのだ。

 

外への憧れ、自由への憧れ。そういった物を見てみたい、自分の知らないことを知りたいとマシュは思うのだろう。だが、自由すら知らない、将来へ夢見ることすら知らない。そんな人物にとって今以外はないのだ。

 

楽しいことでいっぱいだから、問題はない。今後しばらく楽しいことだけしか無いなら死んでも良い。彼の本心であり、彼自身の望んでいることであるが、彼が求めている理由ではない。それを彼はこの後の旅で知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダ・ヴィンチちゃんよりもらったグリーブをつけた彼は、特異点についてから、ローマよりも明らかに切れの増した動きで先陣を切っていた。

ロマニが観測を間違えたのか、海上に落ちた時も、彼のサーヴァントの出した空飛ぶ絨毯が海面に降りる前に飛び上がって乗り込んでいたし、島で出会った海賊が笑みを浮かべながら近寄ってきたのを、声をかけると同時に顎を砕く蹴りを放っていた。

粗野で力任せな行動ではあるのだが、この特異点においてはそれがマッチしていたのも事実であったので強く文句が言えるはずもなかった。

 

流石にドレイク船長と交渉しているときは自重してくれたが、戦闘になった瞬間にいの一番に蹴り掛かりに行くのだから驚きだ。前衛担当のサーヴァント謎のヒロインXオルタは、面倒くさがりだけど仕事はしっかりしてくれてるサーヴァントだが。サボれるのならサボるので、人知れず彼への好感度が上がっていた。

 

そんなこんなで無事船に乗っての旅が始まったが、そこでも幽霊船が現れれば、切り込んで蹴り飛ばしていき、亡霊が出ればサーヴァントともに乗り込んで亡霊を魅了して蹴り殺すの大活躍。

食事時は、海賊たちと共に肉を頬張り、マタ・ハリの踊りを見て褒め散らかし、シェヘラザードの話しを目を輝かせて聞きながら、初めて飲む酒を一口で吐き出したりと、もともと海賊だったのじゃないかという適応具合だ。

ローマでもそうだったが、彼の育った環境が、現代的ではないからなのであろう。

 

いくつかの島をめぐり、一際大きい島にたどり着いたカルデア一行。もとから、あの大きな島に行きたいと強くシンドバッドが主張していたこともあるが、カルデア側からの魔力の測定で、何かしらがそこにあるのであろうという認識もあったためだ。

現状のカルデアには何も目指すべきものも目的のためにやるべきこともわからないのだ。誰がどうやってこの特異点を滅ぼそうとしているのか、それがわからない以上、まさに虱潰しに動くしか無い。

そういう意味では現地のサーヴァントではないが、ドレイク船長と合流できたのは良いことであった。今後は良しきものにしろ悪しきものにしろ、魔力をたどれば、サーヴァントがいる。仲間に加えるか敵なら倒す。単純すぎるのだがそれしか今はできることがないのだ。

 

「船長!! 船が動きません!!」

 

「何バカなことを言ってるんだい!」

 

島の探索をしようと上陸して周辺を探っていると、ドレイクの部下からそんな声が聞こえる。カルデア側も察知したのだが、この島には結界が張られたのである。何かの宝具の余波に近いものであり、デミサーヴァントのマシュが全力で抗えば離脱できる程度ではあるが、船ごととなると少々荷が勝ちすぎる。

 

誘われるような形ではあるが、カルデアのマスター2人とその契約サーヴァントにドレイク船長を加えたメンバーでの島の探索を始めることになった。そして

 

 

「しね……このあすてりおすが、みな、ごろしに、する……」

 

 

巨大な地下迷宮の奥、そこには一般的にミノタウロスと呼ばれる化け物がいたのだった。

殺意を顕にして襲いかかる巨大な怪物。それでもカルデアは怯むことなく迎え撃った。マタ・ハリが惑わし、シェヘラザードが気をそらし、勢いが鈍った攻撃をマシュが受け止める。そうして出来たその隙へと、ナポレオンによって強化された全員が攻撃を叩き込む。言葉にすればシンプルだが、飽和戦術とも言える数で押す人間の戦い方だ。

 

敵には圧倒的な力もあった、信じられないタフネスもあった。それでも攻撃が通り、足止めが聞くなら、カルデアという戦力で十分対処ができる強敵である。

 

しかし、彼は敵ではなかった。女神エウリュアレを守るためにこの迷宮を作り上げた、悲しき怪物であり、アステリオスという名前を持った人間だったのだから。

 

「気に入った、あんたらアタシの船に乗りな!!」

 

「そっちの女神さんからは面白そうな匂いがするし、そっちの男はよく見りゃいい男だ、凄い強いんだ用心棒になってくれないかい?」

 

そして、世界初の世界一周を生存して成し遂げた船長の大きすぎる器によって、彼女の船には同行者が2名増えた。それだけの話である。

やっていることは乗り込んでの略奪と脅迫なのに、不思議と嫌味を感じないその手際。それはマシュの心に不思議と良く残るものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりお前強いな!! 船持ち上げるのか!!」

 

「あり……がとう」

 

懸念されていたエウリュアレを狙う敵である、黒ひげ一行を何とか撃退して。穴の空いた船をアステリオスが、その怪力に任せて島まで運んだ。まさにギリシャ神話の怪物の活躍とばかりの怪力であった。

しかしながら、穴の空いた船と、自分たちより強い敵。そんな絶望的な状況を前にして、一先ず休んでからこの島を探索することになったカルデア一行は、船から降りて思い思いに過ごしていた。

 

そんな中、シンドバッドはアステリオスへと話しかけに来ていた。お礼というよりも称賛を送りに来たのである。

 

アステリオスは、その経験上人見知りであり、何よりも自分の力のせいで、誰かを傷つけてしまうことに忌避感を覚えている。

自分へと高圧的だが、優しくして名前を読んでくれるエウリュアレに特になついて共に過ごしていたが、彼女が今この場ではなく、立香とドレイクと話しているため、所在なさげに砂浜に座り込んでいたのだ。

 

「アステリオスっていうんだろ、戦いばっかで話せなかったな、俺はシンドバッド。好きに呼んでくれ」

 

「シン……ドバッド」

 

「シンだけでいいさ、よろしくな」

 

話しかけてきたのは人間だ。向こうにいるますたぁと呼ばれてる人物よりは強そうだ。それでも自分よりはきっと非力だった。暴れる自分を止めたアイツより弱そうだったのだから。

 

「シンは、こわく、ないの、か?」

 

「何で仲間を怖がらなきゃいけないんだ?」

 

先程の戦闘で、斧を持った敵と打ち合った。その時の自分の力は見ているだろう。その前に直接戦ってもいる。自分より強い怪物は怖くて当然だ。

 

「ぼくは、かいぶつ、だぞ」

 

「俺達に悪いことをしてないなら、怪物でも聖女ってやつでも変わらないだろ」

 

アステリオスは、何故か目の前のシンの言っていることがよくわからなかった。アステリオスは、ミノタウロスとして死んだ怪物だ。人類に敵対的な存在としてサーヴァントになっている。それはメデューサや、酒天童子と同じそういった役割を持つものなのだ。

 

「お前のこと、キャスターに聞いたんだ。俺知らないことがたくさんあるから」

 

「うん」

 

「さっきの迷宮で、子供を食ってたんだろ? でも今は味方じゃねーか」

 

それを知っているのならば、人間ならばわかるはずだ。えうりゅあれのような神ではないのならば、自分がこわい怪物だということは知っているはずだ。

 

「くっちまうぞ」

 

「肉がそれしか無いなら、俺も食う」

 

「シン?」

 

「子供を食うのが怪物なら、俺も怪物だ」

 

アステリオスはわからない、目の前の人間はなんて言った? 子供を食ったのか? それは人間の子供なのか?

アステリオスは、知識として知っている。今を生きる人間も、自分のいた頃の人間も、人間を子供を食べることは、かいぶつであることを。

 

「お前、俺に似てるんだ。俺も山の中で沢山殺して、沢山食べた」

 

そして沢山使った。シンドバッドは最後だけ小さい声でいってから、座っていてやっと目が同じ高さにあるアステリオスにもう一度話しかける。

 

「それしか食べれないんだ、仕方ないだろ」

 

「シン、それは、ちがう」

 

アステリオスは、何となく覚えていた眼の前の男へのむずむずの理由がわかった。自分と違うのだ。知らないまま沢山殺して食べたことが、嫌で嫌で仕方がなかった。そう思えるようになった今の辛さを、彼は感じていないのだ。

それは怒ることでも羨むことでもなく、不思議なことだった。

どうしてそんなふうに笑えるんだ。

 

「しらなくても、たべた、しらなくても、わかってた」

 

「戦って倒して食った。どんなに弱くても戦って食った。死んでたのを食った。そうしなきゃ死ぬから」

 

そこが二人の大きな違いであった。最初から狂った化け物だったアステリオスと、狂った化け物になったシンドバッド。二人の出す結論は、お互いの考えるものの外側にあった。

 

「まあ、今はまずあの黒ひげを倒す。それが先だ」

 

「そうだ、な」

 

それはアステリオスにもわかることだ。自分をミノタウロスと呼ばない人間は、凄い嬉しい。大切なのだ。だけれど自分と同じかいぶつは、彼にとってはどうすればいいかわからなかった。

 

だから言われた通り、エウリュアレと一緒にいる。それが彼の出した結論だった。

だから、彼は自分の考えのまま、自分にできることを最後までやり遂げることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと仕事が立て込んで短いです、
今日も忙しいので、明日はお休みするか短いのになるかもです。
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