[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

26 / 80
毎度多くの閲覧ありがとうございます。
皆様の感想や無言の応援に何時も励まされております。
その力で、仕事をサボりながらかきあげました。


裏:アルゴノーツとの初戦について

アルゴナウタイ。それは船乗りならば、冒険を憧れたものならば、一度は何かしらの形で名前を耳にする、ギリシャ神話の中でも有数の存在だ。

 

アルゴノーツともいわれる、アルゴーに乗り込み、神の加護を受け、神の啓示で集められた材料の船は、多くの島々を回り、問題を起こしながら解決して、不可能といわれた冒険を成し遂げた。

アルゴー船以外でも既に伝説を打ち立てているような英雄が集まるという、信じられないような状況だからこそ、その物語は後世まで語り継がれているのだ。

 

そして、その伝説が今彼らの目の前にいた。

 

カルデアは、黒ひげが隠し持っていた聖杯を奪取したヘクトールを追いかけて、ついにこの特異点で倒すべき敵というものを見つけた。それがそのアルゴー船だったのである。

 

船影が肉眼ではっきり見えるようになった時から、立香は思わず隣にいるマシュの手を握っていた。それは恐怖からでもあるが、隣にいる少女を離してはいけないという喪失への恐怖であり、ともに奮い立つためであり、逃げるためのものではなかった。

 

この距離からでもみえる船の中央に直立する巌のような男、アステリオスよりは小さいのであろう。だが、存在感威圧感という意味では、アステリオスなど比較にもならない。

 

『アルゴノーツ。そんな、僕たちの敵はヘラクレスだというのか』

 

通信の音声が入る。あまり世界史が大得意とは言えない人物でも、ヘラクレスは知っているものが多いであろう。ギリシャ神話の知名度だけで言えば、アキレス腱の語源になったアキレウスと並び破格の知名度を持つ大英雄だ。その大英雄が目の前の船にいる。その重圧はこれだけの距離を挟んでも伝わってくるものであった。

 

 

「よくやった、ヘクトール。まぁ子供のお使い程度こなしてもらわねばな」

 

「へいへい船長さん、これが頼まれた物だよ」

 

 

既に両方の船は、船二隻分のスペースを開けて平行に並んでいた。

敵は強大である。それでも、目の前の船に勝たなければ、人理修復はないのであろう。故に引くわけには行かなかった。

 

「それではわが友、ヘラクレス。あの船の女神を連れてきてくれないか?」

 

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 

『ヘラクレスに勝てるわけがない、皆一旦ここは逃げるんだ!!』

 

なんの前触れもなく、無造作に戦端が開かれた。イアソンは、さも当然のように、この場にいる最強に指示を出した。それがすべての始まりだ。

咆哮と共に、ヘラクレスが黄金の鹿号へと飛び乗って暴れ始める。まさに暴風、とても人の形の存在が起こすものとは思えないほどの猛威が、そのままカルデアへと襲い掛かる。しかし、カルデアとドレイク海賊団も負けているわけではない。

すぐさま力では勝るアステリオスと、彼を支援するように謎のヒロインXオルタが切りかかる。

 

その様子を見たイアソンは、一度小さくうなづいた。

 

「ほう、テセウスのやつが殺したミノス王の牛じゃないか。よし、ポルクス、お前も応援に行け」

 

「……兄様?」

 

イアソンが、軽い調子のまま声をかけた女は、いうなればそう、喪失により狂っていた。目に正気が宿っておらず、何も見えていなかった。なにせ彼女は本来一人で召喚されることはない。

 

「違う、私はカストルじゃない……だが、向こうにでもいるんじゃないか?」

 

「兄様!!」

 

「全く、死んだ兄貴を追いかけて星座になるような女だ、狂ってしまえば見境がないぞ。それでも刃向かったアタランテよりはましか」

 

彼女は、ポルクス。人間に落とされ、神聖と不死性を一度失った兄を追いかけて、自身の神聖を分け与え、二人で星座へとなった。そんな逸話を持つ彼女は、一人でいることに耐えられない。

だからこそ、このような歪な召喚に応じた、いや応じさせられたのだ。

 

「んで、船長さん俺は?」

 

「お前まで行ったら誰が私を守るんだ!!」

 

「ああ、そうですね、おじさんはてっきりもう休んでいいのかと」

 

 

まるで彼らには緊張感などなかった、しかしそれは油断ではない。彼らの積み上げてきた数多の冒険からしてみれば、ただの障害物程度でしかないのだから。

 

 

「戦闘開始。マスター、指示を!」

 

「マシュ、防御を、何か突っ込んでくる。ナポレオンもマシュと一緒に足止め!」

 

「マタ・ハリはあのでかいのと戦う二人への援護!キャスターはあっちの船の一番偉そうなやつを狙え!」

 

一気に慌ただしくなる戦場。数の上では勝っていても、魔力供給という枷があり、なおかつ質という面では劣っているのは明確にカルデア側だ。

 

そして、間もなく飛び込んできた金髪の少女ポルクスはマシュの構える盾へと、光のような速さで飛び掛かり、その拳を叩き込んできた。

 

「ああ、兄様。そんな、兄様!! どちらに!?」

 

『立香くん! 彼女がポルクスって呼ばれてなかった? 』

 

ロマニは神話におけるポルックスと伝えられる存在と、目の前のバーサーカとの差異に驚いていたが、現場は冷静だった。

 

「マスター、ポルクスは兄カストルと共にふたご座になった英雄です。多分アーサー王と同じあれです」

 

「あれだね、わかった」

 

 

即座に順応するマシュと立香。デミサーヴァントの膂力をして、しびれるような重さの一撃だった。それでも踏ん張れば相手を止められる。しかしナポレオンが照準を合わせた瞬間に、マシュを射線上に割り込むように、ポルクスはステップを踏んだ。どう見てもバーサーカーの言動なのだが、戦いにおいては、その狂気は鈍らせるものではないのだ。

 

「食らいやがれ」

 

ポルクスが着地した瞬間、先程まで何かを口にしていたシンドバッドは一気に距離を詰める。もはや人間には目で追うことも難しいような速さだ。

彼に取って敵がどんな存在かわからないことは、何も問題はなかった。やることは1つだ。

あっちのでかい敵は、アステリオスがいれば、しばらくは保つけど勝てなさそうだ。それならば、早くこの女を倒してみんなで倒さなくてはいけない。

 

それだけを彼は思っていた。

しかし、無手で戦うことこそが最も得意な相手というのを、彼は相手した事がなかった。

シンドバッドの不意打ち気味の初撃は、しっかりとスウェーで避けられた。

そしてシンドバッドのがら空きとなったボディへと、ポルクスと呼ばれた金髪の少女より、彼の攻撃よりもなお早い拳が何度もまとめて叩き込まれる。周囲に響く音は単一に近いものであったが、殴られた側はわかる、これは連打だ。

とっさに身体の軸を無理矢理ずらして対応するものの、少女の細腕とは思えない、ありえない程のそんな力が感じられた。

 

 

「っぐぅ!! さっきの小さい海賊よりも重ぇ!! なんだこのバカ力女」

 

「シンドバッドさん! 大丈夫ですか」

 

『彼女はヘラクレス離脱後のアルゴー船で一番ボクシングが強い。パンチの届く距離で戦うのは無理だ! というか君は何で普通に立ってるんだ!』

 

強力な打撃だったが、それでも今のシンドバッドを殺すほどではない。パンチの軌道は見えなかったが、肩がぶれた瞬間にだけ衝撃だけが飛んできた。それならまだやれる。

シンドバッドは、マシュに一度視線を送り、再び敵に向かって走り出した。

 

「兄様を! 」

 

「いくぞぉ!!」

 

シンドバッドが前に出る、相変わらず女の拳は見えないが、ただ体がそう動きたいと思うように、経験と勘と本能に任せるがままに自身の腕を動かす。今度の打撃は左肩に当たったようだ。吹き飛ばされ、当然腕にまで痺れが走る。

だが、見えた。手は伸びてるわけでも、突然現れるわけでもない。すっごい力ですっごい早く殴っているだけだ。

 

ならばとばかりにシンドバッドは、三度走って近寄る。拳の届く距離は不利だとかそういうものではない。彼はポルクスが軽く踏み込み体が浮きあがった瞬間、自身の体を倒し、そして限界まで細く折りたたみ、地面に一体化するようにそらす。自在に撓るその身体はまるで蛇のように曲がっていき、ポルクスの攻撃が彼の体の上を通過する音を聞きながら、更に身体を回す。

クルリと腕を巻き込んで、合わせて組んだ腕を掌底を放つかのように、全身のバネを利用して全力で相手の胸元に叩き込む。

 

「ハァアアアア!!」

 

今まで此方を殴っていた剛腕の力を思わせないほどの、軽い柔らかい手ごたえと共に、ポルクスは2歩ほどたたらを踏む。その刹那を見逃さずに、マシュはずっと足元に力をためていたそれを開放し、一気に盾を押しつぶしに行く。

魔獣を殴り倒せるようなその勢いをサーヴァントの膂力でたたきつける。姿勢の崩れたポルクスはなおも抵抗するが、追い打ちのように、シンドバッドがマシュの盾に飛び乗るように蹴りを放つ。

 

「マシュ、シンドバッド! 今だ!」

 

ナポレオンのその声に二人が素早く飛びのく、ポルクスの両方のヒールが、船の床を踏み抜いて嵌っている。それは彼女たちにとって、殆ど影響がないが、確実に存在する致命的な一瞬の遅れを生んだ。

それでもポルクスはそんなことを気にしないように、構えを取ろうとするが、その一瞬の遅れが明暗をわけた。ナポレオンの神を落とす砲撃により、彼女はこの船より強烈に吹き飛ばされたのだから。

 

「はぁはぁ、はぁはぁ」

 

「状況更新。マスター、続けてヘラクレスを相手にしている人たちへの援護を」

 

アルゴー船よりもさらに向こうへと、とにかく殺すことよりも、吹き飛ばされるように叩き込んだ。まともに攻撃を食らった以上、幾ら狂戦士といえどもすぐには戻ってこれない。

 

だからこそ、このわずかな時間でヘラクレスをどうにかする。それが彼らには必要だった。

 

 

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

 

「うおおおっ!!」

 

 

しかし、既に時間は足りていなかった。ぶつかり合うバーサーカー達の戦闘はより苛烈になり、謎のヒロインXオルタが介入する隙間すらも無くなっている。

それなのに。

 

 

「────兄様を、兄様を返して!!」

 

はるか遠くに飛ばしたポルクスが、海の上を滑空するかのように、傷つきながらも向かってきているのを、サーヴァント達は目と耳で捉えていた。

 

そしてそれが、彼に最後の行動を決意させた。

 

「えうりゅあれ、まもる」

 

アステリオスは、ずっと行動を共にしていた、女神を一瞥だけすると、その力でヘラクレスに全力で切りかかった。その彼の一撃は確かに見事な物であった。

だが、彼はそれが意味のないことを一番理解していた。すさまじい轟音が鳴り響き、ヘラクレスが、あの大英雄がたたらを踏んだ。そして一瞬の静寂ののち、ヘラクレスは激しい咆哮を上げる。

 

「おや、さすがは音に聞こえた、ミノス王の牛。ヘラクレスを一度とはいえ殺して見せようとはね。でもまぁ彼は、12の試練をクリアしたヘラクレスは、最強でね。命のストックが12個あるんだ」

 

「そんな……」

 

ヘラクレスは、その逸話より自身への攻撃の殆どを無効化し、さらにその限られた攻撃でも、12回殺さないと死ぬことはないのだ。

だから、アステリオスのその全力の一撃は、わずかなスキを作るだけでしかなかった。

 

だが、彼にはそれで十分だった。ヘラクレスを上回る、地球上でも数少ないその怪力を用いて彼はヘラクレスを正面から抱きつくように抑えつけたのだ。

 

力はアステリオスの方が上、耐久も互角。だが、総合的な生命としての強さではヘラクレスの方が上。

それでも組み付いて離さないことは出来ている。巨体同士が、その場に縫い付けられたかのように、その場で意地と力を比べているのであった。

 

「おっと、ポルクス戻れ」

 

「兄様!?」

 

「いまなら、あの面倒な牛を殺せるな、ヘクトール」

 

「はい、イアソン様、ポルクスさんこちらに戻ってきてください」

 

アルゴー船まで、ポルクスが戻るが、イアソンはメディアを見ながらポルクスにそう命じた。彼女はアルゴー船の上で、一度その動きを停止する。それはただ、命令されたからであり、彼女の意思とは別であった。それでもイアソンを守る盾がもう一枚増えたのだ。

 

不毀の極槍 (ドゥリンダナ)

 

ヘクトールのその投槍が、ヘラクレスごとアステリオスを貫いた。胸元を貫通。サーヴァントの核と言えるものに、必ず致命的な損耗を与えている、誰もがそう思える一撃だった。

 

「ぐぅぅっ!」

 

アステリオスは確かに頑丈だ。だが、彼には12の命のストックなどない、ただ神の牛の血が入ることによるタフネスがあるだけだ。それでも彼は、ヘラクレスを離すことはなかった。

 

「おいおい、あれで死なないとか、おじさんも驚きだよ」

 

「ぼくは、ひとを、くったぁ!!」

 

彼はまさに、血を吐きながら叫んでいた。やりに貫かれ、大英雄になぶられながら、それでもその拘束は緩むことはなかった。

 

 

「アステリオス!!」

 

エウリュアレは、何事にも冷たく気怠げに人を誑かして遊んでいた女神は、感情をあらわにしてそう叫んでしまった。

 

「何を言ってるの! 早く逃げなさい!!」

 

 

それは誰が見ても不可能なことはわかっていた、だが、今戻らないと彼が死んでしまうこともわかっていた。つまり、既にアステリオスが助かる見込みは、彼抜きで、この一瞬でヘラクレスを倒すしかないのだ。

 

それが不可能である以上、彼が意識をもってヘラクレスに組み付いている限りが、ここにいるカルデア全員の命綱であった。

 

 

 

「しらなかった、でもくったぁ。わるいこと、した、ぼくは、かいぶつだ」

 

「えうりゅあれ、ますたぁ、ましゅ、みんななまえをよんで、くれた」

 

「ぼくの、なまえ、あすてり、ぉす」

 

「にんげんに、もどれた、うれし、かった」

 

ミノタウロスと呼ばれ、恐怖され、閉じ込められて、9年に一度の子供の生贄を食べた化け物。3度めの生贄に紛れた英雄の機転により討伐された人間の敵。

彼は、彼にとっては雷光を意味するそのアステリオスという名前を呼ばれること。それだけで彼の全ての願いを叶えたも等しいのだ。

 

だから彼はその献身を名前を呼んでくれただけの人へと捧げるのだ。

 

 

「でも、かいぶつは、たおされ、なきゃ」

 

「わるいこと、したら、ばつを、うけなきゃ、いけない」

 

彼は最後の力を振り絞るように、ヘラクレスを持ち上げると、力の限りの雄叫びをあげて、その身を船の縁まで運ぶ。

 

「しん、ぼくは、さきに、いくよ」

 

そしてアステリオスは、船より飛び降りた。腹に刺さった矢を抜けないように、深く自身の体に押し込んで、ヘラクレスと繋がりつつ、全力をもって大英雄を握りしめながら。

 

「野郎ども、船を出せぇ! 用心棒が男を見せたんだ! 無駄にするなよ!!」

 

ドレイク船長のその声が轟き、すぐさま船員たちは行動へと移る。

残酷ではあるが、それが最適解でもあった。エウリュアレは無意識に伸ばしていた手を胸元に戻すと小さくつぶやく。

 

「馬鹿ね、名前を呼んだだけなのよ。それがあの子にとっては何よりも大事でうれしかった。それだけのためにあの子は」

 

 

 

「っち、やられたな。あのバカ牛なら、ヘラクレスを半刻は拘束してるだろう。その間は船を動かせない。どいつもこいつも、何で俺の言うとおりに動かないんだぁ!!」

 

「ご安心ください、イアソン様、彼らには魔術でマーキングを施しております。何よりも女神を手にした彼らと、あの船長さんの元に、最後のパーツが集まるでしょう。あなたはそれを座して待ち、全てを手に入れればよいのです」

 

「ああ、その通りだメディア。よし、ヘクトール、ポルクス。一度体を休めろ。ヘラクレスが上がってきたら出港するぞ。船速は向こうの方が早くても、場所が分かるならその内追いつけるからな」

 

イアソンは、多少機嫌を損ねたが、そのままそう締めると、自身の椅子に腰掛ける。

彼の中には既に、自分が王となった、理想の王国。どんな英雄も恐れられずに民は安寧を得て暮らせる。自分をたたえる民の国の姿が見えていた。

そのような物は存在しないにも関わらずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪物は罰を受けなきゃいけないか」

 

「マスター」

 

 

戦闘が終わり、貸し与えられていた船室で少し休むことにしたシンドバッドは、二人のサーヴァントと共に体を休めていた。

ここには船員も近寄らない、魔が差して近寄ってくることもない。腕っぷしで他の船員を黙らせているので、この部屋の宝は船長の次におっかないと共通認識があるからだ。

 

だからこそ、先ほどのアステリオスの辞世の句は彼の心にゆっくりと染み渡る時間が作れていた。

 

「マスターも、そう思うの?」

 

アステリオスの言葉は、とても簡単だった。あれを理解できないという道理はない。彼は単純に、皆のために自分を犠牲にした。それだけである。

だが、それをしたいと思った動機は、みんなと一緒にいることが、エウリュアレと一緒にいることが楽しかったから。名前を呼んでくれて、人間として扱ってくれたのが、暖かかったからなのだろう。

 

あの行動も必要だった。少なくともアステリオスでなければ、2名以上のサーヴァントが足止めのために残る必要があった。一人でヘラクレスを抑えることができるのは、アステリオスだけなのだった。

だけど、最後の言葉、それは彼がそう望んで自らを犠牲にした意味の部分だ。

 

悪いことをした怪物は罰を受けて、討伐されなきゃいけない。

 

アステリオスを討った英雄テセウスが救いたかった、無辜の民、子供、そういった弱い物。それらを脅かしたのだから当然なのだ。しかしその脅かしたものが、子供だっただけなのだ。

 

「いや、俺には罰を受けなきゃいけないっていうのが、わかんねぇ」

 

アステリオスは、ミノタウロスから人間になりました。めでたしめでたしではなく、人間になったから、怪物を辞めなきゃいけなかった。怪物は討伐されて初めてお話を終わりにできる。

 

アステリオスにとって、子供を食べた時点で、どんな形であれ、自分は誰かに討伐されるものなのだ。

 

 

「二人には言うけれど、俺はずっと人とそれに近いものを食べて殺して食べてきた」

 

「そうしないと死ぬからだ。子供の間は、それがおかしいことだと思わなかった。大人になって、それはダメなことだとわかったが、止められなかったし、悪いという気持ちもなかった」

 

悪いことだとは、少しだけ聞いていた。だがそれは仕方のないことだ。弱者ほど這い上がるのが難しいように、強者程頑張りをしなくても多くの物を得れるように。ただ理不尽に必要なことであるだけだ。

 

「俺は、今まで食べてきた人間を無価値にしちゃいけない。だから俺がすごいことをしたら、自分の食べ物になった人間は、俺のためになっていたことになる」

 

「そう、逆説的、ってやつだ。その為に俺は戦って、強くなっていた」

 

「そうしたら、強い俺が役に立つ、今みたいな世界の感じになった」

 

「俺は、うれしかったんだ」

 

アステリオスにとっての贖罪が死ぬことならば、シンドバッドにとっての贖罪は生き抜くこと。それだけの違いだった。しかし、本来罪を償うのは楽しみながらしてよいことではない。自身がどう苦痛を受けて、それにより自分が納得できるかが大事なのだ。

 

そういう意味では、シンドバッドにとって、アステリオスとの出会いは、最悪の中の最悪の物であった。

 

どこだかわからない所にいた彼が、落っこちていたことを知って、ただただ楽しく這い上がっていくだけの人生を始めだした時に。

落とされたアステリオスは、落とされたのならば、最後まで落ちていかなければならない。そう言って本当に底まで転がり落ちていったのだ。

 

「マスター、それでは、あなたは人理修復を辞めるのですか?」

 

「いや、やめねぇ、もう止まれねぇよ」

 

「それじゃあ、マスターはつらいこと、痛いことがしたいの?」

 

「楽しいこと、気持ちいことだけをして、そのまま、食ってきたやつらを引っ張り上げたいんだ」

 

そう、結論は変わらない。彼はもう今から背負った荷物と一緒にそこまで戻ることはできない。登り始めたのならば、この荷物を天辺まで届ける。それしかできないのだ。

それしか道がなかった彼は、隣で荷物をかばいながら落ちていった先達を知ることによって、周りが見えるようになってしまった。

 

それは、ある意味、彼が人間として本当の意味でスタートラインに立った証だ。

周回遅れもいい所ではあるが、それでも彼はそのレースを走り切り、勝ち残ることが必要なのだ。

 

「シェヘラザード、マタ・ハリ。二人とも大好きだ。リツカやマシュにナポレオンも好きだ……でも、アステリオスは、格好良いけど、嫌いになっちまったかもしれねぇ」

 

お互い必要があれば、自分を犠牲にして状況を打破する考え方なのだろう。だが、そこにアステリオスは罰と報いを求めて。シンドバッドは自分の意義と価値を求める。その点だけが決定的に違うのだ。

別れ方が別なら、きっと二人は親友になれたであろう、二人の怪物は、相互の在り方の差によって決定的な違いがあった、ただそれだけだった。

 

それは言葉にするのならば、人生で初めての明確な自己嫌悪だった。

今まで強敵を前に揺らいだことも、傾いたこともあったが、それでもまっすぐだった彼が、一瞬振り返ってしまった。後ろにあるものを見てしまったからこそ漏れてしまった。本当の弱音だった。

 

 

 

 

 

 

 




ポルクスちゃんが兄様しか喋ってない……
離して召喚してなんだけど、逸話考えると離したらこうなるよなって

あと、シリアスな戦闘の地の文で、謎のヒロインXオルタは空気壊すってレベルじゃないからやめてほしいけど、仕方がない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。