[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
カーミラとエリちゃんがまたなにか変なことをやってる。
それだけで十分です。
私もよくわかってないので、大丈夫です。
シェヘラザードは崇高な使命感で動き始めた女性だ。
狂った王を止めるために、大臣の娘という立場で、自ら名乗り出て、王を諌めにかかった。最終的にその試みは成功したものの、大きすぎる恐怖のために、彼女の心は最終的に壊れてしまった。
それでも行い自体は尊いものであり、彼女の本質は善のものであり、本来はすべてを犠牲にするということを考えるものでもない。死という大抵の存在に平等に現れる物への恐怖が彼女の眼を曇らせるが、それでも彼女の死への忌避感は、個人の喪失ではなく。
『自身の愛しいと思うものと一緒に』死ぬことが怖いというありふれているが、だからこそ強い志を持った人間なのだ。
国を愛しているから、民を愛しているから、家族を愛しているから。それが彼女が立ち上がった理由であり、失いたくなかったものだ。
本来彼女は、触媒で無理矢理呼ばれないと、よっぽどの危機であるか、よっぽど相性や性質が近いものでなければ呼ばれることはないのだ。
だからこそ、彼女は最初から目的を変えたわけではない。ただ、自分を呼んだマスターへの思いが、ストックホルム症候群の様に変質してしまっていった。彼女もそれを理解した上で、その感情を制する事なく、あるがままに受け入れた。
召喚された冬木という街を含めて、4つの特異点を修復する旅。それは命の危険を伴うものであり、マスターも積極的にリスクを取りに行く動きをしてハラハラしたことは何度もあった。特異点では夜毎に多くの話を語り聞かせ、多くの物事を教えて。旅の合間には彼が望むように甘やかして、眠り聞かせた。
それは彼女としては、少しばかり不本意であったが、これほどまでに自身に戦うことを強制しない優しい王となったマスターや、たまに呆れたような目で此方を見る同僚と、このカルデアという組織の他のスタッフも。失いたくないと思い始めるのは当然だったのだ。
「マスター、貴方は人理修復が終わったらどうするのでしょうか?」
それでも、こんな話を聞くつもりはなかった。確かに彼の肌は昔より少し冷たくなってきている。新陳代謝も上がっているのか、匂いが濃くなってきている。
きっと、そんなに長くはないのであろう。それは何となくわかっている。だからこそ、今のこの旅を集中して取り組んでいる彼に、その先のことを提示するような、水を差す行いはしたくなかった。自分の命の保全上の意味でも。
それでも、先日の3人目のサーヴァントが召喚された日にした話が、ずっと耳にまとわいついて離れないのだ。
「マスターを私たちのものにしたいのだけど?」
まだ召喚されて半刻ほどしか立っていない中、ミストレス・Cと名乗ったサーヴァントは、部屋に残った、マタ・ハリとシェヘラザードに向けてこともなげにそう告げた。
二人共、妙にマスターへの距離感が近く警戒心がない彼女に対して、少しばかり引っかかるところもあった。だからこそ、途中で何度か目配せをしてきたサインに気づいたこともあり。普段ならば、ワイバーン肉を食堂で加工してもらいに行くマスターに同行することをやめて、この部屋で待つことにしたのだ。
「あら? サーヴァントはある意味マスターのものでしょう? それを逆というのはいきなり裏切るという意味かしら?」
妖艶でいて優しい女性でもあるが、気の強いところもあるマタ・ハリは皮肉げにそう返す。ミストレス・Cは帽子を外して、美しい銀髪をなびかせながら小さな赤い角を顕にして、帽子を腰掛けているベッドに置いてから、その言葉を待っていたとばかりに返す。
「まだわからないの? あなた達でしょう? マスターを甘やかしてるの」
「それは否定いたしませんが、そのマタ・ハリの質問にお答えいただけませんか?」
シェヘラザードも概ね同様の意見だった。なにせ相手はよくわからないサーヴァントである。ですがそれは藤丸さんの謎のヒロインXオルタという存在に比べれば些事でしょう。そんな風に思いながらではあるが。
「私は、マスターが人理修復のために駆け抜けるのなら、死んでしまっても我慢できるわ。戦いに行く旦那を支えるのは妻の役目ですもの。でも……このままだと」
ナチュナルに自分を妻という対して、二人は一度顔を見合わせるものの、どうやら彼女には彼女なりの事情があるようだ。二人はそう判断して続きを促す。
「このままだと、マスターは悪い女に引っかかって、人理修復を放り投げて、その女と一緒に世界を滅ぼすわよ」
荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい。信じるに値しない唐突すぎる話。一蹴して問題ないようなものだ。だが、話を聞いていた二人は、本能のようなもので思ってしまった。本当に僅かばかりだ。それでも
────あっ、それありそうだなと。
なにせ、自分たち二人の影響を非常に強く受けている。彼自身が望んでいる使命感については手を加えてこそ無いが、言動も好みも所作も、何ならばテクニックや方法までも。彼の所作は二人の好みが結構出てしまっている程度に影響を与えている。
シェヘラザードと接する時は、甘えるように無防備に。そしてどこまでも優しく依存するかのようにして。マタ・ハリと接する時は、少しばかり強引にそれでいて真っ直ぐ求めてこようとする。
双方が双方のやっていることに一言申したい時はあるが、それもまたいいかとお互い暗黙の了解でサンクチュアリとしていた。
だからこそ、本気で彼を依存させようと、彼のことをどうでもよく思う程破滅させようと、身体も使って誘惑すれば……多分出来てしまうであろうな。と
「私は、わかりやすく言うと他の聖杯探索でマスターといた事がある。何回かね。でも全部同じ様にある女を召喚して、破滅に終わってるの」
信じたくはないものの、無視はできない発言である。
「名前は言わないわ。来たら困るもの」
「この後何か、触媒を手にするのでしょうか?」
「いいえ。マスターは人理修復に対して……というよりも、1つの使命感に集中するということが、生き様なの。そしてなぜか、それが強まるほど彼と相性が良いサーヴァントが呼ばれるのよ。だから、このままだと恐ろしいほどに愛に狂った女が、私の後に呼ばれるの」
ミストレス・Cは、思い出すようにそう語る、淡々と事実を確認するように、自分に言い聞かせるように。楽しい思い出がある。綺麗で大切なものが。彼女のこの並行宇宙の座には。この世界線だけの価値観しか持たない自分では、普通に彼を好ましく思い、彼を支えてしまう。
そして彼は走り切るために助走をつけて、加速して……奈落の穴へと落ちていくのだ。
「他の私の記憶を持ってこれたのは今回が初めて。だけどわかることがある。今みたいに彼を、マスターをそのままにしたら、取り返しがつかないことになる」
いつの間にか、マタ・ハリもシェヘラザードも話を聞き入っていた。こればかりは理屈じゃない、彼女たちは同じなのだ。ほしかったものをもう手に入れることができなくなった『女』の顔と声だったから。
「……それで、どうすればいいの?」
「協力してくれるのね?」
「話を聞いてからよ。私のマスターを、後から来た女に良いようにされるのは嫌なの」
マタ・ハリの発言は、少し棘のある言い方ではあったが、それはシェヘラザードも同じであった。これが交渉だとしたら現状把握よりも、相手の用件こそが最大限見るべきものであるのだから。
「簡単よ。彼にとっての優先順位。それを人理修復を1番でなくして、自分のサーヴァントに依存するようにすればいいの」
「……マスターであることを諦めさせるってこと?」
「違うわ。彼の背中を押しちゃいけないの。いいえ、彼が求めているものを私達であげるの、彼が満たされるほどね」
「マスターの求めてるもの……成功体験に基づく自己肯定よね」
それは、シェヘラザードもわかっていることだった。だからこそ、彼女はマタ・ハリを抱き込んだのだし。目的は変わっていない。
そして彼女は、きっと自分のマスターは最後まで諦めないで目的に向かって走っていく。そういう確信があったから、それまではついていく決意をなんとか固めたところだった。
「そうよ。彼が欲しいのは、自分が生きていて良いと思えること。そう確信できるほど、誰かに愛されれば良いの! そのはずよ……たぶん。ええ、きっと」
「貴方も確信はないのね。でも……えぇ、私は協力するわ。さっきも言った通り、ぽっと出の女にマスターを良いようにされるなんて絶対に嫌。それこそミストレス・Cが何を企んでいても、今後はマスターが私を求めるように、私を糧に生きるようにする」
マタ・ハリは変わらないようだ。まぁ彼女はマスターに求めている物に照らし合わせれば、現状をより強くしただけだ。第三者からのゴーサインが出ただけであるのであろう。
ミストレス・Cもそう言う以上、同じ様に動くのであろう。彼を自分たちで満たさないと、彼が死に、そして人理焼却も完遂される。それならばサーヴァントとして呼ばれた使命にも合致している。
だが、自分はどうであろう。未だに彼女は両天秤なのだ。マスターがまっすぐ歩み続けて、その先に勝利を掴むのならば邪魔はしない。
でも、途中で負けてしまったら、それはそれで、もう2度と英霊召喚という事象に付き合う必要はなくなるのであろう。それはある種の彼女の目標を達成したという意味でもある。
だが、最後まで彼がどこまで行けるのかを見てみたい。この優しい王が、優しいままに進めるのかを見てみたいのだ。
突然来たサーヴァントに全部持っていかれるのは釈然としない程度には、彼のことが気に入ってしまっている。
「シェヘラザード。貴方はどうするの? 貴方は何時もマスターがあの女に溺れるのを静かに見ていたわ。今回もそうするの?」
「私は……」
「貴方が怖いのは自らの死だけなのかしら? この日常と一緒に死ぬことのほうが怖いのではなくて?」
その言葉に返すよりも前に、マスターが戻ってきてしまったので返事を返すことはなかった。
なにせ、召喚初日から、血を見るような絡み方をする大型新人と、マスターの操縦をするのに手一杯だったのだ。
返事は彼女は今日までの幾ばくかの時間を用いて、何夜も考えた。そして、あやふやに見えた答えに名前をつけるために、マスターに話しかけに来たのだ。
「終わったらどうするって何だ?」
「この戦いが終わったら、何かしたいことはございますか?」
シェヘラザードはマスターにそう尋ねた。それは酷なことであることを知っているのに。
それでもそう聞かざるを得なかったのだ。
「結婚したい。キャスターの語った話は、皆そうしてた」
それは、立派な英雄譚に憧れて、そうなりたいと思う少年と何らさがない漠然とした、子供の持つ将来の夢だった。
「元いた所に、お知り合いでもいらっしゃるのですか?」
「いない。名前もないのにいないよ、皆しか知らない」
「それはつまり……サーヴァントと結婚すると? それは、破天荒なマスターらしいですね。マタ・ハリとそう約束しているのですか?」
それでいて、非現実的なものである。だが、取り繕って応えたのではないのであろう。つい、深く聞いてしまいたくなるほどに曇りがないのだから。
「いや、してない。でも皆と結婚したい。キャスターと、マタ・ハリと、ミストレス・Cと」
「そうですね、今みたいに皆で暮らしたい。平和な世界でそう出来たのならば、きっと楽しいのでしょうね」
やはり、彼女のマスターはまっすぐだ。真っ直ぐ自分が生きる許可を、自分に出せたら、やりたいことを思いっきりやりたい。それが、サーヴァントとの結婚である。とても危うい在り方で、とても難しい夢だった。
それならば、もう決めてしまおう。きっとまた、この仮初の生が終わったら、死に怯えるであろう。いつか自分に死をもたらす物が現れるのであろう、だがそれは今でもなければ、このマスターでもない。
こんな、悪い女ばかりにつかまって、良いようにされているマスターに、生前みたいにもう一度、自分のすべてをBETしよう。優しい王だ、気が触れて処女を殺したりはしてない。自分が導いた王に、自分が殺されてしまうのは、気まぐれという運ではない、自分の責任だとも言い訳できる。
「彼女の言う通り、私はどうやらこうして過ごす日々ごと死ぬのが怖いようなのです」
できることをいたしましょう。今までのように貴方に泡沫の眠りへといざなう物語を語りましょう。求められれば捧げましょう。皆で笑いながら進みましょう。
「どうか、これからもお側に。私の優しい王。ここで死んだらまたあなたと離れ離れになってしまいますから」
彼女はその日、人理焼却を望む自分を殺した。この死を今生の死にするために。この生をこのまま続けるために。分かれ道の行き先を定めたのだった。
今日のミストレス・C
(この霧でマスターの調子が悪い今、私の活躍を見せるときよ!!)
(他のサーヴァントの協力も取り付けたし、あとは勝つだけなのよ!)
(あ、なんかこの家が怪しいわね! 入ってみましょう)
(ふふっ、拠点と現地のサーヴァントとの合流が出来たわ! マスター喜んでくれるかしら?)