[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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祝! 赤評価復活!
これからも、評価と感想お待ちしております。
(こう書いたら橙にもどるお約束)


旅は道連れ

気が付いたら、よくわからないところにいた。体の上に重い土が乗っているみたいなまるで土砂崩れに巻き込まれたみたいな。

そんな感覚と苦しさにシンドバッドは目を覚ました。理由はわからないが、未だに冷汗は止まらない。

 

何とか思考を回して左手の令呪に皆との繋がりがないことに気が付く。それは全くないわけではないが、いつもならば大体どの辺にいるのかわかるのに、それが分からなかった。すごい遠い所なのかもしれない。

 

落ち込んでいく気分を何とか持ち直しながら、シンドバッドはこみあげてくる吐き気と涙を抑えながら、少しだけ見える隙間から、外の様子を見る。熱くも寒くもないが、息苦しくて視界がかすむ。

 

今までも身動きが取れなくなったことはあったが、ここまで不自由なのは初めてだ。

無理やり体をひねって、明かりの方に進もうとするも、びくとも動かない。

力ではどうにもできないのだが、お構いなしに彼は這いずり続ける。何かをするのを止めた瞬間に、自分が壊れる気がしたから。

 

「あれ、ここに誰かいる?」

 

「いる、出してくれ」

 

 

目を凝らすと明かりの処に女性の脚とみられるものが見える。助けてほしいという気持ちと、綺麗な人だといいなという気持ちがわいてきて、シンドバッドは少しだけ気分が落ち着く。

 

 

「うーん、すごい色欲の煩悩を感じるんだけど、助けて大丈夫かなぁ」

 

「でも、案内の妖魔とはぐれて、馬はたべられちゃったし、そもそもどういう状況かわからないし、一人じゃ寂しい……じゃなくて寂しそうだし」

 

どうやら悩んでいる様子だ。シンドバッドは、必死に身体を動かして身体を前に伸ばそうとするが全く動かない。

 

「だして、なんでもいうこと聞く」

 

一先ずは言葉で頼んでみることにした。

 

 

「よし、そうよね! ここはあたしが弟子にして導いてあげないと」

 

 

彼女は何かを唱えて、掌を突き出すかのように動くと、シンドバッドを押さえていた大岩は跡形もなく吹き飛んだ。あまりにもあっけないが、自分の上を貫いていった、強いのに、何故か怖くない力に一瞬驚くものの、ようやっと解放された。

 

やっと思うままに息が吸えるようになったシンドバッドは、匍匐前進の途中のような姿勢を崩して、そのまま転がり地面に仰向けに体を預ける。

そして女性がいるであろう方向を見上げると、そこには彼の1人目のサーヴァントと同じように黒い髪をした女性が、下着のような格好の上に、布をかけただけの格好で立っていた。顔は見えないが。

 

 

「ありがとう」

 

「お礼はいらないわ、だって、これもきっと御仏のお導きだもあの、あなた名前は」

 

「シンドバッドだ……です。そっちは?」

 

助けられたのでお礼をしっかり伝えること。そう教わっていた彼は姿勢を治すと素直にそう伝えることにした。女性は泣いた後のように、少し目が腫れていたが、優しそうに微笑んで応じてくれたので、シンドバッドは一安心だ。

 

「アタシはの名前は玄奘……三蔵法師の玄奘のはず。シンドバッド、あなたは今日からアタシの弟子だから、師匠様と呼ぶように」

 

「師匠?」

 

「そう、お師匠様」

 

「お師様、お師さん?」

 

「まぁ、それでいいわ。それでシンドバッドは、ここで何をしてたの?」

 

「わからない」

 

 

大岩に封じ込められるという問題を前にして、一度状況というものを忘れていた彼も、その枷が解放されたことによって、改めて現状を考える。

いつもは難しいことは周りのサーヴァントが考えてくれたから、よくわかっていなかったが、今はいない。何から説明をすればいいのだろう。

 

なにせ彼自身よくわかってないのだから。こういう時は1つずつゆっくり声に出してみよう。そう思った彼はまず口を開くことにした。分かる範囲で思い出していく。

 

「敵と戦って、負けたらここにいた」

 

「なるほど、負けてここに封印されたのね、うーん、土着の悪い妖魔だったのかしら? 煩悩は多そうだけど、そこまでアウトな感じはしないのよね。かといって手放しに大丈夫って言えるほどじゃないのよね」

 

なにやら、相互の理解に誤解が生じているが、これは致し方ないことだ。

それでも根は底抜けに善良で、どんな時も人の道を踏み外すことはない幸運を持つ徳の高い僧侶である彼女と。

悪意や害意はないが、規則を重要視していない彼というのは、相性が致命的に悪いわけではない。

 

「そうね、疑ってちゃ始まらないわ! 弟子にするんだもの導くつもりがなくっちゃね!!」

 

何やら向こうも考えがまとまったのか、元気いっぱいにそう腕を突き上げて宣言する三蔵に、シンドバッドは思い出すことを一度止めて、顔を見下ろすことにする。

 

「シンドバッドは、今日からアタシの弟子よ。アタシはよくわからないのだけど、西に行かなくちゃいけないの!」

 

「西? マドリード?」

 

「多分そこじゃなくて、天竺よ、天竺。なんか前も弟子と一緒に目指したような気もするのだけど、まあ、よくわからないこんな状況も、きっときっと超えるべき試練なのよ!」

 

「よくわかんないけど、ついてくぞ、お師さん」

 

「決断が速い所はいいことよ! それじゃあGo!!WEST!!Go!!」

 

「WEST!Go!」

 

ともかくそういうことになった。

 

シンドバッドはもしこの時同行していなければ、遠からずダメになっていたであろう。カルデアが今の形になってから、ずっとそばにいた、自分のサーヴァントがいない状況で。

精神的に不安定だった彼は、同行者と一先ずの目的を持つことで、問題を棚上げできたのだから。

 

そして、シルクロードを行く長い旅が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三蔵の旅が新たに始まったその日の夜。彼女はとにかくご機嫌だった。案内を頼んだ妖魔に逃げられ、道に迷い、馬は妖魔に食われて、一人で泣きながらさまよっていた。

そんな中で、ちょっと俗っぽい青年を弟子にした後、とんとん拍子に、まるでかつての弟子のように、旅の道連れができた。これでもう寂しくない! 目的もわかった! やるべきことも増えた! 寂しくない!

 

先程手に入った、経典を手にした時に戻ってきた記憶を整理すると。

孫悟空と出会った場所であったシンドバッド。

わかりやすく欲まみれの猪八戒ことダビデ。

冷静沈着で知恵ものである武芸者の沙悟浄こと李書文

白竜の代わりの呂布と呼ばれる大男

 

何やら以前の旅といろいろ異なるが、経典を集めながら天竺を目指すという目的もしっかりできた。今日はその記念ということで、野営でも気分は晴れやかだ。

 

「お師さんとシンドバッドは、睡眠が必要だけど、僕たちは食事もいらないから」

 

「然り、師匠もシンドバッドも眠くなったら休むとよい、寝ずの番など儂等弟子の務め」

 

「え? 本当にいいの?」

 

「まぁ、妖魔だしそういうものだと思ってくれればいいよ」

 

 

一人で旅をしていたころに比べれば、天と地ほどの差がある。道に迷い、苦労はするものの人の道を外れずに縁に恵まれて、良い道を辿れるのが彼女だ。

それは彼女のとびきりの善性と、ひたむきな努力家な姿勢によるところが大きかった。

 

しかし、この場で一人浮かれない顔をしている人物がいた。

 

それは、最初に会ったシンドバッドという青年。彼は人間であり、なぜか詳しい猪八戒いわく、人理焼却なるものを防ぐために戦っているカルデアという組織の、マスターと呼ばれる人間だそうだ。猪八戒の子供と戦っていて、どうやらこっぴどくやられてしまったとのこと。

 

まぁ生きているのならば、また修行して挑めばいいのだ。そう思い、三蔵は彼に話しかけることにする

 

「こら、シンドバッド。浮かない顔してると、嫌なものが来るんだから、思う所があるのならば吐き出しなさい!」

 

 

すると、火を眺めながらぼうっと座っていた彼は、小さく言葉を漏らす、

 

「お師さん、俺、寂しい。みんながいなくて、寂しい」

 

「あぁ、お師さん。彼は女の子を2,3人侍らせてたし、それがいなくなって寂しいんだと思うよ、その気持ちは僕にもよくわかるからね、アビシャクとか」

 

「え!? シンドバッド、あなた、お肉食べるだけじゃなくて、奥さんがたくさんいるの!?」

 

三蔵は、これはしっかりと自分の拙いながらも説法をする必要があると意気込むが、まずは食事だ。先ほどこの辺の植生にも詳しい沙悟浄が取ってきた「食用の木の実」をシンドバッドに渡して食べさせる。

 

「いやだ」

 

抵抗していたものの、無理やりに近い形で口に押し込むと、シンドバッドは、それを何度か咀嚼して、顔色を真っ青にしてその場から立ち上がり勢いよく駆け出した。

そして、直様近くの岩陰にうずくまり、今食べたものを全部嘔吐している。

 

「え、えぇ……そんなにダメなの?」

 

「うーん、これは重症だね」

 

三蔵は、まさかここまでとはと思いつつ内省する。以前の弟子たちに嫌いな野菜を食べさせた。苦い薬草を食させたときも似たような感じではあったが妙な違和感がある。

 

彼らは口に合わないという反応で、どちらかというと、口をゆすぐ程度だったのに対して、拒絶が強すぎる。

 

今はまだ修行中のみでありながらも、彼女はもう一度目を凝らして彼を見る。いつか偉くなる自分の囁きが聞こえる気がする。そして1つの事に思い当たる

 

 

「シンドバッド、あなた人食いね」

 

「へぇ」

 

「ほう」

 

「■■■……!」

 

それは正解に近かった。彼女も確信はなかったが、シンドバッドの態度でわかった。そして、諸国の王達が欲しがるほどの卓越した頭脳で、より推論を鋭くしていく。

 

「いいえ、人食いだったのね。それも、望んでいたわけではない」

 

「そうだ。俺は肉しか食えねぇ」

 

 

シンドバッドにとって、三蔵が守れというであろう、戒律はほぼ不可能といってもよかった。色欲は兎も角、食の部分が特にまずい。

しかし、三蔵は得心が言ったように笑顔を浮かべると、まだ話してる途中で再び戻し始めた、彼の背中をさすって、優しく声をかける。

 

「大丈夫よ。あなたが肉しか食べれないのは、問題だけど。悟空たちもまぁ似たようなものだし。それにその吐瀉は、もう人間を食べたくないからでしょ? それならばきっと、ええ、きっと御仏も強く咎めたりしないわ」

 

ここと違うどこかで、彼女はアステリオスという人食いの化け物と会い、彼ならば、しっかり反省して、それをしないように努める彼を大丈夫だと。そう諭している。

 

しかし、シンドバッドは、改心も罰を受けることもなかった。だからこそ、彼は自分の心が軽くなったのを許せなかった。

結局、何とか持ち直したものの、誰かの話を聞かないと眠れないという、シンドバッドのへんな癖のために、三蔵が覚えている限りの故郷での修行の話をしながら、二人はまどろむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛んできた分銅付きの鎖を、シンドバッドは紙一重で避ける。未だに重い体だが、これに当たるほど弱っていない。

すぐさま鎖は、意思があるかのように横に巻き込まれていき、彼の首を取りに来るが、左によけた勢いのまま彼は体を地面すれすれまで曲げて、自分の上を通過させる。

人間一人を本気ではないとはいえ、仕留めきれなかったことに、一瞬だけこの攻撃をしたメデューサこと銅角の眉が上がるものの直様気を取り直す。

なにせ、一番弱そうなのでという理由で攻撃したので、他の強そうなサーヴァント相手に処理をしなければならない。

 

すぐさま、後ろに飛ぶものの人の身でこれほどの力が出せるのかと疑うほどの剛力により、巨大な装飾がついた槍のような武器が叩き落される。

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

そして今度は神秘が薄いのに、恐ろしい冴えの槍が襲い掛かるので合わせて回避しようにも死角からの投石が彼女を留める。

 

「とあっ!」

 

言いたくはないが、こういった洞窟の中は、彼女の本領を発揮できるほど広くはない。近接戦闘に覚えがないわけではないのだが、ライダーの彼女ではハルペーもなく、徐々に押し込まれていき、一撃良いのをもらった後はすぐさま無力化されてしまった。

 

どうやら命は取らないようで、これならばと彼女も抵抗を緩める。そもそも敵は仏門の徒である、むやみな殺生をしない三蔵法師であれば大丈夫だ。

姉たちも正直やりすぎているし、この位で罰を受けるのもよいのではないかなぁ? 彼女の冷静な部分はそう判断した。

 

「あ、皆、やっと終わった? こっちもすばしっこくて大変だから、早く手伝って」

 

「全く魅了が効かないのはむかつくわね、私」

 

「そうね私、いまさら魅了がきくのが来てもね、駄銅角は負けたみたいだし」

 

シンドバッドは、三蔵の命令通り、飛び込んでいくも、わずか1秒足らずでエウリュアレの矢で貫かれ、魅了されてしまう。

 

「ぐぅ!!」

 

「あ、シンドバッド! 危ないブヒ!」

 

ダビデも同様に魅了されて動きが止まっているのを見るに仕方がないであろう。

 

だが、呂布がすさまじい勢いと圧力で突進するのを前に、もとより戦闘になれていない女神もとい、妖魔はそのプレッシャーと存在感に意識を割いてしまう。目にも留まらぬような速さで回り込んだ沙悟浄が、二人の首根っこをつかみ上げ、三蔵の前に放り投げた。

 

「みんな、ありがとう。よし、これで堪忍なさい」

 

そして最後は彼女のありがたい一撃で、この戦いは幕を閉じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先の戦闘が終わってしばらく。彼は確かに不調であったが、自分の力がほとんど通じなかったことでシンプルにへこんでいた。

 

いままで、数で押してくる敵は問題なく対処できており、この旅路においてもそれは同様だった。獣人を倒すことにかけては、かなり自信がある。沙悟浄の人にも褒められた。

 

だが、今のような強敵が相手だと、どうしても力不足というよりも、いつもと勝手が違う歯がゆさを感じていた。

 

それは致し方あるまい。彼の戦い方は、チーム戦を前提にここ最近組み立てられていた。周囲のサーヴァントの支援や妨害を受けながら、時間を稼ぐというのが本分であり、ここまで攻撃的なメンバーと肩を並べたことはほとんどなかったのだ。

 

「やあ、シンドバッド、どうしたんだい」

 

「だ八戒」

 

「どっちかに統一して呼んでくれないかい? いやまぁそんなことはどうでもいいか、うん今日もお師匠様は綺麗だねぇ」

 

説法をしている三蔵をみながら。いつもと変わらぬ様子で軽く絡みに来るダビデこと猪八戒。

シンドバッドもこの旅が始まり2週間弱ということもあり、おおよそのキャラクターはつかんでいたが、こうして声をかけることはあまりなかった。

 

「ほら、みてくれよ。この財宝。僕がちょっと転がしてやれば、ちょっとした財産になる。愛人の5人6人を囲えるだろうね。さすがにお師匠様の金を残してからだから全額はポケットに入らないけど」

 

「猪八戒は、楽しそうだな」

 

楽しげに、奪い取った財宝を整理しているダビデに対して、少し不思議そうにシンドバッドはそう尋ねる。彼とは以前海ばかりの島で話したことがあるから、多少気安かった。

 

「当たり前だろう? 僕は確かに王様だったが、でも羊飼いとしてのんびり暮らしながら、愛人に囲まれる方の生活だって嫌いじゃない。それの為には、まず楽しく生きなきゃいけない」

 

「楽しく生きる?」

 

「そうだ。君は既に僕より強いだろう? サーヴァントの身でこういうのもあれだが、巨人退治以外の戦闘では君に勝つのは難しいだろう。でも僕の方がたくさん楽しいことを知ってる」

 

かつて、決して仕える王に疎まれても、暗殺の機会があってもそれをしなかったが、決して優しい賢王とは言えないダビデは、ふざけたように軽く続ける。

 

「なにせ僕はブヒるからね、かなりブヒれるよ。お師匠様に、金銀銅角にと。このような配役ならば、この後も期待できそうブヒね」

 

「ブヒ?」

 

まるで訳が分からない言葉を話し始めたダビデに対してシンドバッドは、怪訝そうな顔で問いかける。それはキャスターからも聞いたことがない単語だった。

 

「かわいい女の子を愛でることさ。君だってしてるだろ?」

 

「してるな」

 

「君は本来、もっとガンガンほしいものを取りに行くタイプだと思ったけど、色々遠慮してるのかな? まぁ、妻700人に300人位愛人を作るのも大概だし、良いと思うけど」

 

部下の妻に手をだして、托卵を企み、上手く行かなかったので戦地に送り出して殺した王様は、賢しげに語る。

 

「人の人生は短い。愛人10人に一気に振られるやつだっているんだ。もっと、欲を出していかないと」

 

「欲を出す?」

 

シンドバッドは、その言葉を反芻するかのように自分の中で繰り返す。

欲しい物をほしいから求める。与えられるから受け取るのではない、自分でその対象を愛することの大事さを。

 

「ぶひる……女の子を侍らせて、好きなことをする!!」

 

「そうそう、シンプルに好きなことをすると良い。行動の良し悪しは後で『誰か』が決めてくれる……ところであれから、女の子は増えたかい?」

 

「ああ、ミストレスCっていう、怪盗? のサーヴァントが」

 

「女怪盗、それはいい響きだ、僕ならその言葉だけでブヒれるね」

 

そこまで言うとダビデは先達としての顔となり、少しだけ佇まいをただす。

 

「僕と君はたった2回会って、少し話しをしただけだっただけれど、今は旅の仲間。それなら僕は先達として、君に人生の楽しみ方を教えようじゃないか」

 

 

「まず、女の子は可能な限りかわいい娘を可能な限りたくさん……は師匠様の前ではまずいな。うん、寄ってきた女の子はみんなくらいにしておこう。それを大事にする。かわいい所はどんどんほめて、自分のものにする。」

 

「自分から、好きにして、自分の物にする!」

 

「そうだ! 他人の物でも遠慮しないで、欲しかったらガンガン行こう! 王様に選ばれたのでもなければ、欲望に忠実に生きなきゃ、若い処女と添い寝するとかね!」

 

老年になってから、寒くて寝れないからという理由で、アビジャグという美しい処女を裸にしてともに寝ていた男は言うことが違った!

 

「シュナミティズムだな!」

 

「君、変に難しいこと知ってるね」

 

「キャスターにこうはなるなって言われた」

 

シェヘラザードはその日に合った出来事で、話す内容をきめるのであった。シンドバッドは、そんな彼女の優しい声音を久しぶりに思い出せて、少し楽しく嬉しくなった。猪八戒の言う通り、たくさん言いたいこと、言ってあげたいこと、したいこと、してほしいことが出来たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃーてぇ! アタシが前旅した時には町とかあったのに、本当になんもないのね! 」

 

それはこの旅において、少々悩ましい所であった。

 

既に旅を始めて一月が経とうとしている。もとよりサーヴァントである身の者たちは問題はなく、乗馬に慣れている三蔵も、体力に自信があるシンドバッドも移動距離が長いことは気にはならないのだ。

 

それはそれとして、ずっと野宿というのは、なかなかに疲れるものだ。途中の町で食糧の補充などもできないのは、やはり厳しい物である。

 

なにせ、一切人が住んでる営みの様子がないのだから。

そう考えると、銅角が無事書蔵へとたどり着けたかは疑問が残るところである。

 

 

「だが、西遊記にしろ、その原点にしろ、立ち寄った街で三蔵法師が面倒ごとに絡まれる、または人助けに奔走するのは、お約束であろう。それがない分早く進めておる」

 

沙悟浄こと李書文は、冷静にそう返す。それは事実の一側面であった。幸い必要な旅糧は2人前であり、自然が多いここでは確保にあまり苦労もしない。

 

「ねぇ、李書文。それにお師匠さん。この旅路ってその時はどれくらいかかったんだい?」

 

ダビデ王のもっともな指摘に、自然に話として西遊記を知っている沙悟浄と体験しているはずの三蔵へと視線が集まる。

 

「ワシの知る限り、17年の物もあれば、10年の物もあるな」

 

「うーん、あんまり覚えてないのよね、そのへんふわふわしてて」

 

シンドバッドは、その言葉に思わず足を止める。

え、そんなにかかるのという感じだ。時間の感覚に無縁だった彼をして、ちょっと、それは困るという長さである。

 

「だが、それは立ち寄る国々で引き留められて、出国の許可を願い出るのに1月断食したりといったことや、ついてから各地を回り資料をまとめ、修行もしている。そんな時間等も含めてであるはずだからのう」

 

「そうね、移動だけならもう半分近くまで来ている……はず?」

 

シンドバッドは、人間が10年歩いてどれだけの距離をすすめるかの感覚や、地球の大きさもわかっていないので、本気で不安だったのだが、それが少しだけ今の言葉で落ち着いた。しかし、それでもまだ半分にたどり着いていないのである。

 

 

「お師さん、俺寂しい。みんなに会えなくてすごい寂しい」

 

「あわわ、シンドバッド、どうしたの!?」

 

「うーむ、これ完全にホームシックだね」

 

 

肉体こそ成人男性のそれだが、彼の精神性は正直かなり幼い。聞き分けこそいいものの、それでも今までずっと一緒だった自分のサーヴァントが傍らにいないというのは、強いストレスになっていた。

今までは環境の激変に適応する為に、全力であったが、余裕が出てきたのと、はっきり思ったことを口にするようになってきたことと、何より今の情報が重なり、情緒が溢れてしまったのだ。

 

三蔵はしばらく慌てて周りを見渡すも、弟子も馬も誰も助け船を出さない。まぁ、この中の全員子供ないし、養子はいたが、子育てに成功したかと言われれば、顔を背けるような者たちばかりだからである。

 

えぇ、私の人徳ってこんなはずじゃないのにと少しばかり凹みながら、泣いている弟子の前に立つ。子供のようにぼたぼたと涙を流している様子に、年齢と動作の差に違和感を覚えるも、彼女は意を決して、シンドバッドの前で大きく息を吸うと

 

「破ぁーーーーー!!」

 

大声をあげた。突然のことに驚いて目を丸くしている一行。当然シンドバッドもそのうちの一人だ。

 

「シンドバッド! アタシの今回の一番弟子! いいから聞きなさい! あなたは世界を救う旅をしているのでしょう!? なんでこんなところで挫けているのですか!? 」

 

それは、慰めではなく説法、というよりも説教だった。

 

「いい! アタシだって、一人でずっと旅してたら、そりゃ時々泣きたくなる時もある……かもしれません」

 

嘘である、この僧侶、一人になると心細くてギャン泣きする。

 

「だけど、その試練も修行なの、それを乗り越えて、立派な……そうあなたは立派なマスターになるんでしょ!」

 

「はいそうです」

 

「それなら、しゃんと背筋を伸ばしていきなさい。あなたの仲間に笑われないようにね!」

 

まだ、仏になっていない彼女は、シンドバッドにわかるレベルでの話となると、この程度しか言えない。

 

「少なくともこの旅では、アタシたちみんな仲間だし、楽しく旅ができているの。その今をより良い物にして、目の前の事からやっていきなさい。そして帰った時にいい話ができるように頑張りなさい! いいわね、師匠との約束」

 

だけれども、それでよいのだ。そのくらい簡単な方が心に響く者もいるのだから。

 

「わかった、ありがとう、おしさん」

 

 

シンドバッドはその言葉で改めて決意できた。そうだ、戻って報告して、それをほめてもらうまで、自分は頑張らないといけないのだ。なんとか立ち直った、様子を見た三蔵は満足げに頷くと、再び白竜の肩に飛び乗り、大きく前を指さす。

 

「それじゃあ気を取り直して、行くわよ! Go! WEST Go!!」

 

「Go! WEST Go!!!」

 

 

元気よく指差す三蔵の乗る呂布が歩き出すのに合わせて大声を上げる。それに続くように槍を担ぎなおして進む沙悟浄。

そしてシンドバッドは、袖で軽く涙を拭い、一度軽く顔を叩いて、一歩を踏み出そうとすると、歩き出す前に猪八戒に声をかけられる。

 

 

「まぁ、今度お師匠様の沐浴の時を楽しみにしよう。僕もさすがにバト・シェバでこりたから、見るだけだ」

 

シンドバッドはよくわからなかったら、そのまま頷くことだけにした。

なお、三蔵ちゃんの水浴びは袈裟だけを外して、そのまま入れるようになっているとのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐るべき紅孩児の攻撃を前に、シンドバッドはまたしても歯がゆい思いをしていた。

以前よりかは多少動けるようにはなった。しかし、それでも呂布のような力はないので、まともに切り結ぶことはできない。

 

しかし、こちらが与しやすいと判断したのか、突然勢いをつけて飛び込んでくる紅孩児を地面に踏ん張り腕を重ねてその重たい蹴りを受けきる。

多少後ろに押された物の、しっかりと勢いを殺せた。

 

そのまま反撃とばかりに、小さくステップを踏んで拳を放つ。それ自体は軽く躱されるものの、仕留めきれなかった代償を支払うかの如く、仲間たちの集中攻撃がたたきこまれる。

 

結局その攻撃が起点となり、戦いのペースは三蔵一行のものとなり、紅孩児はあっさりと敗れた。負けても多少残念そうにする程度で、自分の母親には気をつけろとだけ言って、父親に会いに行くと帰って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「やはり、筋は悪くない。基本はしっかりできているな」

 

「そうそう。というか、アタシは自分のやりやすいようにだいぶ変えちゃってるから、あんまり教えることはできないわよ」

 

 

道中、その日の寝る場所を見つければ、割と自由に過ごすことが多い。その中でも多いのが、このシンドバッドへの指導だった。

 

彼の武術は全く磨かれてはいないものの、ただただ原石を大きくし続けただけという所に近い。最近になって少し表面を研ぎ始めたものの、彼のスタイルにあった師がいなかったこともあり、どうしても伸び悩みがあった。

 

「カラリパヤットゥ、印度の武術だったな、まさか覚者も使っていたとは」

 

「んー私も教わったのは軽くで、あとは好きにやりなさいって感じだったから」

 

始まりすら、よくわかっていないほど古いカラリパヤットという武術、素手を中心とする少数派と、武器を使うことを前提とした多数派があるが、共通しているのは、暑い所の武術であるがために、鎧を着ないことを前提とした防御法である事だ。

 

体に油を塗り滑りをよくして、さらに傾斜と回転をつけて攻撃を受ける。高い柔軟性を体に持たせることがスタートであり、ヨガなども同じ源流に当たる。

それが発展していくことで、相手の動き心を感じ取り、合理的な動きで最小限の動きで相手の攻撃を逸らす。そういった武術である。

 

ある種近接かつ破壊力重視の八極拳とは対極なところもあるが、それでも李書文は、それなりに筋を見てやる程度には接していた。

 

少なくとも毎朝起きて戦型の稽古をして、夜寝る前にも動型の練習をして、道中の敵にも果敢に戦いに行く。それをサーヴァントでない身でやっているのだ。

先達として、彼の肩にかかっている重さを思えば、助言の一つするのが人情である。元来彼は合理的な考え方に基づいて動くが、人間的には決して悪ではないのだから。

 

「ずっと一人でその動きだけやってたのに、なんで防御の方が上手なのかしらね?」

 

「むしろ、防御の方だけやっていたからだろうな」

 

李書文はそう言うと、腰を軽く落とし槍ではなく拳を放つ。彼の強靭な体躯から繰り出される技は、晩年の恐るべき技の冴えではなく、荒々しい力に満ち溢れているが、それでも見事な一撃であった。

 

「今のは攻撃を全身ではなく腰より上だけで打ち込んだのだが、分かったか?」

 

「え、うん、もちろんわかったわ!」

 

「沙悟浄の足の踏ん張りが、いつもより緩かった。でもフェイントより重い?」

 

李書文は、師匠は兎も角、シンドバッドはしっかり見ていることを確認して続ける。

 

「どうやら、おぬしの攻撃は、常に全身を使っている。長い年月鍛えた柔らかい靭やかな体がそれを可能とするのだろうが、いかんせんその分なのか、細部ごとの鍛え方が足りていない」

 

「細部の鍛え方?」

 

それは中国武術六合大槍において、サーヴァントのランクでA+++というとんでもない評価の彼からすれば、実に初歩的なものであった。

要するに、全身を使った応用は非常に熟達しているが、個々の力の出力が足りていないのだ。

 

「全身を使った渾身の攻撃がどの姿勢でも出せる。確かにそれは有用であろうよ。だがそのためか、根本的な鍛え具合が足りていない。それでいて鍛え方も全身をまんべんなくと来ている」

 

そこまで言うと、先程の姿勢と似た構えを流れるように作る。

 

「先のように腕だけで仕留める。それができて、腕の力を全身で出すと」

 

同じような姿勢で、今度は宣言通り、踏み込みの衝撃をそのまま乗せて全身で一撃を打ち出す。

その拳は殆ど見えなかったが、風切りの音が明らかに違う。それは鈍く低い、音を超えた衝撃が周囲に響いた。

 

「こうなるわけだ」

 

「うんうん、そうよね、極めればこうなるものね」

 

三蔵は対抗するように掌底を素早く何度も前に突き出す。するとまるで手が複数あるかのように見え始める。これも御仏の加護のおかげである。恐らく。

 

「今全身で出せるものを、徐々に腰から下だけで、足だけでと基礎を上げていくのが良い」

 

晩年は近所の子供に武術を教える優しい老人であった彼は、若い頃は国に雇われ軍に訓練をつけるような人間だ、教えること自体はシンプルな以上に明確にわかりやすかった。

 

「八極拳の方であれば『多少』教えられるが、まあこれ以上は」

 

「いや、教えてほしい。強くなりたいんだ」

 

言葉にかぶせるように、まるで勢いをつけないと言えないのかと思うほどに、彼は強い決意と決心を持って口を開いた。

 

「『これ』はすごい大切だけど、これだけだと、そろそろ戦えなくなってきてるから」

 

シンドバッドにとって、名前も知らなかったこの武術は。生きる目的そのものであった。これを極めたいという気持ちは変わってない。それでも、彼にはその自分で完結させて高みへといく武術よりも、大切なものが、守りたいものが出来たのだから。

 

彼は静かにその場に膝をついて座り、深く頭を下げた。

 

「お願いします、稽古をつけて下さい」

 

「呵々、ならば、まずは石を割るところからだな、手刀で」

 

李書文は、あまりにもあっさりそう返す。まだ知らないようだが、なにせ彼には少しばかりの借りがあるのだから。

 

「あ、私もやってみたい!」

 

好奇心旺盛で向上心の塊のような三蔵は、なんかいい感じな光景の空気を読まずに入ってくる。二人はそれに苦笑を浮かべることもなく、向き直った。

 

「お師匠様は、掌で山を割れるであろうに。儂としては一手ご指導願いたいところなのだが、師匠であろう?」

 

「え!? いや私はほら、仏門での師匠であって、武術ではそのキャスターとかにきっとなるから!!」

 

ガチである、だが、キャスターだから肉弾戦で勝負しろという程だが。

 

こんな平和な道中で、シンドバッドは、今までの自分の目指した動きから一度遠ざかりつつも、その先を目指すことを始めたのである。

 

 

そう、彼はこの旅で、一人の男の子になっていくのだから。

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