[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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多くの方に読んでいただき誠にありがとうございます。
誤字脱字が多い拙作ですが、今後とも宜しくお願いいたします。



世は情け

地獄があるとしたら、きっとこんな光景なのであろう。

燃え盛る山というものを。シンドバッドは初めて見た。世界はまだまだ知らないことにあふれているのだと、改めて感動したのである。

 

現在火焔山を前にして足止めを食らう三蔵一行。絶対この山は面白いなどと言い出して一直線にこの山に来たものの、沙悟浄が芭蕉扇がいるのでは? と尋ねたが、功徳を積んでで火渡りがあるとの一点張り。

 

案の定、動けなくなり、呂布に助け出されたのであった。

なにせ、火渡りは炎への完全耐性であり、熱と煙に対しては効果がないものであったのだから。

 

 

「そもそも、お師匠様だけがいけたとして、僕らはどうなるのさ」

 

「2回目だからと言って、ずるをしてはならないということだ」

 

「■■■……!」

 

弟子と馬からはお小言を言われて、小さくなるものの、シンドバッドは背嚢にいれて担いでいた水を、金角と銀角から奪った絹の布にしみこませて、装飾のついた鋏と共に髪の毛を整えていく。チリチリになった髪の毛は見るに耐えなかったのである。

 

 

「あ、ありがとう、って妙に手馴れてるのね」

 

「練習した、髪を触ると喜んでくれるから」

 

「あ、修行の成果なのね、ならばよし」

 

 

しかしそんな一行の前に、突如高出力の魔力反応を伴った気配が勢いよく降り立った。

 

 

 

「玄奘三蔵嘆かわし、かつての清士の聖があたら卑しき凡俗女」

 

「な、なによ!」

 

「問答、終焉」

 

言いたいことだけを述べて、彼女は飛んで去って行ってしまった。斉天大聖と並び称される哪吒にとって、今の孫悟空のポジションのシンドバッドには興味もわかないようだ。

 

 

「イヤー全部持ってかれちゃったね。せっかくこの辺の妖魔が集めてた財宝も接収できたのに」

 

「というより儂らの物資事情が、妖魔が収奪したものだよりというのが、まぁ言わぬが花か」

 

だが、残されているものもあった。それはシンドバッドが、山の近くを跳んでるの見かけて嬉々として狩りに行った飛竜である。基本的に受動的に敵と戦っていた彼が、突然群れで飛んでいる竜に向かって駆け出して首を一撃で蹴り折ったのは、皆驚いていた。

 

 

「この山の炎で焼いておいたら、エコだよね」

 

「殺生の上に、お肉食べるのって……うーんでもワイバーンは動物に入る?」

 

「美味しいよ?」

 

シンドバッドはそう言いながら、綺麗に血抜きをして、ワイバーンを捌く。既に慣れた作業であり、食べて美味しかったところと、日持ちしやすい部分を邪魔にならない程度解体すると、棒に挿して火に近づける。立っているだけでも暑いためなのか、周囲に肉が焼けるいい匂いが漂う。

 

「うーん……一先ず芭蕉扇をもらいに羅刹女の所に行きましょう!」

 

一行は気を取り直して、羅刹女の住む向かうことになった。

 

 

 

 

自戒も込めてしばらく自力で歩きます。

 

そういった三蔵は、一行の一番前で旅慣れした小さく地面に足をするような歩き方で進んでいく。

 

そんな中シンドバッドは、久々に肩から人を下ろしている白竜に声をかける。

 

「白竜すげぇな、あんな火の中に普通に飛び込んでいけるんだもんな」

 

「■■■!」

 

「何言ってるかわからないけど、あの程度大したことないってことはわかるぞ」

 

シンドバッドは、何となくで感じ取った程度だが、そう言いながら小さく頷いた。そして呂布を見て改めて思う。

確かに白竜は、凄まじい強さで、戦闘においてはこの中できっと最強なのだろう。力に関しては正直まだまだ及ばないという認識がある。

 

それでも彼のように迷いなく炎に飛び込めるような思い切りの良さが、まだ足りていないかも知れないと彼は改めて感じたのだ。カルデアからすると、むしろ良すぎて困られているのだが。

 

 

「そうだよな、強いだけでもダメなんだよな、自分の力に自信をもって戦えないと」

 

「■■■■■■■■■!」

 

 

自分の行いが後世からどれだけ言われようとも、また主君をいつか裏切り、天下を狙うこの将軍は。自らの技に力に誇りを持たねば、何も始まらないことを明確に示しているのだ。なにせ彼が盟友と認めたのは、最も彼自身を有効かつ効率的に活用した軍師だった。

 

シンドバッドは呂布どころか三国志も知らない。だが、さすがに呂布が馬ではないことは知ってる。ダビデ王は昔の王様ということもあり、多分どこかの時代の人間なのだろう程度の理解だが。

 

 

「もっと強く! 魔術王なんてぶっ倒せるくらいにならなきゃな!」

 

「■■■■■■■■■────!」

 

それゆえにこの力強さに大きく憧れた、戦闘では最も高い膂力で敵を薙ぎ払い、何者も彼を止められない。そうはなれなくとも、そうなるために進み続けるのは大事なのだ。ローマで肩を並べた時はゆっくり見る余裕はなかったが、此の旅で見てきて格の差を感じている。

だが、それは膝を折る理由にはならない。

 

何を言ってるのかわからないが、まるで王をいつか殺すならば、それで良いと言うような、少し不安になるような感覚だけは残ったが。それでも自分の行く道の先に、呂布がいるのならば、そこまでは走れるということだ。

 

シンドバッドは決意を新たに、歩き出す。まずはお師さんに芭蕉扇って何かを聞きに行くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、シンドバッド大丈夫だから、これ食べてみなさい」

 

 

今日も今日とで、満天の星空を見ながら眠れる贅沢が彼らを待っていた。

既に太陽は彼らを軽く追い越し地平線の向こう側へ、周囲は暗くあたりを照らすのは月と焚き火のみだ。既に慣れてしまったシンドバッドは雨の日でなければ、どうにでもなるので、火をおこした後残り少なくなってきたワイバーンの肉を食べていた。

 

しかし、そこで三蔵が意を決したように彼の前に桃を差し出す。どうやら彼女的にはワイバーンというよりも、この旅で常に肉しか食していない彼に思う所はあったようで。

精神的に安定して来たタイミングを見計らって、改めて肉以外も食させることにしたのだ。

 

理想を言えば、肉を食さないことだが、それは流石に直ぐには難しいこともわかる。ならば、せめて肉以外も食べることがはじめの一歩だ。

 

「やだ」

 

「やだじゃないわ、今日のアタシは本気よ! いい、アナタがこれを食べるまでアタシは一切食事を取らないわ」

 

「それじゃあ、お師さん……お腹減るんじゃない?」

 

 

勢いよく宣言して、腰に手を当てて立っている彼女を前に、シンドバッドは不思議そうに見つめる。食べなかったらお腹が減って辛いのに、何で食べないのだろう? 素で疑問で全く彼にはわからなかったのだ。

 

 

「シンドバッド、玄奘三蔵は断食をして相手に要求を認めさせたこともある、恐らく死ぬまで食わないぞ」

 

「え? 何で? 辛いんじゃそれ?」

 

「んー、シンドバッドにわかりやすく言うと、そういう修行みたいな感じかな?」

 

全くわからなかったが、そういうことらしい。

いつの間にか直立を終えて目の前に座り込んで、桃の入った籠をこちらに差し出している三蔵を前にして、シンドバッドも悩む。

 

「お師さん、俺肉しか食えない」

 

「知ってるけど、だからといってそのままでいいわけではないわ。シンドバッドが色々考えて経験して悩んでその上で、肉しか食べないのならば、アタシも目をつむったかも知れない。でも今のあなたは唯の、そう食わず嫌いなのよ」

 

 

三蔵は、しっかりと分かるように目を見ながらゆっくりと伝える。彼の手を一瞬だけ見て、少しだけ言いよどむものの、主張を変えることはない。

 

シンドバッドは以前口にした時の吐き気を思い出して、気分が悪くなるものの、尊敬するお師さんの話はきちんと聞くシンドバッド。しかし、それに従えるかどうかはまた別の話である。

 

 

カルデアに来てからのことを思い出す。

 

 

キャスターは、いつも優しく教えてくれた。ダメなことをしたり間違っている時は、そうではないですよと。そんな彼女に食べ物のことを注意されたことはない。

マタ・ハリは、ご飯を食べる時にしっかりと綺麗に食べることを、美味しく食べることを教えてくれたけれど、好きなものを食べる事になにも言わなかった。きっと問題はないのだろう。

ミストレス・Cとは一緒にステーキを食べた。やっぱり牛には赤が合うのだと言いながらで、とくに何がダメとかそういう話はしていない。

 

食事に限らず今まで自分になにかしろと言ってきたのは、そうした方が良いからであり、彼もそういうものなんだと納得できたから従ってきた。なんか、こう白い髪の偉そうなオル……オルなんとかは命令ばっかだったけどいつの間にかいなくなってた。

 

だから、きっとこれは自分の為を思ってのことだろう。そしてその時に修業のような辛いことをしてまでそう言ってくるのならば、それはすごく大切なことなのだろう。

 

良いことをしてもらったらお礼を言わなくてはいけない。そう教わったシンドバッドは、お師さんもつらい思いをしているのならば、自分もしなくてはと、思う。

 

「ん……」

 

でも踏ん切りがつかなかったので、籠から桃を取るのではなく、三蔵が此方に差し出している桃に手ずからかぶりつくことにした。

 

 

────血の味だ。

 

怪我をした時に口に入るあの生臭くて苦い。どろっとした味だ。

 

────泥の味だ。

 

地面に倒れた時にする、あの悔しくて悲しくて辛い苦い味だ。

 

────肉の味だ。

 

悲鳴が聞こえる。止めてくれと。ちゃんと殺してから食べているのにそう聞こえる。

 

────それは、罪の味だ。

 

 

吐き気と気持ち悪さと、そして何よりも悲しい寒い。

そんな激情が身体の奥底からせりがってくる。気持ち悪い、吐き出したい。

 

でも、これは修行なのだから耐えなきゃいけない。

 

歯を食いしばって、1/4程かじり取った桃を無理矢理咀嚼する。その度に、苦くて臭くて悲しくて重い味が体中に回る。目の前がぐるぐると回って気がついたら、地面に膝をつけて四つん這いになっている。

 

それでも、これを吐き出すことだけはしない。

 

「ッグぅううううう!!」

 

 

少しだけでも、嚥下すると、即座に胃液と一緒に喉から戻ってくる。涙と鼻水が出てくるが、それでもこれは耐えなくちゃいけない。だってお師さんが自分のためにくれたものだから。

 

それでも限界は来る。もうだめだ吐き出して楽になりたいと思った時、ふと顔を優しいものが包み込んだ。

 

「ほら、あとちょっと、頑張りなさい、全部飲みこんじゃって!」

 

三蔵は籠をいつの間にか避けて、シンドバッドの顔を胸元に抱え込んでいた。いま、シンドバッドが諦めれば、こんなに綺麗な人を自分なんかで汚してしまうことになる。

 

 

それだけは、絶対にできないことだ。

 

シンドバッドが最初に教えられたこと、それは女の子には優しくするだったのだから。

 

 

彼は意識がしっかりするように、自分の内頬を噛みしめる。皮が剥がれたのか肉がそげたのか、血の味がする。だがそれが何だというのだ。無理矢理口の中のものを飲み込んで。右手で自分の喉を思いきり掴み上がってこないように押さえつける。

 

呼吸も出来ないし苦しくなるが、この苦しみはもう慣れている。まるで体の中がひっくり返ったかのように蠢いているのがわかるが、段々と薄れる意識とともに、それも落ち着いてくる。

 

そして、吐き気の波も収まり、右手を離した所で、三蔵も彼を抱えるのを止めて、一歩後ろに下がる。

そしてその掌で、優しく彼の頭を撫でる。

 

 

「お師さん、俺はもう! 絶対に! 人の肉を食わない!」

 

涙ながらに彼はそう叫んだ。

 

 

「人は食べ物じゃない。だから『肉を食べる』以外も食べる!!」

 

 

 

 

 

それは、彼なりのごめんなさいであった。

 

今まで無数の人間や人間のなりそこない、ホムンクルスの命を奪って、そして彼はそれを零さないように、それらすべてを背負って走ってきた。

あの日、山の中で初めて会話ができる少女とあって、冷たくなった彼女の肉を一口だけ貪った時に決めたのだ。もうこれをやめてはいけないのだと。

 

こんな事をしても生き抜くのだから、こんなことしか出来ない人間だけど、こんなにも凄いことができる人間である必要があるのだと。

 

 

 

同じ所に在ったアステリオスは、罰を受けることで自分を一度終わらせた。でも彼が生前に子供を食ったことは変わらない。しかし、自分が自分を許せない限り、それでも彼は前を見ていける。

 

 

その時は不快だった。なんで全てを投げ出して楽になるように辛い罰を受ける。でも、そうじゃないのだ。結局これは自分が自分を許せるかどうかだったのだ。ならば、シンドバッドももう少しだけ頑張ろうと思った。

 

これからやることはきっとつらいのだろう。自分は自分が奪った命だけを食べて強くなった。その為に肉しか食べれなかった。

 

何でも食べられるのならば、あの死にそうな人たちをもっといい終わり方にしてあげられた。自分はきのこだって、木の実だって、木の皮だってなんでもあった。山には食べるものが無いわけではなかった。

 

でも自分が食べたいから食べて、それ以降肉しか食べなかった。それは彼なりの決意だったのだ。

 

自分の味わうのは、誰かの肉だけ。肉しか食べないろくでなしの前に、偶々その誰かに目の前のやつがなっただけ。食べられた人は仕方がなかった。決して良いものを食べたいから食べたんじゃない。それしか食べれないから食べられてしまった。

 

言う成れば彼は、今までただ『捕食』していただけ。そういう言い訳をしていたのだ。

 

つまりはそんな自分を騙すような、ちっぽけな誓いだったのだ。

だからこそ、彼は自分が生きるために、自分という存在を縮めて生きてきていた。

 

 

「キャスターに! お師さんに、皆に! 俺は誓う。たくさん食べて、俺はもっと強くなる」

 

 

だからこそ、今あらためて誓うのだ。皆が、いつも優しくしてくれる、大好きなみんながいないからわかった。

俺はまだ頑張れることがある。

 

ただただ、お肉ばかり食べていた子供が、嫌いなものを食べるのではない。

嫌いなものを仕方なく食べるのではなく、好きなものだと良いものを食べるのだ。

 

食べちゃいけないものは、もう食べないけれど。

そんな子供でもできる約束を彼は、大泣きしながら誓ったのだ。

 

 

シンドバッドは目の前にあるよくわからない桃だけではない、リツカも食べていた米というものでつくった粥という物も食べた。味は全然しなかったけれど、それでもそれは、彼が初めて取る『食事』だった。

 

 

「うん、うん! えらいわ! シンドバッド。それでこそアタシの今回の一番弟子ね!」

 

その声を受けながら、涙を流すほど辛い食事を彼は必死にこなしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羅刹女からエクスカリ芭蕉扇を借り受け、山を登り、雲を抜けそれでも一行は西へと進んでいった。

シンドバッドは、より積極的に色々なものに興味を示して、まるで初めて旅をするかのようにメチャクチャな体力ではしゃいでいた。

 

そのためか、しばしば三蔵より怒られて、少し気の強い女性と戦ったりしてより女性に強く出れなくなってしまったが、それ以上に彼はこの試練の旅が楽しくてしょうがなかった。

なによりも、此の旅で思ったことを、お師さんやキャスターたちに話すことがとても楽しく、楽しみであった。

 

 

しかし、その旅もついに魔雲洞までたどり着いた。

 

ここは、西遊記において最後の関門であることが多い牛魔王の居城。この場を抜ければ後はただ進むだけで旅が終わるのだ。

 

そこで明かされたのは、この空間の真実。三蔵法師という偉大な人物と、成仏得脱して旃檀功徳となった存在の価値観の相違。人の歴史のうねりに過ぎないとする後者と、人として力になりたいと思う前者。

その鬩ぎ合いがおこした異常空間であり、改めて自分を見つめ直すために、記憶を経典に封じ込め旅路にばらまいた。この魔雲洞までくれば、全ての経典があつまり、彼女はこの空間の意味を思い出す。

 

彼女の旅はこの場で終わり、ただ終わりゆく人の世をみるだけの仏に戻るのだ。

 

 

「うるせぇ! 牛魔王!! お師さんは俺達と行くんだ! 」

 

そんな事は全くわからなかったシンドバッド。それでも目の前の乳はデカイが悪い女が悪者であることはしっかり認識していた。だからこそ、お前たちはこのまま先に進めば元のカルデアに戻れるという話などなんの意味も無かった。

 

「ほう、人類に残された二人のマスターの片割れは、話がわからないようだな」

 

「全くわかんねぇ! でも、お師さんが此処で止まるわけない! お師さんはずっと旅をして頑張ってきた人だから、仏とかよくわからないけど、ここで俺達を見捨ててさよならする人じゃない!!」

 

 

シンドバッドは知らない。彼女は確かにこの後天竺で編纂した内容と、多くの功績から死後に仏になるのだ。それはもう、人とは価値観が違う存在なのだ。だが、彼が旅してきたのは、人としての彼女の心残りである。

 

 

「兄弟子ばかりに良いところをみせられないブヒね」

 

「然り、平天大聖牛魔王に挑む一番槍は、儂の物よ!」

 

「■■■■■■■■■────!」

 

 

故に、彼女はこの場で止まることはない。

 

 

「そうよ! アタシ達は絶対天竺まで行くの! Go! West!」

 

「Go! West!」

 

人としてこの夢うつつのような場所で出会った仲間たちと、最後まで。それは少なくとも今まで歩いてきた彼女の嘘偽りのない、人としての心なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

牛魔王を薙ぎ払い、西から南に進路を変えて暫く。長い長いこの旅路も終わりが近づいていた。空気の匂い、風の気配。それがここがもうすぐ別の国だということを感じさせる。今まで通った川とは違う、別の流れをくむ河の匂いそれが、彼らに届いているのだから。

 

「お師さん、天竺ってどんなところなんだ?」

 

「ん~そうね、アタシも別に観光とかをしたわけじゃないから、詳しくはないけど、そうね、皆必死に毎日を生きてる場所。かしら」

 

 

三蔵法師がたどり着いたときには、既に仏の教えは衰退を始めていた。それはこの過酷な土地に根付く宗教観が、より土地にあったものになっていったからでもある。それでも人の営みは変わらず。平和な街では笑顔が溢れ、目抜き通りもあれば人は賑わっている。

 

 

「俺、たぶん、その天竺? インド? って所で生まれたみたいなんだ」

 

「え!? そうなの!? てっきり絹之路のその先の人かと思ってたわ」

 

 

にこやかに話す話題が、何時もと同じなのは、別れが近いことがわかっているからなのか。そんなことなど考えずに一行の脚はついにガンジス川までたどり着く。

 

そこには2人の男が立っていた。沙悟浄はその知った顔と気配から、白竜はただ単純に敵だからとすぐに構えを取る。それを軽く手で制して三蔵は白竜より飛び降りて弟子たちに振り向く。

 

 

「たぶん、ここが旅の終わり。だってこの先に行くのは旅ではないから。目の前にいるのはきっとその『旅』が終わる事に対する私の恐怖の現われよ」

 

記憶を取り戻した彼女にはわかるのだ。此処が終着であり、この恐怖というのは、仏ではなく人として人類のために戦うという、今までの旅路を終えて進むことになるためのものである。だからこそ、彼女は晴れやかに笑った。

 

 

「私は、ちょっと頼りないところもある師匠だったし、こんなめちゃくちゃな弟子たちとの旅だったけど楽しかった。こんな感じの旅であるなら、新しい旅も楽しみになるほどにね! だから、目の前の恐怖なんてあんまりないわ!!」

 

 

徳の高い法師様でも、仏としての言葉でもない。只々彼女の思ったままの言葉だったが、弟子たちにはしっかり伝わった。

 

 

「んー僕としてはありがたいね、本来の力で振るわれたら勝ち目が薄そうだ」

 

「それでも挑むべき絶技はあるのであろう、本当血湧き肉躍る旅だった!」

 

「■■■■■■■■■────!」

 

 

シンドバッドは、少しばかり喉の下に不思議な痛みを感じながら、笑顔で拳を開いて半身で構える。

 

 

「お師さんの背中は俺が守るよ!」

 

「それじゃあ、皆。最後の戦いよ!」

 

 

そして、カルナとアルジュナの姿を形どった恐怖との戦いは始まる。

 

 

 

 

 

羽が生えたかのように飛び込んでくるカルナの槍を、沙悟浄の神槍は過不足なく受け、そして弾いていた。すかさず猪八戒の無数の投石が動き出しを抑え、歪な1VS2で場が膠着する。沙悟浄の負担が大きいが文句はいってられないであろう。

カルナを支援するかのようにアルジュナの弓から青白い光とともに矢が放たれるものの、白馬はそれを切り払いながら駆け抜ける。

 

 

しかし、相手は機械ではない。強力な弟子と騎乗馬がいなくなれば、倒すべき首級の守りが薄くなる。アルジュナは息を吸うように狙いを変えて、此方へと駆け寄ってくる三蔵法師と、シンドバッドへ狙いを定める。

 

「」

 

言葉を発することなく、またたく間に3射が放たれる。それは確実に人間を死に至らしめる威力をそして速度を持って突き進み、真っ直ぐ2人へと迫る。

 

「下段!」

 

刹那の一射目を彼は掌底を下方に打ち込み逸らす。それは驚くべき動きであったが、それでもタイミングと速度が合えば、十分にできるものであり、それだけの力を使えば残りには対処できるはずがない。

 

「上段!!」

 

しかし、シンドバッドは間に合わせてみせた。下に伸ばした腕の動きをそのまま肩と背中を用いて身体全身に伝え、逆の手を上向きに打ち出させたのだ。それは教わった冲捶を無理矢理に今の彼の身体で打ち出した一撃だ。

 

「もう一発!!」

 

それは即ち、その次に出るは当然肘打ちである。獰猛な虎の爪ような一撃を、彼は人に撃つわけではないので、渾身を込めた全力で叩き込んだ。

その結果、魔力で編まれた攻撃を彼はしっかりと受け、そしてその勢い任せの一撃で掌握した。

そう、彼の宝具『共喰う簒奪者』の能力により、彼が打ち下ろした授かりの英雄が放った矢の勢いを奪い、自分の物にすることで、衝撃も威力も相殺しきったのだ。

 

 

そして彼の作った3射という僅かな時間は、白竜がすべてを決するのに十分だった。既に駆け出していた勢いそのままに、一撃を放ちその芯を捉えた一振りで一刀両断にアルジュナを切り捨てる。

 

そして、三蔵もその隙に読経が終わったのか、薄く開いた目で、カルナを睥睨すると、大きく声を上げる。

 

 

「五行山! 釈迦如来掌!! 」

 

それは、シンドバッドと三蔵が出会った場所であり、借り受けた釈迦の力を十全以上に発した掌を避けようとするカルナ。しかし、目線を外した瞬間、彼の胸を肘打ちと槍が貫き完全に動きが止まってしまう。

 

その迫る掌を前にに彼は小さく笑って消滅するのであった。

 

 

あまりにもあっけない、一瞬での決着。

 

それは当然である、今の彼女には恐怖は殆どない。

あるのは始まるかも知れない、何時か何処かの旅への楽しみだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダビデ、李書文、呂布の3人が金色の粒子となりガンジス川のほとりに溶けていった。

この場に残るのは、此の旅を始めた二人だけ。

 

「お師さん、ありがとう。皆にも言ったけど、俺凄いたくさん色んなことが出来た! 」

 

シンドバッドは、此の旅で不安に押しつぶされそうだった彼はもう、いない。

此処にいるのは、三蔵法師の新しい一番弟子として千里を旅した男だ。弟弟子から多くのことを学び、旅を通して多くの出来事を学び、師によって外れていた人の道から少しばかり内側に戻ってこれた。そんな一人の男だった。

 

 

「シンドバッド、あなたはかなり手のかかる弟子でした。人間なのに人を食べるわ、殺生を好むわ、色欲にまみれているわと。枚挙に暇がないほどに」

 

そこで三蔵は厳しい言葉と裏腹に、優しい微笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「でも、何時も誰よりも頑張っていました。そのひたむきに努力して、楽しく色んな事に挑戦する姿は、この旅を楽しくしてくれました。これ以降も頑張るように、あと奥さんを大切にね?」

 

そう、シンドバッドは足りない部分は多かった。それでも生きている人間だった。

小さな事にも驚いては周囲に尋ね、決めたことをやるためにひたむきに努力して、何よりも周囲から多くのことを学ぶ勤勉さがあった。進む方向がひねくれていたが、それを正してしまえばきっと大丈夫だ。支える人も居るようだし。

 

そろそろ時間切れかなと、二人は同時に思う。

何となく、この世界が端から無くなっているような気がするのだ。きっと超えてきた山の向こうには『もうなにもない』のだろう。

 

 

「お師さん、ついてきてくれないのか?」

 

それは、いかな彼でも無理であることはわかっていた。それはなにか違うことなのだというのはしっかりと理解は出来ていた。それでも言葉が、少しだけ歪んで胸から漏れてしまった。

 

三蔵は一瞬だけ目を大きく開いて、驚いた顔をしたが、直ぐにアルカイックな微笑みを浮かべて優しく諭す。

 

 

「ゴメンね、アタシはやっぱり仏門の身だから────」

 

 

それは彼女が、説法を生業にしている彼女が、考えないでただそう半ば無意識に近い形で答えた言葉だった。弟子に伝えるには、そんな言い方が良いのであろうと、どこかで判断したかも知れない。

 

 

「────でも、もしどこかで人の私が召喚されたら、絶対力になるから、それは忘れないでね!」

 

だから、此方が正しい返答だったのであろう。

 

 

それは最後まで二人共気づかないままだった。

それはきっとどこかの作家に言わせれば悲劇で、どこかの文豪に言わせれば喜劇なのであろう。だが、これは唯の旅絵巻だったのだ。

 

 

「うん、お師さんありがとう。俺忘れないから。また修行つけて」

 

「もちろん!! 一番弟子に恥じない成長がないなら、スペシャルコースになるからね! だから」

 

 

既に足元は消えているシンドバッドに向けて三蔵は言う。

師匠として頑張った弟子に与えるべき褒美を。

 

この旅路で自分のみを守った弟子たちへのお礼をまとめてシンドバッドに授けてしまおう。生きているのは彼だけだ、きっと皆文句は言わない。

 

 

 

 

 

「貴方に『御仏(アタシ)の加護』を!」

 

 

 

 

その言葉を最後にシンドバッドはこの場から消えた。無事にカルデアへと彼の意識が戻っていったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで彼の旅はおしまい。

旅路で得たものは沢山ありそれは得難い経験となって彼の力になるのであろう。

 

 

だが、本人と対象を含めて誰にも気づかれずに終わった、一つの初恋があった。

男はその思いの名前も表し方も知らず、女性は向けられたことを知らぬまま拒んだ。

 

 

二人の因果はそういう形で終わったのだ。しかし、双方とも良い別れと言える。

それがなによりも二人にとって1番の終わり方であったのだ。

 

 






星の三蔵ちゃん終了。

チャート作成段階で、シンドバッドのキャラクターに必要な環境、人、物。
すべてが揃ってる事に気づき、このようなルートになりました。
彼というキャラクターの掘り下げもほぼ終わったと言えます。

これにて、お話も折り返しを過ぎました。
今後ともお付き合い下さいませ。

感想・批評・評価 全てお待ちしてます。

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