[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
書き分けが出来ない筆力のマスターですまない……マタ・ハリと本当にわからなくなるくせに絡みが多いのです。
違和感があったら言って下さい。
ロンドンの特異点にて、カルデアはついに自身をこの人理焼却の実行者であると宣言する存在。魔術王ソロモンに出会った。自身の名前を呼んだだけで呪詛を掛けることができるような、超級の存在に『視られて』しまったマスター2名は、レイシフトから戻って直ぐに意識を失った。
彼らはまるで意識だけがどこかで戦っているかのように高熱に魘される1週間だったが、無事両名とも帰還した。その間のカルデアの空気は筆舌にし難い。
サーヴァントと医療スタッフのみが面会できる状況にしたくらいだ。数十名しかいないカルデアで。
帰還したマスターは揃って、サーヴァントがいない状況にされて、現地で出会った者たちと協力してきた。という。唯の夢ではなく、この人理焼却という不安定な状況だ、何があってもかしくはない。
過酷さで言えば立香の方がひどい環境だったようだ。しかしシンドバッドは時間がどう考えても10倍以上のズレが生じている。1日遅れて意識を取り戻した為、昨日終えた立香の検査の次に、本日は昨日帰還したシンドバッドの検査と問診であった。
「約束通り11時に来てくれたね」
「ああ、ロマン。時間は守らないと」
こんな簡単なやり取りだが、ロマニは内心舌を巻いていた。明らかに会話の知性が増しているのだ。動きも粗野であった所の多くはそのままだが、やはり少しばかり落ち着いて観える。
まるで子供が成長していったような変化であり、彼の申告は間違いではないのであろう。時間を守るというか、時計という概念に無頓着だった彼だ。
「君一人なのは珍しいね。別に一緒でも良かったんだよ。というか、シェヘラザードがいなくて大丈夫かい?」
「皆まだ寝てるから。疲れてるから、大丈夫だ」
「そうかい、それじゃあ始めようか」
しっかりと此方の目を見ることは変わらずだが、シンドバッドの目には、相手の話を聞こうとするだけではなく、傾聴というのだろうか、しっかりと相手を尊重して、理解しようとする姿勢が見え、本当に変わったとロマニは改めて、少しだけ笑みを浮かべる。
「君はロンドンから戻ってきた後、サーヴァントはいない状態で、現地の問題を解決してきた、違いないね?」
「ああ、気がついたら岩の下にいて、お師さんに助けてもらった。ごぎょうさんって所だった筈。その後は、ダビデ、沙悟浄、白竜とお師さんで、天竺っていうインドに旅をした。ずーっと歩いた旅で、色んな敵を倒しながら、多分100日くらい旅した」
やや主観的ではあるが、固有名詞をしっかり出しながら説明をしているシンドバッド。軽くメモを取りながらロマニは内容を噛み砕くためにいくつか問答をしていく。
「それじゃあ、質問だけど────」
恐らく昨日帰還した後に、サーヴァントと話したのであろう。謎のヒロインXオルタより報告のあった文書データはまだ目を通せていないものの、報告によると彼らの旅路がまとめられたもののようだ。それをベースに主にシェヘラザードとどのように説明するかを整理したのであろう。わかり易い説明で、なおかつ妙な所が細かい数字が出てくる。
ロマニは、若干覚える頭痛を無視しながら、シンドバッドの体験を聞き出すことをなんとかやり終えた。
「なるほど、君が斉天大聖の役回りで、西遊記を再現して、三蔵法師の人と仏の側面の折り合いをつける旅だったんだね。うーん、呪詛要素がまったくないな。案外どっかの誰かの善意での行いだったのかもね」
「非常に、感謝を皆にしている。もちろんロマニにも。沢山勉強できた良い旅だったから」
「無理に難しい言葉を使わなくて良いよ、でもそっか。いい旅だったんだね」
報告書の草案位はできたので、後はいつか時間が出来た時にまとめるとして、診察に入る。此方が問題なのだ。シンドバッドは、現地で3ヶ月程過ごしたという。その間多少の傷は負ったし、訓練をして中国武術の動きも身につけたという。そうでなくとも数千キロ単位の長旅だ。筋肉の付き方は当然のように変わっているであろう。
しかしながら、先程試しに習った型稽古をしてもらった所、違和感なく体が動くとのことで、それはつまりその旅での時間のズレた経験がフィードバックされていることになる。
「……アンダーウェアの下、大分侵食が進んでるね」
「ああ、皆も心配そうだった」
シンドバッドの身体は魔力で編まれた肉体にどんどん近づいている。竜に関しては装備している礼装のおかげでだいぶ軽減されているが、その影響なのか。アンダーウェアに面している皮膚は硬質化が始まっており、鱗のように冷たくなりかけている。
「バイタル自体は怖いくらいに正常だ。数値的にも健康ではある、過ぎるくらいにね。ただ……来年の今頃には、既に君はもう人間ではない、ナニカになっているだろう」
「うん。でもまだこのグランドオーダーは最後までできる? 大丈夫なはずだ」
「ああ、多少想定より進んでるけど、言いつけ通り殆どワイバーンしか魔力を経口摂取してないんだね。そこは保証しよう」
シンドバッドは、少しだけ安心したかのように肩の力を抜いた。彼はこの旅路で急速な成長を様々な面で遂げた。だからこそ、途中で終わるのは、自分の力不足以外は認めたくなかったのだ。
「お師さんに言われたんだ。俺は、目的を目的にしてるって。ずっと考えた。人理修復をするために、人理修復をしてるって」
「どういう意味だい?」
「ロマン、俺は悪いことをして生きてた。だからその分善いことをしようと思って人理修復を頑張ってた。でもそれじゃダメ、修行になってないって言われた」
難しい言い回しであるが、シンドバッドの中で明確な概念の言語化が出来ていないだけで、確信のようなものはあるのか、淀みなく彼は続ける。
「俺は、シェヘラザードと、マタ・ハリと、ミストレス・Cの為に、立香とマシュの為に、ロマンやダ・ヴィンチちゃんカルデアの皆の為に戦いたい。そう思ってるってわかったから、俺は戦うんだ」
目的の再定義化。人理修復のモチベーションが、人理修復をすることそのものになっていた彼は、天竺までの旅で大きくスタンスを変えていた。これまでの山を出てから出会った沢山の人達、自分はもうそんなに長くないけど、皆がそれを望んでいるのならば、喜んでくれるのならば、そのために自分は戦いたい。
自己犠牲でも自己満足でもない。皆が大切に思ってくれて、自分も大切だとわかったから、皆のために戦いたいのだ。
彼は仲間意識というべきもの、それにようやっと気づいたのだ。
「そっか、そうだね。うん、良いんじゃないかな」
ロマニは今度こそ、本心からシンドバッドに向けて称賛を送る。彼は半生の過ちから目をそらさずに、抱え込まずに、昇華してしまったのだ。ならば言うべきことはそれだけであった。
「ともかく、体のことや生活の事。なんでも困ったことがあったら言ってくれ。欲しい物でもかまわない。僕たちはそのために居るんだからね」
そう、バックアップのスタッフのトップとして締めくくると、シンドバッドは意外にも手を上げて主張してきた。
「ロマン俺欲しい物がある、相談したいことも」
「何だい?」
まずは自分のサーヴァントに尋ねる、頼むという癖がついている彼に限ってないであろうと思って告げた言葉だったのだが、別に社交辞令で言ったわけでもないので、素直に返す。
「大きいベッドが欲しい」
「あー……うん、シングルサイズしか備品はないから、空き部屋のベッドをもう1つあげよう、くっつけてくれ」
深くは聞くまい。ロマンはそう判断して、事務的にそう応えた。物はあるし使ってもないのだ。シンドバッドは身体が大きいから1つだと小さいのだろう。
「ありがとう。やっぱり聞いた通りロマンはいい答えをくれる。相談もいい?」
「ああ、聞くよ」
「たくさんの妻と愛人と上手くやるにはどうすればいい? やっぱり、空飛ぶ絨毯でデートをするのが良いのか?」
「……猪八戒から聞くように言われたのかい?」
「うん。すごいなロマン、そこまでわかるなんて」
ロマニは、何とか笑みを浮かべながら、無難な答えを返すのだった。アラサーのワーカーホリックの男性でしかない彼は、深く込み入った話はできないので当然である。
「あら、起きたの? 貴方が最後よシェヘラザード」
同時刻……より少しばかり前のシンドバッドの部屋。そこにはまるで部屋の主かのようにソファーに座りコーヒーを飲んでいるミストレス・Cがいた。シェヘラザードは何故自分が自室にいないかを思い出そうとして
「貴方もシャワー入ったら? ……その肌だから、余計凄いことになってるわよ」
「……はい、失礼して」
別に一度霊体化して戻れば良いだけなのだが、こういうのは気分の問題である。シャワーからちょうど出てきたマタ・ハリと入れ替わるように彼女も身体を清めるのであった。
「はい、シェヘラザード、ミストレス・Cが入れたインスタントコーヒーよ」
「ありがとうございます。改めておはようございます」
3人は改めてテーブルについて一服していた。彼女たちの視点では8日間昏睡状態にあったマスターの意識が戻った日、それはとてもめでたいことで喜ぶべきことだった。
「なんか変な感じだわ、そう思わない? 二人共」
「そう? わたしはいつものようにクールでエレガント、昼前のブレイク中よ」
「私は、変な気がします。朝と言うには遅いですが、起きてこの部屋で顔を合わせるのは初めてですから」
多少の報告や顔合わせの業務を終えたマスターは、再会を喜ぶか如く部屋に戻ると彼女たちをまとめて強く抱きしめて、溢れんばかりのお礼と親愛を示す言葉を降らせた。
最後の方は涙ぐんでいた様子だったが、正直力が強すぎて真ん中にいたシェヘラザードは死にそうになっていた。
「ああ、そういう事。わたしはロンドンに行く前だけだからかしらね?」
「何時もはちゃんと淑女らしく部屋に戻るじゃない?」
「ハレムでも部屋に呼ばれた場合は、自分の閨に戻りますし」
その後落ち着いたのか、えっちゃんから貰った竹簡をシェヘラザードが読みながら、マスターの大冒険の話をゆっくりと語った。語り手が読み上げるのだが、初見の話であり状況の再現はマスター自ら身振り手振りを交えての話だった。ベトナムのあたりから、山を抜け荒野を抜け、最終的にはインドまで。
3人の感覚や時代感は大きくずれがあるが、それでも共通してまともな人間が行う距離の旅程ではないことははっきりわかるものだった。
「……しょうがないわよね、すごかったもの」
「久しぶりだったから、ですよね……?」
「どうかしら、朝にわたしだけが少し起きれたけど、マスターは全然元気に出ていったわよ」
出会いや別れなどはあまりない人がいない世界の旅だったが、そんな中でも彼は多くのことを学び、成長し、克服し。なによりも得難い良い経験を終えて帰ってきた。
サーヴァントとしてとても誇らしく、そんな変わった彼が、変わらずに、いや今まで以上に自分たちに好意を示してきたことが掛け値なしに嬉しい出来事だった。
「……順番制にするのはやめましょう、死んでしまいます」
「賛成。激しいんじゃなくて優しいのがずっと続くのは、ヘンになっちゃうわ」
「わたしも賛成よ。一人では持ち帰ることが出来ない獲物ですもの」
彼女たちは、新たな協定を結び一先ず夜の事に関する反省を終える。なに、特異点に行くまでの辛抱だ。
「それでですが……マスターはどうなのでしょうか? ミストレス・C」
「ええ、私も気になります。これが貴方の知ってることなのかしら?」
表情を、困惑半分、嬉しさ半分のそれからマジメなものに戻したシェヘラザードはそう口火を切った。彼女たちにとっていちばん大事なこと、それはシンドバッドの行末だ。
「わたしも全部をみてるわけじゃないの。だから確実な事は言えないわ。でも、こんなことはなかった……はずよ」
ミストレス・Cは印象深い記憶を除いては持ち越せていない。あるのはただ1番持っていこうとしたシンドバッドの敗因と、偽りの無い自分の気持ちだけなのだから。
そしてその中で彼が天竺までの旅をしたという記憶は多分ない。確実とは言えないもののないような気がする。ないんじゃないのかしら、ええ、きっと無いわ! 無いはずよ! このわたしがそんな間違えるはずないじゃない。
「大事なのは、昨日わかったじゃない。もうマスターは人理修復を目的としてない、皆で生き抜くことを目的にしてる」
「この戦いの間、私達と生きる事。そのために戦うんだって言ったわね」
「改めて結婚の約束までしましたね」
そう、ある意味でミストレス・Cの目的は達成できているのだ。既にシンドバッドは、自分の生きる肯定感を得るために戦う事はない。守るべき物の為に戦うことを決意したのだから。
彼はもう、空虚な器が無限に自己肯定感を求めるが故に、女の悦楽のために溺れに行くことはない。
生物が生きるのは本質的には自分のためだ。人間もそれは同じ。だが、他の存在の為に生きるという側面があることを理解して、それも支柱にするというのは、人間の特性だ。
シンドバッドには今まで無かったものだ、彼は自己完結をやめ、周囲と周囲のために向き合おうとしたのだ。
「それじゃあ、一安心ってことにしましょう。正直私もこれで、あっさり他の女に全部持っていかれるのは受け入れきれないわ」
「はい、閨に来ないことが悲しくなる王は初めてですが、同感です」
「わたしも何か思い出したら言うわ」
きっと良い経験をしたのだろう、武術もその手のサーヴァントに筋を視てもらったとのことで、戦闘力もあがり、いよいよマスターのカテゴリーが疑問視されるようになってきた。
「桃、食べてたわよね」
「もう人は食わないから、肉以外も食べるって言ってたわね」
「ウミガメのスープを飲めるようになったのは、とても良いことです」
由来と原因の根が深すぎる為、あまり強く言えずにしていた治すべき好き嫌い……というよりも信条と心理的外傷後ストレス性障害が克服できたのはとても良いことだ。
「周りに優しく、礼儀正しくしながら、我慢もできるようになってました」
「自分で考えて、先のことを想定して動く知恵もついたみたいね」
「格好良い台詞をいいながら、庇ったりしてたわよね。わたしまだそういうのないんだけど?」
子供っぽかった情緒はそのままに、礼節を多少知るようになった。それも素晴らしいことである。
マスターの成長はサーヴァントとして非常に喜ばしい出来事なのである。
「気が付かないうちに子供が成長してしまった感じって、こういうのなのかしらね……」
「ええ、なんというかあんなに何でも私に聞いてきたマスターが、いきなり星見の話ができるようになってるのは、すこしショックです」
「わたしなんか、過ごした時間ですら負けているのよ!!」
しかしながら感情は別のものである。マスターが成長する下地はこの3人(概ねは二人だが)でつくってきた。人間性も社交性もだ。少しずつ少しずつ導いてきて、そろそろ応用編に移ろうとしたら、殆ど完成形が見える状態になって戻ってきたのだ。
可愛がってて此方にも懐いている飼い猫が、近所の人にはもっとべったりだったような。そんな得も言えぬ喪失感と敗北感があった。
昨日に旅の内容を話してる途中からあったのだが、合間合間で取ってくるスキンシップと口説き文句で流されていたし、その後は深く考える余裕など無いほど激しいものだった。
純粋な戦闘要員ではないとはいえ、サーヴァント3人がかりで勝てないどころか手玉に取られるとは、恐ろしい戦闘能力を有して戻ってきたと言える。
「ねぇ……」
そしてマタ・ハリは小さく呟く、彼女は切り出すべき話題を切り出す決意をしたのである。そう、これが本題なのだ。
「どっちが先に来たと思う?」
『綺麗な黒い髪をして、優しくて、胸も大きくて、しっかりしてるんだけど、どこか放っておけない所がある人』
それが、昨日マスターの口から評された、お師さんこと旅の仲間の説明である。
「恐らくは、私達に影響されて好ましく思いはじめて、そのまま……」
「やっぱりそういうことじゃない!! なんでよ! わたしが来るとこうなるの!?」
本人も気づいていない、竹簡にも記されてはいない。そして当人も気づかなかったであろう事実。それを彼女たちは、察してしまっていた。彼の態度、話す時の声音。そういうものに敏感な二人は確信を持って、3人目は嫌な予感と経験則も含めて強い疑念でとどまっていたが。
「マスターは、私達からはある種の……無償の愛を受け取っていました。好意的なのは当たり前であって、双方好意的なものが普通だったのです」
「すりこみね。説明通りなら、格好も薄着っていうところまで符合するわよ」
「わたしの部分がないわよ!?」
それは恐らく放っておけない所だろうと、二人は思ったが口にしなかった。
「好意の対象に近い、好みの女性はカルデアには……いませんでしたね」
「自分に好意を向けて来るかわからない段階で、気になっちゃって、優しくしてもらって」
「わたし達へみたいな気持ちができてしまった」
『ねぇ、マスターその、お師さんってどう思うの?』
『ん? 尊敬してるぞ、皆みたいに大事な人だ』
「「「初恋よね」」」
大事なのは今の関係であり、過去の女ではない。そのことなど百も承知なのだが、見せられてしまっては気になるのが人の性である。
「次の召喚で呼ばれないことを祈りましょう」
「そうそう会うことは無いでしょうが」
「ええ、きっと大丈夫よ」
3人はそう結論づけて、解散する。
その日の夜にどんな話をしようか、そう考えながら。
めちゃくちゃ長くなる裏(いつもの)