[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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話が進まない話


裏:相互互恵について

「マスターそろそろ時間よ」

 

ミストレス・Cのその声にシンドバッドは車の座席に預けていた体を起こす。今更寝る場所が変わると眠れないなどと言うような人間ではないが、それでもこうして寝心地の良い椅子に体を預けることができるのは、彼にとって至福であった。

 

デンバー近くの林の中で、自分のサーヴァントに起こされた彼は状況を思い出す。

 

「わかった、行こうみんな」

 

大統王というこの国のトップに会いに行くのだ。最初はそのまま乗り込むことも考えたが、やはり事前にアポイントメント? という挨拶をしておくのが良いでしょうということで、予告状を出してもらったのだ。何か違うような気もするのだが、大事なのは此方の姿勢である。

 

物の十数分程で要塞ともいうべき大統王の拠点へと到着する。

 

「ロマン、そろそろ入る」

 

『わかった、くれぐれも気を付けてくれ』

 

入り口を守る機械歩兵に連絡していたシンドバッドだというと、すんなりと門戸をあけられて、ここで待つようにと言われる。僅かもすると、案内の者であろうか小柄な少女が出てくる。

 

「あなたが人類最後のマスターの一人ね? ふーん、なんだか懐かしい空気がするわね。私はエレナ・ブラヴァツキーよ」

 

「シンドバッドだ、よろしくな」

 

「ええ、よくってよ」

 

子供のような外見だが、何となく大人っぽいなぁという印象を受けたシンドバッド。多分よくわからないけど、アンデルセンみたいなものなんだろうと納得し後に続く。

 

どうやら彼女は彼に興味がある様子だったので、適当に質問に答えていると、開けた部屋にたどり着く。

会議室というよりも謁見の間のような作りに、シンドバッドは何となくローマを思い出すが、シェヘラザードは敏感に王の匂いを感じ取る。わざわざ大統領ではなく大統王を名乗っているくらいなのだ。警戒に越したことはないであろう。

 

「もう間もなく来るわよ」

 

エレナは微笑を浮かべて、玉座の近くに立ってこちらを見ている。シンドバッドはどうすればいいかと一瞬悩んだが、直ぐに足音と共に声が聞こえてくる。

 

「ふっふっふっ、あまりにも早い接触だ。やはり私の行動は常に最善の手を打っていたのであろう、うむさすがは私」

 

「それもアポイントメントを取る文化的なマスターだ、ケルト何かとは大違い。つまり理知的な会話でこちらの仲間にできる、うむ非常に合理的だ」

 

「うーん、ミスタは本当に独り言の声量が大きいのよね、やめてって言っても治らないし」

 

シンドバッドは近づいてくる足音の感覚と、音の響き方から、戦っても強くなさそうだなと判断したものの、嫌な予感は背中の方からチリチリとするので、油断せずにその場で音の正体を待った。

 

「いや、待たせてしまったようで済まない。何分忙しい身でね」

 

そこに立っていたのはライオンだった。シェヘラザードも、マタ・ハリも、ミストレス・Cですら言葉を失うほどに、不思議な格好のライオンだった。

筋骨隆々で、カートゥーンのヒーローのような衣装を身にまとって、頭がライオンの巨漢男性。それが言語を介してコミュニケーションを取ろうとしている。

 

「私の名は、トーマス・アルバ・エジソン。アメリカ合衆国の大統王である!!」

 

それがエジソンと名乗り、大統王といっているのだ。完全に情報が渋滞している。

しかし、シンドバッドはまったく気にした様子もなしに、前に出て右手を出した。顔が猫の人間もいるんだなぁという理解である。器が大きいと言うより、底が抜けている。

 

「俺はシンドバッド。カルデアのマスターだ。です。」

 

「よろしくたのむよ……っていたたたた、え、君本当にマスターなのかね?」

 

エジソンは気にした様子もなくこちらに握手を求める青年に対して笑顔で受ける。しかしそのあまりの力強さに一瞬素が出てしまっていた。え、なにこいつ。という反応だ。

 

「俺たちは、カルデアってチームで、このアメリカに来たばかりだ。マスターは2人、もう一人はケルトと戦ってる、ます。」

 

「ああ、こちらもその情報については把握させてもらっている」

 

エジソンは簡単に手にしていた報告書のような紙を叩くと、そう告げてくる。

 

「さて、それでは今日君たちが来た目的を聞こうか、勿論この天才である私には見当はついているがね」

 

「情報と協力が欲しい」

 

シンドバッドはとにかくシンプルな物言いだ、それは勿論能力的にそうなってしまうのが大きいが、もとよりそういう性質でもあるからである。

 

「まず、アメリカは、聖杯を持ってるケルトの敵。これは間違いないか?」

 

「肯定だ。我々は侵略者たるケルトに立ち向かうべく戦っている。」

 

嘘はないようで、よどみなくエジソンはそうかえした。シンドバッドは頷きながら次に移る。彼は司会であり、考えたり発言するのは他にいる。

 

「あのロボットは何だ? 俺たちはあれとロンドンで戦った」

 

「ふむ、やはり天才同士、結論は似てしまうのであろう、あれはその改良品、動力を蒸気から電気にしたものだ」

 

エジソンもそこは聞かれるであろうと想定していたので、自慢げにそう返す。

 

何やら向こうは水蒸気? 電気? ってなんだと背後の女性に尋ねているが、まぁ些事であろう。

 

「それじゃあ────」

 

その後もあんちょこを見ているようだが、こちらに対して、新規に来た勢力が把握すべき情報を矢継ぎ早に尋ねていく。

本来は国のトップに対する質問でないものもあるが、エジソンは非常に丁寧にそれに応じた。それは相手がこちらに対してきちんとした敬意を払って、理性的に接してきていたからである。

 

「わかった、ありがとう。それでエジソンはどうやって、ケルトを倒すつもりなんだ」

 

「その前に、私の方からも提案があるのだが」

 

「なんだ?」

 

エジソンはそこで、回ってきたというよりも、割り込んで得た自分の手番に、彼の研究と試行錯誤と計算の成果たる、救済プランをカルデアへと提示する。

 

それは聖杯を用いて、このアメリカ大陸を人類史から切り離し、漂流させることによって、この大陸に住まう人間を救済するといった、早大かつ荒唐無稽な計画。

しかし聖杯のリソースがあれば、そして、魔術王からこちらに対する粛清がなければ可能であるという結論の物であった。

 

「というもので、我々はぜひ、カルデアにも協力を願いたい」

 

 

それは現在のカルデアが1つも持っていない、落としどころという、解決案であった。

今のカルデアは、ある種闇雲に戦っている。犯人の手がかりだけを追いかけて、どの様に犯人を捕まえるかを全く考えていないようなものだ。

 

だが、エジソンは違う、犯人を捕まえることよりも、手がかりを使って、事件を無理矢理に解決したと公表するという、落としどころを提示しているのである。

 

 

「勿論、今決めていただかなくてもかまわないとも、マスターが2名いるのだ。私としては、カルデアの総意として協力してほしいからね」

 

エジソンは満足げに自身の計画を離す。それは確かにカルデアが現状持っていない、1つの答えではあった。その手応えも彼にはしっかりとあった。

 

 

「んじゃあ、俺の言いたいことを先に言う」

 

「何かね?」

 

「俺たちは聖杯が欲しい。この旅の目的のために。魔術王は強いのわかってる、勝てるかどうかわからない。でも、戦って、皆を守る。そうしないのは戦うことを辞めるってことだ。戦うのならばみんなで最後まで走りたい」

 

青臭く辿々しい青年の主張は、まぁ多少なりとも出るであろうとエジソンは想定していた。

 

「だが、君たちは、私に交渉のテーブルにつかせる対価はあるのかね? 確かに今は劣勢だが、この後機械化歩兵軍団の再配備はより盤石のものとなる。工場の移設も終わり本格稼働をし始めたからな」

 

これは一種のブラフである、エジソンの言っていることはほとんどは事実だ。

戦力の拡充の目処が立ったことも。工場が本格的に稼働するのも。

 

しかしそれでも、現状のアメリカ軍にサーヴァントに対する解答は、ないわけではないが、おいそれと動かすことができない状況にある事に関しては触れられていない。広告宣伝や印象操作でより多くの物を得てきた男の、ある種老獪な発言であった。

 

「リツカのサーヴァントには、ナポレオンがいる。俺はナポレオンよりすごい指揮官を知らない。あんた達の軍(?)で、強い指揮官がいないなら、ナポレオンが欲しいはずだ」

 

シンドバッドの回答は非常にシンプルだ、札の切り方や、存在をにおわせる行動を一切してない。カードで言えば初心者でカモだ。

しかし出してきた手札がフルハウスなら話は変わってくる。

 

「な、ナポレオンだとぉ! た、確かに指揮官としては優秀だが」

 

「ローマでも軍を率いて、レオニダスってやつが守る峠を突破してた。あんたの軍がいればきっとすごい戦える。あとはアーサー王もいる、綺麗な姉ちゃんの」

 

「あ、アーサー王もかね!?」

 

まっすぐに自分の言葉を投げかける、それしかしていないが、盤石な戦力を持つリツカチームの存在は、エジソンを頷かせるまでにはいかなくとも、魅力を感じさせるには十分な物であった。

 

そしてそんな戦力の表明は、エジソンの想定をある程度揺るがす副次的効果をもたらしていた。このシンドバッドなる男のサーヴァントは、彼でも殴り合いで勝てそうなか弱そうな女性ばかり。大凡カルデアの戦力の4-50%程であろうという想定だったのだ。

それが、たしかに戦線を維持しているとは聞いているが、サーヴァントと交戦したという情報は入っていなかった。故に戦力に関して不足がある程度あるのであろうという見込みだった。シンドバッドのサーヴァントを視てその考えは補強されてしまった。

 

エジソンが一番怖いのは、アメリカ軍を蚊帳の外にして、そっちのけでケルトを倒して聖杯を回収されてしまうことだ。そしてナポレオンとアーサー王がいるのであれば、最近まで戦っていた敵国の英雄とは言え、そのカリスマで兵を寝返らせて、軍勢を作り、フィアデルフィアへと進軍する姿が、彼の脳裏には容易に浮かんでくるのだ。

 

「リツカに、俺のともだちに話してくれ、そうすればきっとあいつにまかせてみたくなると思う、だからナポレオンに兵士をつけてほしい」

 

「そうか、そういうことなら火急の事態だ、一先ずは前線を支えるという目的は一致している、うん、その範囲で同盟を結ぼうではないか!!」

 

前例を作る。それは政治においても軍事においても非常に大切なことである。

どんな小さなものでもそれがあるかどうかでその後の動き出しは大きく変わる。

前線とはいえ目的を一部を同じとして協力をしたということは、今後の交渉もより潤滑に進むであろう。

 

「後でリツカと話して、その時に協力してくれるって言ってくれると嬉しい」

 

「……わかった、一先ずカルデアとは非同盟の友軍ということで、前線では彼の指示に従うようにしよう。準備が整い次第、交渉のテーブルに着こうではないか」

 

ともかく現状としてはそういった形になった。

主張が違う2つの集団のファーストコンタクトとしては、理想的な落としどころであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、やっぱりどこか調子が悪いのでは」

 

マシュのその声に、立香は我に返る。既に何度目かわからないが、無限に押し寄せてくると錯覚するケルト兵を、ナポレオンの采配の元に屠った後だ。

 

「いやぁ、まさかマシュに求婚してくるような事が起こって気が気じゃなくて。それがショックだったんだよ」

 

「えぇ!? そ、それはいったい」

 

ナポレオンは、アメリカ軍の暫定的な指揮官となると、多少は勝手の違いに戸惑いつつも、見事に軍をまとめ上げていた。前面には耐久力の高い機械歩兵を、民兵の人間たちはその直掩での支援を。そういったシンプルな分け方だった。

 

数は少ないが存在した騎兵隊も、理想的なタイミングでの側面攻撃や、囮として有効に活用している。

 

立香も大まかな指示を出しているが、フリーハンドを与えるという判断をしたのも彼自身だった。

 

まずはこの窮地をしのぐ。戦線は本拠地から遠ざかるほど接触面が広く複雑になっていく、それからは細かい調整はいるが、今は全く余裕のない非常の事態であるのだから。

 

 

カルデアアメリカ連合軍として取っている作戦はいたってシンプルだ。遭遇戦を少なくして、高台を確保しながら前進を続ける。

 

ケルトの兵が、何も考えずに突撃しかしない以上、遭遇戦であろうが、野戦であろうが、海上戦であろうが、本質的な攻め方は変わらない。遭遇戦は、相手の数勢力位置まで探りながらの戦いであるが、相手の数が分からなくとも全力で前進して襲い掛かるだけの兵力であれば、とにかく有利な形で戦うのが必要だ。

 

騎兵などを使った敵の誘引を行い、そこをナポレオンと砲兵によって火線を集中してたたく。数が多い場合は、事前にラムレイとの突進で敵の足並みを乱してから正対する。戦略という面では立香はナポレオンには明らかに劣っているのだが、戦術という戦場の盤面に於いて彼はいかんなく力を発揮していた。

 

敵の弱い部分、崩れている部分、浮足立っている部分。それらを見つけてサーヴァントでたたく。非常にシンプルだが、難しいうえに効果的な行動。それをただひたすら繰り返していた。

 

相手にもその動きが伝わったのか、今朝方ケルトの勇士を名乗るサーヴァント2名と交戦になったが、此方の戦力と頭数が上回っていたために、撃破には至らなかったが、手傷を負わせ撤退させた。

 

しかし、此方の抱える問題はまだまだ大きかった。

 

先ほど合流した現地のレジスタンス組織のリーダー、ジェロニモと少しばかり話をしたが、やはりアメリカ軍の最終的な目標は、自分たちと異なるようであった。

ロマニから話を聞いているが、裏付けという意味では十分だった。

 

レジスタンスは純粋に自分たちの目的に近いこともあり、シンドバッドと遭遇してカルデアとの同行を決めてくれたとのことだ。

 

リツカは、熱っぽい体を何とかごまかしながら、戦場を進む。

呪詛を受けたのもあるが、何よりも単純な問題として彼は不調だった。

 

彼の体は、非常に重たい。気だるさというよりも、まるで自分が自分でないかのような違和感があるのだ。

 

そればかりは多少意識すれば無視できる程度だが、何よりも問題なのは目だ。

 

目がとにかく『みえ』過ぎるのだ。今までもナポレオンに褒められるほど戦場をよく見ていたし、超高速ともいえるサーヴァントの戦闘も目で見えてしまって指示を出せてしまっていた。

 

今は視界がまるでスローモーションになったかと自分で錯覚するほどに、観えすぎてしまうのだ。まるで彼自身のキャパシティが上がっていく速度に、器がついていけていないようだ。

 

勿論ロマニとの相談は済ませている。推論ではあるが、今までの聖杯を何個も回収するという偉業を成し遂げている影響ではないかとのことだ。

常人では考えられない、急激な魔力量の上昇と関連付けられている。

 

事実シンドバッドも、肉体の変質化だけでは説明できないほどに、急激に強さを増しているのであり、マスターである2名がこのグランドオーダーに伴って成長しているのは自明だ。

 

現象自体は特異すぎるものではあるが、そこまで怪奇な物ではない。しかしながらその速度が恐ろしいのである。

 

恐らくは、ロンドンが短すぎたというのが有力な結論だ。

 

そう、いうなれば、ロンドンと監獄塔と立香は2つも飛び級してしまったのだ。それまでは段階的に月単位の時間をかけて、体が馴染んでいたのだが、ここ3週間で2つの異常現象を解決した立香は、その速度に体がついていってないのだ。

 

それでもゆっくりと慣らしていけば、良くなるとのことで、自ら積極的に戦場で指揮を執っている。確かに初日に比べても戦闘中でも頭痛がすることは少なくなった。

 

ゲームの早解きをしすぎて、ロードが追い付いてないみたいだ。湯だった頭で半笑いで思いながら、リツカは平静を装っていた。魔力供給だって通常通りやっているつもりだ。

 

しかし、存在を立香の魔力経由に由来するところの大きい3名には彼の不調は伝わっており、それどころか彼に同調するかのように、多少調子を落としてしまっていた。気をしっかり持っている間は大丈夫なので、意識をしっかりさせなければと自戒する。

 

だが、立香は怯むことなく邁進する。今は唯できることをするだけだと自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、貴方は何をしているのですか?」

 

「な、なんでもない」

 

 

だが、どうやら無理をしすぎるとヤバそうなので、程々にしよう。うん。




そろそろ
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