[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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裏:主従関係に関して3

ちょっとしたお祝いをしましょう。

 

そんな誰から出たかわからない言葉で、シンドバッドは自分のサーヴァント達と自室で小規模な食事会を開くことになった。

 

アメリカ大陸の広大なスケールでの旅は、また彼の心に大きく刻まれたが、別段何をやったわけではない。それでも自分のサーヴァントがやりたいと言って、自分がそれが出来、好意的な行動であれば彼に断る理由などはないのだ。

 

アメリカの旅はたしかにハードだった。マシュは今も医務室で寝泊まりしている。シンドバッドもお見舞いに行ったが、もうすぐ元気になるとのことで、召喚と次の旅はもう少し先と聞いて今は訓練くらいしかすることがないのだから。

 

部屋のソファーに座りテーブルに食べ物を並べて食べる。シンドバッドにとっては最近でこそ朝夕を食堂でサーヴァントと食べるということはあったが、こういった形で4人だけの食事というのはあまりない経験だった。

 

「ほら、マスターこれも美味しいわよ。はい、あーん」

 

横からマタ・ハリがナニカよくわからない食べ物をフォークに刺して差し出すので、よくわからなかったが、食べて良いのだと判断してそのまま食いつく。赤いすっぱい物だったが、よくわからない新鮮な味に目を白黒させる彼は、続けて反対側からシェへラザードの手が伸びてくるのに気づくのが遅れてしまう。

 

「こちらもどうぞ、恐らく次の特異点の場所と時代では、こういった物が主食となるでしょうから」

 

こっちは茶色の柔らかくて苦いものだ、不思議と懐かしい味がするが、どこで食べたのかは全く思い出せなかった。

 

「マスター、こっちはどうかしら?」

 

「んー、変な匂いだな」

 

ミストレス・Cから勧められた赤い飲み物は少し舐めると、なんかぼやけて苦い味がしてよくわからない。正直食べ慣れた肉をずっと食べるほうが美味しいのだが、それでもこの3人と一緒に食べる事の方が楽しくて嬉しいので、シンドバッドはニコニコと笑っている。

ああ、そうだ。皆が大切だなと。彼の乏しすぎる語彙では言い表せないが、きっと幸せというのではないか?

 

「マスター、わたしは貴方の事が欲しいの」

 

「うん」

 

「誰かに盗られるなんて、考えたくもないほどにね」

 

いつの間にかテーブルの向こう側にいた彼女は、シンドバッドの膝の上に腰掛けて、彼の下顎に手をかけながらそう囁きしなだれかかる。シンドバッドは、彼女の銀色の細い髪の毛を指で梳きながら、話半分に頷く。サラサラでよく指に絡む彼女の髪が彼のお気に入りで、こうして近くに来れば手で弄んでしまうのだ。

下から上へ、頭の小さい角が生えている所まで大きくスライドさせて撫でながら、いい匂いだと感じ入っているシンドバッドに、ミストレス・Cは続ける。

 

「どうか、これからもわたし……達のマスターでいてよね」

 

「当然だ」

 

「私からもよ。ねぇ、マスター……この後どんなことがあっても、皆をとっても大切にしてほしいの」

 

マタ・ハリはそう言いながら、髪をなでていた彼の手をその手で取り耳元にそう囁く。

 

なんでそんな事を言われるのか、全く彼にはわからなかった。だっていちばん大切なのは、此処に居る皆なのに。皆のために今自分は頑張っているのに。

少しくすぐったい吐息に笑いそうになるのを我慢しながら、彼は同じ様に頷く。

 

「大丈夫、俺は皆が大好きだから」

 

「その皆の中でもし、1番大切な人ができたら、その時は教えて下さいね」

 

今度はシェヘラザードまでもが同じようなことを言う、彼女は少し離れたところにいるままだが、それでもその眼差しは真剣だった。

 

だからきっと、自分にはわからないけど何かがあるんだろうなと、シンドバッドは直感的にそう思った。

 

「わかった、その時は言う。でもそれでも皆が好きだ」

 

 

 

 

と、そんな決意を固めて数日後、彼のもとに新しい戦力が訪れた。

 

「遅いぞ!! 人間!! ポルクスを辱めた報いを受けろ!! 死ね!」

 

「ッくぅ!」

 

彼らを召喚した瞬間。シンドバッドは凄まじい悪寒と共に、召喚が終わったと魔力的繋がりを感知した瞬間、後ろに跳びながら、前方に蹴りを放った。手応えはなかったが、その行動は正解だった。なにせ見たことのない男の、多分サーヴァントが切りかかってきていたのだから。

 

「マスター!! 」

 

「て、敵性のサーヴァントの召喚!? そんなカルデアのシステムではありえない!」

 

周囲が騒いでるが、光が収まり焦点が定まるまでも油断なく構える彼と、立香のサーヴァント達。そしてそこに立っていた存在こそが、2人で1枠のダブルクラスサーヴァントという特殊な霊基を持つディオスクロイだった。

 

「も、申し訳ございません、兄様! そうではないと言いましたよね!」

 

「だがポルクス!!」

 

男の方にシンドバッドは見覚えはあるようなないようなという曖昧なものであったが、女の声を聞いて思い出した。ああ、あの

 

「あぁ! 馬鹿女! 馬鹿女だな! 来てくれたのか!」

 

「貴様ァ!!」

 

「兄様!!」

 

あの海に囲まれた島で、何度殴っても起き上がってきた、無茶苦茶強い女である。シンドバッドは引っかかっていた疑問が解消されてすっきりして、構えを解く。どうやら男の方は馬鹿女の兄のようだし、あんなに殴ったから怒るのは当然だ。

 

こっちが構えをといたら、男の方は顔を歪めた後、剣をおろしてくれた。どうやら落ち着いてくれたようで、女と並び立って此方に名乗ってきた。

 

「改めて……我らディオスクロイ、お力になりましょう」

 

「不本意だがな!!」

 

「ディオスクロイ? よろしくな」

 

変わった名前だなとシンドバッドは思う。男のほうの名前だろうか? でも確か前にロマンやアタランテはポルクスと言っていたと思うし。

 

「(マスター、二人の名前がディオスクロイで、兄のほうがカストロ、妹がポルクスですよ)」

 

「ああ、そういうことか」

 

少し首を傾げただけなのに、シェヘラザードからの声が繋がりを通じて響いて答えてくれた。成程ここがカルデアっていうみたいに、彼奴等がディオスクロイなんだなと。

 

「俺を殺しに来たんじゃないんだな」

 

「はい、誓いましょう、マスター、その手にあるグローブで喚んで頂いたこの身は、あの時の恩を返し、人類を守護いたします」

 

「ポルクスの言うとおりだ。ポルクスの衣服を剥いて、ヒマンテスと掛け合わせて作った武器だ、何故それを直ぐに使わなかったのか文句を言いたい所だが」

 

シンドバッドはよくわからなかったが、兎に角敵ではないのならば問題はないようだ。

 

「だが、ポルクスが世話になった。その礼で力を貸してやろう。人間に借りを作るなど業腹でしか無いからな」

 

カストロの方もそう言ってくれているのだから。

立香のサーヴァントも武器こそ手にしているが彼らには向けていない。きっともう大丈夫なのだろう。

 

シンドバッドは召喚が終わったと思い、彼らを連れて自分の部屋に行くことにした。令呪の補充も出来ている以上、大丈夫であろうと判断されてそれは許される。なにせ、カストロとポルクスだ。

ギリシャ神話でも上位に入る、有数の英雄である。戦力となることを本人たちが申し出ているのだから、それに縋るしか無い。ポルクスの方は、アルトリアと同じ理由であり、何よりも、現状魔術王に届く刃を用意する手立てに見当がついている者はいないのだから。

 

「改めて俺はシンドバッド。カルデアのマスターだ。名前はそこのシェヘラザードにつけてもらった。カルデアの皆の為に人理を救いたいと思ってる。そのために力を貸して欲しい」

 

シンドバッドはかつて全く気にかけることもなかった、名前という文化の価値をしっかりと理解して、誇らしげに自分の名前を名乗る。

彼は自分の名前が好きだった。大切な人から貰った初めて自分が貰った大切な贈り物だとわかったのだから。

 

「私はポルクス、ディオスクロイの片翼です。以前の特異点ではご迷惑をおかけいたしました」

 

「カストロだ。ポルクスを辱めた貴様と主従関係を結ぶつもりはない、力を貸してやるだけだ」

 

「ポルクスとカストロだな。ポルクスが妹でカストロが兄様。覚えた、宜しくな」

 

だから名乗られた名前はしっかり覚えようとする。幸いにして覚えやすい名前だったので、問題なく記憶できた。

 

「ポルクスはこの前戦ったよな、あの時はひどいこと言ってごめんなさい。今が普通なんだよな?」

 

「はい、マスター。あの時は兄様がいないことと、そういう召喚であったために不安定でした」

 

「我ら双神は常に共にあるのだ。無理矢理呼び出したイアソンに会った時は止めるなよ、人間」

 

「? ああ、わかった、カストロ」

 

一先ずは、前回のことは気にしないということで、シンドバッドはこれから仲良くなるために好きなものを尋ねることにした。今までのサーヴァントにもやってきたことであり、そうするものだと彼は考えているから。

 

「二人の好きなものは何だ? あと嫌いなものも」

 

「妹だ、他になにかいるものがあるか? 嫌いなものは人間だ。人間」

 

「兄様のように、どこか放っておけないけど優しい人が好きです。嫌いなのは今はイアソン船長です」

 

「ん? わかった、覚えとく」

 

その後もいくつかの会話をしたが、シンドバッドにも分かる範囲で、ポルクスは今までのサーヴァントと少し違うような気がしたが、カストロはよくわからなかった。

 

なので彼らの部屋を用意するのを手伝い、ポルクスがシェヘラザードに連れられてシンドバッドサーヴァント女子会なるものに参加しに行った時に、シンドバッドは思い切って彼に聞いてみることにした。

思い切って彼に聞いてみることにした。

 

「カストロはアヴェンジャーってやつなんだよな」

 

「ああ、そうだ。俺を矮小な人間へと零落させた人間への憎悪が、俺を掻き立てるのだ。ああ、憎いとも! 人間がな!」

 

それはまぁわかっていた。立香が行っていたところにもアヴェンジャーは居たらしいし、それに復讐というものはよくわからないけど、相手に殴られたから殴るというのはわかる。

 

「人間っていうのは、皆か? カルデアにしかもういないけど」

 

「そうだ。俺は人類という適当な話を語り継いだ奴らが憎い! 人理など燃えてしまえば、人類が滅んでしまえば良いとすら思えるほどにな! だが、それ以上にポルクスは人間を守護したいと、そして借りを返すからと力を貸している。それだけだ」

 

そこまで言い切ったカストロは、シンドバッドに向き直る。男性にしては少しだけ小柄なゆえに、シンドバッドよりも2周りは小さいが、背負った威圧感はとてもそんな小ささを感じさせないほどのものである。

 

「だから先に言っておく! 人間! お前を主などとは断じて認めんぞ!」

 

「シンドバッドだ」

 

「何だ?」

 

「俺の名前はシンドバッドだ、人間じゃねぇ」

 

 

シンドバッドは別に怒っているのではない、只々彼にはわからなかったのだ。何故自身の名を呼ばないのかと。そしてそれは非常に単純かつ面倒な彼の勘違いが根底にある。

 

シンドバッドにとって、自身に敵意を向けるものは須らく殺意を向けてくる敵であった。人食い故に向けられていた悪感情程度は彼自身が全く気づいていないものであった事も大きい。

 

そう、彼は敵対はしないが、自分のことが嫌いな非友好的な存在というものに、人生で初めて相対しているのだ。

仲間なんだから皆仲良く。敵なんだから殴り蹴り殺す。そんなシンプル過ぎる倫理観こそが彼の在り方である。それはシェヘラザード達の話す内容がそういった二元論に基づいているからでもあり、そしてウマが合わない人間というものが、彼には長く存在したことがないからである。

 

「貴様など、人間で十分だ」

 

「何だとぉ! 俺達は仲間なんだろ!」

 

「仲間ァ? 俺にはポルクスがいればそれで良い。お前など魔力を俺に渡すだけで良い」

 

カストロもカストロで結局の所、この召喚自体が、限りなく否に近い了承であった。ポルクスを触媒で召喚するので自身が召喚されるだけならば、そもそもシンドバッドに従っていないことすらありうるのだから。

ポルクスが非常に意欲的にシンドバッドに助力したいのと、その理由がポルクスの失点にあるので、兄として最愛の妹に協力しているというのが彼のスタンスだ。

 

「違うだろ! サーヴァントじゃねーか!」

 

「貴様ァ!!」

 

そしてシンドバッドも、この場合のサーヴァントというのは、彼にとっては大切な仲間という認識なのである。両者はどこまでも平行線であった。

 

「そういえば、貴様はマスターという役職ながら、その拳で戦うのだったな。いいだろう筋を見てやる、我が師ケイローンの真似事だ」

 

「良いぜ! こっちだついてきな!!」

 

「その威勢がどこまで続くか見ものだな! ポルクスが戻るまで立ってられると良いな、人間」

 

二人はシミュレーターへと向かう。シンドバッドにとってコレは戦力以上の意味で成長が見込める戦いであり、この凝り固まった神にしても、最新の人間の英雄の在り方を知るものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「粗茶ですが……」

 

シェヘラザードの部屋、そこには4人の女性の姿があった。彼女が杖を一振りすると、小型のジンがさっとお茶を淹れて此方まで持ってくる。ミストレス・Cと、マタ・ハリからすると見慣れた光景なのだが、ポルクスはどんな魔術だろうかと、真新しい現象を興味深そうに見ていた。

 

「では、改めて。私はキャスターのシェヘラザード、とある長い物語の語り手です」

 

「マタ・ハリよ。アサシンのクラスで召喚されたわ。生前は踊り子と娼婦をしてたわ」

 

「はい、お二人はお久しぶりですね、その説はご迷惑を」

 

この二人とは、オケアノスで戦った記憶がある彼女は朧気ながら覚えていた。此方の動きと意識を誘導しようとしていた二人だと。成程そういった職業もサーヴァントになるのかと。

 

「わたしはミストレス・C! 謎の美しき女怪盗よ」

 

「クラスはライダーです」

 

「ちょっと込み入った事情があるみたいで、何時もこんな調子よ」

 

「は、はぁ……よろしくお願いします」

 

最後の一人は、よくわからないが、自分たちのように召喚の際に特殊な何かがあったのだろうと彼女は適当に結論づける。

 

しかし、彼女は改めて3人を見渡す。あまり自分も人のことを言えるほど着込んでいるわけではないが、3人共非常に扇情的な格好をしており、肌の露出が非常に多い。

あの噂に名高いレスボス島に迷い込んだかのようね。と内心呟きながら彼女はこの会の趣旨を尋ねる事にする。

 

「それで、どういったご用件ですか? 」

 

「親睦を深めたい……というのも勿論ございます」

 

「ほら、私達女所帯だったわけで、これから新しい娘がはいったから一応聞いておきたかったのよ」

 

「兄様抜きの話ですね」

 

「ええ、わたし達と上手くやっていけるかの確認というか……報告というのかしらね?」

 

ポルクスはできればマスターとカストロの近くになるべく居たいのだが、そういった要件であれば吝かでは無かった。アルゴー船でも女性は少なかったがその割には、まあある程度は結束していたと言える。

 

「特異点にいる間は勿論無いのですが、私達はカルデアにいる間……その、マスターと魔力供給をしているのです」

 

「ま、魔力供給を!?」

 

魔力供給である。読んで字の如くである。

 

「だから、夜とかマスターの部屋に行くときは、ちょっと気をつけてねって話よ、ごめんなさいね」

 

「い、いえ。まぁ英雄色を好むのはギリシャでは当然でしたし」

 

実際の所そうである、ギリシャでは他人の妻を殺して奪ったり、気に入った少年を自分の従者にしてあれやこれやしたり、他人の妻に動物に化けて近寄り托卵したりはよくあることだ。何なら最後は主神の所業だ。

なので、行為自体にとやかく言うことはない、だが身近な人物のそういった事情を知り多少動揺しただけである。

 

「マスターったらああ見えて可愛い所あるのよ?」

 

「そこが良いんです」

 

「ええ、ただ少しやりすぎなのよね。貴方は……その」

 

惚気が始まったかと思えば、此方に振られるのかとポルクスは少し身構える。

 

「一応聞くけど貴方とあのお兄さんは……」

 

「に、兄様とはそういった関係ではありません!」

 

当然である。サーヴァント同士で魔力供給ができるのは玉藻くらいなのだから。

 

兎も角伝えたいことは伝えられたので、3人は肩の荷を下ろすことにした。ヘンに潔癖なサーヴァントでなくてよかったと一安心だ。まぁギリシャな時点で大丈夫だとは思っていたが。

 

「ポルクスさんも、魔力が必要になったらいらしてくださいね?」

 

「えぇ!? いいんですか! それ……あっ!」

 

マタ・ハリが冗談めかしてそう言うと、何かに気づいたかのようにポルクスは勢いよく立ち上がる。

 

「に、兄様が戦闘訓練を始められたようなので、様子を見てきますっ!」

 

それだけ告げると、お茶ありがとうございましたと言いながら、彼女は早足に部屋を後にした。シミュレータールームへと向かうのであろう。

 

 

 

 

 

 

「んー……これは白かしらね?」

 

「灰色に見えたけど」

 

「今の所は白ですね」

 

 

そういうことになった。

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