[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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繋ぎ回です。


裏:第6特異点活動記録

燃えている地面、乾ききった風。何よりも空気が薄く感じるこの死の荒野で、カルデアは襲いかかってきた敵と戦っていた。先程凄まじい光の槍が背後に落ちてきており、敵の将の一人を撃破はしているのだが、散発的に現地の盗賊と思わしき、既にほとんど人でなくなったものを相手にしている。

 

カストロは、非常に不本意だが納得していた。此処に来る前の模擬戦でも、先程の突発的な遭遇戦でもわかったが、このカルデアというチームは強い、確かにディオスクロイは超級の戦力として歓迎はされているが、その力が絶対に必要だったかと言うと、微妙なところであろう。

アルゴー船と同じだ、全員が一騎当千、万夫不当の大英雄の集まりであり、多少どころか、ヘレクレスが欠けても揺るがなかったように。

 

戦っているのは軽く蹴散らせば散っていく程度であるが、それでも散発的に襲いかかられる中、もうひとりのマスターである人間は馬上でサーヴァントに抱え込まれながら、うつらうつらと船を漕いでいる。先の戦闘で消耗しているのはわかるが、この環境で休めるその度胸は凄まじいものである。

 

戦闘をしているのは自分とポルクス、そしてポルクスと契約を結んだ人間であり、あちらの主従ほどではないが魔力の消耗はある。それでもこの人間はこんな劣悪な環境で敵へと果敢に殴りかかっている。

 

先日一度、人間とは直接戦ったことはあるが、技量は稚拙で未熟……それに尽きると切り捨てるのが難しい程度には習熟させている。非常に腹立たしいことに。

サーヴァントほどではないが膂力もあり、何より攻撃を凌ぐことにかけては、かなり場数を踏んでいるのか、彼をして秀でていると言わざるを得ない。

 

もちろん殺そうと思えば殺せる程度の存在だ。だが一太刀のうちにとはいかない。そして元来マスターとサーヴァントである以上、初撃で屠れないのならば、同格のサーヴァントがその隙を埋める事ができるわけだ。

 

それができるサーヴァントが此方の人間の分隊には居なかったわけで、自分たちは歓迎されているが。向こうの人間の分隊は真逆で、自分たちでも苦戦するような戦士達と、万を超える軍勢を率いた近代の大英雄と、生半可な攻撃を防いでしまう盾持ちがいる。

 

認めよう、こんな滅びかけの中良い船員を募れたものだと。

カルデアには多くはないが、一定の人間が居て、この分隊2つだけが現地に行く乗組員である。港から指示するひ弱な男がいるが、実質的には船長が2名居るようなものだ。それでもしっかり連携をとって、対等の関係を結んでいる。

 

これならば直ぐにポルクスに縋らなかった理由もわかるというものだ、なにせ此方の人間の魔力は潤沢にあるとは言えない。

 

────彼は知るよしはないが、これでも異常に魔力量が増えており、この時代の平均的魔術師を超えつつあるのだが。

 

それ故に搦め手に秀でた女のサーヴァントを連れているのであろう。シンドバッドと名乗った人間は今もカストロの横で、その拳で襲いかかってきた人間の武器ごと砕いてしまっている。

見たことのない流派を基礎としている戦い方だ。あんなに身体を歪曲させるなどとは無駄が多いのではないか? 攻撃を取るのではなく弾いてできた合間に多重をかけて硬い打撃を撃つのは、対人にのみ有効で非効率的では? そうは思うが見事に使いこなしている。

 

しかし、いつの間にかポルクスが教示していたのであろう、よく知る拳闘の動きも見える。後でそれはポルクスに確認するとして、こんな人間が住むには適さない場所で、我らディオスクロイという超一流のサーヴァントを戦闘させながら、戦いに挑めるその姿勢。

 

 

 

ああ、人間はしぶとく生き残っているわけだと、反吐を吐きたくなる思いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苛烈過ぎる光景だった。獅子王の聖抜という名の唯の粛清は。1000人は居なかった、しかし数百人は優に居たのだ、ここに避難してきた無力で善良な民達は。

それが、たった3人のどんなときでも善性を保つとされた民を除いて、全員を殺すと一方的に決められたのだ。

 

立香は今まで5つの特異点を回ってきた。そしてその中では多くの人の死に触れてきた。

フランスでワイバーンに襲われる人、ローマで戦争で潰える人、オケアノスで嵐の海に飲まれる海賊、ロンドンの霧に飲まれる人、アメリカの戦災で倒れる人。その多くは敵に、明確な死という要因により、亡くなったのだ。

 

いうなれば、それはそういった命の終わりがあったから死んでいったのだ、しかし立香はコレはちがう。そう直感的に感じた。

 

そう、あの高くそびえる壁の上で、此方に指を指しているあの槍を持った奴が、殺してあげるという恩着せがましい思いで押し付けてきているのだ。

悪意じゃない……今まで感じた色んな敵からのそれは無いと思う。

 

言うならそう、オケアノスであったメディアのそれに近い、正しいことをしてあげているだけのような、そんなズレで殺されかけている。そう感じたらもう彼は止められなかった。

 

無理矢理宝具を同時に撃ってもらった反動なのか、身体はまだ痛い。だが令呪をまだ使ってはいけない、そう感じたから無茶をしたのだ。

 

ならば、今日もそれを貫くだけ。

 

「我らの王、獅子王の命により! 貴方がたを排除する! 異なる星の元現れた者共よ! この聖剣で切り捨てる!」

 

「マスター、お気をつけ下さい。サー・ガウェインは日中では円卓で最も強い騎士でした。そして此処はどうやら例のギフトとやらで、常に昼になっているようです」

 

「わかってる! 皆行くよ!」

 

立香はこの特異点の倒すべき敵を見つけた。それならばもう前に進んでいくだけだ。此処で倒しきれるかどうかではない、間違ったものを見つけて、それを目の前でやられた時に、自分にそれを正す力があるのならば、正しいことをするのだ。

 

だから、自分はあの燃えさかる部屋で、マシュの手を取ったのだから。そんなマシュが今は調子が悪い、ならば自分がその分奮起するだけだ。

アメリカでは不調だった部分に関しては既に馴染んだ。先日のモードレッドのビームだって視界の端に見えたから皆避けられた。

 

立香の目と思考速度はもはやサーヴァントの超速戦闘に対して、殆ど負荷もなく付いていくことができるほどにまでなってしまっていた。だからこそわかる。目の前の騎士ガウェインの恐ろしさが。

 

「リツカ! 俺は退路を作る! そこの強いのは任せる!」

 

「わかった、シンドバッド頼む!」

 

 

自分たちが本気で戦力を分散すればこの場で多くの人が助かるであろう、だけれど逃げる途中できっと皆殺される。ならば、ここで止めるしか無いのだ。

 

退路にしたって必要だ。シンドバッドがやるって言ったのならば、きっとそれはできるのだろう。彼はやるって言ったことは今まで全部やってきた。強い敵にも今はあのギリシャの双子座の人達がいる。ならば自分はこの強敵を倒すだけ。何時も通りの役割分担だ。

 

マシュとあの騎士を戦わせてはいけない、そんな漠然とした不安はあるものの、立香はガウェイン卿へと挑みかかるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「槍を使い続けたアーサー王ですか……」

 

「うん、そういってたよねぇ、マシュ」

 

「はい、槍を持って敵を討滅した王の側面だとのことです」

 

円卓を退け、避難民を守る代わりに現地勢力の村へと案内してもらうことになったカルデア一行。アルトリアが離脱したが、一先ず先程合流したべディヴィエールは同行することになっていた。

 

先の戦闘で成り行きとは言え、共に戦っただけであり、シンドバッドが多分味方でここのサーヴァントだと思ったから連れてきた。とふんわり無警戒に接していたが。

旧知と顔が同じであるとアルトリアが評したことと、なにより彼女の姿を見て彼が泣き出して膝をついたことから敵である心配はなかった。

 

最も、避難民からするとあの円卓の騎士の仲間割れなのかと見られているフシはあったが、彼らも命の恩人かつ現在の生命線であり、表立って悪感情を向けることはなかった。

 

「改めて、先程はお見苦しい所をお見せしました」

 

「そんな! ベディヴィエール卿がアーサー王に会えたんです。ああなるのはおかしくないと思います」

 

「俺も聞いただけだけど、自分の支えた王様にまた会ったなら、それは素敵なことだよね」

 

「よくわかんねーけど、気にすんなよ」

 

ベディヴィエールからすると、あのアルトリアは自分の探していたアルトリアではないということは、すぐに分かった。それでも、ああ、それでもだ。

彼女の有り様を見て、何より彼女が言外に認めたこと。それでわかってしまったから泣いてしまったのだ。

 

感涙の滂沱ではない、慚愧の落涙だ。あの槍を持って戦っていただけでああも変わるのだ。外見ではない、立香やマシュ、シンドバッドに対しては柔らかいが、あの敵への底冷えするような有り様は、変質の証左だった。

 

「いえ、ですが。あなた達の目的はあの聖都を治める獅子王に会うことなのでしょう?」

 

「はい、そうです。そうですよね? 先輩」

 

元気よく返事を返す桃色の髪の少女。マシュ・キリエライトと名乗ったことに少しばかりの驚きを覚えたが、きっとあの騎士のことだ何か理由があるのであろうと、ベディは特に言及していなかった。

 

「それは……うん、そうはなると思うけど」

 

「聖杯もってなかったんだよな、ロマン?」

 

『ああ、その通りだシンドバッド君、君時々鋭いよね』

 

遠見の魔術かなにかで繋いでいる姿の見えない声の主は、此処に居るマスター達の司令官であるとのことだ。

カルデア、彼を送り出した魔術師マーリンから聞いていた現地で協力できるであろう勢力。目的は聖杯の回収とそれによる歪んだ特異点の修復。紛うことなき人類の正義の味方だ。眩しいほどに。

 

「でも、王様もいってたよな、あの聖都は槍だから、あれがあると特異点はそのままだって」

 

「うん、だから俺達は聖杯も見つけて、その上であの獅子王を倒さなきゃならない」

 

「獅子王だけが目的ではないのですね。ですが」

 

「はい、私達は協力できると思います」

 

 

マシュと立香の2人は主従であり、ベディヴィエールをして眩しい善性を感じられる。純粋な、本来であれば守られるべき無辜な民。

旅慣れた歩き方に、しっかりとした筋肉の着き方こそしているが、彼らの旅が始まる前は、どこにでも居る普通の少年少女だったのであろう。そう感じた。

 

もう一人、シンドバッドと名乗った青年は、粗野な態度であり。貧民層で昼から喧嘩に明け暮れていそうな、荒事慣れしている筋肉の突き方と動き方だ。連れているサーヴァントたちもどこか秩序を軽視しているような、そんな印象を受ける。

 

それでもあの聖罰の中で、彼へと迷うことなく救援の手を差し向けてきた。湖の騎士の弱点をいきなり巧みかつ明確に突いて、無力化した手際は相当なものだ。

 

話してみれば、立香に比べて言葉使いが荒っぽいが、別段悪人ではないようだ。ならば問題はないのであろう。

カルデアは円卓ではない。アーサー王が配下であるということに思うところはあるし、アーサー王と似た顔でメガネを掛けて、先程からアメを舐めている少女もいる。きっと多くの力が集まる同じ方向だけを向いた組織なのだろう。

 

あの獅子王の円卓も割れているのか、席は殆ど揃っていないようだ。自分達の円卓だって、同じ様にアグラヴェインの離脱から、徐々に歯抜けになっていった。願わくばこの組織が無事に目的を果たし、この人理を救ってくれることを祈ろう。

 

ああ、自分はとても人の為に祈れるような、思えるような人間ではない。

不忠で不届きな騎士だが、そう思いたいと思える自分に、彼は鞭をうてるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大英雄アーラシュ・カマンガー。まさか本物を見られるとは」

 

「知り合いなのか?」

 

隠れ里だ! リツカがそんなふうに興奮する村についたカルデア一行。山肌に張り付くように、そして何よりも周囲から視線が通らないようにと彼らの知恵で作られた村だ。

何度もの十字軍による侵略と略奪より耐える為にこうなっていった、適者生存の在り方であった。

 

ようやっと腰を下ろせて休める場所についた夜。シンドバッドは何時もより大分魔力の回復が遅い中、焚き火を囲んで談笑する輪から少し離れてシェヘラザードと二人で話していた。

 

二人の視線の先には、快活に笑いリツカの背中を叩く青年の姿が。なんでもしがない弓兵といっていたが、そんなはずはないであろう。

沙悟浄やアタランテのような、何かに対して一生懸命に頑張った人と同じ匂いがするから。

 

「いえ、彼はその……私の故郷では大変有名な大英雄なのです、当然お話もございますよ」

 

「この国が生まれた所なのか?」

 

「そうですね……少々異なります。私とアーラシュさんは、もう少し南東ですね」

 

シンドバッドにはよくわからなかったが、それでもあの人の頭の骨みたいなお面をかぶったハサンというサーヴァントが色々ルールに厳しいのはわかった。そんな男が凄い信用していて、尊敬もしているのだ。きっと凄いのだろうという理解だ。

 

「あの英雄の話は、私も妹に言い聞かせたものです、何度もねだられ私も憧れた程に」

 

「ふーん」

 

「自らの身体が砕け散っても、争いを収める為の一射を放った大英雄、こんな所で会えるとは」

 

それは、ベディが王様に向ける目と少しだけ違って、でも同じような、そんな眼差しだった。大切なもの、思い出を。それを尊ぶものであるが。

 

シンドバッドにはそういう経験がないので、わからなかった。

彼にとっての思い出は、この旅だけだと言っても過言ではない。そんな生き様なのだから。

 

 

「ま、マスター?」

 

「ん、何?」

 

だからシンドバッドは、シェヘラザードの首筋に手を添えて、自分の方に抱き寄せると、無理矢理胸に抱え込んだ。まるで猫や犬を抱き寄せるかのような粗雑な、何時もと全く異なる抱き寄せ方に、そしてこのタイミングでのその行動に、シェヘラザードは思わず疑問符を浮かべてしまう。

 

 

「あの、これは?」

 

「……あっち見ないで、俺を見てよ」

 

少しだけ焚き火から離れているのに赤くなった顔で、シンドバッドは自分の心を素直に口にした。

 

なんか嫌だった。あのすごいアーラシュのことをシェヘラザードが見ている目は、好きじゃなかった。リツカと話している時に向ける目とは違ったから。

 

「……はい、失礼いたしました、我が王。」

 

シェヘラザードは一瞬だけ、キョトンと目を丸くするものの、直様にこやかに、たおやかな笑みを浮かべてそう返す。

 

そうするとシンドバッドは不思議と嬉しくなって、きっとこれからも楽しい思い出ができるのだろうと、そう根拠なく思うのだった。

 

 

 




でも次から三蔵ちゃん合流の話だゾ

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