[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
囚われたハサンを助ける。そんな簡単とは言わないが、わかりやすい任務は、依頼してきたハサンというサーヴァントと共に行われた。何でも襲名制という形のものでサーヴァントをやっており、そのために同じ名前のサーヴァントがたくさんいるとのことだ。
敵の砦に捕らえられている以上、救出は難しいことではあるが、あのギフトというものを持っていないサーヴァントすらいない砦であれば問題はなかった。
ハサンとの情報共有で、獅子王の円卓に残る騎士の数と名前が分かり、ベディヴィエールの知識も相成って、奇襲という意味で最も脅威度が高い弓兵のトリスタンを先につぶせたのは、まさに僥倖といえるであろう。
だからこそ、この砦へと攻め込むときも、3人を外に残したうえで、高い塀を音もなく飛び越えて、中へと入っていくことができた。
「む、この砦のつくりはなかなか難解ですな、まるでまっすぐ歩いているようで少しずつ下っている。今は地下3階ほどですな」
「ほ、本当ですか?」
「全然気づかなかった」
こういった情報に関してすごく詳しいハサンというサーヴァント、強さは正直そんなにすごく見えない、シンドバッドは正面から殴り合えば勝てそうだと思えるほどには。彼は呪腕の呪腕たる所以を知らないのである種当然の判断ではあったが。
しかし、その情報を集める能力というのは非常に高くみており、こういったサーヴァントもいるのだと改めて思ったのであった。
「あら、マスターは私じゃ満足できないのかしら?」
「そうじゃない、マタ・ハリにはいつも世話になってるから」
「そう、わかればいいわ」
隠れて情報を集めるのと、紛れて情報を集めるのはどちらもやり方が違うだけなのだ。
さて、そんな風に幾何も地下牢を進んでいくと
「この先で戦闘の音がしますな」
感知にも優れるハサンのその声を頼りに進んでいくと、そこには2人のサーヴァントしかも不思議な様相の者たちがいた。
「ええーい! ああ、もうここどこー!」
「三蔵よ、少し静かにしてくれ。俺たちの方に死霊がわんさか寄ってきておる」
その姿は、シンドバッドにとって忘れられないものであった。黒く長い濡羽のような髪に、編み笠をかぶり、下着と見まごう服に布を羽織っただけの姿。そして優しい慈愛の宿る優しい笑み。玄奘三蔵その人であった。
「お師さん! お師さん! 来てたのか!?」
シンドバッドは、まるで逸れた親を見つけたかのように、片手間に目の前の骸骨の敵を倒して、三蔵の前に走り寄る。
会いたかった。会ってお礼を言いたかった。そんな純粋な気持ちで彼は三蔵の顔を覗き込むが、その瞬間固まる。
ああ、直感でわかった。この目じゃない。自分はこの目で見られたことはないのだと。
「
「いやいや、俺は弟子では、ああまあいい。俺は俵藤太よ。そこな玄奘三蔵法師の元にいる」
ああ、そうか。シンドバッドは、わかってしまった。沙悟浄とおんなじなのだと。あの天竺までの旅路を覚えているのは自分だけであって、羅刹女も紅孩児も、牛魔王も、誰も自分のことを覚えていなかったのだから。
だけど、嬉しかった。会えたことが嬉しかった。沙悟浄や紅孩児と違って、羅刹女みたいに敵じゃないことが嬉しかった。
だから寂しかった。覚えてないことが寂しかった、弟子にして導いてくれないことが寂しかった。
だけど、お師さんからも教わったのだ、辛いときこそ前向きに笑顔で西を目指すのだと。
「はじめまして、俺は藤丸立香、カルデアのマスターだ」
「そのサーヴァントのマシュ・キリエライトです」
「……マスターのシンドバッドだ、うん……そうだ、宜しくな! 二人共!」
そう元気に挨拶して、それで彼は元の位置に戻る、お師さんならリツカやマシュの事もきっと気にいるし、仲良くなれるだろうから。
そうして先に進むと目的のハサンがいたらしい。毒が怖いのでと部屋の入口で待っていると、三蔵法師と呼ぶことにしたお師さんではなく、その一番弟子の藤太という弓兵のサーヴァントから話しかける。
「シンドバッドは、この三蔵と何やら縁でもあるのか?」
鋭いな、シンドバッドは素直にそう思った。まあ弓兵というのは戦略という凄い広い視野が必要なのは、ナポレオンからも聞いていたし、猪八戒も色々なことを見ていた。そういうものなのだろうとシンドバッドは納得して頷くことにする。
「いや、前に少し」
「え? そうなの、うーん……君みたいな頑張ってる人のことを忘れることはないと思うんだけど……んー?」
「まぁ今はどうでもいい、それより二人はこれからも付いてくるのか?」
「もっちろん! 端まで見てきたんだもの、色々言いたいことが出来たわ!」
「この後現地の村々へと赴くのだろう? ならば俺の宝具がきっと喜ばれるだろうからな!」
とびきりの、ああ、わかっているほどに善い人達なのが、シンドバッドにとっては救いだった。なんでも三蔵法師は天竺の修業を終えて帰ってくる途中のつもりらしい。自分たちとの旅の後じゃないけど、きっとたくさん勉強できたんだろう、牛魔王を倒した後のような格好良いお師さんだった。
帰路、の間も特にロマニの導きが悪くて敵に囲まれるなどと言ったこともなく。無事に東の村へと戻ってこれた一行。ハサンたちも連合軍というものを作って聖都と戦う事を決めたようで、今宵は歓迎の祭りだと、藤太が米を無茶苦茶たくさん出して振る舞っている。
楽しそうにおにぎりという料理をするリツカやマシュに、おはぎを作るようにえっちゃんが要求したり、兎に角騒がしくて皆笑っていた。
「シンドバッド。此方にいましたか」
先程突然戻ってきた王様が近寄ってきた。ラムレイの姿は見えないのに、何時もより大きく見える、久しぶりに会うからだろうか。
「どうした、王様?」
「いえ、改めてお礼を。あの袋のおかげで私は任を果たせました」
「シェヘラザードのおかげだ」
後で確認した所、日数で考えれば10人分くらいの食事を食べられていたようですとのことであり、それがシンドバッドを多少疲弊させることにはなったが、十分以上の結果は得られていた。
「いつもの貴方らしくもない。あえて言わせてもらうのならば、自分のサーヴァントとよく話をすると良いでしょう」
それだけ言うと彼女は去っていく。何がしたかったのだろうか? シンドバッドにはわからなかったが、こういう事はよくあることなので、気にすることもなく近くに来ていそうなワイバーンが居ないか、村の入口から外を眺めていると。またもや彼のもとに来客が訪れる。
「マスター、此方にいらしたのですね」
「ポルクス、どうしたの?」
そこに居たのは、この特異点から同行することになったサーヴァントのポルクスだ。今までこういった自由に行動して良い拠点での時間も含めて、カストロとともに居ることが多かった彼女が、此処に居るのはとても珍しく感じた。
「マスターは、何か悩みがあるのでは?」
「ああ、ある。けどどうにもできない」
シンドバッドは別に強がったり虚飾で自分を大きく見せるということをしないので、素直にそう答えると、ポルクスは金色の髪を揺らしながら近寄り、彼の手を取った。
「マスター、私生まれてから殆どずっとお兄様と一緒なんです」
「うん、仲良しだから」
「はいっ! とっても仲良しですけど、そんな兄様は昔……ええ、人間であった兄様はケイローンのところへ修行に行ってしまいました」
双子座として語られる、ポルクスとカストロ。アルゴナウタイで旅をして、テセウスが奪った妹を取り返しに殴り込んだりと、共に冒険した二人。その二人の唯一と言っていい離れていた時期、それはカストロが修行して、ポルクスがポセイドンの加護を得るほどに暴れまわっていた時期だ。
「その時の寂しさは、今でも覚えています、私と兄様はいつでも一緒なのです。だからオケアノスでは」
「気にするな、俺も……サーヴァントの皆と一緒に居なかった時は怖かった」
「マスターは、いま寂しそうです」
ポルクスはシンドバッドが黄昏れている理由は知らなかった。小耳に挟んだ程度の彼の旅路の一部が原因であることは理解していなかった。それでも大事な人においていかれた彼女の経験が、そう直感させていた。
「そういう時は、体を動かして思いっきり暴れるのが1番です」
そしてポルクスはどこまでも単純な解決策を提示してきた。カルデアと同じ様に彼女は拳を構える。拳闘の時間であった。
シンドバッドもそれもそうだなと納得して構えを取る。
「兄様! 合図をお願いします」
「いいだろう、やりすぎるなよ」
そしていつの間にかいたカストロが二人の間に立ち突発的にシンドバッドの訓練が始まるのであった。
エジプト領であるらしい、砂漠への旅の途中。シンドバッドはミストレス・Cの運転する車の助手席に座り流れる景色を眺めていた。他の移動速度に合わせるため、比較的ゆっくりとした速度だが、風当たりが気持ち良い。
「ねぇ、マスター」
「なに、ミストレス・C」
そんな中ミストレス・Cは思い出したかのようにシンドバッドへと声をかける。それは彼女がずっと考えていたことである。
「あの、三蔵ちゃんとやらは、どうかしら?」
「どうって、お師さんはお師さんだ」
シンドバッドは、そうとしか答えられない。此方のことを覚えていない様子だけど、自分が世話になったのだから、しっかりとお礼ができるように頑張らないといけない。
前の旅では沢山世話になったのだから。
「……ねぇ、マスター。わたしも同じだと言ったら驚くかしら?」
「同じ?」
何時もはまっすぐに、此方の顔を覗き込むように話しかけてくる彼女が、運転に集中してるのか、前を見つめながら、少しだけ不安そうにぶっきらぼうに聞いてくるので、シンドバッドは座り直して、彼女の涼し気な横顔を見つめる。
「そうね、わたしが……マスターとそう、前に結婚してたけど。マスターがそれを覚えてないの」
ガタリと、車の後ろで音がしたが、シンドバッドは気にせずに考える。今はミストレス・Cとお話をしているのだ。自分はお師さんと旅をした。でもお師さんは覚えていない。
ミストレス・Cもどこかで自分と結婚してた。でも自分はそれを覚えていない。
「寂しいの?」
「どうかしら、わたしは今のマスターとの関係が好きよ」
サングラスの上から、少しだけ目を此方に向けながら、ミストレス・Cはそう返す。自分で答えは出ているのに聞いてきた。それがよくわからなかったけれど。シンドバッドはわからない時は思ったことを話すことにしているから、そのまま口を開く。
「俺は、ミストレス・Cが悲しいのは嫌だ。覚えてなくてごめんなさい。でも、だったら今をもっと楽しくしよう」
「ええ! それが1番よ。そうでしょう、マスター」
彼女からしたら、それを覚悟で彼に会いに来たのだから。シンドバッドは、そんな事を全く知らないし、知ってもらうつもりもないけど。それでもきっと、今のシンドバッドは自分の言葉が1番届くから。だから彼女はそう口にしたのだ。
「それでいいの。楽しくしてもらうほうが嬉しいでしょう」
「ああ!」
「楽しくしてもらうには、こっちから楽しませないと、そうよね」
「そうだな」
シンドバッドは、彼女の言いたいことはわからなかった。それでも言っていることはわかった。お師さんが覚えていなくて寂しくても、会えたから嬉しい。それならもっと楽しくするために、楽しまないといけない。
この特異点の旅は大変だけれど、それでもできることはあるかも知れない。前みたいに師匠じゃなくても、とっさにお師さんと呼んじゃっても。いまは三蔵法師っていう仲間なのだから。仲間として一緒に旅をすればいいだけだったのだ。
「俺、色々考えすぎてた」
「そうね、似合わないわよ」
「ありがとう、ミストレス・C」
困った時はやっぱり自分のサーヴァントに相談する。そうして此処まで来たのに、ヘンに自分で色々考えようとしてたのが良くなかったみたいだ。自分はまだまだ色々知らないことが多いと言うのに。
「ねぇ、ミストレス・C」
「なにかしら、マスター」
「結婚してた時って、子供何人居た?」
男シンドバッド、子供は結婚したら出来ますよというシェヘラザードの言葉をそのまま信じている模様。
「ろ、6人くらいよ!」
「そっかー楽しみだな」
また、後ろでまたゴンという音がしたが、シンドバッドは気にせず戦いが終わったあとのことに思いを馳せるのであった。
「あいたたたた、ごめん! シンドバッド」
「大丈夫、三蔵法師は怪我はないか」
アトラス院、その入口はなんと落とし穴であった。先行し肩で風を切り歩いていた三蔵法師が先ずそれに引っかかり、マスターなのに前の方に歩いていたシンドバッドは、すぐさまそれを追いかけたのだ。
「マスター! ご無事ですか?」
「死んだか? 人間」
「兄様!」
直様機動力では随一のディオスクロイも駆けつけて、後続も続々と続く。広い砂漠で、多くの障害があるなか、偶然とは言え最適な入り方を見つける三蔵法師に、シンドバッドはやはり御仏の加護ってすごいと改めて思った。
「入り口も見つかったな」
「そうね、それにしてもシンドバッドは面白いサーヴァントを連れてるのね」
ディオスクロイ、というよりもカストロを見ながら彼女は言う。霞む程度の知識ではあるが、サーヴァントというのは、マスターの事を大事にするものではないのかと感じたからだ。
「ああ、大切な仲間だ。シェヘラザードたちとは結婚の約束もしてる」
「ええ、私達とマスターはそれはもう、仲良くやってるわ」
マタ・ハリが踊るように浮いて彼にに近寄り腕を取る。その様子を三蔵法師は少しだけ目を見開いて見ると、困ったような顔をして笑う。
「んー、そっか天竺出身で、奥さん沢山居るのが普通なんだっけ」
「よくわからないけど、そうだ」
「あんっ!」
その言葉を言いながらも、構えていたシンドバッドは、マタ・ハリの腰に手を回しながら後ろに跳び下がった。
「人間! 我らを面白い呼ばわりとは何だ!」
「兄様! そういうところです」
「そういうところだぞ、カストロ」
よくわからなかったが、ポルクスが言うのならば、そうなのだろうと、反射的に返したが、カストロはより怒ってしまったようで、剣を振り回してくる。ポルクスが横から止めてくれるので、マタ・ハリを抱えながら、地下の狭い所で追いかけっ子が始まる。
何でお師さんじゃなくて自分が追いかけられてるのがわからなかったが、シンドバッドはマタ・ハリの助力も得ながら逃げ回るのであった。
「せ、先輩! なんか大変なことに!」
「えっちゃん、危なくなったら止めてあげて。おーい、シンドバッド、先に行くよ」
立香は慣れたもので、マシュの心配を他所に雑にそう呼びかけて奥へと進んでいく、此処に来たいと行ったのは自分なのだから。
三蔵法師は、カルデアのやりとりに目を白黒させながらも、軽く笑って、彼の後を追うことにした。
基本いつでも隣りにいるマタ・ハリさん
アステリオス君を殺したテセウスに昔連れ去られて、オデュッセウスが仲裁して結婚相手が決まった、ディオスクロイの妹を、パリスくんが連れ帰って起こったのがトロイア戦争。
ギリシャ勢は皆顔見知りとか親戚ばっかで大変。