[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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ちょっと変なことやってみました。



女神を落とす時

「よく来ましたね人類最後のマスター、こうして会うのはニ度目ですね」

 

「ああ、そうだな」

 

茹だるような熱と湿気。シンドバッドにはなじみ深いこの暑さ。その中で悠然と自身の神殿を下って此方を睥睨……いや、慈愛の目で見てくる女神ケツァル・コアトル。

鳥の羽で作られた飾りをつけた美しい女神だ。

 

人が神から離れて歩き始めた最初の時代に降り立った女神は、人の最後の勇壮な戦士である人間を、とても愛おしいものを見るような目で見つめていた。

 

「あんたは、なんでこんなことをするんだ、前にも聞いたけど。又聞く」

 

「簡単でーす。だって、そうしないと彼らは戦えないからです。悪い女神にさらわれている。だから戦う訓練をする。あと少しで滅ぶという中で戦う彼らが、希望を持ち続けられるように」

 

それは、人ではありえない視点。世界最古のシュメール文明の地、このメソポタミア文明の地に生きるものは知っている。もう間もなくこの地に逃れられぬ滅びが来ることを。

そんな中でも前を向いて生きることを決めた民は、それでも三女神という暴力を前にして、膝を折りかけた。

 

自分なんかで膝を折ってしまってはいけないのに。あなた達の王様はその先を見ているのに。

 

だから人の勇気を延焼させた。自分という恐怖、それに抗う土壌を作る。燃え尽きてしまう人間もいるであろう、だが、より一層と輝く人間もいるであろう。

 

「わかんねぇ、あんたの言ってることはわかんねぇ」

 

「仕方ありませーん。私は神。神としてこうあるようにと動きます。でも、ルチャは大好きでーす」

 

おちゃらけた様に、いや本心ではあるのだろう、シンドバッドにはそれが分かった。根拠なんてものは持ってないが、そんなものに頼る生き方をしてこなかったのだから。

 

「それじゃあ、なんであっちの町全員にしてやらないんだ、あっちの町の人、泣いてたぞ、悲しんでたぞ!」

 

「だって、戦いを作業にしてしまってはダメでしょう? それは魂が輝く時、一人ひとり大事に楽しく戦わないといけませーん」

 

生贄として出される。それは悲しいことだが、それで救われる命があるならと勇んで自らを差し出す心の強い人もいる。彼らが志願して立ち上がっていけば、そうして残るのは、負い目と引け目で心をぐちゃぐちゃに壊されていく人だけだ。

 

生贄が生きて訓練をしてるなんて知らない。戦いに敗れたらどうなるのかも知らない、だからこそ本気で挑んでくる、本気で敬う。それは複数の用途に無駄なく人間を運用している、かつて王でもあった神の在り方だった。

 

決して蔑ろにしているのでも、弄んでるのでもない、上手に愛でているのだ、彼女は。

 

「あなたも戦いは楽しいでしょう?」

 

「ああ、そうだ、楽しいさ」

 

シンドバッドの本質は変わらない。彼は人間性を獲得するまでに戦いしか知らなかった。つまりは生存と闘争こそが彼の人生そのものであり、この旅路でもそれを続けている。

しかしながら彼はその中で多くのものを手に入れて、多くの目的を見つけて、多くの出会いがあり、いくつかの別れの上で、彼は戦うことの意味を目的を見出していた。

 

ケツァル・コアトルは彼の本質を読み違えていない。楽しみで人間に試練を見出す神は、正しく自身と共感……否、在り方そのものが自身の信徒になりえる人間が、遥かな未来の先にいる事に歓喜していたのだから。

 

「だからこそ、楽しいからこそ戦いをするんじゃない! 戦いが楽しいのは勝った時でもない、守り切ったときだ!」

 

「そう、それがあなたの答えですか」

 

「そうだ!」

 

戦い続けて、およそ同じ時代の人間のスケールから外れて、人の道からも外れて、いろんな助けをもらって這い上がってきた。戦うことは楽しい、でもきっと皆こう言うだろう。

 

「戦いの後が楽しいから戦うんだ! 戦いが楽しいだけで戦うのは終わった!」

 

それは戦うことを知らなかったのに戦っているリツカとマシュ。怖いのになんで戦うのかと聞いた時に教えてくれたこと。それは戦いの後の『楽しい』の為に戦う。

 

「ん~!最高です! 本当に、あなたはきっと旅の中で成長をしたのね!」

 

体を震わせながら、腕を抱き喜びに打ち震えるケツァルコアトル。きっともう一人の少年もそうであろう、戦えない無力な人間が、それでも立ち上がって戦うのだろう。

 

戦わなくてよい時代に生まれた人間が、戦うために震えをこらえて立ち上がる。嗚呼、なんて素晴らしい!

 

戦うことしかできない人間が、戦うことの無意味さを知って、それでも戦う。ああ、とても良い!

 

「お姉さん感動しましたー! でもリングに上がったのならば、やるべきことは一つでーす!」

 

ああ、人よ。どうか死なないでくれ、ずっと広がっていろんなものを作り出していってくれ。弱い物醜い物、そんなものでも、どこまで飛び越えていくような。

 

シンドバッドは構える、そして小さく息を吸う。

 

「令呪を持って命ずる、シェヘラザード、皆。女神以外を止めてくれ」

 

それは、シンドバッドにとっての決別だった。

これは無意味な命令だった。無意味な戦いだった。無駄な行いだった。

もう戦う必要はないほどに力にも仲間にも囲われて、戦わないと自分を見出せないわけではない、戦うのが楽しいわけでもない。

 

それでも、シンドバッドは戦うのだ。

 

「お前の考えは嫌いだ! 人間は! 人間の物だ! 魔術王のものでも! 神のものでも! ない!」

 

それが答えだ。

 

結局難しいことはわからない、でも間違っていることをやらされるのが嫌だから、それに抗うのだ。ただただ、お前の思い通りにはならないと意地を見せるために足掻くのだ。

嫌なことをするように言ってくるから殴るのだ。それがやりすぎてたり間違ってたら仲間が止めてくれる。人は一人じゃどこまでも未完成だけど、役割を分け合えるのだから。

 

 

 

強力なサーヴァントを数十のワイバーンを抑えるのだけに任せて、シンドバッドはケツァル・コアトルに向けて飛び込む。今までで最高の踏み込みだった。きっと間違いなく会心の出来だった。

 

それでも女神からすれば遅いのだろう。

 

前にエリドゥに来た時、楽しそうにずっと格下に技をかけたり、わざと隙を作っていた。戦いそのものを楽しむために。必死で戦う人間を愛でるために。

 

そんな風になってたまるかとばかりに、シンドバッドは踏み込む。そっちがその気なら、こっちもその気だと。

こちらに向けて構えて全力で受け止めようとする女神からぶつかるのを避けるように、横に切り返して距離を取る。一撃も当てずに彼は逃げたのだ。

 

「そんなぁ! イケずでーす!」

 

そう、シンドバッドはその勢いでそのまま、全力で後ろに飛びのいたのだ。地面を踏みこみ一目散女神から離れるように。

 

「うーん、それならこっちも」

 

ケツァル・コアトルは、いつもの逃げようとする生贄にするように、普通に近づいて、掴んで、空中に投げ飛ばそうと、一瞬で距離をつめる。ジャングルであろうとリングの上であろうと、彼女を止められるものは居なかった。

 

そして、瞬きの間に追いついて、シンドバッドの腰へと手を伸ばす。これで終わりね。と彼女が思った瞬間。彼女の手はするりと、いやぬるりと手が外された。

 

まるで水の雫が地面に落ちるかの様に、シンドバッドは体を捻りながら、地面へと体を折り畳んでいた。

 

「見事な回避でーす、お姉さんちょっとだけ驚いちゃいました」

 

人間と戦うとき、彼女は武器をパイプ椅子以外は使わない。そうでないと楽しめないからだ。

今回も素手で掴もうと加減して抑え込もうとしたが、見たことのない避け方で外されてしまった。柔軟性と摩擦による回避である。

 

「異種格闘技対決ですか? 受けて立ちまーす!」

 

「っし!」

 

強い、圧倒的に強い敵だ。今まで戦った敵では一番だとシンドバッドは確信する。いまの掴もうとしたものも、取られたら負けてたような背筋の冷えを感じた。

それでも戦い続けるしかない。まともに一撃もらえばそれで終わりだから、耐えて逃げるしかない。

 

「んんー見えてきました。回転と柔軟性。それからその服ですね!」

 

ケツァル・コアトルにして、シンドバッドの物は初見の武術形式だった。しかしだからなんだというのだ。時に地を這い、体をひねり、こちらのチョップや蹴りを交わしていくシンドバッドに、ケツァル・コアトルは慣れたように笑う。

 

「でもお姉さん、その程度でどうにかなるって思われるなんて、大変不本意でーす!」

 

しかし、それだけだった、彼女は直ぐにシンドバッドの動きを読み、体重の移動先を見て、理解した。動きは体幹の軸で体重を移動し、その軸で回って攻撃をいなしている。ならば軸の移動先に、彼女は殺す気で腕を振り下ろした。

当たれば確実に殺せるが、殺してもすぐに奮励して生き返らせればよいだけだ。

 

シンドバッドは、その攻撃をよけることはできなかった。しかし、彼は己の肘と腕で確かに反らした、受け流したのである。奮励が発動した様子も、彼自身が食いしばった様子もない。だが、彼女は力加減を間違えたつもりはない。

 

だが彼女が見誤っていたとすれば彼に『ついている』ものであろう。ケツァル・コアトルは創生の神話で王だった。そして悪と戦う英雄でもあった。それを見逃さなかった女がいた。それだけだ。

 

彼はそのまま流れるように、しびれる右腕ではなく、左手で拳を作る。そして直様ケツァルコアトルの振り下ろしてきた、弾いた腕に向けて拳を叩き込む。

力と何よりも初速に優れた気合を込めた拳闘の拳だ。

 

そして、開いたボディに向けて、全身を沈め力の流れを集中させて、師より習った肘鉄を女神の臍に向けて打ち込んだ。

 

僅か半歩の後退。それが彼の得た成果だった、しかしながら元よりシンドバッドはケツァル・コアトルに攻撃が効くとは思っていないし、そう聞いている。故に直様指を相手に向けると叫ぶ。

 

「ガンド!」

 

彼女に痛みはない。彼女は善の神であり、最高神だ。善の最高の存在である彼女を倒すには、悪が必要だ。悪でなければ彼女を打倒できない。だがそんなことはどうでもよかった。

 

彼にはあの燃える街で、自分の運命と戦った日に。自分の攻撃がほとんど通じず死にかけた時には、もっとひどい絶望があった。巌のような腕の攻撃は何もかもが致死性で、こちらの攻撃は効いている気がしなかった。

しかし今は違う、多くのものを彼は持っている。

 

楽しむという人間に備わった機能で磨いてきた一つの武術だけではない。旅で多くの物を得たのだから。

 

人を壊すための技、素早く拳で戦う技。この丈夫な服と体。

だからこそ、彼の手から出た丸い呪いが、一瞬だけケツァルコアトルを止める。

 

彼は険しい旅路を踏破したのだ。

 

「光よ、ここに!」

 

「罪を、ここに!」

 

ワイバーンを片付けて、増援をジャガーマンと弁慶に任せたディオスクロイは、彼らが認めたマスターの敵へと上空より強襲をかける。その勢いと完全に同時にニ箇所へ三連撃。そして痺れた身体。彼女は痛みを一切覚えないまま地面に仰向けに倒れ込む。

 

「凄いコンビネーションでーす! それも空中技! 双子! スター選手も夢じゃないね!」

 

「オーダーチェンジ!」

 

その言葉とともに、双神は消えてシェヘラザードがふわりとシンドバッドのそばに現れる。しかし彼女は宝具など打たずにそこで驚いたように微笑み叫んだ。

 

「پایین!」

 

シンドバッドは、1度大きく息を吸い、2時の方角を見て呼び寄せる。彼の仲間で最も有効な攻撃ができるサーヴァントを。

 

「ミストレス・C!!」

 

「纏うは血の色、息づくは夜。狙った獲物は逃さない。そう! これが今年の冬の鋼鉄の処女!『夜闇を駆ける鉄処女』!」

 

ディオスクロイの3連撃で体を倒した彼女の上に、空から赤い4輪が降り注ぐ。流石の彼女も根っからの悪の宝具による攻撃を受けダメージが入ってしまうであろう。彼女はそういう存在だ。

 

「こんなの反則でーす! パイプ椅子どころの話じゃありませーん! でもルール無用なヒールをそちらがやる以上、こっちも受けて立ちまぁす!」

 

だが、それでも彼女は倒せない。5臓6腑に衝撃が走り、彼女の身体を地面へと埋め込んでいく。それでも彼女は動かす力をすべて右腕一本に集めて車を投げ飛ばした。

 

多少消耗はしたが、後数秒もすれば痺れも取れて、起き上がれるであろう。そしてこのシンドバッドの連れている7騎のサーヴァントで攻撃が彼女に通るのは、今の車の持ち主だけ。

それがわかった彼女は、少しだけの落胆と、無謀に挑みかかってくる人間を慈しむ思いで胸がいっぱいだった。その思いを味わいながら身体を起こそうと力をこめる。

 

 

「はぁい、女神様。私は陽の目を持つ女よ、おそろいね?」

 

しかし、そんな彼女にマタ・ハリは、ふわりと忍び寄ってしゃがみ込んで、突然耳に甘噛みをしてそう囁いた。ゾワリと中々感じたことのない不思議な感覚が女神を支配する。これは攻撃ではなく、唯の親愛を示す愛撫にすぎない。悪以外への絶対性は害に対してであり、防げるものではなかった。

 

普段は街での情報収集が常だったマタ・ハリの8面六臂の大活躍だった。

 

 

「あああああん! お姉さんびっくりしました! 耳はズルいです!」

 

そして、その稼いだ時間こそが9死に一生を得ることを可能にした。そう場は整い、終わったのだ。

 

「10……今宵はここまで」

 

その言葉を聞いた瞬間、ケツァル・コアトルは凄まじい悪寒を覚えて動き始めた身体を跳ね起こして、直ぐに構え直した。

 

「リツカから聞いたぞ、これで10秒だ」

 

「? それはどういうことですか?」

 

彼女がルール無用の異種格闘技と認めて、そして地面に脚以外をつけて、10秒の間倒れていた。事実だけを書くとそういうことになる。

 

「ポルクスは言ってた、今のリングの上で戦うルールは、地面に倒れたら負けだって」

 

「カルデアの資料で確認しました、兄様とマスターと一緒に」

 

「ああ、そうだったな、ポルクス。全く人間は惰弱になったものだ!」

 

ケツァル・コアトルは、何か嫌な予感を覚えた。

そうまるで。アステカとマヤ文明がごっちゃになった観光客が、神殿の観光をしているのを知ったときのような。そんな微妙な予感だ。

 

「シェヘラザードが、ずっと数えてたぞ」

 

「聞こえるように、そして『貴方のこの世界』を騙すようにですが。しっかり数えてました」

 

シェヘラザードは、戦いに参加しないように命令を受けた立ち位置の者は────世界を騙すほどの語りを用いて────自然に語っていた。その声は女神の耳朶にも確かに響いていた、思い返せば数字は聞こえてきていた。

まるでそれが『そこ』にあってもおかしくないような形で1から10までがだ。

 

「それって、俺達の勝ちだよな! ルチャってプロレスってやつだろ? 紐に囲まれた所で戦うやつ」

 

そして、藤丸立香という少年は、格闘技に関しては正直あまり詳しくなかった。ポルクスと一緒に見た、現代の拳闘の戦い(ボクシング)と、ルチャ(プロレス)が、シンドバッド知識レベルで明確な差別化が指摘できるほどのものはなかった。

 

倒れたらカウントを数える奴というくくりだった。ホールドして3秒ではなく、ノックダウン10秒ルールだった。

彼らの異種格闘技の知識はパンクラチオン(腕を上げて降参したら負け)で止まっていた。

 

ケツァル・コアトルはシンドバッドが挑んできた異種格闘技を認めて、ルール違反を認めて、それでも勝ってみせると豪語して。10秒間地面に横たわっていた。

 

ずるくて、卑怯! 策を弄しに弄した搦め手!!

それでもたしかにシンドバッドは自分の体に攻撃を当てて、追撃もして、体の動きを縛った。そのあと10秒起き上がれなかったのは彼女が何をするのかと、楽しんでしまったから。

 

好き勝手にやった人間が、ルールを押し付けてきた。それは神の愛を跳ね除けるために。

 

「んー! お姉さんびっくりしました!」

 

「? もしかしてなんか違ってたか?」

 

「いえ、もうこれでいいわ! はい、たしかに私の負けデース! 油断し過ぎちゃいましたね」

 

人はもう目の前だけを見て走っている。他のものは顧みないで。それを上からいじって遊ぼうとした自分の負けだ。

いつだって人間はそう。思いもよらないことで争い諍って、それがとても愛おしい。

 

「良し! それじゃあ! 力を貸してくれ! 神様!」

 

酷く歪な、人類最後の勇士。

その在り方を異教の女神は愛おし気に見つめるのであった。

 

 

 

「いいわ。お姉さん、頑張っちゃう!」

 

 

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