[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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ガチャを回せ


裏:恋愛観と死生観について

「マシュ! 防御!」

 

 

「へぇ、すごい反応だ、素直に驚いたよ、なんだかんだで6つの特異点を踏破してきただけのことはあるようだね」

 

杉の森の中、周囲には何がいるかもわからない、地の利もない。そんな中で立香は敵の罠にはまってしまっていた。彼は既にこの状況が相当やばいことをしっかり認識している。肉食獣の巣に知らずに入ってしまったような、そんな恐怖に背筋が凍りそうになる。

 

ドクターから彼はきっと味方だよ。とお墨付きを得ていたエルキドゥが、いきなりドクター自身により、彼は敵らしい!! 気を付けて! といわれたのであるのから。正直巫山戯るなと言いたいくらいであった。

そしてその通信で歩みを止めた立香に対して、変わらず微笑を浮かべていたエルキドゥは、一切気配も浮かべた微笑を消すこともなく、攻撃を仕掛けてきていたのだから。

 

 

「メートル! よくわからんが敵だ! 下がれ!」

 

「マスター、指示を」

 

立香の編成はシンドバッドのそれに比べて、圧倒的に戦闘に特化している。それでも慣れない森の中なので、自分の足で進んでいた彼は、ラムレイに乗るアルトリアの後ろの、さらにマシュの後ろで守られながら、敵となったエルキドゥを睨む。

 

「あと少しだったんだけど、まぁいいか。僕はキングゥ。母さんの子さ」

 

「皆! 敵は強い! 全開で行くぞ!」

 

えっちゃんとアルトリアがすさまじい勢いで彼の魔力を持って行く。並の魔術師どころか、一流の魔術師でさえ意識を持って行かれるような消費量に、それでも彼は表情を変えずに、ナポレオンと共に後ろに下がる。

まずは敵の武器を見るべきだ。先ほどの鎖のようなものだけなら良いが、場合によっては、攻撃の始点を潰す必要がある事もある、マシュは前にいてもらうべきか少しばかり逡巡してしまう。

 

 

「いや、思った以上だ、訂正するよ、カルデアのマスター。確かに君は母さんと戦いに来るだけの力はある。君の言葉で言うと、土俵に上ろうとすることはできるよ」

 

 

緑髪の少年は、楽しそうに、そして温度を感じられない笑みを浮かべて、腕を横に振り払う。すると無数の楔のようなものが現れて、四方八方より此方へと襲いかかってくる。金色の光沢に反射した光はまさに死神の鎌の光と相違はなかった。

 

ナポレオンが撃ち落とすのが最も有効な様子だが、えっちゃんは十分近接戦闘をできているし、アルトリアも、回避しながら隙を伺えている。

 

「おや、この少女も人間なんだろ? よく戦っているけど、恐怖で膝が震えているよ」

 

マシュは状況に混乱していた。敵を敵として切り替えるには、半日以上楽しくおしゃべりした今、エルキドゥは彼女にとっては既に旅の同行者だった。直様にはいそうですかと刃を向けるのは難しい。それでも必要だと彼女はわかっているから、身体だけでも動かそうと踏ん張っている。

 

何よりも、この神代の魔力が濃すぎる環境に、未だ完全には体が慣れきれていないのか、調子が上がらなかった。

 

「【マシュ! 避けろ!】」

 

「きゃぁぁ!」

 

その刹那、その一撃は別に致命傷ではなかった。立香は自身でも半場無意識に令呪を行使して彼女を遠ざけたからだ。それでも彼女はその遅れと力技での回避運動を突かれて、吹っ飛ばされてしまう。立香の目をしても追いきれない、凄まじい速力の攻撃だった。

 

マシュが吹き飛んだことによりエルキドゥ、否キングゥは笑みを今までの微笑から邪悪なそれへと性質を変えた。酷薄で見下すようなそんなものへと。キングゥはマシュの崩れた体勢を逃さないとばかりに、すさまじい速度で飛び込んでいくが。

 

「功を焦ったな!」

 

「逃しません!」

 

えっちゃんが鎖を切り飛ばすのではなく、自身の得物に絡みつけて雷撃を流しながら渾身の力で引っ張った。バーサーカーの膂力に引かれたキングゥは、数瞬もせずに切り離したが、その半呼吸に満たない隙を、ラムレイに乗ったアルトリアは見逃さずに、必殺のチャージをお見舞いしてやった。

 

「っくぅ! 神の成り損ない如きに!?」

 

それは数多の敵を屠ってきた、渾身とまでは行かないが、事実として損害を与えるには十分以上の攻撃であった。左腕の布を赤く染めるも、直様血の噴出は止まっていく。サーヴァント特有の回復速度を鼻で笑うようなその速度に、立香の目はある存在の可能性を感じ取った。

 

 

「傷が、ふさがった!」

 

『うわぁ!リツカ君!聖杯反応だ!』

 

 

それは、この旅での目的の1つの聖杯であり、そして今までこれほどまでに早く聖杯を見つけられたのは、オケアノスだけだった。

あれはあの時代独自の聖杯であり、直接的に必要な物ではなかったが、今回のこれは敵が持っている以上、真贋に拘らず最低でも回収すべきものである。

 

勿論これを回収しても、エルサレムのように他の原因を排除しなければ、修復は完了しないであろう、しかし大きな前進になるのは事実だ。ならば此処はいきなりだが踏ん張りどころでもある。

 

「せ、先輩!」

 

「マシュ、大丈夫か!?」

 

 

既に令呪を1画切っている。それ自体は悪い判断ではなかった。聖杯を持つ相手に令呪を切って戦闘を有利にしているのだ、問題はないであろう。

だが、現状千日手だった。

 

ナポレオンの砲撃では鎖への対応としてはともかく、本体には当たらない距離で、

えっちゃんは速度も攻撃もかみ合っているが、即ち天秤は傾いていないということであり、このままでは決定打にはならない。

アルトリアが遊撃のように中距離で圧をかけて、それを警戒して若干鈍っているキングゥ相手に何とか持っている状況だ。

 

マシュがマスターの守りに専念して、前線の戦いに合流できないほどのレベルである以上、膠着状態、いや向こうには聖杯という無限のリソースがある以上、こちらの魔力が尽きていずれ負けてしまうであろう。

 

 

「メートル、どうした?」

 

「……マシュが、いやなんでも」

 

「おいおいメートル、水臭いぜ。あんたは俺たちの主なんだから、ドーンと構えてな。今までだってできたんだ、なんも心配はいらない」

 

思えば、彼はマシュの次に長くいるサーヴァントだった。勉強は、とりわけ世界史はそこまで得意でもなかった彼でも、その名前をしっかり知っていた大英雄。フランスの英雄ならばとりあえず彼と言えるほどの存在だ。

そんなナポレオンはいつも立香の足りないもの、欲しいものを持ってきてくれていた。

不可能を可能にする、可能性の虹をかける男という看板に一切の偽りはなかった。

 

ならばこそ、立香も可能性を見せなければならない。

ここで聖杯を取れれば、マシュの負担は小さくなる。第7特異点という魔境もそうだが、更にその後にまだ魔術王も控えている。

 

いやそんなことじゃない、ただマシュを目の前の敵は攻撃してきた。

こっちに親しげに接してきてからだなんて、なにか事情はきっとあるだろう、それは勿論後で聞く。だけど。

 

「俺のマシュにケガさせたんだ! ナポレオン! 一発当ててやんなきゃ、筋が通らない!」

 

「そうだ、メートル! お前はいつだって全力で前を見て走っていけ! 尻拭いは俺がやってやるからな!」

 

立香はウルクに着いてたった7時間で、3画しかない令呪の2画目を使う。言い訳ならば、十分ある。英雄王並みの強敵相手で、聖杯を持っている、誘い込まれた場所での戦闘。味方と逸れている。いや、何も無くてもそうしてたかもしれない。

大切なマシュの為に彼はここまで頑張ってきたんだから。燃える管制室で手を取ったときから、彼は首ったけなのだから。

 

「情熱的に誰かを愛する! 俺はそういう男だ! 呼ばれた理由もきっとそれだろうな! 俺達の縁はきっとそれさ!」

 

「ああ! 行くぞ!」

 

「凱旋を高らかに告げる虹弓!!」

 

そうして放たれる防御を貫くその一撃は、確かにキングゥの体をとらえたが、

 

「すまない、逃げられたようだ」

 

光が収まった後には底に誰も居なかった。そして上空には飛行機雲が遠くへと伸びている。

 

「いや、大丈夫……そんな気がする」

 

キングゥはその攻撃を食らってしまってはいけないという、謎の悪寒を感じ取り全力の逃走を図った。捨て台詞すら残さずにだ。

 

だが、全サーヴァントでも最も強力な存在に比肩するエルキドゥを、その聖杯で強化改造したものを、2016年のマスターが2画の令呪だけで追い払ったのだ。

 

それはまさに、このウルクに上がる反撃の狼煙であった。

 

 

「っち、流石に遊びすぎたか。カルデア、たしかに油断ならないね。アイツとも合流するだろうし……仕方がない母さんが起きるまで、手出しはなるべく控えるべきか」

 

なにせ、何よりも貴重である『時間』を立香は相手から勝ち取ったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お届け物だ」

 

現在のアラビア半島その付け根、地球上でも有数の肥沃な大地がメソポタミアだ。川に挟まれた場所という意味の中州にある巨大都市、それが英雄王、否、賢王が治世するウルクだ。

 

木材という加工しやすく燃料にもなる資源が慢性的に不足している土地だが、穀物も、それに伴い、家畜も、何よりも水と泥は無数にあるこの地域は。希望と笑顔にあふれて人々は活気づいて日々を謳歌していた。

なにやらすごい女神に狙われ続けていて、現に北の壁は大変だ。だが、それでも民は笑う。彼らの王様が、この後最後まで戦うか? と本気で聞いてきたのならば、民はついていくだけなのだから。

 

そんな王様がここ半年新しい配下をたくさん雇った。あからさまにこの辺に住む人間と顔のつくりが違う者たちをだ。噂に聞く西の果てのナイル川の者なのであろうか? ともかく服装も顔立ちも違う者たちが大活躍をするという噂は、このウルクでも直ぐに広まった。なにせ彼ら彼女らは目立つからだ。

 

それでも、そんな新しいニュースにもなれ、ウルクの民に新たな常識が根付いた頃に。

久しぶりに新たな異国顔の集団が現れた。何でもカルデアという旅の一座らしく、街の雑用を何でも引き受けてくれるという触れ込みだ。

男が4人、女が7人の集団は、見事に直様生活に溶け込んでいた。

 

「あっ、シンドバッド君」

 

「川で洗濯してきた、清潔な布を受け取ってきた」

 

諍い事も子守も、浮気調査までこなす中、特に黒髪の少年二人と桃髪の少女は愛想がよく人気だった。その人気なシンドバッドは、朝注文された布を配達先の建物まで運んできたのである。

 

「え!? シンドバッド君きたの?」

 

「何何? 店長また指名してたの?」

 

時刻は昼前といったところ、飲食店であれば仕込みなどで忙しい時間帯であろうが、ここは夜に営業している。少し前に昨夜の客を送り出し、仮眠や休憩などの時間帯である。

 

「これからまだ仕事なの?」

 

「んー、昼過ぎにシドゥリが何か持ってくるまで、多分今日は何もないぞ」

 

雑用に非常に適正のある彼のサーヴァントが手分けして、多くのことをやっている為に。こうして彼の手が度々空くほどに、かなり効率よく雑用をこなせていた。

 

「あら? それじゃあ少し休んでいきませんか?」

 

「私、異国のお話聞きたいわ!?」

 

「仲良くなりましょ? あの娘とマーリンさんとみたいに、ね?」

 

ここに朝1番の依頼で、布の洗濯とそれを乾かして持ってくる仕事を頼まれるのはよくある事なのだが、毎度のように彼は囲まれてしまっていた。

 

それは彼が、このような職業やあり方をしている女性に対して、どうにも好かれやすいような所作を教え込まれているからなのであろう。

 

「おい、人間! 早くしろ! ポルクスが待っているぞ!」

 

しかし、シンドバッドが返事をする前に、迎えがやってきてしまった。いつも怒ったように荒々しいカストロであり、彼もまた密かに視線を集めていた。それ自体は別段珍しいこともでもないであろう、何分彼は目立つのだから。

 

「わかった……御免。それじゃあ、行くけど、どうか本当の名前だけでも教えてくれないか?」

 

「え?」

 

「今晩眠るときに、貴方のことを思って眠れるように」

 

全て、シンドバッドはこういった風に言われたのならば、身体に撓垂れ掛かかられたのならば、こういった返答をするべきであると。残念なことに教え込まれているので、言う成れば別れの社交辞令だと思ってやっている。

ちょっとぎこちないが恥じらいなく真剣に言っているのだ。

 

色めきだす女性たちへと手を振り、カストルを連れ立ってシンドバッドは、店を後にして。

 

「お前……いや、何も言うまい」

 

「カストロも、店の部屋で話したかったのか?」

 

「行かん!……なぁ、人間。今までポルクスは共に来てはいないか?」

 

「いや、この仕事の時にポルクスは一緒に来てないぞ」

 

「そうか……ポルクスはな俺と同じものが好きになるのだ。嫁取りのときのようにな。それ故にいつの間にか両方いける口になってしまってな……」

 

「んー?」

 

ともかく、主従は大使館へと戻るのであった。平和なウルクの一コマはあと半月ほどは保たれるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて、空をイシュタルが飛行機雲を作りながら飛び、魔獣が源氏に討たれる。シンドバッドは木材を運ぶ。のどかな風景があった。

 

「このまま、こんな風に過ごせたらと、私は思ってしまいます」

 

シェヘラザードは切り株に腰掛けて、片手間にジンを動かしながら、そう言い出した。シンドバッドも、マタ・ハリも、ミストレス・Cも、ディオスクロイも彼女のことを見つめる。全員が既に片手間に作業ができるほど手慣れているからだ。

 

それぞれが思っていることは異なっているが、彼女の発言自体を真っ向から否定するものはいなかった。

 

「すみません、時代が違えど私にとってこの空気は、哀愁を覚えてしまうようです」

 

それだけ言うと、彼女は立ち上がり作業に戻る。シンドバッドはその言葉で考える。

 

後どれだけみんなと一緒に居れるのだろうかと。別に戦ってその結果いつか終わってしまうのは、怖いし抗うけど、そういうものだとわかっている。

 

でも、その時にみんなが笑っていないのは嫌だなぁ。

それはこの場にいるサーヴァントだけではない、皆だ。カルデアのスタッフという数十名の人数だが、それはとどのつまり全人類と言う意味でもあった。

 

でもきっと、寂しいを理由に止まることはない、シンドバッドはもうそうやっては生きられない、好きなことをして、好きなように戦い、好きに考えて、生き続けるのだ。彼が知らない言葉で言うのならば刹那的で享楽的なのだ。

 

明日すごい強い敵が出てきて勝てなくても、最後まで勝つために戦う。

今日を全力で生きるから、明日も全力で生きる。

この瞬間が楽しいのは、今まで皆と頑張ってきたから。

 

戦いに勝っても、もうそんなに長くないかもしれない、でも問題はない。

戦ってきたことが楽しいのだから、此処まで色々あったけど走ってこれたのが嬉しいから。

ベッドの上で死ねることは、幸せなんだってそういう話を聞いた。勝てばそれができるのらしいし、自分は幸せなんだろう。シンドバッドは根拠もなくそう思った。

 

「死んだら、今まであってきたサーヴァント達やお師さんにも、またあえるのかなぁ」

 

少しだけ楽しみが出来たような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、シンドバッドとリツカのお家、カルデア大使館。んーすごいネー!」

 

女神を味方につけた日の夜、ウルクに戻った一行は報告を終え、拠点へとに戻ってきていた。ケツァル・コアトルは先ほどから、シンドバッドの近くをずっとうろうろしていたが、部屋の見学のつもりか、今は2階3階と駆け回っている。

 

「人間よ、いやあえて言おう。今を生きる人間である我らの召喚主よ。ゆめゆめ、忘れぬことだ……女神に気に入られると、幸福か破滅のどちらかしかないぞ」

 

珍しいというレベルではない、おそらく初めての。カストロからの優しい言色での発言に、シンドバッドは首をかしげる。

 

なんかちょっと嫌な女神だった。だから戦った。頑張ってみんなで倒した。そしたら仲間になった。それでいいじゃないかという程度の、非常にシンプルな理解をしているシンドバッドには、生憎と伝わり切らなかった様子だが。

 

「部屋は空いてるけど、ケツァル・コアトルはここで寝るのか?」

 

そもそも女神って寝るのかという疑問もあるが、彼女は今は味方でも、元は敵対してウルクを滅ぼそうとしていた3女神同盟の一員。端的に言ってウルクの民へと合わせる顔がないのである。

 

まぁウルクの人も直接的にエリドゥやウルに親戚がいる人以外は、大した敵意もなく、へーそうなんだ程度の反応であろうが。

神が身近である為、異国の神が一悶着の後に味方してくれるという状況こそ喜びはすれ、人を攫っていくのには、そこまで大きな違和感がないのであろう。

なにせ、被害人数で言えば圧倒的に北の魔獣の方が多いのもある。

 

「ええ、ここで寝かせてもらうわ! それじゃあ宿代替わりに……」

 

そういったケツァル・コアトルはぐいっと顔をシンドバッドに寄せて、両頬へと手を当て抑え込む。シンドバッドは抵抗もせず受け入れていたが、周囲のサーヴァントは色々な意味で気が気ではなかった。

 

「んー、シンドバッド。あなた……もう殆どドラゴンになってますね」

 

ケツァルコアトルは、彼の瞳を覗き込みながら、急に真面目な顔に戻ってそう告げた。

 

「ああ、わかるのか」

 

シンドバッドは上着を少し開けさせると、そのままアンダーウェアもめくる。脱ぐことに羞恥心を覚えない彼は平然と肌を見せつけた。そうして顕になった彼の肌は、既に竜鱗のような模様が出始めて、硬質化していた。色も彼の肌の色に緑や赤色を混ぜたような、濁った色へと変わり果てている。

 

「痛みはないのですか?」

 

「ああ、全く無い。この服を着てれば、まだしばらくは大丈夫だ」

 

服を着ながらそう答えるシンドバッド。後3か月もしたら、彼は人でなくなる。しかしそれよりも前にこの戦いは終わる。何ならば、死んでいる可能性だって普通にある。なれば問題などなかった。

 

「シンドバッド、賢しく勇敢な人よ、貴方は私のモノになる気はありませんか?」

 

「何だそれ?」

 

ケツァル・コアトルは神霊だ。自身の分霊をそのまま送り込めるほど強大な神であり、太陽と金星の神性であり、信仰が途絶えた今も太陽として人を見守っている。自身の明確な領域を持つ神だ。故にこそこの誘いは願望などではなく、事実としてできるものだ。

 

「魔術王を倒した後でもかまいません! 頷いてくれれば迎えに行きます! 勿論貴方が望めばサーヴァントも一緒で構いませんよ」

 

覗き込んだ世界で、人間の営みを見つめて。なぜかプロレスにドハマリしてしまった女神は真面目にそして少しだけ茶化しながらそう紡いだ。

 

「私の元では、人を喰う事も……まぁ厳密には私の領分とは相反しているのですけど、そんなに珍しいことではありません! 皆で幸せに戦ったり過ごせます」

 

「いやだ」

 

神に見初められそうになって、その事実をわかっている彼のサーヴァント達が口を挟まなかった。それは彼女たちにとっても悪い提案ではないのであろう。それでも彼は嫌と感じたから断った。

 

「別に、ケツァル・コアトルの事は嫌いじゃない。でもそれは違う。上手くいえないけど俺の力で、俺達の力で掴んでない」

 

わかっていない彼はそう言って断った。きっと自分のことを思って、自分をどこかで死なないようにしてくれるのであろう。それは違う気がした。頑張っているんじゃないからだ。

 

「だって、俺はまだ死んでない。最後まで行ってない。俺の旅は、終わるとことんまでで旅なんだ。最後まで行ってないのにやめられない」

 

「それならば、貴方が死ぬ時に迎えに行きましょう」

 

「それはもう、俺の旅じゃない。先が天竺じゃないなら、川で旅は終わりだった」

 

楽しく今を生きる。頑張ってどこまでも走る。それが彼の旅だった。色んなものを色んな人から受け取って。兎に角頑張って奥さんを大事にするように言われた。

 

だから、最後の時まで走り抜けたかった。行き先がわからない死ぬという事も実はやってみたかった。

 

ある種の歪みだった。大切なものがあるから、失いたくないものがあるから。だから人は生きるけど。彼は今日大事にした以上に明日も大事にする。残してしまうことに後悔がないほどに彼は、サーヴァントを仲間を皆をその瞬間その瞬間に大事にしてしまう。

 

最後まで楽しく生きる。それはつまり最後も楽しくないといけない、最後が来ないといけないのだ。

 

「残念です、お姉さんふられちゃいました」

 

それでも、ケツァル・コアトルは言葉とは裏腹に笑顔で彼を見つめていた。くるりとターンをして、彼のサーヴァント達、特に双神以外へと向き直り、より笑みを深くした。

 

「ということなので、頑張ってくださいね?」

 

それだけ言うと、私はもう寝まーす。と彼女は二階に上がっていく。本当に話は終わりのようだ。

 

「女神にしては、物分りが良すぎないか?」

 

「はい、兄様私もそう思います」

 

女神が身近な二人は、彼女の行動に違和感を強烈に覚えていたが。

ともかく、カルデア一行に強力な戦力が合流した日の夜はその様に更けていった。

 

 

 

 

 




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