[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
それは一瞬の出来事だった。
冥界にてリツカがエレシュキガルという女神と話してると思ったら、シンドバッドはまるで子猫が親猫につかまれるように、素早くそしてすさまじい力によって、地面より引き摺り下ろされ、投げ捨てられた。
別の世界を跨いだとかではない、ただ一気に移動しただけであり、その事に誰も気づかれていない絶技があっただけである。
「既に天命亡き者が、何故足掻き彷徨う」
底に立っていたのは、巨躯であった。ヘラクレスのように横に大きいわけではない、ロマンのように細いわけでもない。それでも大きいと感じる不思議な存在であった。
そして何よりも死そのものを感じる不思議なそして恐ろしい重圧を放つ存在だった。
こんな、死というものがあふれている場所だから、薄れていた彼の死という生物としての根源的な恐怖が。大きすぎる存在感から、圧倒的な威圧と共に目の前から発せられていた。
いうなればそう、死が形を取るのであれば、きっとこの男なのであろう。そんな存在であった。
「あんた、誰だ」
「只々享楽に耽け、この地では女神の遊興に同調を示しつつ、抗った。理解を示すであろうお前の天命は、そこでも終わる所であった」
シンドバッドは動けなかった。それは問答に対する返答ができないというわけではない、ただ状況の変化が大きすぎてついていけなかった。圧倒的な威圧感もある種の死への恐怖感もあったが、明確な敵意がなかったからなのか、身体が戦闘用のそれへと意識を切り替えられずに混迷の中にいたのだ。
「研鑽を忘れず戦い続け、使命無き戦いの果てに、なに故怠惰へと堕ちる」
目の前の存在が、その構えた大剣を少しでも振るえば、シンドバッドの命はそこで終わるのであろう。それ自体への恐怖がないわけではないが。しかして動けるわけではない。
「成程、汝は己が命運を未だ知らんなればか」
「貴様! 何をしている! 」
「マスターご無事ですか!?」
そこに星のごとく現れたのは、彼の最も新しいサーヴァントディオスクロイであった。ロマニからの通信すら聞こえない状況で、それでも彼等は此処へと重い体のまま飛び込んできた。
「紛れ込んだ者よ、何を思い戦う、何を思い抗う」
「知るか!」
そして情けないことにやっと、仲間が来て声が出せるようになった彼が出せた声はそれだけだった。それでも本心からの魂の叫びだ。訳知り顔で色々言ってくる奴らなんてもううんざりだ。自分にとって良いものをくれる人は、何時も目線を合わせてくれた。足らない自分が理解できるように言ってくれていた。
本来、相手に何かをするように言うのならば、相手に合わせて歩み寄って言うべきなのだ。こんな風にわからせようともしてないのに、あれこれ言ってくるやつは今まで倒した悪い奴らと同じなのだ。
「敵なら力づくでも言うことを聞かせてみやがれ! 味方だったらわかるように言うか、うだうだ言わずにやってから言え!」
あまりにも暴論、態々このような手段まで使って見定めに来た、最大限の助力に対して────勿論彼は知るよしもないのだが────言って良い言葉ではなかった。
しかしながら、山の翁も見誤っていたことがある。シンドバッドはそう、信仰の民でもない、只々研鑽を積んでいただけの只人でしかないのだ。
「生涯を賭す程の研鑽を続け実った者よ。全てを得る迄戦うか。ならば天命まで走り戻るが良い。解なりや」
故にこそ彼は認めた。彼の在り方を。その天命の形を改めて見定めた。女神からの包容を跳ね除けてしまった、御仏の加護だけを纏い、終わりへと向かう者だと。その終わりの可逆的な歪みをそれすら乗り越えるであろう、強い意志を見たために。
山の翁はそれだけ言うとその場から霞のように姿を消す。まるで今までそこには何もなかったかのように。
シンドバッドは、踏ん張っていた脚の力が抜けたように膝を着いて息を整える。あまりにも状況が特異で、呼吸が乱れてしまっていたのだから。
「二人共、ありがとう。大丈夫か? 」
「はい、ですが礼は不要ですマスター。こちらこそ、遅れて申し訳ありません」
「いや、本当に助かったし無事だから平気だ、ありがとなポルクス」
近寄り頭を下げるポルクスの頭へと、思わずという形で手を伸ばして軽く撫でてて彼は立ち上がる。やっと動けるようになったのだから戻るだけだ。そびえる崖を見ると少し気が滅入るが。
「人間よ……俺とお前の約束は、これで成った事にはならない、だから安心しろ」
しかし、カストロはそう言うとシンドバッドの手を取り、ふわりと浮かび上がる。どうやらかなりの距離を堕ちてしまったようだからか、その手で引き上げてくれるようだ。この冥界の地から。
「ああ、頼む」
シンドバッドは、安心して彼に任せることにした。自身のサーヴァントで最も強い彼等にも全幅の信頼をおいているのだから。
走る、走る。ただただ、数が多すぎる敵と渡り合うために。
ここはそう、あらゆる意味での原初の地獄。生きているものは誰彼構わず襲いくる死に怯え、死をもたらすものは笑い続ける。そんな地獄だ。
ティアマト、原初の女神が目覚めてウルクを襲い一日たった。彼女の先兵であるラフムたちは既にジャングルへと引き上げていっていたが、それでも多くの爪痕が残り、再び日の登った今となっては、このエリドゥは星の数ほどの敵に呑まれていた。
既に、カルデアとラフムの戦端は開かれてしまっている。
人を見世物のように殺すこの異形どもに、一切の我慢も慈悲も見いだせなかったからだ。
その在り方はまさに獣だ。知性ある人ではなく、ただただ獣のごとき醜さがあった。
なにせ、こちらが今まで敵対していた、キングゥを後ろから刺して、聖杯を奪い取るほどであるのだから。
「追いかけなきゃ!」
立香は魔術的知識に乏しい、それでもこの旅を経て分かったことは、聖杯というモノは本当に碌でもないということである。
敵味方が入り乱れるこの混沌とした状況で、それでもその事実で直感的に何をすべきかが分かった彼は走り出す。頼れるのは自分のサーヴァントと、出会ったケツァル・コアトルだ。なにせ、既に敵のラフムは飛べるように進化してしまっている。
1日で数千年分、否、数万年分の進化をする。そんな理不尽な生命体は、既に言語を操り、飛行能力を持つ個体という多様性も有するようになっていた。
「まとめて切り払います!」
リツカのサーヴァントであるえっちゃんがそう叫び、雷撃で近くの敵を一斉にひるませて、瞬く間のような動きで、獲物を二刀流に持ち替えて、ラフム共を切り飛ばす。
「ハァッ!!」
そこにアルトリアの風による一撃が追撃することで、周囲の敵を弾き飛ばし、周囲に一時的な空白地帯を作る。
「今ね!」
そこにワイバーン、もといケツァルコアトルというべき翼竜が滑り込むように、3体着陸する。
直様リツカはそれに飛び乗りマシュの腰にしがみつく。ドラゴンに乗れるのは、騎乗EXを持つ選ばれしドラゴンライダーだけであり、騎竜らは全て、ケツァル・コアトルの指示に従うのみだった。
それでも騎乗Cを持つマシュの方が、まだ体幹が安定しているのだから仕方がなかった。シンドバッドも同様に飛び乗りしがみつく。サーヴァントも飛べないものは同様に飛び乗りしがみつく。そしてすぐさま彼らは飛びあがり、敵の追跡を開始する。
倒れたキングゥがどこに行ったかは気にはなるが、視界に留める余裕はなかったのだから。
「大丈夫? シンドバッド?」
「ああ、問題ねぇ、へーきだ、まだ俺はへーきだ」
「マスター……無理をなさらずに」
立香は、個人の戦闘能力では圧倒的にシンドバッドに劣る。それでも彼はなぜか膨大な魔力を有することになった。それはシンドバッドにはない物であり、だからこそ立香は強力なサーヴァントを複数従えても、平気な顔で運用できていた。
つまりは逆にマスターとしては、シンドバッドを圧倒していると言える。
しかし、シンドバッドは、それ程の魔力がない、あのディオスクロイもアルトリア以上に魔力を食うらしく、全力で戦わせられる時間は少ない。長期戦というよりも此処数日のゴルゴーン討伐作戦より、睡眠時間以外は常に戦っているような状況。シンドバッドは既に限界が近かった。
一方で立香はナポレオンが脱落しているので、むしろいつもより余裕があるほどであった。
この特異点で、シンドバッドが戦える回数はあと1回、多くても2回である以上、立香は踏ん張る必要がある。魔力は1日寝ただけですべて回復するわけではない以上、この後までも。決意を新たに、既に豆粒ほど小さく見えるラフムへと彼らは向かうのであった。
ふわふわと地面がないのに踏みしめられる足場で戦う。いろんな時代を回ったカルデアのマスターたちにも体験したことがない感覚にも、一切戸惑っている暇はなく敵が襲い掛かる。
ティアマットの11人の子らは魔神柱よりも固いが、助力してくれるアサシン、通称キングハサンは一太刀でそれを切り飛ばしていく。
「契約者よ、わが剣を存分に振るうが良い」
「ああ! ありがとう、助かるよ」
「契約者の盟友に対する仕打ちへの礼故に。気にすることはない」
「よくわかんないけど、頼む」
「承知した」
立香は走る。気持ち一つで上にも下にも走れるのだから不思議なものだ。シンドバッドは既に離れた所にいる、彼は冥界を走るスポーツカーで敵をかく乱しているのだから。
ディオスクロイへの令呪での宝具使用で供給した後、目立った消費こそないが、既にぎりぎりであり、この後も回復できるかも怪しい物であった。
それでもここが踏ん張りどころであるのはわかっている。
女形の巨大な恐竜が泥を生み出して、それがすぐさま花を咲かす中空で、スポーツカーが走り、骸骨の剣士が化け物を切り飛ばす。夢に出てきたらどんな内面だろうと思えるような不思議すぎる光景だ。
切って切って切り飛ばしてもらって、とにかく進んでいく。魔神柱より強い敵がバッタバッタと切り伏せられていくのに変な笑いを覚えながら、立香は最後の力を振り絞り、ティアマトまでたどり着く。
戦えるのは、ハサンと、アルトリア、やや疲労気味のえっちゃんに、マシュ。シンドバッドは新たに生もうとする雑魚が来ないように変わらず魅了をしながら車で走り回っている。
「Ahhhhhhhhh────!!!」
大きい。近寄ってわかるのはそのサイズ感だ。今まで戦った敵に大きなものはたくさん存在したが、まるでスケールが違う。建造物のサイズではない、山を見上げるときのサイズ感だった。
「ほう、火力が足らぬか?」
そしてそんな山をどう崩そうかと悩んでる時に、最後の援軍が来てくれた。
いつの間にか遠くで座ってこっちを見ているだけのマーリンではない。いや彼が傷を負って、泥の無効化がなくなれば負けるので正しい判断だが。
この場にいるのは、英雄王のギルガメッシュである。
「王様!」
「こうも呼ばれてしまえば、温めた場に出てやるのもまた王の威厳というものであろうよ」
彼は冥界下りを成し遂げた姿、そう、この冥界が彼にはよく馴染む霊基の姿での参陣である。
今まで自重して魔術師としてふるまっていた彼ではない、宝物庫にも戦闘力にも性格にも自重する事を知らない、圧倒的な強さがあった。
「立香よ、ここまでよく走り抜けた。シンドバッドもだ。貴様らのつけた道。半歩届かぬ分は埋めてやろう、感謝しながらその先へと進むが良い」
立香は英雄王が持つ魔力が急速に高まるのを感じる、必要なのは一撃を叩き込む隙だ。ハサンは既に切りかかっている。
「皆!」
それだけで充分だった、彼の視線は動き出そうとしていた自身のサーヴァントを捉えていた。後は合図だけだったのだから。雷撃と風が女神の行手を阻み、暗殺者の剣が脚を壁へと縫い付ける。
その一瞬ですべての命運が決まった。
「『天地乖離す開闢の星!! 』」
乖離剣が振るわれた後それでも女神は肉体を保っていた。しかしながら彼女を構成する核は致命傷を受けて、機能を停止していた。そして原初の女神は、深く深く落ちていく。
それは死因のない彼女の、死であった。
このウルクの冥界で、立香とシンドバッドは味方の犠牲がありながらも、泥だらけに成りながら勝利を掴んだのであった。
「よくやった、カルデアよ」
すべてが終わったウルクの地で、特異点の修復が間もなく開始される前、何故普通に復活しているのかわからない、賢王の前に一行は居た。
「シンドバッド、手に入れた聖杯を見せてみよ」
「ああ。これだ」
シンドバッドは先程なんとか死にものぐるいで回収した聖杯をギルガメッシュへと手渡す。この王様は色々言ってきたけれど、最後まで味方で指示をくれたので、シンドバッドは素直に従った。
ギルガメッシュは受け取り、つまらなそうに一瞥すると、呆れたように言い放った。
「やはりな、これをカルデアに持ち帰れば、魔術王も貴様らを補足する。だが敵の本拠地はわかるぞ」
そう、この聖杯こそが、唯一魔術王が直接送り込んだものであり、そのためにこの聖杯は最後の修復すべき場所への切符でもあった。
「ほら、返すぞ受け取れマシュ」
「は、はいありがとうございます!」
つまりは、カルデアはついに最後の決戦へと向かう準備が整ったということになる。
そしてマシュが受け取ったことにより、改めて聖杯の回収が成功したと見なされたのか、召喚されたサーヴァントと立香達は足元から消え始める。
「ありがとうございました、ギルガメッシュ王!」
立香は自然と礼を言っていた。今まで特異点で1番険しいものだったが、それでも平和な古代の街も謳歌できた。人はこんな昔から懸命に生きていたのだと知ることが出来た。
「はい、ご協力感謝します」
マシュも旅という形でない、長期間の特異点は様々な経験をすることが出来た。きっと彼女はこのウルクでの生活を忘れることはないであろう、死するときまで。
「いい街だったぜ、ウルク!」
シンドバッドは、最も長くこの街で暮らし多くの人々と関わってきた。彼の人生でカルデアの次に使った寝台はこのウルクのものであろうと言えるほどに。
「ああ、忘れていた。ウルクを訪れた旅人に何も土産を渡さぬなど、王として恥ずべきことだ」
ニヤリと悪戯げに笑った賢王は宝物庫から何かを取り出した。
「まずはマシュ、これは我からというわけではないがな」
マシュが受け取ったのは抱えるほどの大きさの粘土板だった。そこには彼女には読めないが、複数のタッチでの文字が彫られていた。
「ウルクの民よりの感謝状だ、心して受け取れ」
「あ、ありがとうございます!! カルデアで大切に読ませていただきます!」
思わずという形で受け取り、そしてその意味を知ったマシュは喜色を満面に溢れさせて、礼を告げていた。これは彼女の頑張りの印なのだから。
「立香、貴様にはこれだ」
「えーと……札束、じゃなくてくじ引きの券?」
「ああ、いずれ使うことになるであろう。10万枚分程恵んでやる」
立香は帯封に包まれた札束のようなモノを受け取った。AUOくじと書かれた超ご機嫌なくじ引きチケット。それがナニカ彼にはよくわからなかったが、きっとなにかすごく大事なものなのであろうと、ありがたく受け取った。
「シンドバッド、貴様にはウルク名物冷えた麦酒だ」
「ありがたく受け取らせていただきます、です」
「かしこまらずとも良い」
王から物をもらった時の対処法は、耳にタコができるほど教わっているシンドバッドが、妙な言葉で受け取ったジョッキはたしかによく冷えていた。
「えっ!?」
「そ、それって!?」
「どうした、マシュ、立香。お主等にはまだ少し早いぞ。マシュは18、立香は20になってからのはずであろう?」
シンドバッドは酒はあまり得意ではなかったが、それでも貰ったのだからありがたく受け取ることにした。
「貴様は下戸と聞いてるぞ、無理に飲まずとも良い。何、貴様のサーヴァントにでも預けておけば、その味がわかる頃に飲めるであろうからな」
上機嫌でそう笑うギルガメッシュ。まさにしてやったりという表情だ。シンドバッドは1番近くに居た驚いて固まっているミストレス・Cへと麦酒を渡して、改めてお礼を言うことにした。
「ありがとう王様。楽しみにする」
「ああ、それでよい。精々上手くやるが良い」
そろそろ時間切れであった。最後の場所、魔術王の居城へ向かうために。戦いを終わらせるために。カルデア一行は向かわねばならないのだから。
「最後に聞こう、ウルクはどうであった?」
3人はその質問に思い思いの、しかし全く同じ感想を声を揃えて返しながら、この特異点を後にした。
次から終局! 多分短い! というか何とか2話分にしてる程。
今年の水着はきっと、マタ・ハリが来るよ!
来なかったら水着でイチャイチャする話を書いたって構わないよ!