[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
遂に準備は整った。
最後の特異点。今まで回った7つの特異点、そこで手に入れたものはあまりにも多い。
それでもそれらは十分な準備ができていなかった。
聞いていた話は唐突すぎるものであったが、それでも少しずつ準備はしてきていた。
元々の目的が作り替えられた後も、習慣として続けてきたことが、実ってくれたのだ。
そして遂に手に入れたのだ、最後の手札もこの手に。後はもう周囲に対する裏切りだとしても、それを行うだけなのだから。
奇しくも、最後の難関になるであろう2人も心境の変化から消極的協力、ないし中立となった。彼らには彼らなりの目的ができたのであろうが、問題はなかった。
あとはカーテンコールを待つだけである。
「貴様、何の用だ」
カストロは、隣に伴って歩いているポルクスと共に、目の前の怪盗、否、女怪盗の格好をする女へと構える。
それは彼女の手に、ここにはないはずの葡萄酒とグラスがにぎられていること、それが理由ではない。なにせこの場は、この部屋はディオスクロイの私室なのだから。
「あら? マスターに葡萄酒が欲しいと言ってたと聞いたから、持って来たのだけれど?」
あけっぴろげなその態度に、彼らは毒気を抜かれる。すわ荒事かと思えば、なんとことはない、酒席への誘いというわけだ。勝手に部屋に入る非常識さを問うべきであるが、正直王族であったとは言え、ギリシャで船旅までしてた彼等からすると、部屋に帰って神が居たとしても、まぁそういうこともあるであろう。という感覚なのだ。
土産片手の女1名など何の問題でもない。
「それで、何の用だ、貴様は」
「ええ、返答次第では」
しかしながら、ディオスクロイにとってのシンドバッドのサーヴァントは、大きく絡むことはないが、別段敵対する理由もない程度の関係。戦闘で連携することが多い分、下手すると、立香のサーヴァントたちのほうがよく会話している可能性があるほどだ。
逆に言うと態々尋ねてきた理由と、その内容次第ではということである。
そもそもギリシャの勇士と、戦いを生業にしていない者たちで、根本的にあまり話が合わないのだ。ポルクスは単体で少しばかり話をすることもある様子だが、カストロに関しては基本そうではないのだから。
「ちょっとした用事よ、話したいこともあったから」
この女と戦うことになれば、この距離で室内であれば、3秒と立たずに彼女は負けるであろうが、それでも余裕は崩さなかった。
カストロとしても、あの車という宝具がない上に、開けた場所でもなければ、一切の脅威を感じない相手だ。警戒すべきはあの質量と速度のみである。
「早く話せ、何の用なのだ?」
卓に着き、グラスとワインを受け取って唇を濡らしてから、カストロはそう尋ねる。
「簡単よ、あなたと妹は、マスターの為に本気で戦うサーヴァントかしら? その確認ね」
その質問に一瞬だけ苛立つが、すぐさま彼のその怒りは沈静化する。それは彼のあり方の問題ではなく、彼等の姿勢の問題であると気付いたためだ。
「呼ばれた分の仕事は果たす。今までのでは不足か?」
「私は、何をおいても守ります、疑われるのですか?」
程度の差はあれど、兄妹の答えの方向性は同じであった。冷たい表情を向けられながらも、それを聞くと満足したように、彼女は立ち上がった。
「ならいいわ」
そしてその指さばきでポルクスめがけてカードを投げると、何事もなかったように部屋を後にしようとする。
「招待状よ、今度こそは読んで頂戴ね」
その言葉を最後に彼女はふわりと部屋から消えた。カストロは最後まで彼女をにらんでいたが、ポルクスが小さく息を飲むのを聞いて、彼女の方へと向き直る。
「どうした、ポルクスよ? 」
「い、いえ、兄さま」
せいぜい耐えることね。そう書きはじめられたカードの続きを二人は覗き込むのであった。
シンドバッドの部屋で、彼のサーヴァントたち3名は起き上がった。格好がつかない、腰砕けに成りながらではあるが、
「……皆さん、起きてらっしゃいますか?」
「えぇ、なんとかね」
「わたしも、死にそうですけど」
3名は魔力だけは潤沢に回復しているが、体を動かす気力もないために、一度霊体化して直様もとに戻る。そして一息つくと片付けを始めながら雑談に興じる。
「思えば、私達3人でこうしていることも自然になりましたね」
シェヘラザードからしてみれば、二人は後輩だ。彼女は冬木から此処まで共にシンドバッドと歩んできたのだ。色々思うところが無いと言えば嘘になるが、ローマで共にマタ・ハリと巡り、今思えば笑える程度に小さい衝突をした。
「そうねー、マスターに誰が1番好き? って聞いてみたくなるわ」
マタ・ハリはイタズラ気にそういいながら振り返る。特異点においては余り彼女が活躍を見せられたことはなかった。それでもずっとシンドバッドの隣に彼女は居た。シェヘラザードが後ろからついてきているのを横目で確認しながら、気まぐれに彼の腕をとったりもした。
「その話題はやめましょう、ええ」
ミストレス・C 、彼女は距離感の詰め方というもの色々と誤っていた。崇高な目的意識を持ってここにマスターを救いに来てみれば、何のことはない。自身が召喚されて数日後にあのグローブを装備した時点で、彼は救われていたのだから。それでも彼女のあからさまに悪な在り方を否定しないマスターとドライブをしたのは彼女にとっては大切な思い出だ。
「いつからか、夜更けに閨を後にする事ができなくなりましたね」
「天竺から戻ってきてからよ」
「その話も止めなさい!」
彼女たちにとって、その話は聖域と化している所があった。あのキャメロットの地でまさかの再会をした時。アメリカで李書文と記憶を分かち合えず、記憶が無いことに覚悟ができていたけれど、心底落ち込んでいた主を見て胸中複雑だったのだから。
「ポルクスさんは、どうなのでしょうか?」
「変わらず兄様と仲良くやっていてほしいわね」
「賛成よ、汚れ無い乙女とは言えないけど、ここに居ないタイプだもの」
ディオスクロイというギリシャ神話の中でも最強とまでは行かないが、総合的にトップクラスの戦力。魔力供給という問題は最後までつきまとったものの、それでも大きく活躍した。
なにより、彼等が来なければ最後の彼の枠に居たのは、ミストレス・C曰く付きのヤバイ女であった可能性が高いのだから。
「他にも現地で女神に気に入られたり」
「お店の女の子に狙われてたり」
「ヤバイアサシンにも狙われてたみたいよね」
振り返れば、あっという間の旅路だった。最初から同じ目的を目指す仲間ではなかった。目的も合流した時期も違うのだから。それでも旅の理由は、段々と共有されていった。
「放っておけない人です」
「目が離せないわよね」
「でも、頼りになるのよね」
彼女たちは、そしてこの場に居ないディオスクロイも、シンドバッドを仕えるべき主として、その目的を目標を尊重したくなったのだ。
人類を救う。そのスケールの大きさをおそらく彼は自覚していないところがあるであろう。人の営みというものを彼がまともに見たのは、恐らくウルクが最初なのだろうから。
それでも、カルデアの20名に満たないスタッフ。何よりも仲良くなった人達のために、贖罪でも自己満足でもなく、戦いたいから戦って救うと決めたのだ。
「そう、とても、とても格好良くて優しくて……」
マタ・ハリはそこまで言うと、堪えきれずに、膝を着いてしまう。
「あぁっ、マスター! どうしてなの? どうして貴方は!」
「マタ・ハリさん……」
涙声で彼女はそう慟哭する。彼の前では耐えていられた。素敵な女性として、姉のように恋人のように接してくる綺麗な人だって、彼にそう思ってもらえるように振る舞い話せた。
それでもこうして思い出に浸っていると。こう思ってしまうのだ。
嗚呼、あんまりだと。
人生の殆どを、年齢を24歳としてもその95%を、過酷で無味乾燥とした日常で過ごして、残りは戦いの日々。人類の命運がかかった重い責任ある戦いに、余り理解せぬまま駆り出され、活躍して、使命感をもってそれに当たった。
その報酬という名前の仕打ちが、解決すると同時か、しばらくしたらの死亡だ、あと3ヶ月もつ? そんなはずはない、その猶予は聞く度に短くなっているのだ。残り時間は。彼が戦い魔力を回せばもっと短くなる。
最後の戦いを終えれば、きっともう幾許も無いのは容易に想像がつく。
「なら、貴方は辞めるの? マタ・ハリ」
ミストレス・Cはどうでも良さげにそう返す。彼女からしてみれば、マタ・ハリは別にどうでも良いのだから。居なくとも計画に支障はないのだから。
それでも、こうしてあえて聞いているのは同じマスターに仕えた仲だからだ。
そしてマタ・ハリもわかっているのだ。もう、どうしようもないことを。だからこそ彼女の提案に乗ったのだから。成功は約束されているのだ、後は心をどう定めるかだけ。
「いいえ、私もやる。ごめんなさいね、弱気になってた」
寄り添っていた、シェヘラザードに支えられ立ち上がった彼女は、強い意志を持って二人を見つめる。彼女にはするべき役目はないけれど、もっと言うのならば、彼女たち全員にもうすべきことは殆どないのだけれども。
終局特異点、最後の戦いの場でシンドバッドの活躍を、格好良いマスターを見るために前を向くのだ。
「裏切りましょう、皆で」
「はい……」
「勿論よ」
彼女たちはそう決意を新たにすると、部屋の掃除に戻る。だってきっと、この後の最後の夜もまた使うのであろうから。
「な、何とか耐えきった」
「すごい反応です! 無数の英霊たちがこの場に呼び込まれて、いえ、やって来ています!」
魔神柱の集合体という、尋常ではない相手に。あわや押し潰されそうになったカルデア。もはや物理的にこの神殿と面しているカルデアは、その魔神柱の触手に捕らわれていたが、奇跡が、紛うことない奇跡が彼等を救ったのであろう。
無限にあふれる魔神柱を止めるのは、無数に現れる数多の英雄たち。縁とその縁をたどり、世界を救うためではなく、あの人間に力を貸してもよいとこの神殿へ自主的に来るのだ。
既に道は開けた。この冠位時間神殿において、72の魔神柱は無限に供給されるのであろう、だがその速度は有限なのだ。補充しきれないほどの数を倒してしまえば良い。言葉にすると単純であるが、尋常ではない手段。しかしこの場に置いてそれは十分可能な行いであったのだから。
シンドバッドは、マシュは、そして立香は駆けていく。時間は余り残されていないらしい。2016年が終わってしまえば、もう歴史は修復不可能になる。そうでなくともソロモン王が、魔術の王が次の仕事とやらを終えてしまえば終わりなのだから。
「ふむ、見違えるほど強くなっていましたね」
ゲオルギウスはそう述懐する。視線はそのまま魔神柱に向けて、腕は休ませないままだが。
少しだけ、本当に気まぐれ程度に筋を見ただけの、子供のように物を知らない人間だった。それが今の僅かな共闘でわかるほどに、一端の戦士で、一廉の男になっていたのだから。
それは彼の教義的には少しばかり目を瞑らねばならないが、それでも祝福したくなるほどに、良い出会いと良い別れを重ねてきたのだろう。この場に来たものの多くはシンドバッドではない、立香の方の縁を目掛けて来ているであろうが、それでもきっと彼にだって結んできたものはあるのであろうから。
「シン、きみもみつけたんだね」
アステリオスはその豪腕を思い切り振るう。人類史の中でも一際優れたその膂力で魔神柱を切りつけているのだ。それでもこの場においての彼は、別段凄まじい戦力ではない。
そんな事は関係なく、只々友達がまっすぐ前向いているのが、彼にはとても嬉しかったのだから。
「イアソン、見たか? ディオスクロイの表情」
「ああっ!? こっちにはそんな余裕はねぇ! いいからヘラクレスの援護をしていろ!」
アタランテは、何度ももう乗ってやらぬと決めたアルゴー船の上で、今しがたすれ違ったかつての船員を見て思わずそう言葉が漏れた。
弓兵の自分しか見えなかったのかもしれない。ヘラクレスが狂っていなければ見えたであろうが。
「ポルクスはともかく、カストロまで味方にするか。存外良いマスターだったわけだ」
アタランテはたった一度共闘しただけだが、あまりにも無茶をする男だった。まだまだ何も足りていない男だったが、あのディオスクロイが仕えるほどのマスターに成ったのであれば、あの戦いで自分の果たせたフランスの贖罪は。たしかに実を結べているのであろう。
彼女は少しだけ気合を入れ直して、船長の情けない悲鳴を無視しながら矢を番えるのであった。
「呵々、シンドバッドよ、なんだあの技は!」
アメリカとケルト。相容れない集団が力を合わせた戦う場所で、李書文は楽しげに笑っていた。なにせ、自分の教えた技を更に変な形にして振るっている男が居たのだから。
「柔軟性と、理による破壊、そこに拳闘まで加えて……もはやナニカわからんぞ!」
彼が最初に目指していた武術の息遣いはたしかに感じるが、もはや流派ではなく武術自体が異なるような、そんな仕上がりになっていたのだから。
それでも、たしかに彼は教えられた技を、自分の物にして戦っているのだから。
「因果なものだ、迷惑料で教えた結果、倒された儂が、再び会うことになるとは」
アメリカでは、気がつけばケルトの尖兵となっていた。そして弱っていたとは言え、人間に止められたのだ。また鍛え直さねばと思った矢先、あの巫山戯た天竺の旅。そこで絡繰りを知ったときには変な笑いが出たものだ。
しかし、今となっては良い経験であろう。確かに自分の研鑽が彼の一助になったのだから。
そして、もし仮に次に会ったら彼と自分は、教える教えた、救う救ったの関係なしに、貸し借りがない状態なのだから。
「その時は何、技比べで死合うのも良いであろうな!」
そんな、夢物語を抱いて彼は槍を持って敵へと挑むのであった。
次で完走です。