[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒]   作:HIGU.V

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Interlude-1

 

 

 

 

落ちていく、どこまでもただただ。上とか下とか、そもそも重力とは何か? そんなあいまいな空間であるが、人々の認知によって下に落ちるという世界法則がある限り、たとえ人でないものによって作られたとしても下へ落ちていくのだ。

 

思い切り投げた。思い切って。

 

だから彼はここにいるのだ。

 

ふと後ろを見つめると、不安定に点滅している光帯はより一層明滅している。ちかちかと光って明らかに危険なのが素人目にもよく分かるほどだ。

 

それを見ることで、ようやっととも言うべきなのか。彼はもう間もなく旅を終えるのだと、そう強く理解した。

 

良い旅であった。

もしかしたら人よりも恵まれていないのかもしれないし、人よりもずっと恵まれていたのかもしれない。そんなことがわからない程度に彼は共感性というものが無かった。いや、あったかもしれないが、育つことはなかった。

 

一人で閉じていた彼の世界は、たった一年で多くの物によって広がり輪を作った。

 

楽しい旅だった。見たことのない景色しかない。行ったことのない場所でしかない、あったことのない人しかいない。新鮮さと未知しかない冒険だった。

 

自分の価値を求めるために、自分が生きている為に戦うものが、いつの間にか戦うことだけが目的ではなくなり、そして、皆のために戦いたくなった。そう、戦うことは手段から目的になり、最後には手段の1つになったのだ。

 

 

 

多く人からもっと多くのものを受け取ってここまで来れた。

 

────ああ、楽しかった。

 

 

光源が光帯以外すべて消えたこの空間で彼は、ただ遠ざかっていく出口だったものを見つめていた。

最後に友達────そうきっとそう呼ぶのだろう────無事だった友達を見つけた。死んでしまったと思っていたあの娘は、こっちに手を伸ばしていたけれど、もう一人の友達は間に合わないのがわかったから、思いっきり投げつけた。

 

無事にカルデアに、家に帰れたのか少し心配だ。ロマンも居なくなったし、自分も居なくなるから、やることはたくさんあるのだろうということだけはわかった。

寂しくはなかった。何時も一緒に居たサーヴァント達がいなくても、十分以上の物をもらっているのだから。

 

 

────やはりこうなったのか

 

────マスター、遅れました

 

声が、聞こえた気がした。倒れこんでいた彼が首を上に向けると、そこには体のいくつかの部位が無くなって、ボロボロになりながら、肩を組んで、血だらけのまま近寄ってくる彼のサーヴァントがいた。

 

「ディオスクロイ」

 

ああ、まだ自分は声を出せたのか、そんな驚きと共に、しっかりと明瞭な声がなにもないこの場所に響き渡った。

 

そこにいたのは、彼のサーヴァントの中で、まだカルデアへと戻っていなかった二人であった。

 

既に体はほとんど消えかけている為、ただただ無理やりこの場に留まっているというのが見て分かるものだ。なにせ、声も出せないほどに白い服が赤く染まっているのだから。

 

「ありがとうな、いままで」

 

彼は看取るという概念をよく理解していない。それでもきっと、終わるときに笑って、仲間と一緒に終われれば最高だとは思っていた。しかし望むべくして一人ここに残った以上、多くは求めまいと思っていたが、最後に仲間がいてくれたのは嬉しかった。

 

────この空間では、死ぬことは出来んぞ

 

それはこの時間神殿という特殊な空間故に起こる例外的処理であった。

人類の時間軸より外れた、一つの宇宙であるこの世界は、死という現象が現在の時間軸と結びつかないのだ。終わりを否定するために作られたこの神殿ではただ消滅するだけなのであろう。

 

「なんだ、じゃあどうなるんだろうな」

 

よくわからなかったが、ここで終わると、綺麗に終われない。そういうことだけはわかった。少しばかり残念だ。それでも大好きな仲間達が皆ではないけど、一緒にいるのならば、悪くない。そう思った。

 

ディオスクロイ、不思議な仲間だった。仲良くしようとするポルクスと、嫌ってくるカストロ。それでもたった2つの特異点を一緒に回って、楽しく過ごせた。大事なのは今までの時間の長さじゃなくて、今どれだけ一緒に居て楽しいか。長いとは言えない彼の人生において、確証を持って彼が学んだことである。

 

「マスター、貴方に、心残りは、あり、ますか?」

 

ポルクスの優しい声が聞こえる。きっと自分と違って全身が痛いだろうに、声を出してきいてくれるのだ。それがとても嬉しくて、申し訳なかった。痛い思いをしないでいてほしかった。悲しくなるから。辛いことをしないでほしいのだ。楽しくなくなるから。

 

「いや大丈夫。やることは、だいたい終わらせたから」

 

いろんなことをした、だからもう十分だ。さっきのロマンも言っていた。自分の生きる意味、生まれた意味は死んだときに初めてできる。ロマンはやり残しがあったから、それを片付けた。と言ってた。

 

それはきっとすごいことなんだろう。よくわからないけれども、皆驚いていたから。

だから、ロマンはすごいことをしていなくなった。最後まで自分でそう思っていればいい。同じように自分も立香を助けていなくなるなるなら、ああ、充分だ。

 

でも、なにか言うとすれば、一つだけあった。立香をみてずっと思っていたことが。

 

「いつも、魔力足りなくて、ごめんな」

 

強いて言うならそれかなと、彼は思った。

だって、立香の仲間はあんなにぶんぶん戦えてるけど、ディオスクロイは、いつも思い切り戦えてなかった。

 

「やっぱ、神様だから、俺にはつよすぎたな、二人とも」

 

きっと考えれば、シェヘラザードにも、マタ・ハリにも、ミストレス・Cにも。立香もマシュにもダ・ヴィンチちゃんにも。カルデアの皆にも心残りはあるだろうけど。

 

今出てきたのはそんな言葉だけだった。

 

「そうか……こうなっても、我等を神と呼ぶか」

 

「我等は古き神性。統合され取り込まれた一部ですが……はい、ありがとうございます」

 

段々と意識が薄れてきた。痛いところもないのに、怪我をしているところもないのに。空間が壊れようとしているからなのかもしれない。

 

「ならば、最後に命じてみるがよい、貴様のマスターとして最後の命令だ。従者として1度だけ聞いてやる」

 

シンドバッドは1画だけ残った、自分の手の令呪を見る。そう言えば使わなかったなぁと。何かできるわけでもない。もうとっくにカルデアには間に合わない。そもそも逃げるときに使っても、何も出来なかっただろう。

 

ならば、さっきの心残りをなくすだけかなぁ、シンドバッドは、少しだけ命令を考える。そして直ぐにそれを伝えることにした。

 

「ディオスクロイ、いい神様になって、楽しく生きて」

 

曖昧過ぎる命令だった。それはまるでサーヴァントに対する命令ではなかった。

しかし、ニュアンスという概念での命令であり、それが彼の最後のマスターとしての仕事であった。特にカストロは何時も自分のサーヴァントであることに怒っていた。結局彼は最後までカストロの人間への復讐心というものを理解し共感することはなかった。

だって難しいから。シェヘラザードにもわからなかった、神が人となって伝えられた結果本当に人となったという話はよくわからなかったのだ。そもそも神の概念も最近知ったくらいなのだから。

 

ポルクスはずっと、自分が悪いと思っていた。あれはさっき倒したゲーティアってやつが悪いのに。だからずっと協力してくれたけど、そうじゃなくてもっと、もっともっと一緒に楽しく旅ができたらもっと良かった。そう思ったから。

 

きっと彼等は二人で居る時が1番楽しいのだろうから。

 

「確と受け取った、マスター」

 

「貴方の命令我らディオスクロイが、遂行いたしましょう」

 

二人はマスターへと────もはや、皮膚が冷たくなっているシンドバッドへと触れる。

 

それは彼らが何れこうなるであろうと、癪だけれど聞いていたから考えていたこと。そんな事に意味があるのかと思っていたが、それでも彼等の神としてあり方の1つである、

 

何の意味もない彼らのもう1つの宝具。先程潰えたソロモン王の第一宝具とは似て非なるそれ。

 

「主神ゼウスよ! 貴方の子たるディオスクロイのポルクスが願い請う!」

 

「その兄、テュンダリダイのカストロも同じく願い奉る!」

 

それは、彼らがふたご座という星座になった逸話の再現。

双子として生涯の殆どを共に過ごした、異父兄妹。彼らの死因の再演である。

 

「わが身を捧げ願います。どうかこの身を、冥府へと落とし給え!」

 

「我らの神性を分け与え給え!」

 

ゼウスの子ではないと、人間として伝わり、人に陥れられたカストロの。死んで冥府に堕ちた彼と、ゼウスの子故に不死である故に、引き上げられたポルクスが、悲しみ嘆きゼウスへと願ったこと。

 

その神性を分け合うことで、人間だったカストロが半分は神であり、二人揃って半死半生として過ごせるようになり、二人は死後の半分は冥界で暮らし、残りを星座として天空で暮らすようになった、神話的結末。

 

冥府の管理神ハデスまで至った魂を、冥府の入り口まで引き戻す代わりに、自身の神性を失うということの再現、死が決まったものを、死者の国のなかで最も生者に近い場所に動かすという、根本的に使い道がない宝具だ。

 

ポルクスの神核とつなげることで、双方の神性を高めて、完全な神へと近づく。彼等の基本宝具、双神賛歌(ディオスクレス・テュンダリダイ)とは全くの逆だ。

 

シンドバッドの死は確定している。しかし空間的な不都合で彼はこの空間が壊れきる前に、ほどけた光帯と共に消えて、現実の時間軸の死として記録されないまま、只々無意味に消滅するであろう。

 

その彼を彼らの宝具により、冥界の入り口、つまり死んだ状態へと強制的に持って行くのだ。シンドバッドは、古代ギリシャの人間でもない。ディオスクロイとは、宗教も時代も価値観も土地も何もかも違う人間だ。

 

故に星座にするように、神性を譲渡することなどできない。ただ彼等の神核の神性を押し付けて、人の死の部分だけを再演させるものだ。

 

ディオスクロイの神性は2人の器に満ちていたが、人間の伝承により歪められたのだ。だからポルクスの分を二人で分けて星座へと至った。

 

この宝具を使うということは、人間により歪められた自身を認めるということだ。神として請われたことを、自身の言葉を曲げないように成すという形で。

 

人間への復讐心で走ってきた、アヴェンジャーであるカストロも消滅するであろう。神性を与えるポルクスも同じくだ。

 

それでも、良い神様だと言われたのだから。

共に戦い、認め合い、全幅の信頼を向けてきた人間に、真っ直ぐと信仰されたのだから。人類史という一つの流れの先達として、人並みの死すら迎えられない主人へと少しばかりの餞をする程度構わないであろう。

 

「「『双星降誕(ディオスクロイ・コンストレーション)』」」

 

その言葉とともに3人の体は光り輝き、粒子となってどこかへと消えていった。

こうして、シンドバッドは冥府へと落ちて死んだ。冠位時間神殿の中で人知れずに立ち消えたのではない、彼は明確に死に至ったのだ。そしてその代償にディオスクロイも消え去った。跡形もなく消え去ったのだ。

 

そこに唯一残ったのは、彼等の持ち物ではないが、懐に入れていた、一枚のカード。

 

胡散臭い女怪盗より受け取ったそれには

 

「耐えなさい、そしてマスターが望めば介錯してあげてほしい。それは私達には出来ないことで。最後の時に共に居れるのはあなた達だけなのだから」

 

そのような書き出しのものであった。

改めて好きなヒロインは?

  • シェヘラザード
  • マタ・ハリ
  • ミストレス・C
  • 玄奘三蔵
  • ポルクス&カストロ
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