[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
全ての離宮を抜けて、立香たちはついに城の奥へとたどり着いていた。
「やっとつきました……」
「長かったね……」
渡っている空中回廊から覗き込むと、今まで自分たちが必死に登ってきた道のりが見える。最初の離宮がおもちゃのように小さく見えるということはと考えると、それなりの距離であったのだろう。
長く感じた要因は決して距離によるものでなかったような気がするのだが。
案内役のマーガレットはいつの間にかいなくなっていたが。場内に入ると、道順がしっかり示すように蝋燭の明かりが道を照らしており、まるで誘導されるような形で、一行は歩みをすすめる。
よくわからない絵画や、壺などが並び掃除や管理がきっと面倒だろうなと思いながら、慎重に進んでいくと。意外とすんなり最奥の部屋までたどり着いた。
なにせ巡回している人影が一切ないどころか、城は静まり返っており、人の気配がないのである。呼び止められるなどの妨害は一切なかったのだ。
誘導されたその部屋は、玉座といった謁見を目的とした部屋ではなかった。しかしかなり広い、城のサイズ感に則った部屋ではある。
役割を言うのならば私室とするのが正しいのであろう。日用品は高級感あふれるもので整えられていたが、近代のイギリスのアンティークが多いのは趣味の為であろうか?
「よくきましたね皆さん」
「ええ、遅かったじゃないの」
「うふふ、ごめんなさいね、騙して悪いけどこれもお仕事なの」
そして、いなくなっていたマーガレットも何食わぬ顔で、応接用のソファーに腰掛けていた。そんな彼女の横で入室した立香達へと声をかけたのは、ある種予想通りの二人であった。
「やっぱり、マーガレットは俺の知ってるマタ・ハリだったんだね」
「ミストレス・Cさん! シェヘラザードさんも!」
「どうだったかしら、私たちの城、千夜一夜チェイテ城は?」
「お楽しみいただけましたか?」
まるで、当然ことのように質問をしてくる二人、だが、立香にはまず確認しなくてはいけないことがあった、それはジェミニ仮面についてもである。
「ここにいるみんなは、シンドバッドのサーヴァントだよね」
そう、召喚主であり、マスターであるシンドバッドが未帰還になったとき、彼らはカルデアから消えていた。座に帰ったのかとも思われていたが、霊基パターンはしっかりと保管していたため。3人の女性陣に関しては、彼女たちが同意すれば、連続性をもって、召喚に呼び出されるであろうという見方であった。
しかし依代となるマスターがいない故に召喚されては来なかった。
立香も別れこそは悲しい物であったが、シンドバッドのサーヴァントである彼女たちを、緊急性がない限り、自分が呼ぶというのは、何か違うと思ったし、そしてディオスクロイに関しては霊基パターンすら戻らないままに消失していたために、今日まで至るのである。
「ええ、そうよあなた達のこともよく知っているサーヴァント、その認識で間違いないわ」
「そんな、どうしてこんなことを!」
マシュの言葉には様々な意味を含む。このような場所に来てしまった故に、彼女はデンジャラスな格好をする羽目になったのもあるが。
何よりもこんな異常な空間を作ってしまえば、人理が乱れてしまうと彼女が思ったのが何よりも大きい。
「あら? 私たちがしゃべると思っているの?」
マーガレット、もとい、マタ・ハリは不思議そうに、それでいて妖艶に笑う。彼女のその微笑みを前にマシュは思わずたじろぐ、罪悪感や躊躇い、そういったものが感じられないものであった。
「それよりも、やっと来てくれたのだし、女主人としておもてなしをしないといけないわね」
ミストレス・Cは怪盗の格好でメタリックな銃を構えて、此方へと歩み寄ってきている。明確な此方への対峙意思を感じさせる動きである。
「申し訳ございませんが、私たちの要件を済まさせていただければと思います」
あの、非交戦性の塊のようなシェヘラザードでさえ、杖を構えて立ち上がった。
忘れてはいけないのは、彼女たちは戦いに関する逸話も技術も道具を所持しているわけでもない。しかしそれでもサーヴァントだ。人類を遥かに超える身体能力を持った、人類の運用できる最強兵器の端くれなのだ。
立香は戦闘への気配と、何よりも数的な不利を感じ取った。なにせ自分たちはマシュとジェミニ仮面、いやもう十中十でディオスクロイ、しかも行方不明であった彼らだ。
それはつまり、彼等はシンドバッド陣営のサーヴァントなのである。
彼らが敵に回れば、自分とマシュの2名に対して、相手の本拠地で、正面に3名のサーヴァント、背後にトップサーヴァント2名という状況で挑む形になる。
それはどんなに好意的に見繕っても、勝ち目という物が一切見えない絶望的という言葉ですらぬるいと感じられるような戦いになってしまう。
ちらりと横目で、背後の入り口付近のドアで手持ち無沙汰にしていた二人を確認する。
すると意外にも、彼等は今まで敵を前にするとやる気満々で武器を構えていたのに。自然体でそのまま佇むままであった。
「この程度の相手、自力でなんとかしてみるがよい」
「立香、マシュ頑張ってくださいね!」
仮面も外すこと無く、そのまま何事もないように戦いへの不参加だけを告げる。Pは手を振って応援までしているほどだ。つまりは確証は持てない。しかし直様自分たちを害することが目的なのならば、此処までにいくらでも機会はあった。信じて進むしか無い。
「マシュ!」
「はいっ! これが最後です!」
盾を握りしめて彼女は思い切り正面の敵へと踏み込むのであった。
「いやです、これは、死んでしまいます!」
「弱気になっちゃダメでしょ! ほら、立香? こっちみて?」
「あなた達遊んでないで! スピエルドルフ! ラインフェルト! 撹乱するのよ!」
戦況は端的に言えばカオスであった。マシュのチャージアタックを正面から受け止められるサーヴァントが敵に居ないのだ。辛うじて、シェヘラザードの呼ぶジンだけは多少拮抗するが、マシュが充分押し切れる程度。むしろ2犬のほうが、彼女の行動を拘束して来るので邪魔なほどだ。
そして立香はひたすらマシュの後ろ姿だけを視界にいれている。不思議と視線が惹きつけられるような気がして、マタ・ハリから来ているであろう、魅了が効いていなかった。
そして、あっさりと天秤は傾き始める。
もとより、デミサーヴァントとはいえ、1年の間、最も前で敵の攻撃を受け止め続けた騎士の英霊の力で戦う少女。戦いを好まない女性陣へと果敢に挑みかかっていけば、どんどん彼女たちは部屋の隅へと追い込まれていく。
「ガンド!」
「ありがとうございます!! これで終わりです!」
立香が、犬の動きを支援魔術で一瞬止めたそのチャンスを彼女は、最大限活用した。もう一匹の犬に向けてラウンドシールドを振るい払い、弾き飛ばした。
そしてその場に盾を置いて彼女はその身1つで飛び込む。腰には帯剣している彼女はめったに使うことのないその剣を抜き放ち、素早く当身と足払いをかけて全員を転ばせた後に彼女たちへと突きつける。
「抵抗は無駄です! 降参してください!」
動くスペースもなければ、目の前の敵にすべての行動を抑えられている状態で、3人のサーヴァントはあっけなく、コーナーに追い込まれて倒れてしまっていた。
苦笑しながら両手を上にホールドするマタ・ハリ、ふてくされたように座り込むミストレス・C。そして直様額を地面へとこすりつけるシェヘラザード。
一瞬で勝敗は決まったようである。
「戦闘終了です」
「お疲れ様、マシュ」
終わってみればあっという間であったという勝負に安堵した立香、後は原因を聞いて解決というわけだが。
ジェミニ仮面は決着がついたから近寄ってきたが、少し離れた所で此方を、いや少しはなれた所にあるマシュの盾に潰されかけた犬を助け起こしている。
敵だとしてもすぐに襲いかかってくるという様子ではなさそうだ。
「それで、どうしてこんなことをしたんですか?」
立香はもしかして彼も居るのではないかという予感を覚えたが、そんなことはないようだと状況を考える。こういう風になっても彼が来ないとは、立香には思えなかったからだ。
「立香さん、貴方のいた国の謝罪、土下座。これは誠心誠意を込めた謝罪であると同時に、首を差し出し、生殺与奪を相手に委ねるという意味がございますね?」
頭を下げたまま、彼女はそう続ける。長い黒髪が彼女の体に絡まっているが、苦しそうには見えない。
「……ですが、この謝罪にはもう1つ大きな意図がございます。それは、この土下座は表情を取り繕う事無く、顔を隠したまま謝罪できるのです」
その瞬間、部屋の明るさが急に変わったのに気づく。光だ、光がジェミニ仮面の方向から、つまりは背後から差し込んでいるのだ。
それがナニカもわからないまま、立香は反射的に前に飛び出し、マシュの元へと転がり込む。
「先輩!!」
「マシュ!!」
なんとか転がり込んだ二人は直様体勢を立て直そうとするが、立香は、マタ・ハリに腕を、ミストレス・Cに脚を掴まれてしまう。
「はぁい、ストップよ」
「ちょっと大人しくしててちょうだいね」
その言葉は拘束した立香ではなく、マシュへと向けたものであった。
あ、ヤバイ! そんな感情が彼を満たす中、ゆっくりと立ち上がるシェヘラザードを、彼は目をそらすこと無く睨むのであった。
改めて好きなヒロインは?
-
シェヘラザード
-
マタ・ハリ
-
ミストレス・C
-
玄奘三蔵
-
ポルクス&カストロ