[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
それは、ある日のこと。万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチの元に一通のカードが届いた、それがすべての始まりであった。
時は2015年の秋。まだ人理焼却がなされる前。
自室兼工房としているところにたった一枚だけ、いつの間にか正体不明のカードが混ざっていたのだ。
彼、いや彼女はその何も書かれていないが、確実に自分のものではないカードを調べると、驚いたことにこの時代のものではない、どこか別の世界から紛れ込んだものであるという観測結果が出たのだ。
「んー、これは報告するべきかなぁ?」
たかがカード一枚、万能の天才が、科学技術と魔術を融合させたカルデアで合間を縫って程度だが、2月ほど研究して分かったのがそれだけである。プライドと実利、そして現実的に、ファーストオーダーという大きなプロジェクトを前に。彼女の知的好奇心程度の探求は一先ず脇に置かれたのであった。
────そしてあの日人理が焼却された。
多くのスタッフが亡くなった中、彼女は何とか冬木から戻ってきた2名のマスターと生き残ったスタッフをロマニと共にまとめなければと決意して、自室で今後について考えていた時、部屋の片隅に置いてあったカードに違和感があった。
そのカードには文字が浮かび上がっていたのだ。
それは、この人理焼却という事象が確定したために、そのカードへ元々文字が書かれていたことになったからである。そんな事を知る由もなく、だが彼女はその聡明な頭脳で正解に近い確信を得ていた。
「なるほどね、これはイースターエッグではなく、タイムカプセルか」
それは、要約すると書いてあることは一つ。カルデアの備品として所属したマスターの装備開発の依頼であった。
カードの送り主は、ある特異点より、多少はこちらに干渉ができる様子であり。そのマスターにより、カルデアへといずれ呼ばれる可能性があるというものであった。
今後の情報や、黒幕の詳細そういったものは一切かかれていなかったが、聡明な彼女にはわかった。
「あえて書いていないのか、検閲でもされたのか、まぁ理念はわかるし良しとしよう」
このカードの差出人は、恐らく味方に近い立ち位置であろうと。なにせカルデアに都合の良い事が書かれていないのだ。要求自体は、自身が材料を手に入れてマスターの安全を考えれば作成をすることも頷けるものであり。そもそもが、未来の自分が作るであろう物であるのだから。
ただ気になったのは名前を刻まないで、空白のままにしてほしいという不可解な注文であったが、彼女はそれに従うことにした。
「このデザインは明らかに、私が作ったものを誰かが書き写しているね、うん、よく見たから分かるよ、なにせ死後まで私のせいになっているものが多いくらいなんだ」
未来か過去の自分か知らないが、既に命名しないという風に彼女自身が決めて作っているらしいのだ。ならばその自分の芸術性を曲げることはできない。
そうして彼女は、備品ゆえに優先度が下げられていた、名無しのマスター候補生の生態管理のための素材開発のタスク。そのプライオリティを書き換えた。ロマニにも納得できる不審がられない説明をきちんとした。
なにせもうその存在は、名無しの備品ではない、人類最後のマスターの片割れなのだ。その体調管理は最優先事項と呼んでもよいであろう。
その彼の持つ捕食、略奪という相手を食らう性質を少しでも緩和する理で作られた服、そしてグリーヴ、最後にはグローブ。名もない『3つのものに彼は支えられる』人間となるように彼女は物を作り与えたのである。
その後も旅は続いたが、カードはそれから特に大きな変化はなかった。しかし、オケアノスより帰った彼が召喚したサーヴァントを見た時、彼女は確信した。
ああ、彼女かと。なにせ手に持ったカードを名乗りと共に見せびらかして見せたのだ。
しかし、彼女からの接触は意外なほどなかった。それ故に彼女は冷静に推察した。
渡すべきものを渡す。そのように指示したのは彼女自身ではなく、同位体か同一別時間帯か何かなのであろうと。
そこからの彼女は一先ず指示もなく、何よりもロンドンより戻った後のドタバタを越えたあたりからは、しっかりと成長が見えた彼らをみて、自身の役割はもう十分なのかと、納得していた。
「私が思考して導き出した結論を、一瞬で察した作家連中にはやや腹が立ったけれどね」
だが、あの日第6特異点よりマスターたちが無事帰還した次の日、10月31日に彼女の前についに現れたのだ。
────流離いの女怪盗、ミストレス・Cが
「お邪魔してるわよ」
ダ・ヴィンチちゃんの工房を自室のように、我が物顔で声をかけてくる。それはカルデアの警報システムを誤魔化すほどの潜入技術であるが、そもそも彼女の霊基はカルデアのものにあるのであろう。
普通に自身の渡していたカードを目印にダ・ヴィンチちゃんの工房へと何食わぬ顔で侵入していた。
「なるほど、ちょうど1年前だね、このカードが来たのは」
ダ・ヴィンチちゃんには日付とカードの因果関係という要素を一切考察する材料がなかった。しかし記憶はしっかり保持していたために、全く同じ日付に現れた瞬間におおよそは察せていた。この日付10/31だけ、人理焼却前に彼女は大きな干渉ができたのだと。
「正解よ、ただ私は人理が焼却された以降の10/31より後ならば、存在が確定するけれどね」
「ふーん、それで私の作品は期待に添えるものだったかな?」
過程も理由も省いて、尋ねたのはただただ製作者としての確認だけであった。優秀すぎる彼女の脳裏には、多くの情報が、多くの推論があり、彼女が今日この日に、この形で現れたことで、ほぼ正解に近いものを導き出していたのだから。
「ええ、あなたのおかげよ。報酬になるかはわからないのだけど」
そして女怪盗は追加の注文を投げかけた。現在はウルクへと突入するのだという準備の時期で、非常にバックアップスタッフたちは多忙だ。
「なるほど……こうなったのか、彼は」
だが、それでも、そういった結末になるのであれば、彼女としても元々用意があった物の作成を進めることと、既に作っていた物をまた作る程度であれば、やる価値はあると確信できた。
「まったく、人をただの便利屋扱いしないでほしいのだけれどね」
「ごめんなさいね。でもカルデアにはそれだけの対価を支払う用意があるはずよ」
「そういうことなのだろうね……わかった、どうやらそれを支払うのは私ということになるようだし、受け入れようじゃないか」
ダ・ヴィンチちゃんは、カルデアの召喚システムに関して少しだけ細工をした、システムへの介入などは彼女には出来ない。ただ行ったのは、召喚されているサーヴァントの表示といった、情報の紐づけを行えなくするちょっとしたものだ。
それによって、既にカルデアの召喚システムでは限界までサーヴァントがいる、そう表示するようにしたのだ。
既にカルデアのキャパシティ的に新しいサーヴァントの維持をする余力はあまりない以上、その程度は問題はなかった。
「なんとか間に合わせてみせようじゃないか」
そして依頼された二つの物へと取り掛かるのであった。
ダ・ヴィンチちゃんの工房を後にしたミストレス・Cは、誰にも気づかれぬままに懐かしいカルデアの設備を歩く。もとより施設設計の段階の想定よりも、多くの人が亡くなっているため人が少ないので無人だ。
この土地自体にはあまり思い出は多くない為に、彼女はすぐさま目的の女性の部屋に入る。
「ごきげんよう、皆さん」
その部屋には3人の女性がいた。
部屋の主であり、褐色の肌に青い布で申し訳程度に身を包んだ、語り手のキャスター・シェヘラザード。踊り子のような衣装と、エキゾチックなアクセサリに身を包んだアサシン・マタ・ハリ。そして完全に鳩が豆鉄砲を食らったような、否、自身の過去がロボやビキニアーマーに身を包んでいることを知ったような顔をしている女怪盗・ミストレス・Cが。
この部屋にはシンドバッドのサーヴァントが3名いたのである
「なっ、なっ!!」
「しーっ! 静かにして頂戴、自分が増えるくらいよくある事でしょ?」
黒い水着に身を包んだ自分に対して、怪盗姿の彼女は呆れたように宥める。この自分程ではないが、他二人のサーヴァントも驚いている様子だ。
まぁ無理もないであろう。立場が逆だった時には、大いに驚いたことであるのだし。
「お話をしましょう、私たちが幸せになる為の、お話を」
そして、前置きもなくミストレス・Cは3人のサーヴァントに向けて語りだす、彼女の計画する面倒な規模の詐欺事件を。
「結論から言うわ、あなた達は、マスターの事好きだと思うけど、この関係をいつまで続けたいと思う?」
それは、失意のままに生前を終えた者、欲しいものを手に入れる事ができずに潰えた者、理想の前に摩耗して消えた者、その3名に対する分かり切った問いかけであった。
彼女たちの理想に近い終りが見えてきている今を、どう思っているのかという根本的な問いかけであった。
「わかってると思うけど、マスターは長くないわよ、次と最後の戦いを終えたら、もう寿命まで数日になるわ」
それは客観的な事実であり、何よりもこの3人が見て見ぬふりをしていたことであった。
結局のところ、このカルデアに呼ばれたのは、人理焼却という例外的すぎる異常事態があったからであり、この大きすぎる殺人事件が解決すればそれで終わりだ。
解決してくれてありがとう、それじゃあ後は今を生きる人間の仕事だから、また困ったら呼ぶね。そう言われて座に帰らされることだってありうるのだ。残りの人間が僅かだからこそ成り立っている異常過ぎる均衡状態は、勝っても負けても終わりが見えているものでしか無い。
どれだけのことを成したとしても個人で英霊を所有できるという事はない。なにせ彼女たちの維持する魔力はカルデアが負担しているのだから。英霊を使役するというのは、一流の魔術師並のリソースを持ち、自分で魔力供給ができ、英霊がそのダウンサイジングに同意して、双方の同意があって初めて実現するのだ。
「それで、あなた達は良いのかしら?」
どこまでも挑発的に、自己紹介すらなく説明を始める彼女。それはそう以前やられたからでもあるし、何よりも詳しく説明するよりもまずは冷水をかけて現実を見させてやる必要があるほど、彼女たちはのぼせ上がっているからだ、
「詳しくお話を聞かせてください」
それに対して一番早く返せたのは、シェヘラザードであった。彼女からしてやはりマスターの消失に伴う死というのは、祝福すべき形でなければという思いがあった。たしかに彼女は、そういった別れすらも容認する、そう思って此処まで来た。紆余曲折はあったが折り合いは付けた。それでも蜘蛛の糸が垂れてくるのならば、掴んでしまうのが彼女のあり方であった。
「ええ、いいわよ……と言うよりも、こっちはもうほとんど終わっているのよね」
そうして彼女は計画を語りだした。多くの偶然と、それをつかみ取ったことにより、自分達がどこまでできたのかを、そしてそのためには何をするべきなのかを。
「マスターを殺しなさい」
そう、それは矛盾であった。マスターのために、マスターを殺す事、それがこの馬鹿馬鹿しい女の情念を起因とした、はた迷惑な事件を起こす上での最低限の条件だ。
このまま流れるようにマスターが死を迎えてしまえば、彼女たちに事をなす猶予は与えられない。最後に必要なタイミング、終局特異点でマスターを殺すことが何よりも必要であった。そこから続きを話そうとする女怪盗に対して、部屋にノックの音が響く。
「シェヘラザード、それに皆、居るか?」
「マスター!? ちょっ! ちょっと待って頂戴。わたし達今取り込み中で」
マスターであるシンドバッドが訪ねてきたのである。突然の事態に慌てながら、水着姿のミストレス・Cは声を上げる。
「ごめんなさい、今はわたし会えないのよ」
それに続くように、怪盗の彼女も扉越しに声をあげる。ちょっとしたいたずらごころから出たものである。
「マスター、申し訳ございません」
シェヘラザードのその言葉に、少し不思議そうにしながらも、シンドバッドは離れていった。女性には色々あるので、素直に従うように熱心に洗脳、もとい教育されている彼はそういうこともあるのであろうと納得したのであろう。
「貴方が返事してどうするのよ!」
マタ・ハリは呆れていた、少し考えればおかしいことに気が付かれるかもしれないことに。話の核心はまだ見えてきたばかりだが、秘密裏に行うものであることははっきりしているのだから、
「いいえ、マスターは……最後まで私たちを疑わないわ。どんな終わり方になってもね」
それは、彼女の経験によるものであった。介錯の必要なく戻ってきたために、直接自分たちが手を下したこともあるという事を彼女は知ってしまったのだから。
「説明はしたわ、後の方法は任せるわよ、双子に関しては次に戻ったときに話を通しておくから、それまでに考えをまとめておきなさい」
そう言って彼女は部屋を後にした。きっと彼女たちは悩みに悩んで、自分たちと同じ結論を出すのであろう。それが嬉しくて悲しいことであった。ああ、自分たちはどこまで言っても浅ましい女達なのであろうと。
そうして、他にも少しばかり拝借する用事も済ませて、彼女は帰るべく廊下を歩いていた。いや本来どこからでも戻れるので移動という行為には意味はない。それでも彼女は、彼女だけが許された特権を行使するかのように、カルデアの廊下を歩いている。
そして目の前より目当ての人物が歩いてきた。
「あら? 今帰りなの」
「……? ミストレス・C?」
「ええ、そうよ」
少しだけ不思議そうに此方を見ている、『元』マスターを視野に入れると、彼女は薄く笑いながらふわりと軽やかな身のこなしで近寄る。
「どうした? なんか、違うな?」
「ええ、わたしもいろいろ思う所があったの、今度……いえ後で話せると思うわ」
彼女はそう、眩しいものを。もう此処まで純粋で全てを委ねてくるような瞳を見ることはないのであろうと、そう確信していたからこそ、この光景を目に焼き付ける。
「ワインは口に合わないかしら?」
「まだ、あんまり得意じゃない」
なんでもない会話、これができることが何よりも彼女にとっては嬉しいことであった。
それでもこれをいつまでも続けるわけには行かない。彼にはまだ使命があるのだから。それを邪魔することだけは許されないのですから。
「うーん?」
「それじゃあ、良い夜を、貴方」
そう言って彼女は、薄暗い廊下へと身を躍らせる。変わらず不思議そうな顔をした彼をその場に残して、するべきことをするために。
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