[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
「どうしてこんな事をした……ですか。今、すべての準備は整いました」
自ら倒れ伏していたシェヘラザードは、ゆっくりと立ち上がりながら、立香の問いかけに対してそう答える。
彼女は別に最初からカルデアを、立香を、シンドバッドを裏切っていたのではない。最初こそ彼女なりの思惑があったが、それはもう溶けて無くなっている。
ただ、あの時。終局特異点に向かうときには、もはや猶予はないと考えて行動に移したのだった。
「もともとミストレス・Cは城の内装の為、ロンドンの頃よりこっそりと盗みを働いていました」
シェヘラザードはインテリアとして飾っているワインのボトルや、そもそも他の多くの家具へと視線を向けながら、そう紡ぐ。それはミストレス・Cの女怪盗としての彼女の在り方であろう。別におかしいことではない、倫理観には反しているが、彼女は悪の英霊であり、そういったあり方なのだから。
「そして、ずっと千里眼を持つ者たちは知っていました、私たちがこの時間の狭間で何をしているのかを」
魔術師マーリンは推している男の子の近くにいる男のつまらない結末を見た。人としてただ終わることもできない、汚れ切った男だと、あれに対して協力する意味を見出せなかった。
それでも邪魔をするほどの醜さではなく、結果的には見事に自分がファンになった彼を盛り立ててくれた、故に邪魔もしなかった。
賢王は全てを見た上で、趣味が悪く、醜悪な遊びだと皮肉げに笑っていた。だが、懸命に自分の力だけで立ち上がり、自分の力だけで進もうとして行くシンドバッドが、最後につかんだものが仲間という有り様を見て、彼は面白半分に与えたのだ。ウルクを救った報酬を。
「私たちの手には、過程を省いて結果を作り出せる、ウルクの大杯がありました。でも本当に欲しいものはその過程を選ぶ必要がありました」
シェヘラザードはこのような回り道をするはめになった理由を、只々語る。
「このお城はミストレス・Cの持っていた、いえ、厳密には彼女のエリザベートとしての部分の物でした。特殊な時間軸にあり、多くの可能性と混沌を内包する、あやふやな場所です、それはとても好都合でした」
なにせ、人理という何層かに重ねたスクロールにさらにZ軸方向に離れた所にあるのだ。焼かれて空白化した所に現れた2016年のハロウィン。それと、存在しないはずの『人理焼却されている2015年』のハロウィンに、存在の可能性がある2017年のハロウィンが同時に偏在しているのだから。此処はハロウィンである異常性がある限り、逆説的にどの時期でもあるのだ。
「私たちはこの場にマスターが終局でなくなる前に、カルデアに戻らず退避しました。聖杯を供給源として。まぁ彼女だけはこの城を依り代としていましたが」
そして、シンドバッドは死んだ。彼女たちにとって予想外だったのが、彼の人生の終わり方は、場合によって死ぬことすらできない可能性があった事であろう。必要によっては、帰った後に殺す可能性があったのだが、それすら出来ない、時間神殿で事象の中に消えることがわかってしまったから、ただ見ていることしかできなかった。
しかし、それもディオスクロイの献身により、彼は双子神により冥界へと捧げられるという死因を得ることができた。
「この場にディオスクロイの二人がいる以上、もう成功はするはずなのです、彼等は死因ですから」
それは、彼女の語りが故に起こってしまう矛盾。存在しえない人物を語って世界を騙すのではない、存在する人物を逸話を語って、世界に信じ込ませる。そしてその逸話をもって、この縁をもって呼び出すのだ。
逸話はたった20名にも満たない人間が知るのみだった、それでは足りないから持ってきた。間に合せの彼の話。それをひたすら語り終えて、彼は非常にマイナーな都市伝説までに、そう本来英霊には成れない程度の、幻霊ほどに呼べるようにはなっている。つまりは、もう場は整っている。
「立香とマシュ、あなた達は7つの離宮を抜ける行程で、彼の冒険を簡易的に再現してきてもらいました。それによってより強固なものとなる、あなた達に被せたロールがより、世界を消せない幻想で満たします」
シェヘラザードは立香を見つめながら、そう優しく問いかける。それは労るような、慈しむような笑顔であり、冷たく狂った独善的な女の情念の笑みだった。
「他者を食い物にしたり、騙し騙されたり、そして悪魔を退けて女の元へ帰るお話を、あなたたちはご存じのはずです」
その話こそは、世界一有名な船乗りの話、多くのおとぎ話として語られている架空の人物の話である。子供向けに大衆向けに脚色や編纂がなされ結末や仔細は異なる。それでも7つの冒険を中心に冒険した船乗りの話である。
合わせる幻霊は同じ名前を持ち、7つの冒険を果たした、航海の神に守護された勇士である。
成したことの実例は、人理焼却から救ったということで、人理焼却から救ったものに再演させている。
「そこに相乗りさせていただきます。本当に、準備は整いました」
そう、マシュが彼女たちを下す際に、投げ捨ててしまった盾は、既に部屋の中心で光を放っている。周りはディオスクロイに囲まれて彼等は静かに成り行きを見つめている。その時点で彼女たちの準備は終わっているのだ。
「逆順なのです、私達が呼んでくるような形ですと、恐らく望まぬ『モノ』になってしまいます。なにせ彼が来る時は自身を犠牲にして戦うときですから。だから私たちは、ここまでとにかく『ここにきてもおかしくない状況』を作り出してきました。故にここについに叶います」
もはや、立香を押さえることすらしないで、シェヘラザードの横にマタ・ハリとミストレス・Cは並び立つ。あっという間のようで、ひどく長い時間を費やしたような気がする。
「逸話を語り、世界を限定し、信じ込ませました。座に持って行かれているわけでもなく、守護者としての契約も結ばない彼は。その全盛期を呼び出してしまえば、それはもう人ではない形に成り果てているのです」
「私たちと共に戦った彼、その欠けた部分をあなたたちの認識、それをこの私が語ったという、この空っぽの船乗り、名前が同じ彼の方に注ぎましょう」
この部屋には予め記されていた、世界一の船乗りの物語。聖杯により魔力は十分に存在している、そして依り代のホムンクルスも納品済みだ。最も、聖杯がある以上、絶対に必要ではなかったのだが。
「そして私達に危機が迫り、立香とマシュも危機に陥りました、ならばきっと……」
そして場に光が満ちていく。それはこの場の誰もが馴染み深いものであった。最後に呼ばれた双子ですら自身のときに経験しているのだから。
「せ、先輩! 」
「そっか……そういうことだったんだ」
マスターである立香にはわかった。サーヴァントが来ることが、どこまでも面倒なことをして縁と因果を結んだ理由も。
呼び出されるのは、特例的な英雄であろう。この世界でないところでのみ語られている都市伝説、マイナーな伝承、それで呼べる程度の幻霊。それをこの世界での活動する『名前』という鋳型に注ぎ込む。既に世界は騙せている、魔力も足りている、触媒の死因もいる、そしてマスターもいる。きっかけとしてのイベントもこなしている。
逆説的にすべての要素がそろい、そしてなによりも。きっと、彼がまた来たいと思ってくれたから、この召喚は始まったのだ。
あの終局特異点、冠位時間神殿で、縁という細い道筋を手繰り寄せて、単独顕現もないサーヴァントたちですら、僅かな縁をたどって走ってきてくれたように。最もこの場にいる人たちに会いたい彼が、ここに来るのだ。
より光が満ちる、室内を真っ白な光が包む。目も開けられないようなその輝き、それが薄れていくと、そこに立っていたのは、一人の青年だった。
アラビア風のパンツに、はだけた上半身を覆う上着、腰に短い曲刀を携えた。髪の色も少し違う気がするが、目が合った瞬間に理解した、ああ、この表情の動かし方は、きっと彼だと
「サーヴァント! アルターエゴ・シンドバッド!! 召喚に応じ推参した!! どうだ! 決まっただろ? ちょっとだけ勉強もしたんだぜ? でもまあ、うん。会いたかったよ、皆!」
立香は、今まで抱えていた、ダ・ヴィンチちゃんから渡された荷物に伝わる震動とマスターとしての経験で、一人の英霊がリストへと追加されたことを確信した。これがきっと簡易的なカルデアの座なのだ。ここに霊基グラフが記録されていっているのだ。
この彼は、この場の聖杯によって召喚されているのだろう、この特異点のようなものは、ハロウィンがある限り不滅なのだろう。
だけど
「お帰り、シンドバッド」
「ああ、立香も、また会えたな」
また、自分が呼べばきっと彼は来てくれるようになったのだ。
世界のどこかで少しだけでも、彼を覚えていてくれる人がいると、世界が認めてくれたのだ。
「「「「「マスター!!」」」」」
色めきだって、召喚された彼へと飛びつくいくつもの影。それに少し遅れてもう一人。
そのにぎやかな光景を見て、立香は、マシュと顔を見合わせる。
「一件落着かな?」
「はい、そうですね」
なにせ、ハロウィンの特異点は、帰った後も残り続けるのだから。人理に悪影響を与えていた、2016年のハロウィンを切り離して。
用は済んだから帰っていいよ。とばかりにどんどん消えていく二人の体、少しご無体な気はしたが、それでも笑顔のまま二人は帰る。とっても嬉しいお土産を手に、カルデアに戻れるのだから。
「立香! また困ったら呼んでくれ! 今度の俺はもっと頭がいいから、きっと力になる!」
「ああ、約束だ!」
「はい! また会えたら嬉しいです!」
聖杯からの知識を得た彼が紡いだ、その言葉を聞いて二人はカルデアへと帰還する。多くの世界を救って、その別れ方は様々だったが、それでもこの別れもきっと良いものなのだろうと、二人は笑いながら帰ることが出来た。
「やあ、お帰り、二人とも」
その声に目を開けて周囲を見渡す二人。景色は先程と変わらない様子で、戻ってきたのはダ・ヴィンチちゃんの工房であり、時間も殆ど経過していなかった。少なくとも半日以上はあそこに居たという認識だが、まぁそういうものなのだろうと、納得することにした。
「さて、早速だけど、報告がある、心して聞いてくれ」
「あの、まずは謝罪と説明が先だと思うのですけど」
マシュの冷静な指摘はしかし、彼女に笑顔で黙殺されてしまう。まぁ基本的に英霊というのは我が強いためこうなるのは致し方ないであろう。
「あの特異点は現在2016年の10月31日上にあってね、この事象が帰結したのがその日なんだよ」
冠位時間神殿というあやふやな場所から、彼らはその時間的不確かなままに2016年10月31日へと移動していた。
「だから、シンドバッド君の命日は、2016年の10月31日ということになるんだ、その試作品の霊基グラフはそう記録されているのさ」
彼女は笑いながらそう続ける、イタズラがバレてしまった子供のように。とっておきのサプライズパーティーを成功させた少女のように。
「そして、その日からカルデアのサーヴァントの召喚枠は1つ埋まっているんだ」
ガタリと小さい音が聞こえた。
「ロマニが疑問に思っていた、サーヴァントキャパシティがなぜか埋まってしまっているということ。それは所属がカルデアだが、誰にも召喚されていない状態のサーヴァントがずっといたということだ。どちらにせよあれ以上は連れて行くことも出来なかったからね」
「マスターである君は、特異点で退場したサーヴァントを、カルデアで再度召喚して、連続性を保って呼び戻せる。その行為を用いて説明するのであれば、そのサーヴァントは呼び戻されないまま、ずっとカルデアにいたということになる」
「今の君は、もう呼んでしまっているのだけどね。なにせあんなあやふやな場所で結んだ縁だ、ヘンに作用してもおかしくはないであろう?」
「ということで、これからよろしくな!」
それはいつかきっとの再会が、今日この場になったという事である。もう何度目かわからないなか、立香はマシュとともに、後ろに立っていたサーヴァントへと飛びかかるのであった。
立香の目に写ったのは、そのサーヴァントとしてのステータスと真名。
それを読むまでもなく、誰だかわかったのだから。
マスター:藤丸立香
真名:シンドバッド
クラス:アルターエゴ
宝具:
剣:ディオスクロイ マスター:シンドバッド
弓:ナポレオン マスター:藤丸立香
槍:アルトリア・ペンドラゴンA マスター:藤丸立香
騎:謎の女怪盗ミストレス・C マスター:シンドバッド
術:シェヘラザード マスター:シンドバッド
殺:マタ・ハリ マスター:シンドバッド
狂:謎のヒロインXA マスター:藤丸立香
盾:マシュ・キリエライト マスター:藤丸立香
分:シンドバッド マスター:藤丸立香
70話の前書きは誤字でもネタでもなく、要約でしたという話。
明日の更新、つまり次で終わりです。
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