[WR]FGORTA YAMA育ちレギュ [66日22時間15分32秒] 作:HIGU.V
青い海を見ていると心が落ち着く。
生前海を見た時は、幸せな時だったから。
最後に見た海は黒く濁っていたけれど、ローマの海、どこかの海、アメリカの海、ウルクの海、その全てに違う表情があって、違う感情があったから。
同じ椅子に座り続けて、ただ待つという事。それは前までならばずっと難しい仕事だと思う事だったが、今は全くそう感じない。何もしないまま、此処で座って過ごし続けるのも悪くはない。座っていれば考えられる、考えれば思い出せる、楽しかったことを、自分というものを。
なにせ、今はもう彼を支え続けた3枚の羽根はもうないのだから。
彼の心は穴が開いたのではない、穴とは、周囲全てに物質が存在するから、穴なのであり、空虚の部分が、物質そのものより大きいのであれば、それは穴ではない。ドーナッツにはあるが、フラフープに穴はないのだ。
そういう意味では彼はもう終わっている。持っていた小さな使命感というものもなければ、摩耗していく意思というものもない、ただただ元の形に戻ってしまったようなものだ。
いや、その元の形から、大きく浸食を受けたいびつな形ではあるが。
『全員、揃っているようだな』
声が聞こえる、男の声だ。別になじみがあるわけではない。この声が聞こえたのならば、気が付いたら用意されている席について、ずっと黙り込んでいるだけで良いのだから、話なんて聞いている事もないのだから。
『インド異聞帯の空想樹も伐採されて、カルデアは今こちらに向かっているのであろう』
『ええ、彼らは船も手にいれちゃったから』
金色の髪、それ自体は別に思う所はない、あんなに長い髪そのものへの憧憬はあるが、色々と違いすぎるのだから。
会議はどんどん続いていく。話は相変わらず理解できない、思い出すのは過去のこと。作戦会議に参加したこともあった気がするような曖昧な思い出。自分ができることだけでなく、他にできそうなことを探していた時期があったという思い出。
『それで、いい加減予備の備品は喋ってくれねぇのか? 律儀に通り過ぎてきたわけでもないから、正直顔すら知らないんだわ』
『ああ、そうだな。だが、彼は聞いているし見ている。ただ恐らく座る椅子を間違えているだけだ。すまないが、もう一つ右の椅子に腰掛けてくれないか?』
その声には従おう、そう思う不思議な力はない。従いたいと思う心が動かないのだ、それでもなにかがある気がするから、なによりも、いい加減うっとうしくもあるので言葉通り隣のいすに座る。仕掛けも仕組みもさっぱりなのだ。だが、そこに座ると自分の姿が見えるらしい。
『へぇ、こんな奴いたっけか?』
『名前もない、備品扱いだったから覚えはないであろうが。彼は我々と違い、人類最後のマスターだった。人理の修復をなした、偉大な【先達】だよ』
『っは、それで死んでちゃざまぁねぇだろうよ、俺達が言えたことじゃねぇか』
『……同感だな、あの諦めの悪い藤丸と違い、こいつには意思が感じられない』
ふじまる。その名前は聞いたことがある、その名前は自分がつかんで放り投げた男の名前だ。
そうか、彼はまだ戦っているのか、嵐の向こう側で。ああ、そうだった、だから自分はここで待っているのだ。嵐のこちら側で。
『名もなきマスターよ、私は君に尊敬の念を抱いているが……だが、かといって我等の席は埋まっている。君に与えられる異聞帯は存在しないし。その場にいる理由、それは君の交わした契約によるものだ』
金髪の男は力強く宣言する。
『だからこそ、その海を君に任せる。自由に使ってくれ、我々を裏切ってもよい、敵に与してもよい』
冷たい表情で、その男はこちらに言い放ってくる、熱を感じない、そんな言葉を。
『我々と同じことをしても良い、戦力は全て自由に使ってくれて良い、いや既に動かしているのだったな』
『頼む仕事はただ一つ、人類最後で最も優秀なマスターを私の前に持ってきてくれ。それは別に、君でも彼でもいいのから』
「……あぁ」
小さく頷く、それが最後に与えられた仕事だから。
席から立ち上がりその場を後にする。話は終わったのだろう、そういう空気だけはまだ感じ取れるのだ。
白い石でできた壊れかけの城、そこの何もはめ込まれていない窓から、外を見つめる。何処までも海が続く代わり映えのない景色だ。
そこから天を見上げる、強力な女の気配がある。それがあればもっと楽に勝つ事ができるのであろう。
だが、それは違うと思った。だから使わない。
そうして、少しだけ残る自分の心を覗き込む、今やりたいことは何かを知るために。
もう一度会いたかった。いなくなってしまった、3人の
それでも彼はここにいる。まだ、辛うじてマスターとして立っている。
彼は他の7人の────今はもう5人しかいない様子だが────選ばれた
そう、彼はマスターだった。
その手には令呪が刻まれていて、彼には強力なサーヴァントがいる。強力ではないサーヴァントもいた。
だが、彼はもう燃え尽きてしまっている。ここにいるのも、その神とやらの気まぐれによるものであろう、その神が認めた男への、ちょっとした支援物資でしかないのであろう。
どうでもよかった。
もう自分の呼んだ彼女たちは二度と帰ってこないのだ。自分がこうして戻ってきてしまったせいで、彼女たちの霊基との接続も消えてしまった。
もう、彼が呼んでも彼女たちは、カルデアに霊基が残っていたとしても連続性を保ってくることはないのだ。
会えたとしても、それは座にいる彼女たちしかもう呼べないのだ。自分の知っている彼女たちはもう居ないのだから。
ならばもうどうでもよかった。やることがあるのならばするだけだ。
やりたいことはもう2つしか無いのだから。
「マスター……終わったのですか?」
「お前もたまには眠れ、戦いが近いのであろう」
しばらく話を続けていた様子の机の光が消えると、後ろから声がかかる。この声だけが、目覚めてからの彼を彼たらしめる繋ぎ止める楔であり、ともに居たいと思える理由だ。
一切の衣服をまとわぬ二人は、1枚の布だけで体を隠しながら、体を預けていた寝台から声をかける。
金色の髪、浅縹の瞳、似通った美しい相貌。美しい彫刻のような躰を持つそれらが持っているのは
────強い人間への怒り。
それが彼らのすべてであった。
「……あぁ」
「やはり、カルデアが来るのですね」
「人間……汎人類史の、俺をゆがめた人間達が」
彼らは、彼らだけは。彼が今の形になってからもずっと側にいた。
少しだけ背負っているものが違うようだが、以前と同じような。
否、それ以上の関係を築くことができた。
厳密には、自分の知っている彼らとは違う様子だが、それでも彼らは自分のことを知っていた。
彼女が捧げて、彼も捧げられた。そういう関係の彼らは、名前のないこの男の残り香を知ったらしい。
どうでも良かった、仲間が自分と一緒に居てくれるのならば、それで。
あの、何もないよくわからない空間で漂い消え去った後、光に話しかけられた彼は、あれよあれよとここにいる。
地球はもう滅んで白くなっているし、カルデアももう潰れて新しくなっているらしい。
マシュとふじまるりつか、すこしだけ聞き覚えのある二人はわかるけど、後はもう顔も名前も思い出せない。
そいつらをここで倒す。それが役目。
でも負けてもよいらしい、勝ったら金髪の人の所に行って、対決をする必要があるらしいが、興味がなかった。
もう何もない彼は、何もないまま朽ちていく。
ただ、この双子だけが彼の生きる理由であり、動機であった。
「さぁ、こちらに……そして我等に魔力を、マスター」
「我等の物になれ、人間」
腰を掛けていた窓枠より立ち上がり、寝台へと倒れこむ。
あとはただ貪られるように、彼らへと魔力を渡すだけ。
生き返ったこの体は、以前のように動くし、魔力も以前とは比べ物にならないほど供給できる。
もう顔以外が鱗だらけのこの体は、この海の空気に良く馴染んでいる。
3人で魔力を分け与えあった後だけは、少しだけ頭が澄み渡る、その間にするべきことはしてきた。
そう、既に戦う準備は終えた。
この広い海原の、いくつかあった島は、上の女によって全て海に沈めた。
クロミアだかクルミアとかいう、強くなれるやつは念入りに壊した。
狂ったポセイドンとかいうおっさんは、邪魔だから金髪に送り返した。
そして、この出口近くの島だけが海の中の最後の陸地で、ここに常に上にいる女の目を向けさせている。
あと一人でもこの島に人が来れば直ぐに焼き尽くしてもらえるように。
艦隊は海中に並べて、同士討ちしても攻撃する事の許可も出している。
それでもなお、りつかとマシュは、ここに来る気がしている。
双神を従えた名前のない男は、そこできっと彼のサーヴァント共に戦うことになるであろう。
この海で生きている人間が自分しかいないこの世界で、彼はただ、崩れかけの部屋にて静かに待ち続けるのであった。
自分を終わらせてくれる友達を。
こちら、お気に入りが1000件を越えなかった場合の終わり方としていたものに、
大幅修正を行ったものです。
終局で死ねない彼は、見つかって使われるという終わり方です!
異聞帯は7つだけど、一箇所が、お、空いてんじゃーん!
となったので、ハートフルストーリーにならないように、かわいいヒロイン達と一緒に、もうすぐお友達がくるのを待つお話です。
全体的に薄味なのは、もう語れるほど彼の中身が残ってないからです!
この後どうなるかは、神のみぞ知るです。