私はセシリア・オルコットですわ。今は、入学式が終わって各教室で自由時間を過ごしておりますの。そんな中私の視線はある一点に注がれておりました。それは、隣の席に座っておられる殿方ですの。制服を着崩しているのは、首もとからチラリと見える包帯から着崩している理由が窺えました。それよりも、左目に巻かれている包帯の方が私には、とても痛々しく写りました。幸い無事だった右目を彼に気づかれないように覗き込むと、それはそれはとても優しく、吸い込まれそうな黒い瞳に私は夢中になってしまいました。それと同時に胸がドクン!と力強く脈打つのを感じ私は慌てて彼から顔を逸らし、そっと手を高鳴る胸に添えて、その拍動を感じながら彼の目をもう一度覗いてみましたの、そしたら今度は顔が熱くあるのを感じスカートのポケットからコンパクトを取り出し見てみると、そこには顔を真っ赤にする自分がおりましたの。そこで私は思いましたの。
セシリア(私、この殿方に一目惚れしてしまいましたのね…。)
と、悪くない。えぇ、悪くないですわ。あぁ、良かった。
セシリア(あの、もう一人の殿方にはなにも感じませんもの。)
そう、このクラスにはもう一人の殿方がおりますの。確か名前が「織斑一夏」世界で一番最初にISを動かした男性操縦者。あの「世界最強」「織斑千冬」の弟君、私は女尊男卑ではありませんが。あの殿方は、好きになれませんわ。
社「…落ち着かねぇ…(小声)」
不意に彼が日本語で呟いたのを、私は聞きました!私はコレを話しかけるチャンスと思い声をかけました。
セシリア『 あの、大丈夫ですか?』
何やってますの?!何で英語で話しかけたのですか私は?!ご覧なさい!彼がフリーズしてるではありませんこと?!
セシリア『 あのー?』
だから!何で英語なんですの?!日本語で話しかけなさいな!日本語で!
社『 あぁ、ごめんね。ちょっと考え事してたんだ。気分を害したなら、謝るよ。』
お返事してくださいましたわ!英語で!あの、日本人特有の訛りがなく、自然な英語ですわ!しかも、こちらを思っての気遣いがとてつもなく嬉しい!今の私ならワルツではなくフラメンコさえ情熱的に踊ってみせますわ!
セシリア『 いえ、大丈夫ですわ。それよりも痛みませんか?その傷とか…。』
落ち着きなさい、セシリア・オルコット!例え心中フラメンコの如く情熱的でも、表面だけでも英国淑女を装うのです!
社『 ご心配ありがとう、今は痛み止めが効いてるから大丈夫だよ。えーと、ミス…。』
来ましたわ!自己紹介が、他の誰よりも先にこの私、セシリア・オルコットが彼のお名前を聞くチャンスですわ!
セシリア『 オルコットですわ。セシリア・オルコットですわ。セシリアとお呼び下さいませ。』
良し!さり気なく、自分の呼び方を固定出来るかもしれないように誘導できましたわ!後は彼次第ですがどうでしょう…。
社『 分かった。俺は社、刀隠社。社でいいよ。セシリア。』
ハイ、撃ち抜かれましたわ。優しく微笑みながらなんて、余計に好きになりますわぁぁ!!フラメンコなんて生ぬるい、今の私はブレイクダンスの真っ最中ですわ!!
それに、ヤシロ・トガクシ。刀隠さん?違いますわね、社さん?これでもないですわ。刀隠様、中々ですわね、社様、これですわ!そうです!社様!社様とお呼び致しましょう!なら日本には「禅は急げ」と言いますし!では早速!
セシリア『 ハイ!社様!』
キャーーーー!言ってしまいました!言ってしまいましたわ!顔が熱いですわ!コンパクトなんて見なくても、自分の顔がどれだけ赤くなってるなんて想像がつきます!ハッ!社様の顔色がだんだんと悪くなっていました。まさか!お怪我が痛みだしたのでは?!大変ですわ!えーと、この場合どうしたらいいのでしょう?!
真耶「はーい、席について下さい。」
え?彼女は私の記憶違いでなければ元日本代表候補生、銃鏖無塵(ガン・スリンガー)の山田真耶さんではないですか?え?担任なのでしょうか?
真耶「初めまして。このクラスの副担任を務めます、山田真耶です。よろしくお願いします。」
一同『 お願いします!』
あ、副担任でしたのね。では、担任はどなたなのでしょう?むっ!社様の視線が山田先生のどことは言いませんがご立派なモノに注がれています!同じ女性として負けてますが、何をやってあそこまでのサイズになるのでしょうか?一度聞いてみるべきでしょうか?それよりも、社様、少々ご自重下さいまし。それ以上見つめるなら私のティアーズが火を吹きますわよ?
真耶「では自己紹介をお願いします。」
ふぅ、危なかったですわ。もう少しでティアーズを飛ばすところでしたわ。しかし、あの織斑一夏。自分がどういう立場なのかちゃんと分かっているのでしょうか?社様はどうやらご存知かもしれ知れません、私達女性の場合ISを扱えるのが当たり前のことですが、社様達男性がISを扱えるというのは、全く持ってのイレギュラーで言葉は悪くなりますが「実験動物」の見方の方が強くなります。それこそ世界中の科学者、研究所が解剖してまでもなぜ男性でもISが扱えるのかというメカニズムを解明したくて堪らないのです。それを社様達は「保護」という形でここ「IS学園」に入学させたのでしょう。
千冬「あぁ、山田先生。すまない、職員会議が長引いてしまった。」
私もそうですが、教室がザワついてしまいました。社様は少し苦い表情をされておられました。一体どういう事でしょうか?
真耶「あ、織斑先生。大丈夫ですよ、それよりお怪我の方は?」
千冬「問題ない、どこまで行った?」
真耶「今は、自己紹介のところまで行きました。」
千冬「そうか、さて諸君。私は織斑千冬、この姿についてはそこのミイラ男が知ってる。」
社様の反応から薄々分かっておりましたが、一体この人たちは何をどうすればこのようなお姿になられるのでしょう?
社「知ってるもなにも、俺をミイラにしたn一夏「お前かぁ!!!」」
そう叫びながら、織斑一夏が社様の胸ぐらを掴みあろうことか、力の限り揺すり始めたのです。私も周りの人たちも止めようとしましたがあまりの剣幕に、私達は情けないことに誰も止められなかったのです。
千冬「止めんか!織斑!」
そんな時に織斑先生の一言でようやく彼の手が止まり、
納得のいかない顔で織斑先生に食いついたのですがそれさえも、何処吹く風で社様に自身の弟を紹介しました。社様は何かに納得したようで手を離すように言葉を投げかけると、周りの人にも聞こえるような舌打ちをしたがら乱暴に社様の離しました。全く、織斑先生の弟君ならもっと品性を…。と思っていると彼は、驚愕の行動を起こしたのです。
クラス一同『 キャーーーーー!!!』
瞬く間に、教室が騒がしくなりました。それもそのはず、彼…。いえ、この男は社様のキズを思い切り殴りつけたのです。殴られた痛みより、キズの痛みで席から転げ落ちるように倒れ込み、胸元をキツく握りしめるとそこから赤いシミが少しずつ彼のシャツを染め上げていくのを目視すると、私は飛び込むように倒れ込んだ彼を抱き起こして呼びかけました。
セシリア「社様!社様!私の声が聞こえますか?!しっかりして下さいませ!」
身体が熱い、まるで火に灼かれているよう。不意に今まで握りしめていた手が力を失い、床に垂れ下がり。荒い呼吸をし、大量の汗を流しながら彼は気を失いました。
セシリア(このままではマズい!)
そう考えると、私は自分の制服が血で汚れるのを厭わず。彼を背に乗せ、急いで医務室に駆け込もうとしましたが、突然あの男にその行く手を阻まれたのです。
セシリア「退いて下さいまし!貴方の相手をしている暇なぞありません!」
一夏「何言ってんだよ!ソイツは千冬姉に大怪我させたんだ!」
こんな問答をしている場合ではないことは重々承知しております、じわりじわりと背中に広がる感覚に焦りを感じ。
セシリア(こうなったら!)
私はティアーズのビットを一機、部分展開をして威嚇射撃を行おうと。思った矢先に…。
???「そこをどきなよ!弟くん!」
そう言いながら、教室のドアを文字通り蹴破って入ってきた人物に私達は、驚愕することになるのでした。あら、織斑一夏がドアの下敷きになられましたわね。自業自得です、同情の余地なしですわ。
???「イギリスっ娘!今のうちにやっくんを医務室に!」
セシリア「ハッ!ハイ!」
とにかく、今は詮索するのは後回しにして今は!
セシリア「社様、少し揺れますが。ご了承くださいませ。」
一刻も早く、社様を医務室へ連れて行くことです。廊下を全力疾走で駆け抜け、曲がり角で倒れそうなのをなんとか堪え。医務室の先生に社様を託し、私は廊下の座席に腰を降ろすと、壁からベチャッ!という異音がなりました。それは水気を含んだ布地を壁に叩きつけた時の音でした。私は恐る恐る、立ち上がりながら背後を見ると。真っ白な壁が赤い液体で濡れていました。
セシリア「ヒッ…!」
血だ、それも彼の血だ。こんなになるまで出血していたとなると今の彼の容態は?!私は知らず知らずに自分を抱き締め、震える身体を必死に抑え祈りを捧げました。
セシリア(お願いします。どうか、どうか、あの人をお助け下さい!)
その後、織斑先生とあの扉を蹴破った女性がやってきて、織斑先生が女性に目配せをすると、女性は力強く頷き医務室へと駆け込んで行きました。私も後について行こうと、足を動かしましたが織斑先生に肩を掴まれ一度部屋に戻り、着替えるようにと仰られました。私は短く「分かりました。」と伝え。部屋に足を向けると織斑先生が「アイツがいるから大丈夫だ。安心しろ。」と仰られたのを背中ごしに聞いて。少しだけ気持ちに余裕ができました。部屋に辿り着いた私は、着替えを持ってシャワールームに入り制服の上着を脱いであらためて驚愕することになりました。彼の血がベッタリと付着しているのを見て、無意識のうちに血で汚れた上着を抱き締め、知らずに涙が溢れ。その場に座り込み再び懇願にもとれるような、祈りを捧げていました。
彼の意識が戻った報せを聞いたのは、それから2日後のことでした。
尻切れ感が半端ねぇ、オマケに1話より文字数多くなってる。