佐天、雪菜のピンチを救ったゴスロリ少女は自分を断罪の神エムロイに仕えし亜神にして、今はマスターにも仕えし【ルーラー】のサーヴァントと名乗った。
一体何の事やら皆目つかず、ロゥリィを凝視し続ける佐天だった。
突然横槍を入れられ、更に憤怒の形相を見せるメデューサはこの少女を先に始末する事に決め、口を大きく開き口内から魔力による熱閃を放出した。だがそれをロゥリィは振り向きもせずにハルバードを片手で軽々と振って熱閃を弾き返した。
「ギィィッ!?」
「···あらぁ?あなた、何かしたのかしらぁ···?ゴメンなさいねぇ~♪余所見してたから適当にあしらっちゃったわぁ。良かったらもう一度やって見せて下さるかしらぁ?」
わざとなのか、天然なのかは計り知れないがロゥリィ・マーキュリーはこの黒蛇から強く進化した魔物、メデューサ相手にすこぶる軽いノリで挑発気味に相手をしていた。
メデューサは先ほど断ち切られた両腕を再生し、今度は鋭くデカイ刃へと変化させ強く振り回しながらロゥリィに迫った。
「あっ!危ないっ!!」
雪菜を支えていた佐天が思わず叫んだ。だがそれも杞憂に終わる。ロゥリィはその巨大なハルバードを素早く振りかざし、メデューサの2本の刃を簡単に弾いて左腕を斬り下ろした。
「ギョワァァッー!!?」
進化した魔物メデューサの皮膚は黒蛇だった頃より更に硬度を増し、ちょっとやそっとで断ち切る等不可能だとそう自負していた。だが今、目の前のコイツは簡単に斬り割いてくる。仕返しに細切れにしてやる!そう考えたメデューサは身体をより最適なモノへと変化し始めた。
「ウッフフゥ···何か対策があるなら早くしさいなぁ。出来なかったら、直ぐにケリを着けちゃうわよぉ?」
戦いを楽しみ、それを尊ぶロゥリィはわざわざメデューサの再生と変化を待ち詫びていた。
メデューサは全身に魔力を展開して行き渡らせ、背中に4本の腕を生やし刃に変化させ、尚且つ細かい無数の蛇である頭髪を逆立ててロゥリィに挑もうとしていた。
「成る程、成る程····魔力を漲らせて力と速さと手数を増大させて挑んでくれるのねぇ♪良いわぁ····面白いからかかって来なさぁい。
遊んでぇ···あ・げ・る♥」
天然なのか、わざとなのか判別しにくい挑発を受けてメデューサが計6本の刃を一斉に振りかざしできた。
「ジャアァァーーーッ!!!」
凄まじい気迫と咆哮を伴ってロゥリィに刃を喰らわそうと素早く斬りつけて来るが当の本人は鼻唄混じりに超重量のハルバードを少女の細腕だとは思えない程の驚異的な膂力を発揮させて振り回し、その全ての攻撃を相殺していた。
その様子を目を見開いて見ている佐天はとにかく唖然として身を隠す事を忘れていた。
「ギッギッギイィィィー!!!」
自分の全ての攻撃を防ぐコイツは確かに驚異だが、所詮は人間。ほんの少し長引かせれば容易く息を切らし、音を上げ膝をつく····
そう、メデューサは考えた。
数分間、互いの刃と刃のぶつけ合いは続いた。一体、何撃刃を振るっただろうか···?
そしてようやくメデューサは気づいた···否、気づかされた。
この少女は全く息を切らせず寧ろ一合毎に速く重く斬擊を強め、たった2本の腕で自分の6本の腕の刃と敢えて互角に撃ち合って
メデューサは目の前の少女の姿をした人間が自分を遥かに凌ぐ怪物として映っていた。
そして、防ぐだけでなく何時でも簡単に自分の首を、命を刈り取れる·····!?そう理解したメデューサは唐突に全身をしならせて全力でバックステップをしてロゥリィの斬擊から離脱する。
「あらぁ?逃げちゃう訳ぇ?いけない娘ねぇ!!」
追撃しようとしたロゥリィにメデューサは6本の腕、無数の頭髪の蛇、そして口からの魔力の熱閃を無数に一斉射出し遠距離からの砲撃でロゥリィに対抗した。
凄まじい熱閃を雪菜に負けず劣らずの跳躍力で難なく回避し、その勢いのまま超重量のハルバードをブーメラン、もしくばフリスビーの様に軽く投げ飛ばした。
「そぉっれっ!」
ハルバードは弧を描いて回転し、一週半程廻って、メデューサの死角の無防備な背中を右肩部分を中心にして突き刺さった。
「ギョオォォー!!·······ギッヒヒィッ····」
右肩に掛けてハルバードは深々と刺さりメデューサも悲鳴を上げるか直ぐ様下卑た卑しい笑みを見せた。
メデューサは突き刺さったハルバードを増やした腕全てを使って引き抜き、傷も煙を吹き上げながら再生させてロゥリィの前にニジリ寄った。
メデューサは6本の腕でロゥリィのハルバードを構えて得意気な笑みをする。
「あらぁっ?もしかして私が強いのはそのハルバードのお陰と思って自分の物にしたのかしらぁ?まあ、否定もしないけどねぇ~♫」
自分の武器を奪われても、一切の焦りや恐れを見せずに余裕ぶるこの少女の姿をした怪物を一気に真っ二つにしてやるっ!!····そう考えているとロゥリィは明ら様な挑発をした。
「どうしたのぉ····?怖がらなくても良いから使ってご覧なさいなぁ···♥」
この挑発に乗ってメデューサは残っている全魔力をフルパワーで解放し、首、肩、腕、背中、腹、蛇の下半身全てを二周り程大きく太く変化させ、筋骨隆々となって血管を浮き彫りにした。明らかなパワータイプとなってハルバードを右側へ天高く突き上げ全身全霊の一撃を振り下ろそうとした。
その構えは偶然にも日本の薩摩藩(現鹿児島)に伝えられている剣術、示現流を連想させた。
ロゥリィは一切の防御の構えも見せず、回避する気配すら感じさせなかった。
「ジャアァァァーーーッ!!!」
ドッバアァァァーンッッ!!!
・・・・・・・・・・
観戦モードになっていた佐天は思わず目を閉じた····そして余りの静寂さに恐る恐る目を開き、瞳に映った光景に我が目を疑った。
メデューサが全魔力、全膂力を込めた最強最大の痛恨の一撃をロゥリィは涼し気な顔をして片手で受け止めていたのだ。
「ギグゥッ···グッグッ、ギリィィッ!!?」
「ほらほらぁ?それで全力ゥ···?もっと頑張りなさいなぁ···」
メデューサは歯を食い縛り、6本の腕に太い血管の筋が浮き出す程の限界まで全力を込めているのが浮き彫りになっている。
必死になってハルバードを押し込もうとしているが一向にロゥリィの体はびくともしなかった。
「それが限界の様ね···それじゃぁ、そろそろコチラのターンかしらぁ。私が素手でもイケちゃうって事を教えてあげるわねぇ」
ロゥリィは空いてる右腕でがら空きになっているメデューサの左の頬を拳で殴った。
「そぉれっ!」 バキィッ!!
「グボォッ!!?」
鋼鉄以上の硬度を持つメデューサの左頬が痛々しくへこんだ。痛みとダメージに驚き、思わずハルバードを落とした。
「それじゃあ····もっと行くわよぉ♥」
右の一発を皮切りにロゥリィの素手による撲殺劇が始まった。
「はぁいっ!」 メキィッ!!
「ギャウッ!?」
「ほいっ!次ィ♪」 ボグゥッ!!
「ゲヒャアッ!!?」
ワンテンポ置いてのパンチが徐々に速まり、そしてそれは猛烈な嵐の様な
「うふふっ···あははっ!!ムダよぉ♥無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーー!!!!!!!!!!」
嬉々とした笑顔と歓喜の掛け声を上げて両拳の
一向に止まない
(あ"あ"っ···こっ、コイツはぁ···人間の幼い小さな少女の姿をしているがそれは大きな間違いだあァァ~!!
コイツは····コイツは我の命を笑いながら摘み取りにやって来た【死神】だァァー!!!)
メデューサの潰れ行く眼球に映るは、奇妙な服装で年端の往かぬ少女から不釣り合いに漂う
メデューサは初めて【恐怖】という感情を知り、そして咆哮ではない明らかに怯えと絶望の悲鳴を最後に上げてその骸を残さずにこの世から消滅した······
消え去った場所には黒い結晶の様な物が落ちていた。
「はぁ~い、お死まいっ♥」
ロゥリィはあれだけのラッシュの後にも関わらず、一切の息を切らさず
まるで目の前の小さな羽虫を潰した程度の感覚で殺り終え、両手をはたいてハルバードを担ぎ、軽い足取りで呆然となっている佐天に近づいた。
「はぁ~い、待たせて悪かったわねぇ。何しろ戦いの時はどうしても血が滾っちゃうのよねぇ····」
明るく陽気に物騒な事を言う目の前のゴスロリ少女に佐天は何も言えず、その姿をひたすら眺めていた。
そんな佐天にロゥリィは懐を探って試験管の様な物を取り出した。
「はいこれ。マスターから預かった貴重な毒にも効く『万病薬』よぉ。早くその娘に飲ませてお挙げなさいなぁ」
「えっ···あ、はい····」
彼女からは悪意の類いは一切感じられなかったので佐天は素直にその薬を受け取って、さっきの水辺へ移動し、掌に水を掬ってその薬と一緒に意識を失っている雪菜の口へと運んだ。
「·····ゴクッ·······スゥ···スゥ···」
水と一緒に薬を飲んだ雪菜の顔色はたちまち良くなり、呼吸音も静かで穏やかとなって佐天は心から安堵した。
「よっ、良かったぁぁ~!!一時はどうなるかと····あっ、スイマセンまだお礼を言ってませんでしたね?私の名前は佐天って言います。本当に危ない所を助けて下さりありがとうございました」
「ウッフフ····礼には及ばなくてよぉ♪私はマスターの命によって、この地へ降り立って貴女達を助ける様に命令····いえ違うわね。頼みでやって来たのだからぁ」
「マスター····って人が私達を···?何故この異世界で私達の事を知ってるんですか?どうしてこの場所で危ない目に合ってるってわかったんですか!?」
「う~ん····マスターから許可されている範囲の説明はしてもいいんだけどぉ···どうせならドラちゃん達と合流してから説明した方が手間が省けて助かるからそれで良いかしらぁ?」
「えっ!?ドラちゃん·····って、ドラさんの事まで御存知何ですかっ!?」
「まぁ知ってはいるけどぉ、実際に会うのはこれが初めてになるわねぇ」
様々な疑問が頭の中で渦巻き、佐天は身体をよろめかして地面に座り込んだ。
「····あっ、あれぇ?何だか身体が重い·····」
「貴女、自分でも気づかない程疲弊しているのよぉ。ドラちゃん達が助けに来る迄今はゆっくり休みなさぁい。大体マスターが言うには後3時間足らず位で来てくれるって。もう少しの辛抱よぉ。私も愛しのドラちゃんに会えると思うと胸が高鳴るわぁ~♥」
佐天は彼女の口ぶりからドラえもんに対して並々ならぬ好意が有ると感じ、様々に質問したい気持ちを堪えてシリカ達が来るのを待った。そして自分でも認識出来なかった疲れが彼女の身体を包み込んでウトウトして、何時しか眠り込んでしまった。
「うふふっ、可愛い寝顔ねぇ····暫しの休息を堪能なさぁい。私が二人をちゃぁんと守ってあげるからぁ」
ーーーーー
佐天、雪菜の二人がロゥリィによって危機を脱していた頃、ドラえもん、シリカ、ミニドラ、ピノの四人は訪ね人ステッキから導き出された方角へと空から移動していた。
岩山や草の生えている似たような景色が続く。すると、少し離れた先で何かが吠えて騒いでいる声が聞こえてきた。
「んっ?何だろう···?この先で何か獣の吠えている声が聞こえる」
ドラえもんはポケットから只の望遠鏡を取り出してその場所を覗いて見た。
見えた先には中型犬位の大きさの牙がサーベルみたいにとび出している狼が複数で何かを囲って喚いている様子だった。
「ドラえもんさん何が見えてるんですか?」
気になったシリカがドラえもんに尋ねた。
「うん、これで見てごらん。サーベルタイガー····イヤ、サーベルウルフかな?とにかくあの牙の大きい狼達が複数で何かを囲んで吠えているんだ」
シリカが手渡された望遠鏡を覗き込むと、そのサーベルウルフ達は囲んでいた何かが逃げたので一斉に追い込みをかけている様子が見えた。
「ああっ!ドラえもんさんとても小さなウサギ····の様な耳をしている生き物が血まみれになって襲われてます!!私、助けに行ってきますっ!!」
「待ってシリカちゃん。確かに助けたい気持ちは解るけど、これは異世界であってもちゃんとした自然の営みなんだ。あのサーベル····ウルフ達も生きて行くのに必死で命を繋ぐ獲物を刈っているだけなんだよ」
「ドラえもんさん····た、確かにそうなんですけど····その····私は····偽善かも知れないけど助けたいです·····駄目ですか···?」
瞳を潤ませてドラえもんに懇願する····ミニドラとピノもシリカの想いを同じくしてドラえもんにお願いするかの様に鳴き喚いた。
(はぁ~やれやれ。優しい所はのび太くんやしずかちゃん達にそっくり何だよなぁ·····)
「····しょうがないなぁ····わかったよシリカちゃん。助けてあげよう。但し、あの狼達も生きて行く為に襲ってるだけだから傷つけないようにしたい。だから全部僕に任してね!」
「ドラえもんさん····ありがとう!」
「ドララッ♪」「クピピッ♪」
シリカは晴れやかな笑顔を見せ、ミニドラとピノも嬉しそうに一緒になって喜んでいる。
三人のお願いに折れたドラえもんはポケットから道具を取り出した。
「桃太郎印のきび団子ぉ~!これを食べた動物はどんなに獰猛でもすぐに大人しくなって仲良くなれるんだっ!それじゃ····それぇ~!!」
襲われている場所まで急行し、ドラえもんは桃太郎印のきび団子を幾つかデカイ牙の狼達の口に目掛けて放り投げた。
「ギャウッ!!ガルルっ!!パクっ!?
ゴックン······ギュルル····クゥンクゥン~♪」
興奮して血走った眼はすっかり穏やかな瞳になり、激しい気性は鳴りを潜め、きび団子を食べさせ空に浮かんでいるドラえもんを嬉しそうに尻尾を振りながら見上げた。
肝心の襲われて血まみれになっているウサギの様な生き物を見てドラえもんは驚いた。
「ややっ!これは···この生き物はポケモン!?確か····イーブイ···だったけ?何だってこの異世界のこんな場所に····もしかしてピノちゃんと同じ様に保存されていたのを何かの原因であの地下の研究所から目覚めて逃げてきたんだろうか····?」
「ドラえもんさんっ!この子、凄く傷ついてて死んじゃいそうです。何か道具はないですかっ!?」
シリカの必死の叫びに我に帰ったドラえもんは急いでポケットからタイム風呂敷を取り出し、たちまちこのイーブイというポケモンの傷をケガをする前の時間に戻して治した。
少し意識を失っていたが、ほんの数秒で気がつき···
「ブッ···ブイッ?·······ブイブイブイッー!!!」
少し周りを見渡すと目の前にはついさっき多数で襲って来たサーベルウルフ達の姿があり、それを見て酷く慌てて逃げ出そうとした。
その様子を見たミニドラとピノはイーブイの前に降り立ち、何やら事情を説明してイーブイの怯えて慌てる気持ちを落ち着かせてくれた。
事情を把握したイーブイはすっかり気を許して二匹にすり寄って頬擦りをしていた。
「ブイブイ~ッ♥」
「良かったぁ~ありがとうございます、ドラえもんさん。それに二人もこの子を落ち着かせてくれてありがとうね」
「ウフフ。これぐらいオヤツのどら焼き前さっ!」
「ドララッ♪」「クピピッ♪」
「イブイッ!」「ギャオギャオッ!」
シリカはすっかり大人しく従順になったサーベルウルフとイーブイの頭をなぜてご満悦になっていた。
「クゥンクゥン~♪」
「ブイブイ~♪」
「うわぁ~♪さっきまであんなに狂暴だったのが、こんなに大人しくなってぇ····牙はちょっと怖いけど可愛い~!!えっと、この子もその····例のポケモンのイーブイって言うんですか?」
「うん、そうなんだ。これは僕の推測だけど、恐らくさっきの地下にあった研究施設みたいなのはポケモンの為の施設みたい。そして、ミニドラはポケモン達のお世話やサポートにまわる為に連れて来て多分一緒に保存されてたんだろう····あくまで僕の勝手な推測だけど····」
「ドラえもんさんの未来の世界のポケモンの研究施設が何でこの異世界にあったんでしょうか·····もうわからない事だらけですね····」
「まあ、でも僕らがやるべき事は依然変わりない。はぐれた佐天ちゃんと雪菜ちゃんと一刻も早く合流し、みんなと一緒に元の世界へ戻る手段を探し出す!だから頑張ろうシリカちゃん」
「はいっ、頑張ります!それでは私のワガママで遅れてしまいましたから急いで二人を探しに·····」
シリカがそう言い終わろうとした瞬間·····
「グルオォォォーッッ!!!」
凄まじい獣の咆哮がこだました。