11話 僕は墓の場所を決めたい。
7月下旬の真昼間。
外は空気が歪んで見えるほどの暑さだが、一日中魔法によってひんやりとしたマルフォイ邸でゴロゴロと過ごす僕には無縁の話だ。
しかし、どんな所にいても水分補給は大切なので宿題をする合間に僕はキッチンへお茶を飲みに行こうと部屋を出た。
ーー2年の夏休み。その危険性を僕はどんな事をするにしろ、もっと配慮すべきだったのに。
キッチンに行くと、我が家のドジっ子屋敷しもべ妖精のドビーが摩訶不思議なことに自分の頭を目玉焼き用のフライパンで何度も叩いていた。
「ドビーはお知らせしなければ……。けれどご主人様の命令にそむいてしまう!ドビーは悪い子!!」
「あのドビー?お茶淹れてくれない?」
ドビーはぶつぶつと呟き、そしてまだ頭を叩き続けているのに忙しく僕に気づかない。
しかし、しもべ妖精としての本能か注文は認識しているようで、頭を叩きながらも器用なことに魔法でポットからティーカップにお茶を注ぎ、空いた片方の手で僕に差し出してくれる。
「しかしドビーは行かなければ!ええ、行くのですハリー・ポッターのもとに!!」
「え、ちょっと待って!?」
カップを受け取ろうとドビーの指に触れた途端に景色が変わった。そう、ドビーの姿現しの術に巻き込まれたのだ。
勢いのまま僕が倒れ込んだのは綿が一切入っていないんじゃないかと疑ってしまうような硬いベッドの上だった。
恐る恐る見上げると、そこにいるのはまるでドラゴンがフィギアスケートでトリプルアクセルを決めた光景を見たかのような顔をしたハリー。
「……」
「……」
互いに無言で見つめ合う。誰か胃薬ぷりーず。
2年の夏休みのイベントその1。それは我が家のそれはそれはドジでマヌケで傍迷惑な屋敷しもべ妖精は父上ルシウス・マルフォイの企みを知ってハリーに父上の名前は伏せて密告するのだ。ホグワーツに戻らないよう善意を持ってする嫌がらせじみた忠告。それに巻き込まれた。
「マルフォー…「ハリー・ポッター!」
ハリーがやっと口を開いたが、キンキンしたドビーの挨拶に遮られる。どうやら彼はまだ僕の存在に気づいていないようで、丁度良い高さの枕かクッションだと勘違いして僕の倒れた身体に乗ってくる。
「ドビーめはずっとあなた様にお目にかかりたかった……とっても光景です……」
「あ、ありがとう。けど君の下……とりあえず横に座ったら?」
未だ困惑した様子ながらもハリーはドビーを僕からどかそうとするが、ドビーはその言葉をどう勘違いしたのか飛び上がり、そして勢いよく僕の頭に着地する。
「ドビーめはこれまでたったの1度も、魔法使いから座ってなんて言われたことがございませんーーああ、ハリー・ポッターは偉大なだけではなく、こんなにも優しい方だなんて!」
またドビーは飛び上がる。そして僕の頭はクラクラする。
「……!」
そろそろ良いよね、怒って。
「ハリー・ポッターはしかも勇猛果敢!でも、ドビーめはハリー・ポッターにご主人様に内緒で警告しに参ったのです。
ハリー・ポッターはホグワーツに戻ってはなりません!!」
最後の言葉にハリーは僕を凝視していた目を初めてまともにドビーに向けた。
「ど、どういうこと?それにご主人様……?」
ドビーはまたしても興奮して飛び跳ねる。
……知ってるか、『仏の顔も三度まで』っていう言葉。
「ドビー…」
自分でもびっくりするほど低い声がでた。
「お、お坊ちゃま?何故ここに……」
下を見降ろしてやっと僕に気づいたドビーはさっきの3倍ぐらい飛び跳ねた。
「何故ここにだって?お前が連れて来たんだろ」
僕は肺いっぱいに空中を吸い込んだ。
「帰るんだ、今すぐ僕を連れて屋敷に帰るんだ!!!」
そうして、僕らは呆然としたハリーを残してマルフォイ邸のキッチンに戻った。
ビクビクしながらこちらの様子を窺うドビーに「僕は何も聞かなかったし、何も見なかった」とだけ言って自室に駆け込む。
胸に手を当てて深呼吸すると少し冷静になり……絶望に襲われた。
「ああ、終わった。あーあ、終わった僕の人生。ハリー・ポッターに目をつけられた。うん、死ぬ。死んじゃうのか。死因は何かな……。マンドレイクの悲鳴?アクロマンチュラの毒?バジリスクの視線?もしかしたらただ単に食中毒かも。出来ればあと20年ぐらい生きたかった。せめてノストラダムスの予言が当たるのか知りたかった。遺書はなんて書こう……とりあえず父上、母上、こんなに不甲斐ない子供を育てて下さりありがとうございました、そしてごめんなさい。僕の持ち物は全てドラコに譲ります。あっ、けどあのノートを見られるのは嫌だな。ノートと日記だけ先に焼いとくべきだな。お墓の場所はどうしよう。海が見えるところが良いかも、多分そこならゴーストになったとしても気分がスッキリするかもー…するのかな?」
開心術によって僕の状態をある程度把握したのだろうリャナンシーは、だだっ広い部屋の隅で三角座りをした僕の様子に腹を抱えて笑いやがった。
こうして2年目はホグワーツに着く前から、フライング気味に戦いは始まった。
~ハリー目線~
あーあ、ダーズリー一家ウザイしロン達からも手紙こないし萎えるわー。今ならマルフォイでさえ姿を見れたら喜べる……ん?マルフォイ?えっ、ガチで??
というハリーの顔を妄想したかった。