ハロウィンの後日、学校中がミセス・ノリスが襲われ壁に不穏な文字が刻まれた話でもちきりだった。
犯人は誰だ、ミセス・ノリスが石のようになってしまった原因。事件の不透明さが生徒らの好奇心と恐怖を煽った。もちろん僕も絶賛煽られ中だ。自分がまともに寝れたのは何日前だっただろうか……いや、少し大袈裟だった。魔法史と天文学で少しぐらいは意識が飛んだかもしれない。
寮の自分の棚の引き出しから、原作の記憶を書きとめたメモを取り出す。
ミセス・ノリスを襲った犯人。それは秘密の部屋から解き放たれた蛇の化け物"バジリスク"。ホグワーツの創始者スリザリンの愛蛇で、その目を直視した者を殺してしまう怪物だ。
そして僕の記憶が間違ってなければ、ジニー・ウィーズリーが"例のあの人"の魂に操られて事件を起こしていった筈。だがジニーはリャナンシーの恋の法則という名の謎理論のお陰で愛しのハリーに近づけるようになりそこそこ順調な生活になったことにより誰の目から見ても健康体だ。
メモの裏にあるもう1枚の紙、ジニーからの次の会議の日程を示されたノートの切れ端を見たら、そっちはそっちでげんなりしてくる。
だが秘密の部屋は開かれ事件が起こった。原作の流れとは違う、何が起こったのかさっぱり分からない。いったい誰がー…
「ーーおい、ポラクス。聞いていたかい?」
沈み込んでいた意識が、2段ベッドの上からかけられたドラコの声で戻ってきた。慌ててメモを引き出しに突っ込む。
「ああー、夢の中でケナガイタチが目の前に舞い降りて来たって話だっけ?」
「はぁ!?そんな話何処から出てきたんだ?クィディッチだよ、クィディッチ!!次の土曜日は僕のデビュー戦だ」
気を悪くしたようにドラコは鼻を鳴らす。
「あ、ああ。そうだったね!頑張って、観戦は好きだし観に行くよ。ドラコの活躍楽しみにしてる!」
「本当に覚えてたか?まぁいい。ポッターなんかけちょんけちょんにして、素晴らしいプレーを見せてあげるよ!」
ドラコの宣言に10秒ぐらいの沈黙の後、クラッブとゴイルのカスカスの下手くそな口笛が鳴った。
土曜日の朝。虚勢の笑みを顔に貼り付けたドラコを見送り、いくらか準備してから僕も試合会場に向かった。試合開始時間が迫っているのでもう生徒はほとんど城にいない。そんな中、僕は人気の無い廊下を忍び歩きする不審者を発見してしまった。
「あぁー…ハリー・ポッターはホグワーツに行かれてしまった。ドビーが命の危険があるとお知らせしても!なんてハリー・ポッターは勇敢!しかし……もう、部屋は開かれてしまった。ドビーはハリー・ポッターをお守りせねば!」
……この世で関わったらろくな事が無い存在ナンバーワン(マルフォイ家調べ)の彼だ。
「あのしもべ妖精確かポラクスの家の……」
「リャナンシー、ここに屋敷しもべ妖精なんていない。いないったらいない」
必死でこちらも足音を消して目を合わせないよう横目を向ける。だが横目にし過ぎた。動揺すると僕はどうにもクラッブとゴイルのことを言えなくなるぐらいには間抜けでドン臭くなるらしい。
廊下の端に飾られた甲冑に激突して耳が痛くなるような凄まじい音が起こった。
「ドラコ……いや、ポラクスお坊ちゃま!!?」
その音に負けないぐらい甲高いキーキー声を上げて僕に驚くドビー。僕の頭に反対から覆い被った兜の隙間からドビーを窺うと彼の顔は真っ青だった。
「ド、ドビーはー…」
痙攣しながら少しずつ上がる右手の人差し指。
「ヤバい!」と思った瞬間僕の視界は暗くなった。
ーー何やらスースーとした薬品独特の匂いがする。
僕は真っ白なシーツの医務室のベッドで寝ていた。辺りを窺おうと体を動かした音で僕が起きたことに気づいたのだろうホグワーツの校医マダム・ポンフリーがやって来た。
「調子はどうですか、マルフォイ?」
「大丈夫です。けど僕、なんでここに……?」
「覚えてないのですか?廊下で気絶してたそうですよ。金髪の1年生らしき女生徒が貴方を運んできてくれました。お友達なら後でお礼を言いなさい」
恐らくリャナンシーの事だろう。彼女なら人に化けることも簡単に出来る筈だ。チラッと奥の窓を見るとリャナンシーが得意顔でクルクルと回りながらアピールしていた。
診察書を記入しようとしていたマダム・ポンフリーだが、1行目で困ったようにこちらを向いた。
「えー、失礼ですが貴方はどちらのマルフォイですか?」
「弟の方です。ポラクス・マルフォイです」
申し訳なさそうに軽く謝られたが、弟の存在を把握しているだけで彼女は立派だと思う。
多分、というか絶対ドビーに失神呪文でも撃たれたんだろう。ドビーはハリーを守るという名目でクィディッチの試合でボールのブラッジャーを襲わせる準備をしていた。そこを僕はまたもや目撃してしまったらしい。慌てふためいたドビーは思わず魔法を使ってしまった。人混みを避けたのに逆にそれがいけなかったのか……。
どうも前世、いや前前世ぐらいかもしれないが僕は妖精狩りかなんかして怨みを買ったに違いない。そうじゃないと僕の周りにいる妖精達のタチの悪さは説明出来ない。
確か去年気絶した時もあの空中でバレエをしているバカ妖精のせいだった。
30分ぐらい経ってからマダム・ポンフリーは退院の許可をくれた。医務室を出るとすぐにリャナンシーがローブのポケットに飛び込んできた。
「あの屋敷しもべ妖精め、ポラクスにいきなりなんて真似をしてくれるのかしら!ごめんなさいね、襲われる前に防げなくて。やり返そうともしたのよ、なのにあのしもべ妖精自分から縄を取り出して首を絞め始めたの。流石にどうすべきか分からなくなったわ」
「……一刻も早くアイツを解雇したい」
心の底から願った。
かなり長く気絶していたようで外はもう日が沈みかかっている。僕は1日無駄にしたとため息つきながら寮へ帰った。今日1日何をして過ごすつもりだったかすっかり忘れて。
あったらそこそこ好評かもしれないものパート5
『バジリスクの目』
第3の目としておすすめのこの1品。憧れのあの人をただ眺めてるだけ……という人に、この目で見つめればあの人は何処へも行かず目の前に留まってくれる。ただし威力を加減して落とさないと初めての顔合わせとともに永遠のお別れになる可能性があるので取り扱い注意。瞳孔が切れ長なのがチャームポイント。