父上から今年のクリスマス休暇はホグワーツで過ごして欲しいという旨の手紙が来た。魔法省関係の仕事で忙しいかららしい。つまり、秘密の部屋での生徒被害を言い分にホグワーツの理事長に手を回してダンブルドアを退職させることに心血を注いでいらっしゃるのだろう。
クリスマスを家族で過ごせないことに母上はかなりご立腹なようで、プレゼントと一緒に届いたメッセージカードにはタラタラと文句が書かれていた。現在入獄中の姉、ベラトリックス叔母上が何を思ってなのか肋骨辺りの人骨をクリスマスプレゼントに贈ってきた事も苛立ちの原因の1つらしい。
しかしスリザリン生が殆ど家に帰る中、ドラコと気まずい雰囲気の中寮で過ごすのはとても快適だとは言えない。
クリスマスの朝も何も挨拶無しにドラコは大広間へと行ってしまう。リャナンシーのキスを避けながら、少し時間を空けて入れ違いになる形で朝食を食べに大広間へ向かうことにした。
ダンブルドアが指揮するクリスマス·キャロルを2曲ぐらい聴いたところで飽きてきたので寮に戻る中、クラッブとゴイルが地下廊下でロンの兄の1人、パーシー·ウィーズリーに捕まっていた。
僕の姿を捉えるとクラッブが「マルフォイ!」と唸るように叫んだので、僕は一瞬ポカンとしてしまう。彼から僕に話しかけてくる事なんて殆ど無いからだ。
しばらくしてやっと理解した。2人はクラッブとゴイルにポリジュース薬で変身したロンとハリーだ。そういやあった、そんなイベント。正直ドラコの事で頭が一杯で秘密の部屋の事がすっかり抜けていた。
「何やってるんだ?2人とも」
「あー、えーっと、ウィーズリーがうるさくて……」
ゴイルもどきが何かを伺うように答えると、パーシー·ウィーズリーが噛み付いてきて説教をしだしてきたが適当にあしらいクラッブとゴイルもどきについて来いと合図した。
「また寮までの道を忘れたのか?」
「うん、そんなところ」
クラッブもどきは僕の問いに安心したように頷くが、流石のあの2人でも合言葉はともかく、もう寮への道のりは覚えた。偽物であることはバレバレだ。
ハリーとロンはいかにもな純血主義のドラコをスリザリンの後継者ではないかと疑って、内情を聞き出したいのだろう。ならばとりあえずスリザリン寮に案内しなければならない。
「純血!」
と新しい合言葉を言えば石の扉が開く。
2人は物珍しそうに談話室を眺めている。……2人とも俳優にはなれなさそうだな。
丁度ドラコが寝室への階段を登ろうとしていたところだった。
「えっ!マルフォイが2人だって!!?」
クラッブもどきがあんぐりと口を開けて僕らを指差す。ゴイルもどきも混乱したように交互に目を動かしている。その様子にドラコは遂に頭の病気を患ったかと呆れを通り越して気の毒に思ったのか、どこか優しくクラッブもどきに言った。
「マルフォイは2人いるじゃないか!僕はドラコ·マルフォイ、お前の隣は双子の弟のポラクス·マルフォイ。オッケーか?同じ部屋で寝起きしているのにそれすら分かってなかったのか?」
どうやらハリーとロンは僕の存在を把握してなかったらしい。ホグワーツの人間の大体がそうだが。
クラッブもどきは目を泳がせながら頭をかく。
「あぁちょっと、ケーキが余りにも美味しかったものだからボーッとしてたよ……アハハー…」
「まったく、良い癒者紹介してやろうか?」
ちっとも言い訳になっていない言い訳だがクラッブの姿だと納得出来てしまう不思議。2人の変身対象のチョイスは間違いなく正解だっただろう。
「……しかし、お前たちがポラクスと一緒とは珍しいな」
「コイツら、寮への道すら覚えてなかったんだ。たまたま通りかかったから連れてきたんだよ」
僕が答えたらドラコはあからさまに目を背ける。
「へぇ、そう。僕は少し調子が悪い。先に寝室に戻ってるよ」
そう言うと早足に去ってしまった。クラッブもどきとゴイルもどきを窺うと、2人は互いに顔を見合わせ何かを決めたように頷き合って僕の方を向いてきた。
「えっと……ドラコに尋ねたいことがあったんだけど聞きそびれちゃったなー」
ゴイルもどきが棒読みで言う。
「ほら、最近スリザリンの後継者って噂になっているじゃないか。マルフォイ家って有名なスリザリン出身の一族だから、マルフォイ弟ー…じゃなくてマルクスもなんか知ってたりしないかい?」
誰がマルクスだ。しかし普段はなんも考えて無さそうな鈍い色の彼らの瞳をキラキラと輝かされて見つめられるのは僕の精神へのダメージが大きい。さっさと帰って貰おうと情報を提供することにした。
「継承者が誰かかは知らないな。僕らの父上は知ってそうなんだが全然教えてくださらないんだ。継承者の好きなようにやらして、目立たず関わらずいとけって……僕はいつもやってることなんだけど。まぁ父上は今ウィーズリー氏の手引きで屋敷に調査が入って忙しいみたいだから」
クラッブもどきがとても嬉しそうな顔をしたが、ゴイルもどきに横腹を突かれて、心配そうな顔になった。
「へー、大変そうだな。けど、ドラコは何か聞いた風にはしていなかった?」
「いや、多分ドラコも何も聞いてないと思うよ。……今、ちょっと気まずくて話せてないから詳しくは知らないけどね」
「そうなんだー…」
ゴイルもどきは何が続けようとしたが、クラッブもどきの顔を見ると顔を青くしていった。
クラッブもどきの髪が少し赤みがかってきている。
慌てた様子で「さっきのケーキで腹が痛い、胃薬貰ってくる」と言って本物ではありえない機敏さで談話室を飛び出て行った。
「何だって言うの、あのトロール達。今日はやけに喋ってたわね」
今日はクリスマスじゃなくてエイプリルフールだったかしら、とリャナンシーがカレンダーを確認しだした。
「大丈夫、今日は間違いなくクリスマスだよ」
けど、毎年当たり前のように家族で過ごしていたクリスマスを1人でいるのは思ったより寂しさがある。寝室にはドラコがいるから行きづらい。何しようかと暖炉の炎をぼんやりと眺めていると、グイッとローブの袖をリャナンシーに引っ張られた。
「クリスマスで合っているなら……もちろん、デートしてくれるわよね?」
「湖以外なら、良いよ。外は凍え死ぬから止めてくれ」
「あら、そこが良いと思ってたのに!」
彼女は不満そうな声音ながらも、表情は柔らかい笑みを浮かべていた。その笑みは今ばかりは、本当に今だけなら天使のようだと言っても過言ではないと思える美しさだった。
「メリークリスマス!ポラクス!!」
こうしてドラコに気づかれず、ポラクスにも忘れ去られた本物のクラッブとゴイルは2人で仲良くモップに覆われながら物置でクリスマスの夜を過ごしましたとさ。