「ねぇ、ポラクス。私の声聞こえる?
聞こえてるなら返事をして!」
何度も呼び掛けられるものだから、僕は仕方が無く起き上がった。
いや、起き上がったのか?妙な感覚がする。まるで水の中を漂っているような……。
「良かった、意識はあるみたいね」
傍には安心したように胸を撫で下ろすリャナンシー。
そして、真っ白なシーツのベッドで横になっている僕"自身"がいた。
どうも霧がかかっているように、ハッキリしない頭を何とか働かす。
「僕はバジリスクに襲われたんだっけ?それで、今はどういう状況?」
「アナタの身体は今石のようになっている。そして幽体離脱、と言うのかしら。アナタの意識はそれに近い状態になっているわ。今のアナタは私以外には認識出来ない」
「そうか」
自分が変な状態である事は理解している。なのに、驚きも、不安も何も感情が湧き出てこない。
「日記はどうなった?」
「私が噛み付いてやったわ。魔力を吸い取ってやった。けど、余りにも不味いものだから少ししか吸い取れなかった。とりあえずあのリドルって奴を日記の中に押し込めることは出来たけど……また、復活するでしょうね」
よく見るとリャナンシーの美しい金色の髪は真っ黒に染まり、肌は病的に白くなっていた。彼女に良くない影響があったのは確かだろう。
「アナタは危険な状態だったわ。いくら実体が無い状態とはいえ、生きている身でバジリスクの目を直接見たんだから。アナタから吸い取っていた魔力を少し戻して何とか命は繋ぎ止めたけど……。陽の光を浴びてゆっくり生命力を取り戻していくのが1番よ」
「そうか。僕は死にかけたのか」
嫌な心配事が1つ実現してしまったらしい。こうなりたくなかったから色々気を張っていたのに。
マダム・ポンフリーの他にも、時々僕の様子を見に来る人達が何人かいた。
「マグル生まれの生徒が狙われていると思っていましたが、まさかマルフォイ家の子が襲われるとは予想外でしたな……」
「ええ、認識を変えなければなりませんね」
険しい顔をしたスネイプ先生とマクゴナガル先生。
……ごめん。さっき何人か、って言ったけど来る人物は先生とあと1人だけです。
その1人、ドラコは毎日のように見舞いに来てくれた。
「父上と母上にポラクスのことを伝えた。けど母上はショックを受け過ぎて不安定で……動かない君の姿を見せるのは危ないらしい。父上も報せを聞いて、この事態を収拾する為に全力で動いてくださっているから会うことは出来ないって」
でも……、とドラコは持ち込んだ袋の中をゴソゴソと漁り出す。
「手紙を一杯書いてくださっているよ。とても心配してる。今は食べれないけど、君の好きなお菓子も沢山送られてきた。あとドビーからも絵が届いてるが……これはタコか?いや、裏に"ポラクス坊っちゃま"と書いてある」
ベッドの側の机に見舞いの品を並べてくれた。
「……ウィーズリーの女と付き合っていないことはとっくの前に気付いていた。あの女はハリー・ポッターばかり見ているから。けど、君が僕に何かを秘密にしているように感じて、どうでもいいように思われているように感じて、変にイライラして意地張っていただけなんだ。早く、謝らせてくれ……」
何も答えない僕に時間の許される限り話しかけて、病棟を去っていくドラコ。
その影には、まだ日記の魔力が絡みついている。なのに僕は何も出来ずに毎日見送り続ける。
「……アナタは随分、家族のことが大事なのね」
リャナンシーがボソリと漏らした。
「ああ、とても大事さ」
「アナタは自分を1番大事にしている人間だと思ってた」
「ああ、とても大事さ。けど、僕が1番大事にしているのは『みぞの鏡』に映っていたのと同じだ。"家族といる中でゆっくり過ごす"日常が大事なんだ」
「ふーん」
生返事だけして、リャナンシーは黙り込む。
彼女も随分と疲労しているようで身体を縮めて普段からは考えられない程静かにしていたが、ずっと僕の枕元から離れず窓の外の景色を眺めていた。
しばらくして、また何人か被害者が出たようだ。隣のベッドに寝かされたのはグレンジャーだった。
マクゴナガル先生に案内されて硬直したグレンジャーを見たハリーとロンはショックを受けたように突っ立っている。
そこに、僕を見舞いに来たドラコが訪れた。彼らは一瞬僕らの姿を見てから、互いに何も言わず目を逸らしてすれ違った。
更に数日後、ハリーとロンはグレンジャーの元に訪れた。
そして2人は見つける。彼女が右手に握り締めていた事件を解決へ導く本のページを。
「パイプ」
グレンジャーのメモ書きを読み上げたハリーは真相に辿り着く。彼らは弾けるように立ち上がって病棟を後にした。
遂にこの日が来てしまった。
どうなったんだ、ドラコは。
数分後、マクゴナガル先生の放送が部屋に響いた。
何事かと職員室に向かったマダム・ポンフリーが帰ってくると、僕の元に訪れて同情するように言った。
「兄弟揃って襲われるなんて……。しかも今度は石になるどころか連れ去られるとは」
ずっと平らだった筈の僕の心は、突然激しく荒れだす。
「リャナンシー。本当なら、ドラコは襲われなくて良かったんだ」
「何でそんなこと言えるの?」
「僕は知っているんだ。僕の居ない
原作と関わらないと言いつつも、完全にドラコから離れることはしなかった。ジニーなんかと話したりもした。
だって、僕は楽しかった。彼らと過ごす時間が。
全てを妥協していた。
けど、それでドラコが死ぬかもしれない所まで来た。
「僕はやっぱり、居たらダメだったんだ。僕が居たらドラコはー…」
「ふふっ、ポラクスはバカね」
リャナンシーは何が可笑しいのかカラカラと笑う。
「アナタが知ってる
彼女は動かない僕の顔を手の平でなぞりながら呟いた。
「"未来"なら、変えれるのよ」
次話で2章は完結します。
多分、明日投稿出来ると思います。