ポラクス・マルフォイは陰キャを極めたい   作:於涼

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23話 僕は口に蛇は住ませたくない。

曲がりくねったパイプの中を滑り台のように落ちていくと、湿った地下トンネルに放り出された。

 

地下深く光が一切届かない暗い通路を、ハリーがルーモスで杖先に灯を点して先頭を歩いていく。

 

しばらく歩くと前方を塞ぐように巨大な蛇の抜け殻が現れた。毒々しい緑の、これを脱いだ蛇は6メートルはある事が想像出来るその代物に一同は思わず唾を飲んで立ち止まる。

 

「なんってこった」

 

ロンがボヤいた時、ロックハートが抜け殻を凝視したまま腰を抜かして地面に倒れた。

 

「立て!」

 

ロンがロックハートに杖を向けて命令したら、ロックハートは立ち上がる振りをしてーー逆にロンを殴り倒した。

慌てて止めようとしたハリーだがロックハートは意気揚々とロンの杖を掲げる。その顔はやつれた様子から、いつものウザったいスマイルに戻っている。

 

彼は巨大な抜け殻を見て悟ったのだ。自分が巻き込まれているのは冒険など生温いものではなく、命をかけた戦いだということを。

 

逃げたくなる気持ちは分かる。だが、僕はコイツにそれなりには恨みがあるのだ。

 

「ーー少年は救えなかった。そして君達はその死体を見てショックで狂ったということにして私は帰ろう。私は忘却術には腕に自信があってね。様々な魔法生物にも試したことがある。ゴーストにも有効だろう。さあ、記憶に別れを告げるがいい!」

 

彼が高々と振り上げた無理矢理テープで補強されたロンの杖は今にも折れそうだ。

慈愛の心をもって"今"の彼に手を振って別れを告げようと思う。

 

 

さようならー…貴方のことは多分、恐らく、忘れない。

 

 

「オブリビエイト、忘れよ!」

 

杖は爆発した。

その衝撃でトンネルの天井は崩れ落ち、上から岩石が降ってくる。

 

咄嗟に身を屈めて抜け殻の方に滑り込んだハリーに、何とか後ろに避けたロン。

岩が直撃こそしなかったものの爆発の中心にいたロックハートは吹き飛ばされたようで瓦礫の中からピクピクと片足を震わしている。

 

瓦礫によって道を塞がれてしまい手前に取り残されてたロンはここに留まることになり、ハリーは先を急ぐことにしたようだ。僕は通り抜けられるので問題ない。

 

吹き飛ばされたロックハートのことは無事戻れた時のお楽しみとして、緊張で息を乱しながらそれでも前に進むハリーを追いかける。

 

蛇の彫刻がされた壁に突き当たった時、ハリーは口を開いた。

 

「シグナス……きっとこの壁は秘密の部屋への扉だ。中に、巨大な抜け殻を作った"バジリスク"っていう蛇の化け物がいるかもしれない。僕が足を踏み入れれば襲いかかってくるかもしれない。僕が何かあればそいつを引きつけるから、君はこっそり付いてきて、マルフォイがもしいたら連れ出してくれないかい?」

 

「任せて、隠れながら君に付いていくのは得意分野だ」

 

「えっ?得意分野??」

 

「あー、何でもない」

 

僕の失言に疑問符を浮かべたハリーだが、今は急ぐべきだと判断したのか直ぐに真剣な顔に戻りシューシューと壁に向かって蛇語で語った。

吸い込まれるように消えた壁の先に現れた広い空間にハリーは杖を構えながら踏み入れる。

 

僕は壁をすり抜けて、奥へと回り込む。

ずっと壁の中にいるのは変な感覚がして好きじゃないのだが、今はそう言っている場合じゃない。

 

部屋の一番奥には年老いた長い髭の魔法使いの石像がそびえ立っている。恐らくこの部屋を造った我が寮の創設者サラザール・スリザリンだ。その足元には屍のように倒れるドラコと古ぼけた日記があった。

 

今すぐ駆け寄りたい気持ちを抑えて、柱の影から少しだけ顔を出して様子を伺う。

 

 

ドラコに気付いたハリーが傍へと向かうと日記から顔立ちの整った青年、トム・リドルが僕と反対の方の柱の横に現れてハリーに語りかける。

 

「彼はまだ、生きているよ」

 

「ーートム・リドル?」

 

原作通り、1度ハリーの手にも日記が渡ったのだろう。突然現れたトム・リドルをハリーは驚いた様に見つめる。

 

"生きている"

その言葉に僕は肩の重みが少し減ったのを感じた。

リドルは混乱するハリーから杖を奪い、事の真相を次々と喋り出す。

 

「最初は赤毛の小娘が持っていたんだが、その内この少年、ドラコに持ち主は移った。小娘は君のことについてのつまらない恋の悩みを書いてきたが……彼はもっとつまらない弟への悩みを書いてきた。余りスリザリンの純血の子は使いたくなかったんだが、なんせ時間が無かった。けど、ドラコはどんどん僕に話しかけるペースが多くなったから思っていたよりも早く彼の暗い気持ち、魂を奪うことが出来た。なのに、あの妖精がー…」

 

「最初はマルフォイが犯人だと思ってた。けど連れ去られて……君がマルフォイを操っていたって言うの?」

 

「ああ、そうさ。だが2月中旬辺りから彼は勘づいてきたのか僕を遠ざけ棄てようとした。しかし幸運な事にハリー、君が拾ってくれた。僕はずっと君と話したかったから……」

 

 

「再び君から日記を取り戻したドラコを使って君をここに呼び寄せた。僕の狙いはーー君だった」

 

トム・リドルもとい"例のあの人"ヴォルデモート卿はハリーにドヤ顔で正体を明かすがそこに美しい真紅色の鳥、ダンブルドアのペット、不死鳥のフォークスがボロボロの包みを持って、歌うように鳴きながらハリーの元に現れた。

 

 

ハリーに未来の自分を罵倒されて遂に頭に血が昇りきった"例のあの人"は蛇語で頭上のスリザリンの石像に語りかける。

するとそれに答えるように石像の口が大きく開き、中から巨大な蛇の化け物"バジリスク"が顔を覗かした。

 

……なんと言うか、偉大な創設者の口から吐き出されたように特大サイズの蛇が出てくる光景はなんともシュールだ。

 

いよいよ始まったハリーとバジリスクの戦闘。巨大な蛇がその体躯を存分に振りかざして暴れるものだから柱が倒れたり壁が削られたり大惨事だ。 その激しい戦闘の直ぐ傍に倒れるドラコを急いで安全な部屋の隅へと移動させる。

 

「ドラコ、しっかりしろ!目を覚ますんだ!!」

 

「……」

 

呼びかけてみるがドラコはピクリとも動かない。

呼吸はしているがかなり浅く、脈拍も不安定だ。

 

……素人目でも分かる、非常に危ない状態。

 

僕は杖を取り出して、呪文を唱える。

 

「リナベイト、蘇生せよ!」

 

回復呪文を唱えてみるが、様子は何も変わっていない。

この呪文はあくまで気を失った人物の意識を回復させるものだ。生命活動が限界に向かっているドラコには焼け石に水。何度試してみても結果は同じ。

 

どんどん血の気を失っていくドラコに僕は焦りを覚える。

 

このままじゃドラコは上に戻るまでに死んでしまう。"例のあの人"に生きる力を奪われ過ぎた。僕の呪文ではどうしようもない。

 

チラリと顔を上げると、ハリーがバジリスクの頭をフォークスが運んだ組み分け帽子から取り出したグリフィンドールの剣で貫いたところだった。

 

それと同時に彼の腕はバジリスクの毒牙に貫かれていた。

 

力無く崩れ落ちるハリーは今にも命を失おうとしている。だが、そこにフォークスがやってきた。

フォークスは真珠のような涙をハリーの傷に流す。するとハリーの傷はあっという間に癒えていくじゃないか!

 

 

そうだ、不死鳥の涙ーー

 

僕はフォークスを大声で呼ぼうかと考えたが、踏みとどまった。

 

「不死鳥の涙も、今のドラコには意味が無い……」

 

不死鳥の涙は類まれなる奇跡の治癒力がある。だが、それは外傷に関してだけだ。魂の傷までは癒せない。

 

どうする、どうする。

 

ドラコの真っ白になった顔が、リャナンシーの顔と重なって見えた。

 

何故、ドラコは死にかけている?

魂が、生命力が足りないからだ。

生命力が足りなかったのは僕も同じだ。

じゃあ僕はどうやって助かった?

 

リャナンシーが生命力を分けてくれた。

 

そうだ、それが出来れば!!

 

「ドラコ、死ぬな!」

 

僕は透明の自分の手を微かに動くドラコの胸に当てる。

リャナンシーが僕から奪う時、与える時の感覚。まるで互いが1本の糸で繋がるような……。

 

体温なんて無いはずの自分の身体から温かい何かが流れ出ている感じがする。僅かに身体が更に薄くなって。

僕もこんな状態だ。生命力が足りていない。だから、今ドラコを延命させれる分だけでも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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