「ポ……ラ…クス?」
微かにドラコが呟いた。
名前を呼ばれたことにドキリとするが、それよりも安堵感が胸に広がった。
「喋らなくていい!しっかり息を吸え」
だけどドラコは言葉を絞り出していく。
「ご…めん、ポラクス。君の、話も聞かずにお…こって……」
言葉が途切れたことに慌てて呼吸を確認するが、先程より安定していた。
息を付いたその時、部屋に醜い悲鳴が響き渡った。
ハリーが、"例のあの人"を破ったのだ。
部屋を見渡して僕らを見つけたハリーが駆け寄ってくる。
「シグナス、無事だったかい?
……マルフォイは生きてる?」
「うん、何とか生きてるよ」
ドラコの身体を魔法で浮かせながらハリーとトンネルへと戻って元きた道を戻って行く。
ロンが瓦礫を押し退けた隙間からハリーの無事な姿を見つけて歓喜の声を挙げた。
「ロックハートはどこ?」
ハリーの問いにロンはニヤリと笑って壁際に座り込んで一人大人しく鼻歌を歌っているロックハートを指差す。
「調子が悪くてね。忘却術が逆噴射しちゃったんだ!何もかもチンプンカンプンの状態さ!」
近付くとロックハートは人の良さそうな顔で僕らを見上げる。
「やぁ、なんだか変わったところだね。ここに住んでいるの?」
僕はハリーとロンを押し退けて前に出る。
「いや。何言ってるんだい?ここは君の家じゃないか!」
「あれ?そうだっけ。私ってこんな大きい家に住んでたんだ!」
「「……」」
ハリーとロンはちょっと引いたような顔をしてきた。
「僕、コイツに幾らか恨みがあって。折角の機会だから1週間ぐらいここで暮らして貰ってもいいかなーって」
「流石に……可哀想かな」
ハリーにより僕の案は却下になった。
本人もバジリスクの抜け殻を見つけて嬉しそうに「わー!きっとステキな蛇も飼ってるんだね!」とか言って満更でもなさそうなのに。
フォークスに連れられて嘆きのマートルのトイレに戻ると、僕は彼らに別れを告げた。
「ハリー、ロン。ドラコを助けてくれて本当にありがとう。彼を医務室に連れて行くのを頼めるかい?」
「うん、まぁ良いけど……。シグナスもダンブルドア先生の所に一緒に報告しに行かないの?」
「僕は人前に出るのが苦手で……。僕がしたことはドラコを運んだぐらいだし行く必要もないだろう。じゃあ、さようなら」
ダンブルドアに会いに行くなんて、もう一度バジリスクの待ち構える秘密の部屋に行くぐらいの勇気がいるじゃないか。
僕は急いで医務室に先回りする。病棟を覗き込むと、マダム・ポンフリーが僕のベッドのあるカーテンに入って行くところだった。
ベッドで寝ているリャナンシーは硬直した僕に化けているがよく見れば微かに指が痙攣している。
「さあ、これで貴方もやっと元に戻りますよ」
そう言ってマダム・ポンフリーがリャナンシーに飲ましたのはマンドレイクをとろ火で熟したマンドレイク回復薬。
「に、苦い!」
飛び起きたリャナンシーにマダム・ポンフリーは満足そうに微笑む。
「しっかり効いたようですね。しばらく間を置いて残りの薬も飲みなさい」
そう言い残してマダム・ポンフリーは次の患者の元へと向かった。
「リャナンシー、ただいま」
声を掛けると、リャナンシーは布団を脱ぎ捨て僕に抱きついてきた。
「おかえり!ドラコ坊やは無事だった?」
「ああ、無事だ。ちゃんと生きている。助けることが、出来た」
「そうでなくっちゃ!」
1日中実体を取り戻すことが出来なかったのでリャナンシーになんとかマダム・ポンフリーにまだ調子が悪いからと誤魔化してもらい医務室に残ることにした。
次の日の朝、日の出と共に身体が戻れた。久しぶりの生身だ。7時ぐらいになるとマダム・ポンフリーが僕の様子を見に来た。
「ポラクス・マルフォイ、調子はどうですか?」
「ええ、もう大分良くなりました」
「確かに顔色も良くなっていますね……貴方達は元から顔が白すぎると思いますが。けれどこれなら大丈夫そうですね。ご両親が面会に来られていますよ」
「本当ですか!」
案内されたのは少し離れたベッドの側の丸椅子。ベッドにはドラコが枕にもたれている。父上と母上は先に座っていた。
「ポラクス!良かった……!!」
母上は化粧が崩れ落ちてしまうほど泣いて僕に抱きついた。
「ドラコも、ポラクスも……本当に、良かった」
無表情ながらも旅行用のローブの端を握り締める父上の顔はいつもより青白く僕よりも酷いんじゃないかというぐらい濃いクマができている。
「父上、母上……すいません。僕が怪しい道具に手を出してしまったから、ご迷惑をー…」
ドラコの言葉を父上は遮った。
「違う、お前のせいではない。あの日記は私が、ホグワーツに入れてしまったのだ」
「そうだったー…「なんですって!!」
母上が金切り声をあげる。
「アナタ!怪しげな品をコレクションするのも、より良い魔法界の為とやらに尽力するのもご勝手にして良いですけれど、決して子供達の側に危ないものを近付けさせては嫌だととあれ程何度も言ったじゃない!!」
母上は吠えメールなんて目じゃない声量で父上を怒鳴りつける。余りの剣幕にドラコは「いえ、結局僕が触ったからー…」とドラコがフォローしようとするが、逆に母上の怒りは増していく。
「悪かった、ナルシッサ!」
「アナタが謝らなければならないのは子供達にです!!」
ナルシッサはふー、と息を吐くと先程の般若のような顔が嘘だったかのように僕らに柔らかい笑みを向けた。
「病み上がりなのにこんな大声出してしまってごめんなさい。けど、良い?悪いのは全部お父様なんだから自分を責めちゃいけませんよ」
ドラコは顔を引き攣らせながらもコクコクと頷いた。
しばらくの気まずい沈黙が続く中、僕は恐る恐る口を開く。
「あの、父上。家のことの方は大丈夫なんですか?その立場とか、世間的には失態だとか言われるんじゃ……」
父上は一瞬母上の方を伺うようにチラッと見た。
「あー、少しばかり理事長の座を失ったり噂が立ったりはしたが致命的なものは無いから安心しろ……。そんなものより、お前達が無事で良かった。ああ、そうだとも」
父上は腕を組みながら気難しい表情をして何かを考え始めた。きっと、今回の事を表沙汰にしない方法でも練っているのだろう。
「ああ。あと、もう1つあったな。まぁ……色々あってドビーを解雇することになった」
その言葉に僕とドラコは顔を見合わせる。
一瞬気まずさが流れるが、頭の中に蘇るのはあの愉快な妖精とのマルフォイ邸での思い出の数々。
「それは……残念だね、ドラコ」
「ああ、本当に残念だよポラクス。もう家のオーブンの蓋の調子が悪くなることも、庭の木にロープが何本か吊り下げられることも、シートベルト無しのフリーフォールも、マフラーを引き伸ばされることも全部無くなってしまうんだから」
「まったくだ!」
2人で腹を抱えて笑いあった。
両親が帰えるのを見送った後、ドラコは僕の方を振り返って言う。
「秘密の部屋に連れ去られて死にそうだった時……、君の声を聞いた気がするんだ」
内心汗だくながらも、僕は自然な表情を心がける。
「そうなの?」
「ああ、とても僕を心配してる声だった。けど石になってた君があんな所にいる訳ないし……幻聴だったかな?」
ハッキリとは覚えていないようだ。
けど、僕の声はちゃんとドラコに届いていた。
「幻聴じゃない?でもさ、僕も石になってる時記憶はないのに……何となくドラコの心配している声を聞いた気がするんだ。これも幻聴かな?」
「それも、幻聴だろ」
素っ気なく答えるドラコの頬はほんのりとピンクに染まっていた。
これで『秘密の部屋』は終了です。最後少し長くなってしまいましたね……。けど、この章で主人公が地に足を付けれた感じなので作者的には満足しています。
その内、今章の補足的な感じで短いハリー視点のsideストーリーだけ投稿しようと思っています。
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