25話 僕は栄光へと導いて欲しい。
頭上に照り輝く真夏の太陽がなんと憎いことか。
「次のクディッチ杯こそはグリフィンドールに、ハリー・ポッターに勝つ!」と気持ちを高ぶらせるドラコに部屋から引きずられて僕は炎天下の中練習相手をさせられている。
ハリー・ポッターに助けられたことにプライドを傷つけられたらしい。何としてでもハリー・ポッターを見返そうとドラコは夏の真昼間からスポーツに励む体育会系へとジョブチェンジしてしまった。
誰の霊に取り憑かれたのかは知らないがその熱意は異常だ。シーカーとして鍛えるためにスニッチを放ったりボールを投げたりする練習の手伝いなら文句はない。だが、僕に課せられた使命はバッティングセンターよろしくドラコに向かって
「ドラコって……ドMだったの?」
「違う!今までの試合の経験、読んだ資料からシーカーとして僕に必要なのは動体視力だと判断したからだ!」
その資料は恐らくいつの間にか舞台が宇宙規模になってしまうようなスポーツ漫画だろう。そうじゃないとこんなぶっ飛んだ練習をしようとは思わない。
「せめて、普通のゴムボールとかじゃダメなのか?」
鉄って当たったら痛いんだよ、知ってる?
当たり所が悪ければ相当危険なものを高速で選手に向かって繰り出すこの競技のルールを作った人物の頭が僕は未だに信じられない。「習い事でやってるガチ勢男子のドッヂボールってヤバいよね」なんてレベルじゃないだろ。
「ダメに決まっている。練習の時からブラッジャーの緊張感に慣れておくべきだ」
「それでも一気に3個も4個も放たなくていいだろ。試合で使うブラッジャーは2個だけじゃないか」
「ハリー・ポッターは執拗に狙ってくるブラッジャーを相手にしながらスニッチを捕まえてみせたんだ!なら僕はそれ以上のシーカーにならなくちゃいけない」
思考回路が完全に脳筋だ。どうしたっていうんだスリザリン。
毎日毎日兄に向かってブラッジャーを打ち続ける日々。なんて健全な夏休みの過ごし方だろうか。
我ながらコントロールが良くなったがドラコはそれ以上にキレのある動きでブラッジャーを避けるようになっていった。
そして夏休み最終日。いつものように庭に向かうとドラコは静かに立っていた。
身体のあちこちに痣をつくり、グレーの瞳に炎を灯して使い込まれた箒を持つその姿は、今まで見たどんなドラコよりも貫禄がある。
「ポラクス。僕は今日、この夏休みの練習の成果を確かめようと思う」
ドラコがそう言って指を鳴らすと、パチンと音がして屋敷しもべ妖精が現れた。ドビーの後任として雇った屋敷しもべ妖精、アディだ。
「ドラコお坊ちゃま、私めに何か御用でしょうか?」
アディは恭しく頭を下げてドラコに訊ねる。彼の性格はとても几帳面、そのうえまさに出来る執事といった落ち着いた物腰でドビーとは真逆といえる屋敷しもべ妖精だ。
彼は父上が何度も魔法省の屋敷しもべ妖精転勤室に何度も入り込み、面接を重ねた結果雇った。
普通純血家の者は屋敷しもべ妖精の個体差を気にせず雇うので、父上が何度も訪れる事に屋敷しもべ妖精転勤室の職員は何が不具合なのか分からず肝を冷やしていただろう。
ドラコは傍にあるブラッジャーが5個収められた箱を指差す。
「アディ、このブラッジャーに魔法をかけてくれ」
「どのような魔法を?」
「ひたすら僕を攻撃するように仕向けろ」
アディはドビーが残した壊れたオーブンの蓋を指示されずとも直して僕らの差し入れにクッキーまで焼いてくれるぐらい気の利く召使い。しかし、このドラコの命令の意図までは流石に理解出来なかったらしくブラッジャーを凝視したまま固まった。
「えー、5個ともでごさいましょうか?」
「もちろん全部だ」
アディは助けを求めるようにこちらを向いてきたが僕は首を振るしかない。
困惑しながらもアディがブラッジャーに魔法をかけたと同時にドラコは箒に跨り飛び立った。
その背中をブラッジャーが物凄いスピードで追いかけていく。
ブラッジャー達は後頭部を狙って突進するがドラコは背中に目があるんじゃないかと疑うぐらい涼しい顔をして箒をクルリと右へひっくり返して避ける。
「ポラクス!スニッチを放せ!」
ドラコの指示に従い僕は金色のとても小さな羽の生えたボールを解き放つ。
アディがパチンとまた姿を消したのに気を取られた隙にスニッチはもう見えなくなってしまった。
ドラコはブラッジャーを引き連れながら庭の上空を迂回する。3分程たっただろうか。ドラコがふとクジャク達の小屋の方向へと急降下し始めた。
慌てて僕も小屋へと目を向けると餌を入れる用のバケツの傍で何かがキラリと反射するのが見えた。
迫ってくるドラコに小屋の前にいたクジャクは慌てて逃げ出す。いよいよドラコがクディッチを掴もうと手を伸ばした時、ドラコのすぐ左、そして右からもブラッジャーが突進してきていた。挟み撃ちだ。
「ドラコ、危ない!!」
僕は思わず声をあげた。
もうぶつかる、という時にドラコはクルリと華麗に宙返りした。ブラッジャーは止まりきれず激突し互いにボロボロになって墜落していく。
クジャク達が舞い上がらせた鮮やかな羽が舞い散る中、ドラコは箒から降りた。金色のボール、スニッチを右手の拳に収めて。
「な、なんと……」
振り返るとアディがあんぐりと口を開けて突っ立っていた。力の抜けた手から木の箱が滑り落ちた。箱からは塗り薬や包帯が転がり出る。
ドラコが怪我をすると踏んで薬箱を持ってきたようだ。なんと有能なのだろう。今回は予想が外れてしまったようだが。
「僕はスリザリンを優勝の栄光へと導いてやる!!」
ドラコはスニッチを握り締めながらそう僕に宣言した。
色々でかかった言葉を飲み込み、僕は1つだけ口にする。
「……ああ、行ってこい」
もう、好きなようにやってくれ。
『キャプテンまるふぉい』連載決定!
……大丈夫です。これは多分ポラクスが陰キャを極めようとする物語です。