夏休みが明け、僕らは例年通りホグワーツ特急に乗り込んだ。ドラコはクィディッチの備品を大量に用意してきたので荷物が普段の倍ぐらいあり、ロッカーに押し込むのに一苦労だった。
ホグワーツの駅に着き、引手の見当たらない馬車に乗って城へ向かう道中スリザリン生達の中では「吸魂鬼と遭遇したハリー・ポッターが恐怖のあまり気絶した」という話で盛り上がっていた。
馬車を降りてハリーを見つけたドラコは数年ぶりに恋人と再開出来たと言わんばかりに顔を輝かせてハリーの元に駆け寄っていく。
「ポッター、気絶したんだって?本当だったとしたら英雄も形無しじゃないか!」
クィディッチに対しては真摯に頑張っていたのに、それはそれと置いておいて攻められるところはネチネチと攻めていくスタンスらしい。
大広間へと向かうと毎年恒例の組み分けの儀式が行われる。
「妹がスリザリンに入れたわ!」
「えっ、どの子どの子?」
僕は新入生どころか同学年の寮の仲間すら顔と名前が一致するか怪しい人物がいる程だ。だが、去年はその周りへの関心の薄さのせいで痛い目に会った部分がある。今年こそしっかり覚えるつもりだ。
……まず、クラッブとゴイルを同一人物扱いしない所から始めるか。僕の中であの2人で1人、ファーストネームがクラッブでファミリーネームがゴイルになっている。見た目以外の違いが全く分からない。
儀式の後はダンブルドアがアズカバンから凶悪犯が脱獄したことを踏まえ魔法省により吸魂鬼が城の警備に当たること、新任の先生の紹介をしてお待ちかねの歓迎パーティーが開かれた。
今年でホグワーツ3年生。選択科目が始まる学年。僕が選択したのは『数占い』と『古代ルーン文字』だ。ハリーがとる『占い学』と『魔法生物飼育学』を避けた結果こうなった。まぁどっちにしろどちらの科目も教授の教え方が独特過ぎるからなぁ……。
ドラコは原作通り『魔法生物飼育学』を選択したが上流階級としての教養ナンタラかんたらと父上の指示で『古代ルーン文字』は一緒だ。
そして新学期2日目。
今年最初の実技、変身術の授業でいきなり問題が発生した。
課題は去年の復習として修復呪文を用いて割れたガラスコップを元通りにするというものだった。
変身術は僕の1番の得意科目だ。既に習った呪文ぐらいなら簡単に出来るだろうと呑気に考えながら杖を振った結果ガラスコップは修復されるどころか大爆発を起こし粉々に砕け散ったのだ。
クラス中が物音を立てずに僕の机……いや、黒焦げた木材の残骸を凝視している。
今なら天文台の塔からでも喜んで飛び降りれる気分だ。
爆音を聞きつけたマクゴナガル先生が生徒達をかき分けてやって来る。
「またですか、クラッブ……」
先生のマニュアルにはスリザリンの授業で爆発音がしたらクラッブかゴイルを確認する事が記入されているようだ。グリフィンドールの場合は恐らくロングボトムだ。
しかし今日はとても珍しくクラッブとゴイルのコップは普通に割れたままであり、僕のコップが塵と化している。
「ポラクス・マルフォイ、貴方ですか!?私の科目ではグレンジャーと並ぶほど優秀な貴方が珍しいですね……。まぁ、調子が悪い日は誰でもあるでしょう」
この後の呪文学の授業でも爆発を起こしてしまいフィットフィリック先生が台として愛用している本を数冊焦がしてしまった。
……マクゴナガル先生の言う通り今日は少し調子が悪いだけだ。健康を整えるのが1番、睡眠が1番。うん、寝たら何とかなる。
だが、無情なことに次の日も、そのまた次の日も、1週間経っても僕の杖からは火花しか飛び散らない。
犠牲にした机、作業台の数は計10個。炭化するものだから修復呪文でも直すことが出来ず賠償金を1部求められた。これ程実家が金持ちで良かったと思った瞬間はない。
授業で爆発が起きるのは当たり前。誰ももう気にしなくなった。無視されるのは嬉しいが、クラスメイトに変なスルースキルを習得させたかったのではない。
「杖が悪いんじゃないかい?ほら、去年ロナルド・ウィーズリーも杖を壊して自分に呪文を跳ね返させていたじゃないか」
ドラコの気を遣うような言葉に僕は首を振る。
「杖は夏休みにメンテナンスに出したばっかりだよ。原因は僕自身だ」
「だけど去年はちゃんと使えていた魔法も出来ないんだろう?」
「うん……」
遂に犠牲になる机が増えるだけだから調子が戻るまで杖を降らなくて良いと言われてしまった。
皆んながハリネズミを針刺しに変身させようと四苦八苦しているのを教室の片隅で眺めているのは想像していた以上に苦痛だった。
「ポラクス、アナタどこを見ているの?目が何だかおかしいわ」
ひょっこりとポケットからリャナンシーが顔を出てきたが、今は注意する気力も無い。
「ほら、クラッブとゴイルをより知るための一環としてアイツらのそばかす数えているんだ」
「この世で最も生産性の無い動作の1つね」
呆れた様にリャナンシーはため息をつくが、僕はため息の在庫が切れるぐらいため息したからそばかす数えていたんだ。
もう、僕の人生は終わった。てか人生どうのこうのの前にテストの魔法が出来なければ単位が取れないじゃないか。
まてよ……やっぱり実家が金持ちで良かった。将来ドラコのヒモになって生きる道が残されている。あと、爆発を起こすなら解体業者にもなれるかもしれない。僕の将来の呼び名はきっと"ダイナマイト要らず"だろう。まさしくマルフォイ家末代までの恥だ。
「ポラクス、ちょっと頂くわよ」
思考に耽っていた中いきなりリャナンシーに首筋を噛まれた。そういえば魔力を吸われるのは久しぶりな気がする。
リャナンシーは何やら神妙な顔をしながら口をモゴモゴ動かす。
「やっぱり……アナタが魔法を上手く使えないのは去年あの事件で無茶したからじゃないかしら?回復に努めさせようと、夏休みの間魔力を吸わなかったから気付かなかったけれどアナタの魔力の味が少し変わっているわ」
「クソ味にでもなったって言うのかい?」
「百味ビーンズで言えば腐った卵味に近いわ」
やけくそ気味に訊けば大真面目な顔で答えられた。自分の魔力から腐った卵味がするってかなり嫌なんだが……。
「大丈夫よ、アナタの魔力はもとはベルギーの高級チョコのような上品な甘さがするんだから!けどそこに腐った卵が混ざった感じがするのよ」
とりあえず、僕の不調の原因がその腐った卵味の何かという事だけ分かった。
突然始まるおまけコーナー
作者が提唱したいハリポタ説
『殆どの読者がクラッブとゴイルのファーストネーム知らないんじゃないか説』
彼らのフルネームはビンセント・クラッブとグレゴリー・ゴイルだそうです。テストに出るので覚えておきましょう。
原作でも最初の登場シーンでドラコからハリーに紹介される時ですらクラッブ、ゴイルとしか言われない。描写もニコイチ。明確な違いは最終巻でのデッドラインをふむか踏まないかという中々の壮絶さ。ちなみに原作で生き残ったのはゴイルの方です。読み返したら、「マルフォイの取り巻きのどっちかが死んだ」程度にしか思われない最期ってあんまりだ!と目頭を抑えたくなりました。
7年間苦楽を共に過ごすドラコからも大事にはされていた様だけど永遠の名字呼び。
作者はその理由を「カツオと中島くんが50年来名字呼び」と同じなのだと信じています。