今日の授業も全て終わり、生徒達は夕食を食べようと大広間へと向かうが僕はリャナンシーと湖の畔にやって来た。
夕日に染まる静かな水面に浮かぶ広葉樹の落ち葉に向かって杖を振る。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
葉は優雅に舞い上がー…らず杖から飛び散った火花により黒焦げになってしまった。
「やっぱりダメか……」
校医のマダム・ポンフリーにも診察をして貰ったが、僅かな魔力の乱れは確認出来たものの原因までは分からないそうだ。もっと専門的な診察が出来る聖マンゴ病院へ休暇中に行くことを勧められた。
「なぁリャナンシー、さっき言ってた不味い魔力が魔法を使うことを邪魔してる……っていないし……」
隣にいると思っていたのだが、見渡せばリャナンシーは湖の真ん中に顔を出していた大イカの周りを軽やかに飛び回っていた。まとわりつかれたイカは触手をモゴモゴと動かし小バエを払うような仕草をして不機嫌そうだ。
このままでは非常に不味い。今は"調子が悪い"で済まされているが、この状態がずっと続けば?
魔法界に魔法が使えない者の居場所は無い。イギリス魔法界の中心にいるマルフォイ家にも……
僕は杖を握る自分の左手が震えていることに気が付いた。
その事実に顔をしかめながら、震えを誤魔化そうと杖を振ったがやはり火花が小さく飛び散るだけだった。
「何だっていうんだ!」
当たり所の無い文句を吐き芝に倒れ込む。視界に広がる宵の空にはもう一番星が輝いていた。
ぼんやりと空を眺めていれば突然ヒヤリとした何かが頬触れた。
「随分参っているようね」
「まあ……」
顔の方に手を伸ばして水筒を受け取った所であれっ?と、動きを止める。
喉が乾いていたところに水分の差し入れは嬉しい。だが、リャナンシーがこんな気の利いたことをしてくれるか?っていうか彼女は人間の食物を必要としないから水筒なんて持ち歩いていない。
首を無理やり反ると、そばかすが特徴的な赤毛の少女が僕の顔を覗き込んでいた。悪巧みが成功したというように悪戯めいた笑みを浮かべて。
「久しぶりねシグナス。いや、ポラクス・マルフォイと呼んだ方が良いかしら?」
「へっ!?」
僕は思わず飛び起きたが腰が抜けて立って逃げ出すことは叶わなかった。
「じー…ジネブラ・ウィーズリー、グリフィンドールが何の用だ?」
咄嗟に僕が絞り出した言葉にジニーは可笑しそうに笑う。
「今更取り繕っても無駄よ。恋人持ちのシャイなゴーストさん?」
ジニーは湖に目を向けながら何処か挑戦的な物言いをする。
その視線の先にはフワフワと飛んでくるリャナンシーがいた。
「あら、ジニーじゃない!」
満面の笑みで挨拶するリャナンシーの様子に僕はあぁ…、と力無く再び倒れ込んだ。
「お久しぶりです、師匠!!」
元気よくリャナンシーに挨拶してから、ジニーは得意顔で僕に言う。
「誤魔化しの言葉は他にもあるかしら?」
「……アリマセン」
僕は白旗を振った。
幾らかの沈黙の間。観念した僕は口を開く。
「それで、ポラクス・マルフォイはゴーストになって夜遊びしてましたって学校中に言いふらすのかい?」
「そうね……透明になってハリーをストーカーしていたって噂を広げようかしら」
「それだけは止めてくれ!僕が社会的に死んでしまう」
慌て出す僕の様子にジニーはカラカラと笑い声をあげる。……リャナンシーと随分似た腹立つ笑い方だ。
「冗談よ、冗談。そんな目を向けないで。友達が困っているって聞いたから手助けに来てあげただけよ」
そう言ってジニーは右目をパチンとウィンクしてみせた。
「ジニーは気付いてたのね!いつから気付いていたの?」
流石わたしの弟子!とリャナンシーは何故かご機嫌だ。
「ドラコ・マルフォイの話をしたらシグナスが焦った様子で出て行った次の日に、ポラクス・マルフォイが石になったと聞いた時よ。あの日からあなた達を見つけることが出来なかったしね」
そう言えばあの時は焦りの余りジニーと不自然な別れ方をしてしまっていた。それがいけなかったようだ。
……だが、僕がマルフォイだとバレたらもっと距離を取られると思っていたのにジニーは以前と変わらない態度で喋りかけてくる。
「僕の正体を知ってもなお友達と言って手助けするのか?」
僕はスリザリン、彼女はグリフィンドール。さらに父親同士の仲、兄同士の仲は最悪だ。何も思わない訳が無い。
「ロンとかからマルフォイの悪行の数々は飽きる程聞かされているわ……。だけど、貴方がたまたまマルフォイの人間だったとしても孤独だった時、悩んでいた時に貴方が手助けしてくれた事実は変わらないわ。以前助けてくれた友人が困っていたら、今度は自分が助けるなんて何にもおかしい事じゃないじゃない」
「それは……どうも」
なんともグリフィンドールらしい真っ直ぐな、だが中々スリザリン生にはしないだろう返答に僕はしどろもどろになってしまう。
「まぁ、あの師匠に振り回されている大人しいゴーストがマルフォイだとは信じにくかったけど……今のその腑抜けた表情は本当にお兄さんそっくりだわ」
「性格は全然違うように見せかけて、根っこはそっくりの双子よね」
リャナンシーが深く頷いて同意しているのが何かムカつく。
それからジニーは真摯に僕の相談に乗ってくれた。だが、一介の学生が医師以上の事が診察出来るわけがない。話は行き詰まり遂には唸り声しか発せなくなった。
しかし、ジニーはリャナンシーをチラっと見るとそうだ!と手を叩いた。
「専門的な事はその専門家に訊けばいいのよ!」
何を今更な。
「もうマダム・ポンフリーには診てもらったよ」
「でもそれは怪我とか病気についてだけでしょ?原因はもっとあやふやな物かもしれない……。違う方面に詳しい人からアプローチしてもらうのがいいと思うわ。専門家に相談するのは良いことよ。私も恋のエキスパートの師匠に師事したお陰でハリーと付き合う事が出来たんだから!!」
「なるほどね……って」
最後何て……
「まぁジニー!いけたの!!?」
リャナンシーが手で口を覆う。
「はい!報告が遅れましたが……ジニー・ウィーズリー、夏休みの間にターゲットを確保しました!!」
顔を赤らめながらジニーは衝撃の告白をした。
「ジニー!!!」
リャナンシーは顔を涙でめちゃくちゃにしながらジニーに抱き着く。
「お、おめでとうございます……」
知らないうちに、友は大人への階段を着実に上り進めていた。
勿論ジニーからいきました。