……そうか!これは新手の乙女ゲーだったんだ!!
「あのデカブツのお陰で僕の右腕は全治2ヶ月だってさ……。父上は学校の理事会に訴えたし、魔法省にも教育体制の見直しを求められた。きっといい返事が頂ける」
地下牢での魔法薬の授業。ドラコは痛々しく包帯に巻かれた右腕には似合わない、クリスマスが早めに来たというぐらい口角を吊り上げた笑顔を浮かべている。
その隣でただ黙々と魔法薬の材料を切り刻んでいるのはハリーとロン。彼らは右腕を負傷したことを最大限に嫌らしく利用したドラコによって、手伝いをスネイプ先生に強制させられてしまったのだ。
2人を鼻で扱えることに酷くご機嫌なドラコは右腕を擦りながらわざとらしく大きなため息をついた。
「僕の腕、果たして元通りになるんだろうか?」
僕は死んだイモムシを黒板の図の通り正確に切るために目を細めてナイフを操作しながらも深く頷く。
「ああ。1度すれ違うと完全に元通りにするのは難しい。相手の浮気現場を目撃した時はカメラで証拠を抑えるのが良いらしいよ。そして後で浮気を否定するソイツに見せつけてやるんだ。それでもまだ認めないなら絶対に離れるべきだな。相手が潔く謝ってきたらまだチャンスを与えるべきかもしれないが、それでも1度出来た溝は深いんだ」
「 浮気?溝??ポラクス、何の話をしてるんだい?僕は魔法動物学の授業での傷のことを……」
「ああ。本当に気を付けた方が良いよ、ドラコ。女は怖いから。さっき言ったのは女がしてくる行動だ。どんなしっぺ返しがくるか分かったもんじゃない。浮気はお勧めしないね」
「しっかりしろ!!目、目がおかしいぞ!何を人生の全て見てきたかのような目をしてるんだ。現実に戻れ。安心しろ、君に女はいない!」
ドラコに激しく揺らされ、ぼんやりとしていた意識が鮮明になる。そうだ、そうだった。僕は多額の賠償金を命じられて、離婚届のサインを迫られているアラサー男性じゃなかった。
「ああ……。ドラコ、本当に女って生き物は恐ろしいよ」
「一体どんな恋愛小説を読んだって言うんだい!?」
君にはまだ早い、とだけ返し僕はため息を吐いた。小説じゃないからより恐ろしいというものだ。
昨日、ジニーが衝撃の宣言をしてからは僕の悩みの話は何処へやらリャナンシーの恋愛講座が始まった。最初はデートのオススメスポットだったりコミュニケーションの仕方だったりとまぁ、まだ分かるものだった。しかし、日がすっかり沈んだ頃には話は飛躍して結婚式、新婚旅行の費用の年収の仕方、姑との付き合い方、遂には離婚の時の法律手続きを有利に運ぶコツにまでいった。
就寝時刻が迫ってやっと本題を思い出したらしいジニーに「とりあえず闇の魔術に対する防衛術の先生にも相談してみたら?」とだけ言われて寮のベッドへと向かったが、僕の頭はもう魔法について考えるどころじゃ無くなっていた。
夢にはメガネを全反射させた敏腕弁護士を従え父上を追い詰める母上が出てきた。一体いくら持っていかれたらあんな顔が出来るのか。血の気を失った父上の顔が忘れられない。
想像できる?付き合い始めたばかりの頃からあらゆるルートでの身の振る舞い方が計算されているという恐怖。
僕は20年後のことを思ってこっそりハリーに向かって手を合わせておいた。
授業が終わり、教室を出ようとするハリー達をドラコはしつこく引き止めた。
「ポッター、君は何も知らないのか?僕なら自分でブラックを追い詰めるね」
ハリーは今年も相変わらずデンジャラスライフを送っているらしく、凶悪殺人犯シリウス・ブラックに狙われていると噂がたっていた。シリウス・ブラックは僕らの母上の従兄弟に当たるのでハリーよりドラコの方がシリウス・ブラックについての内情に詳しい。それを利用してドラコは得意顔でハリーを煽っていた。
この挑発に乗ってハリーが自ら問題行動を起こしてくれたらドラコとしては万々歳なのだろう。我が兄ながら結構なクズだ。
ハリーは基本的に大人しい性格だが煽り耐性はそれ程高くない。繰り返されるドラコの嫌味ったらしい言葉に遂に怒ったハリーは口を開けたが、睨み合う2人の間に入った人影に言葉は遮られた。
「こんな人前で見苦しいことをしないで下さいませんか?スリザリンの名が傷付きます」
鈴の音のような可憐な声。しかしその言葉からは冷たさとトゲトゲしさばかりが感じられる。
いつの間にか2人の間に立っていたのは、ドラコの肩ほどの背丈もないながら全く物怖じする様子なく、唇を固く閉め、一重の目を憎々しげに吊り上げた黒髪の少女だった。
「なんだ、お前は。僕の邪魔をするっていうのかい?」
急に割り込んできた下級生にドラコは不機嫌そうに眉間にシワを寄せる。しかし、少女は睨みつけてくるドラコに背を向けてハリーに朗らかな笑みをを向けた。
「ハリー・ポッターさん。すいません、我が寮の先輩がご迷惑をおかけして……。こんな噛みつきフリスビーより意地の悪い方の言葉なんか気になさらなくて結構ですよ」
この子、結構毒舌だな……。
ハリーは少女の言葉に戸惑いながらも頷く。
「僕を無視するな!スリザリン生だっていうのに大した度胸じゃないか……!僕を誰だか知らない訳じゃないだろ?」
青筋を浮かべたドラコに、少女は振り返りもしない。
「ええ、知ってますよ。吸魂鬼に漏らしかけ、ヒッポグリフに泣きべそかいて権力者の父親にすがりつくようなボンボンの全てを親の財力に言わせるドラコ・マルフォイ先輩ですよね?」
周りで眺めていた生徒達は少女の余りにも強気な態度に目を叛いた。ドラコはマルフォイ家の威光を利用してスリザリン内ではかなり幅を利かしている。そんな彼に楯突こうという下級生がいるのだ。ドラコ本人も怒りを通り越して驚いているようでポカンと少女を眺めていた。
「私はスリザリンの1年生、アストリア・グリーングラスと言います。先輩は去年命まで助けられたと聞いていますが随分恥知らずのご様子で。実力も心意気も劣る愚かな方が実績のある方を非難すること、私大っ嫌いですの。……ええ、言いたかったことはこれだけです。お取り込み中に突然失礼致しました」
少女、アストリア・グリーングラスはそう言って教室の奥に行き鍋の準備をし始めた。
「おい、ダフネ。君の妹はどうなっているんだい!?」
教室移動の中、ご立腹の様子のドラコに詰め寄られ同級生のダフネ・グリーングラスは困ったように眉を下げる。
「ドラコ、ゴメンなさいね。あの子は少し口がキツイけど悪い子ではないの。大目に見てあげて。ちょっと正義感が強いだけだから……」
正義感、なんとスリザリン寮生に似合わない言葉だろうか。
僕はポケットからメモ用紙を取り出す。
風変わりな新入生、アストリア・グリーングラス。
『ドラコ・マルフォイの妻』
そうメモには記されていた。
あったらそこそこ好評かもしれないものパート6
『ときめき☆ホグワーツメモリアル』
・商品紹介
主に女性対象の学園モノ恋愛シュミレーションゲーム。
フクロウから突然届けられた手紙から、貴女の魔法の世界での甘酸っぱい青春の物語が始まる!!様々な個性ある魅力的なキャラクター達と共に魔法学園の生活を楽しみましょう!
……思ったよりありそうな設定が原作に揃っている。
ドラコはツンデレ。多分人気キャラはスネイプ先生とウィーズリーの双子だと思う。