「あぁ、うん。急いでたら転んでしまってね、その拍子でちょっと……」
ふぅん、と僕の言い訳を聞き流し彼女は廊下の惨状を眺めた。
「……」
何か、喋ってくれないだろうか。
僕は何処に視線を向かわしたらいいのかすら分からず目を泳がせていると、不意にカチャリと音を立てて墜落した小屋の形の壁掛け時計についた小さな扉が開く。
ピポーピポーと間抜けな鳴き声で鳴き始めた白い鳩。
アストリア・グリーングラスは冷たい瞳でその鳩を見下ろし鼻で笑う。
「棚がひっくり返り本が散乱、それに壁にあったものも全て落ちて……床にめり込む勢いで転ばれたようですね。お怪我が無いようで何よりです」
「ま、全くその通りだよね」
僕は我ながら白々しい笑顔を貼り付けてながら、鳴り止む気配がない鳩を無理やり手で扉の中に押し込む。だがどういう仕組みなのか次はパカッと屋根が開き鳩の大群が顔を覗かし再び鳴き始めた。物凄くうるさい。
「黙れ!!何だ、この時計……壊れているとしてもおかしくないか?」
僕は脱いだジャケットで時計を包み縛り上げる。まだモゴモゴと動いているが、とりあえず音量は小さくなった。
未だ黙ったままのアストリア・グリーングラスに恐る恐る声をかける。
「君、杖持ってる?僕今持ってなくてさ。この時計に沈黙呪文かけることお願いしたくて」
杖があっても僕の呪文では更に被害が拡大するだろう事実は置いておく。
「……分かりました。"シレンシオ"」
彼女が頷き、杖を振ると鳩どもの鳴き声は静まった。
これは後でアディに修理してもらうとして、本と箒も片付けなければならない。
本を拾い上げていると、アストリア・グリーングラスはため息をついて僕の側へと近づいてきた。
「目の前に困っている方がいて放っておくほど私は腐っていません。お手伝いしますよ」
そう言って彼女は再び杖を降って呪文を唱える。すると散らばっていた本は巣へ帰る鳥の様に元の場所へと戻っていく。
魔法って便利だなぁ。
僕は自分が魔法使いだということを忘れて感動した。1年生ながら楽々と魔法を使いこなしている辺り、彼女は優秀な魔女のようだ。
礼を言おうとしたが、彼女は何やら穢らわしい物を見るかのように並べられた本を眺めていた。
「随分偏った意見の物ばかり並んでいますね……」
何が?と彼女の言葉を理解出来なかった僕は彼女と同じように本を眺めていく。
「あぁ、これのことか」
並べられた本の背表紙には『マグル生まれ、汚職事件の数々』、『純血一族一覧』、『オブスキュリアルの悲劇』といったタイトルが記されている。
どうやらここに並べられている本はマグル、魔法を使えない人々を批判する内容の物らしい。
「多分、ここの本は父上がマグル関係の法律案を魔法省に意見する時の為の資料だ。ほら、僕の家は"純血主義"だから。マグルに好意的な法律を制定しようとしているウィーズリー氏とよくぶつかっているみたい」
このイギリス魔法界では我がスリザリン寮の創始者、サラザール・スリザリンが唱えた"純血主義"という思想が大きな影響力を持っている。
簡単に言うと、魔法が使えない人々をマグルを"穢れた血"と呼び彼らやマグル生まれの魔法使いを蔑み、純粋な魔法使いの血を守ってきた者達が魔法界を治めるべきだという思想が"純血主義"だ。
寮の創始者の思想なだけあって今でもスリザリン寮出身の魔法使いは純血主義者が多い。代々スリザリン寮であるマルフォイ家はその筆頭格だ。
今日のパーティーだって父上がウィーズリー氏の動きを妨げようと協力者を募る為のものだ。
「君、純血主義が嫌いなのか?」
彼女の親も純血主義だからこそこのパーティーに来たのだろう。だと言うのに今までの彼女の言動はその方針に一致していない。
「何の根拠も無いままマグル生まれは純血より劣っているのだの騒ぎ立てているのが馬鹿らしい。私は脳みそがトロールより空っぽな奴らが偉そうにしているのが嫌いなんです」
彼女は本から僕へと目を動かす。
「貴方こそ、マルフォイ家の子息の癖して兄と違い純血主義の態度を見せたことが無い。……それは、貴方が魔法を使えないからですか?」
先程までと違い、彼女はどこか緊張した顔で僕を見詰める。彼女とよく会う図書館で医療関係の本をずっと読んでいたからだろうか。踏み込んだ事を訊いていると思っているようだ。
「僕はまず周りにあんまり興味が無いだけだ。魔法が使えなくなったのは今年からだし別に関係ないよ」
正直、純血思想について人に語るのは非常に面倒臭いことなのでさっさとこの会話は終わらせたい。
僕の返答にまだ不満そうにしている彼女に背を向け、ニンバスをシリーズ番号を確認しながら浮かせて壁に留められた金具に戻していく。
「えっ!?」
アストリア・グリーングラスは何故か驚いたように声を上げた。
「どうした?」
振り向くと彼女は不可解な物を見るように眉間に皺を寄せて、僕の腕を指を差す。
「箒、浮かせられるんですか?」
「僕だって箒に指示ぐらい出来るよ。スリザリンのクィディッチの英雄ドラコ・マルフォイの練習相手を休みの間ずっとしているのは誰だと思っているんだー……」
ここで僕は握っていた箒を落としてしまった。
床に転がる箒に「上がれ!」と命令すると再び僕の手へ収まる。
僕は夏休みや冬休みは毎日のように箒を乗り回し、時にはビーターとしてブラッジャーをバッティングセンターよろしく打ち続け、ある時には敵チームのシーカーとしてスニッチを追い続けた。
マグルがニンバスに跨ったって近所のおばさんから微笑ましい目で見られるだけで決して浮くことはない。つまり箒は使用者の魔法によって操作される道具だ。
僕はニンバスに跨り「行け!」と叫ぶ。
するとニンバスは素晴らしい速度で廊下の行き当たりまで疾走した。
その勢いに本がまた崩れ落ちてしまった。
「……何で僕、箒に乗れてるんだろう?」
「私が知るわけないじゃないですか!!」
あったらそこそこ好評かもしれないものパート9
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