ポラクス・マルフォイは陰キャを極めたい   作:於涼

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35話 僕は大人の味を知りたい。

年が明け、ホグワーツに戻り授業が始まる一日前。僕はアストリア・グリーングラスから魔法薬学で使われている地下牢に来るよう伝えられた。

 

「女子からの呼び出し……2人っきり……」

 

リャナンシーは地下牢に向かう間ずっとブツブツと呟いていた。頭がピンク色の花で一杯のコイツはどうせアホらしいことしか考えていないのだろう。

 

 

地下牢に入ると何冊もの本を机の上に重ねた隣で彼女は杖を振りガラス瓶などを棚に並べていた。

 

「やぁ、ダフネの妹」

 

声をかけると彼女は相変わらずの無表情で振り返った。

 

「御機嫌よう、ポラクス・マルフォイ先輩」

 

「あのさ、兄と呼び分けにくいなら普通にポラクスでいいよ。毎回毎回長くないかい?」

 

そう言うと彼女は少し眉をひそめた。

 

「貴方の方こそ名前で呼んでいないでしょうに。アストリアで結構です」

 

「あぁ……うん、分かった」

 

僕は何となく居心地が悪くて頭をクシャクシャとかく。

 

「急に呼び出したりして僕に何か用?えっと……あ、アストリア」

 

同年代の女子のファーストネームを呼ぶなんていつぶりだろうかと考えながら僕は訊ねた。

 

「魔法薬学の予習がしたくて空いていた教室を借り、先輩から助言をして頂く……という建前で」

 

アストリアは黒曜石のようなその瞳で僕の顔をじっと凝視する。

 

「貴方の"魔法が使えない"という不調を解決するお手伝いをしようかと」

 

突然の彼女の言葉に僕は驚きと同時に戸惑いを覚える。

 

「それはありがたいけど……君は僕の病気が何か分かったっていうの?」

 

半年図書館で本を読みふけっても、マダム・ポンフリーや癒者に診てもらっても分からなかったのに、年下の少女が何か掴んだというのだろうか。

 

 

「分かりません」

 

僕の疑問に彼女は当然のように首を振る。

 

「ですが"魔法を使える"ようになれば問題は解決でしょう?」

 

そう言って彼女はローブから何の変哲もない羽根ペンを取り出した。

 

「これに浮遊魔法をかけてください」

 

彼女があまりにも真剣な様子なので取り敢えず彼女の言うことを聞くことにした。

 

「……多分、燃えクズができるだけだよ」

 

杖を取り出し呪文を唱えようとすると、何故か彼女は僕の手から杖を引き抜いた。

 

「杖は無しで」

 

うん?

 

ますます彼女のやりたいことが分からない。魔法を使う時に杖を使用するのは常識。杖なしでも使えないことはないがそれはとんでもない高等技術。ほんの一握りのエリートしか杖なしなんて出来ない。余計に難易度を上げてどうしようというのか。

 

「呪文を知らない子供でも無意識のうちに物を浮かしたりすることがあるでしょう?なので普通の魔法使いでも杖を使うことが当たり前で試さないだけで、その発展である浮遊魔法は意外と呪文無しでも出来たりするんです。取り敢えず一回やってみてください」

 

急かされるまま、僕はせめてもの気持ちで人差し指を突き出し机に置かれた羽根ペンを指し示す。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

 

指先から仄かな熱を感じると僕は慌てて目を瞑り、腕を引っ込める。

 

 

だが予想と違い爆発音はせず、机の破片も飛んでこなかった。

 

瞼を恐る恐る上げて正面を見ると羽根ペンは数センチながらフワフワと浮き上がっていた。

 

「えっ、出来た!!?」

 

何故?とアストリアを見ると彼女は取り上げた僕の杖を弄びながら彼女は言った。

 

「恐らく貴方は杖に嫌われているんです」

 

「まさか!その杖は貰い物じゃなくて僕自身がオリバンダーの店で買ったやつだ。あの店の謳い文句は『杖は持ち主の魔法使いを選ぶ』じゃないか」

 

僕はドラコと共にオリバンダー老人の気味の悪い銀色の目でジロジロ眺められたのを思い出す。

 

「一説には杖の素材は魔法使いの性質で持ち主を選ぶとか。貴方に何か変化があったのでは?去年まで使えていたというならば確かに適切な杖だったのでしょう」

 

ポケットの中のリャナンシーがピクリと反応する。

 

確かリャナンシーは僕の魔力が不味くなったと言っていた。やはりそれが原因なのかもしれない。

 

「言われてみれば……少し思い当たることが無いことも無いかもしれない」

 

リャナンシーが不快に感じるならば杖にも好かれるものではないだろう。

 

「箒に乗れていたので魔法が使えないのではなく、杖が使えないのではないのかと……。予想が当たっていたようで何よりです。おめでとうございます」

 

彼女は少しも嬉しくなさそうな顔で言ってのけた。

まぁ、けど確かにこれで原因が分かり対処法が分かり助かった。これで進級は安心安心……

 

 

 

「いや、魔法使えたけど杖なしの魔法って……」

 

進級が判定される試験は別に魔力があることを証明する儀式ではない。魔法が使えることは魔法使いの学校なのだから当然前提条件だ。

 

つまり杖があっても同学年の生徒が四苦八苦するような課題を杖なしで合格しないといけない訳で……。

 

ただの無理ゲーでしかない。

 

 

「前代未聞の杖なしでのホグワーツ卒業。出来れば貴方はダンブルドア校長にも劣らない偉大な魔法使いになれるでしょう。期待してますよ」

 

 

彼女は今までの無表情が嘘のように酷く愉快そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

……僕は黙ってフクロウ小屋に向かいネストラにフクロウ便の通販の注文用紙を括りつけた。

 

 

 

後日、『聖水』と書かれたラベルの貼られたビンが箱詰めにされ届いた。僕はその蓋を開け無心に飲み続ける。

 

「おい、どうしたんだこの荷物の数。全部同じビンじゃないか!『聖水』?ポラクスがこんなうさん臭いもの買うなんて珍しいな?」

 

寝室にドラコが不思議そうな顔をしながら入ってきた。

 

「あっ、ドラコ聞いてよ!なぁー可笑しくってさぁ。こんなに聖水飲んだってのに(コイツ)まだ僕の魔力が不味いってゆーんだ。コーラの方が好みだったのかなぁ?」

 

リャナンシーが去年の分霊箱のような闇の魔術は不味いって言うから身体を清めたらいい筈だと聖水を飲んだのに、まだこの杖は火花しか飛ばさない。

 

「コイツ杖じゃなくて花火なのかもー?」

 

「うわぁ、臭!ポラクス、君が飲んでるのって酒なんじゃ……っておい!杖を振り回すな、部屋が焦げる!!」

 

花火だったのならばしょうがない。花火らしく火花をたくさん飛ばして貰わなければ。

 

杖を振り回していればさっきまでの鬱憤とした気持ちが軽くなり、何だか楽しくなってきた。

 

 

 

「ゴイル、クラッブ!早く来て手伝え!!僕らの寝床が消し飛ばされるぞ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと目を覚ませば何故か部屋がまるで巨人が一発拳を叩きこんできた様な悲惨な状況になっていた。クラッブ、ゴイルが髪を黒焦げにしながら物言わぬ死体のように倒れ、ビンの破片が散乱し、ベッドや机はひっくり返り何ヶ所か大きく欠けている。

 

顔を上げると幾つか痣をつくったドラコとスネイプ先生が戦場を死に物狂いで駆ける戦士の様な目で僕を睨み杖を構えていた。

 

 

スネイプ先生は肩で息をしながら、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

「スリザリン、20点減点!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ポラクス、記念すべき初めての減点処罰。
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