ポラクス・マルフォイは陰キャを極めたい   作:於涼

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38話 僕は交際記念日は覚えておきたい。

僕はそれはもう死にもの狂いで魔法の練習に勤しんだ。朝起きたら呪文の発音練習。授業中は申し訳ないが先生の話はほぼ無視して、教科書を立ててこっそりテストに出る範囲のページだけを凝視する。放課後には城を抜け出し湖の畔でリャナンシーとともに実践練習。そんな日々を繰り返していた。

ある日の魔法薬学の終わり、

 

「マルフォイ……君ではない。ポラクス・マルフォイ、少し残りたまえ」

 

そうスネイプ先生に呼び出された時はこの前の惨事を思い出しつつ何かやらかしただろうかと怯えながら身構えたが、先生の口から出てきたのは労りの言葉だった。

 

「随分と顔色が悪いな。魔法はまだ上手くいかないのか?」

 

「ええ、まあ。ですが少し良くなってきました。まだ授業中では杖を振ると周りに被害がでるかもしれませんので使っていませんが、個人的な練習では成功することもあるので試験までにはどうにかなりそうです」

 

僕はこういう質問に対してあらかじめ考えていた答えをつらつらと述べた。しかし、スネイプ先生は眉をひそめて僕をじっと見る。

 

「その言葉は本当だろうな。本当に試験に受かる見立てはついているのだろうな?」

 

「は、はい……」

 

恐る恐るスネイプ先生の顔を見返すと、先生はそうか、と小さく呟くと後ろの教卓に並べられた瓶のうちの一つを取った。

 

「ならいい。だが様子を見るに根を詰め過ぎているのは確かなようだ。これを飲みたまえ、少しは精がつく」

 

先生は瓶を僕に手渡した。

 

「また不調があればすぐに報告しろ。君が進級出来ないようなことがあれば吾輩は君の御父上に顔向けが出来ないのでな」

 

そう言ってマントを翻し教室を出ていこうとするスネイプ先生の背をハグしたい衝動に僕は襲われた。

 

そのぐらいにはこの地獄のようなルーティーンに疲れていた僕だが、練習の中で進歩はあった。以前までの感覚に出来るだけ近づけたほうが良いのではというリャナンシーの指摘のもと、試しにその辺の木の棒を杖の様に見立ててマッチ棒に魔法をかけると見事に金属の針に変化したのだ。普通魔法使いの杖には特別な木や魔法生物の身体の部位が使われているのだが、リャナンシーはそういった物が僕の変な味がする魔力を拒んでいるのではないかと推測した。

 

棒を使うのはとても良かった。指針が持てるし、何より棒を振ると魔法を使っている実感が持てる。

 

周りにまだ異変が続いていることを悟られない為にも丁度良いとがリャナンシーが買ってきてくれた子供用の玩具の杖を使うことにした。これをがむしゃらに振り回す姿はマグルから見ればちょっと痛い少年だろうが僕は魔法使い。だからこの亀はティーポットになるはずだ。なれ、なれよ。なれって言ってるじゃないか!!!

 

 

僕は土日だろうが皆がホグズミードに遊びに行こうが僕は呪文を唱え玩具を振り続けた。

 

「ポラクス、聞いてよ!やっぱり幻覚なんかじゃなかったんだ!!またポッターの首をホグズミードで見たんだ。やっぱりアイツは許可なしにどうにかして城を抜け出しているに違いない!」

 

「そっか。スネイプ先生がこの間良い薬をくれたんだ。君も疲れているなら貰ってきなよ。僕はまたちょっと練習してくるから」

 

「もう少し相手にしてくれてもいいんじゃないか!?というか今からってもう夕食の時間だぞ!」

 

悪いな、ドラコ。僕は真剣なんだ。

 

心の中で詫びながら僕は玩具の杖を握りしめて今日も今日とて寮の裏口から湖に向かう。

 

 

 

少し前に指名手配犯のブラックがまた侵入したということで吸魂鬼(ディメンター)の警備がまた厳しくなったらしい。校舎にほど近いこの場所からも奴らが黄昏に紛れて漂っているのが見えた。

 

「あいつらってホントに気の毒な存在よね……。人間の幸福だけを喰らいながらその味はきっと知らないのよ。だから守護霊から逃げるの。喜び、希望、そして愛。幸福ってとても甘くて美味しいのに、それを丸呑みしちゃうなんて勿体ない」

 

何を思い出しているのかリャナンシーはだらしなく口元を緩めている。エサとされている僕からすればげんなりとする言葉だ。

 

「勿体ないってなあ。リャナンシー、味わい方は知らないが結局それだとお前もあいつらと一緒の幸福を喰らってくる質の悪い化け物になるぞ……」

 

流石にアイツらとくらべるのは良くなかっただろうか。僕はまあ少なくとも廃人にはされてないし。

リャナンシーはわざとらしくため息をつきながら首を振る。

 

「わかってないわね、あんな奴らと一緒にしないでよ!私は幸福を“奪う”んじゃなくて“共有”してるの。幸福だけじゃなくてほろ苦い悲しみ、ピリ辛の怒りもね。アナタの全部を味わうの。だからアタシはアナタの恋人、恋の妖精(リャナンシー)なのよ」

 

そう言って誇らしげにリャナンシーは湖の上で一回転して見せた。

 

 

 

 

 

 

 

数日後の一限の数占いの授業後、教室移動のために廊下を歩いていると校庭からの通路の方から何やら喧噪が聞こえてくる。何事だと野次馬の合間から顔を覗かせるとドラコとクラッブ、ゴイルがハリー、ロン、そしてグレンジャーと向き合っていた。

 

なんだ、いつもの煽りあいか。と思ったのだが、それにしてはドラコが顔に嘲笑うような表情ではなく困惑を浮かべている。それに対し向こう、特にグレンジャーは火を見るよりも明らかに激怒している。

 

「今、あなた何て言った?」

 

「な、何だよいきなり……。穢れた血が気軽に僕に話かけるんじゃ……」

 

「いいから言ってみなさいよ!!」

 

まるでヒステリーを起こしてしまったのかのように普段とは様子の違うグレンジャーの威圧に押されドラコは狼狽えた。僕も同様に戸惑う。何故彼女はあんなに怒っているのだろうか?

 

「見ろよ、あの泣き虫!って…――」

 

「ええ、そして『あんなに情けないものを見たことあるかい。しかもあいつが僕たちの先生だって!』と言ったわね」

 

からくり人形のように一言一句正確にドラコの言葉を唱えたらしいグレンジャーにドラコは怯えながらも対抗しようとした。

 

「それがなんだって言うんだ?あんな図体がでかい大人がハンカチに顔をうずめてメソメソしてるなんて笑ってくれって言っているようなもんじゃないか」

 

ドラコの意地を張ったなけなしの嫌味はグレンジャーの逆鱗に触れてしまったようだ。グレンジャーは顔を真っ赤に染め上げる。

 

「ハグリッドを笑う?どうしてあなたにそんな事ができる権利があるの?マルフォイ、あなたのせいでハグリッドは大切な家族を、バックビークは殺されるっていうのに!!よくもそんなことを。この汚らわしい悪党!!!」

 

そのグレンジャーの叫びに僕があっ、と呟いたのも束の間。

 

バシッ!

 

 

グレンジャーはとんでもない音をたてながらドラコの横っ面をビンタした。ドラコはよろける。

クラッブ、ゴイルは呆気にとられて棒立ちし、ハリーとロンまでもが硬直している。

 

「ハーマイオニー!」

 

気を取り直したロンが慌ててグレンジャーを抑える。ドラコは真っ赤な頬をかばいながら恐る恐る口を開く。

 

「さっきから本当に何なんだよ!バックビークって誰だ?」

 

心底当惑している様子のドラコにグレンジャーの鬼の表情がすんと抜けた。

 

「まさか、あなた何も覚えてないわけ?」

 

「……」

 

無言で肯定したドラコ。ロンが「やっちまえ、ハーマイオニー」とグレンジャーの腕を放してしまった。グレンジャーは静かな動作で杖を取り出し腰の抜けたドラコののど元に突き付けた。

 

「ごめんなさい。前置きなしに罵って。あなたの自業自得での怪我の責任をハグリッドのヒッポグリフに押し付けた結果、そのヒッポグリフがあなたの御父上の尽力で死刑になったっていう話よ。あなたにとって覚えておく価値もない取るに足らない命だったみたいだけど。――このゴミが――」

 

率直ながら優等生の発していいものじゃない言葉を残しグレンジャーは去っていった。

 

 

次の魔法薬学の授業で僕はぼんやりとしたドラコを突いた。

 

「さっきの……クィディッチの前にドラコが魔法生物飼育学で怪我して、父上が訴えたことの話だよ」

 

ドラコは右腕に残った小さな微かな傷跡をさすった。

 

「流石に思い出した。クィディッチが始まってからすっかり忘れていた。父上がずっと手続きなさっていたとは……。グレンジャーがまさか手を出してくるとは」

 

まったくだ。最後はもはや怒りさえ通りこしていた気がする。

 

僕も正直自分のことでいっぱいいっぱいでまた忘れていた。……僕からするとどうせ助かるからいいじゃん、と思うところもないことはないが。

 

危険人物であるとされているブラック。だけど黒幕は彼ではない。本当の黒幕も僕らに少なくとも今は危害を加えない。だからハリーたちのことは放っておけばいい……。

 

本当に良いのか?

 

僕の脳裏に固い大理石の床に真っ白な顔で横たわるドラコの姿がよぎった。

 

 

 

 




次回クィディッチ決勝戦!
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