出口を通り抜けるとそこは4階の廊下だった。気絶している間に真夜中になっていたようで、ホグワーツは真っ暗になっていた。何か出てきそうな雰囲気だが、残念ながら今は僕が「出た!!」って悲鳴をあげられる側だ。
確かに僕は影を薄くしたい。けどゴーストになりたいワケではなかった。
ガラスの窓に映った僕は(ゴーストも鏡に映るらしい)半透明になっている以外に、少し幼くなっていた。
僕をゴーストにした元凶、リャナンシー曰く彼女の見た目と同じぐらいに変化するらしい。
「お願い、坊や。力を取り戻すのにはたくさん生命力がいるの。毎日少しずつならアナタの寿命に影響は出ないから、ねっ、ね?」
「嫌だ。あと僕は坊やじゃない、ポラクスだ。
毎日のようにゴーストにならなきゃいけないのはゴメンだね、悪いけど他を当たってくれ」
自分から変なことに足を踏み入れたくない。
ずっと断っているのにリャナンシーはしつこく付きまとってくる。
「そう冷たくしないでよポラクス。アナタ純血でしよ?アナタの魔力とっても深い味がするもの!とても好みなの」
「君の好みって……純血思想のアダがここでくるとは」
「お願いよ、私を傍に置いて!いいことあるのよ、魔法がー…」
「足音が近づいてくる、ちょっと黙って!!」
僅かに聞こえてきた物音に、僕は慌ててリャナンシーの口を抑えた。ゴーストの姿では物に触れるためには力を入れなければならないのだが、妖精は普通に触れられるらしい。
ローブのフードを深く被る。
迫ってくるのは4人の生徒。息を荒らげながら物凄い勢いで走っている。
深夜肝試しマラソン?何それ、新しい。
ついに彼らが僕の横を通り過ぎる……と、思ったのにこっちに直角カーブしてきた。あっ、進行方向こっちだった?
パッと先頭の少年と目があった。
緑の瞳に風で逆だった前髪の下の稲妻の傷跡。
あっ、主人公。
僕を捉えた彼はぶつかると思ったのか急ブレーキをかける。
「ハリー、そいつはゴーストだよ!」
後ろの赤毛の少年 ロナルド・ウィーズリーが悲鳴じみた叫びをあげるがもう時すでに遅し。
停止したポッターに後ろの3人が止まりきれずドンドン激突して倒れ込む。
「うわぁ!!」
ポッターは潰れたカエルのようにピクピク痙攣しながら下敷きになった。
「あー、大丈夫?」
何とか立ち上がり出した彼らに聞く。
「まぁ、何とか……いや不味いぞ!今の音でフィルチが嗅ぎつけてきた、アイツのバコバコした足音が聞こえる!!」
ウィーズリーの悲鳴じみた嘆き。
放っておけば良かったものを、ドラコよりも真っ青になった彼らの顔に少し罪悪感を感じたので思わず言ってしまった。
「この絵の裏に隠し部屋があるけど……入る?」
よっぽど必死だったようで返事もせずに4人は額縁をひっくり返して穴に飛び込んでいく。
ああ、主人公と関わると危険度が上がってしまうのに……。
確か彼らがここまで慌てているのはドラコに騙されて夜の廊下を逃げ回っていた時に三頭犬を見てしまってーー、という話だった筈だ。ここで彼らが管理人、フィルチに見つかってしまえば原作が変わってしまうからこの選択は合っていたのか……。
妙な詮索をされたら困るので、僕はため息をつきながら隠し部屋に戻った。
まさに死ぬ気で走って来たようで、彼らはただひたすら呼吸を整えながら床に倒れ込んでいた。
そんな彼らの前にボケーっと突っ立っているゴーストの僕。
どうしよ……この状況。神様でも誰でも良いから助けてくれ。
純血の新たなるデメリット。