ポラクス・マルフォイは陰キャを極めたい   作:於涼

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40話 僕は玄人ぶって解説したい。

フーチ先生の合図で一斉に飛び上がった選手たち。

スリザリンがまず攻撃を仕掛けるが、グリフィンドールの女性選手がクアッフルをかすめ取り先制点を奪った。

ガッツポーズを決める彼女にスリザリンのキャプテン、フリントは面白くなさそうにして目を細める。しかしフリントは何かするわけでもなく近くにいた後輩に耳打ちだけして試合の中心のポジションから離れた。

 

珍しい。フリントは今までの試合のスリザリンチームのプレイングから分かる通りスポーツマンシップという概念を知らないような奴だ。さっきのタイミングなら視界が悪かったとか言って突進し彼女を箒から落とそうと企んでもおかしくない。

 

それからもスリザリンチームは妙に綺麗なプレイングを重ねていく。グレーゾーンなプレイを良心痛まず平気で出来ることが強みだというのに。やはりというべきか強みを捨ててしまったスリザリンチームはかなり一方的に押されている。実況が嬉しそうに次々とグリフィンドール側の得点を伝えるたび、周りのスリザリンの観客は野次を飛ばす元気も無くなっていった。

 

「今回の試合は熱戦になるから絶対に来いと姉が散々聞かされたから渋々来たのに……。素人目から見ても酷いものですね」

 

アストリアはもう観戦してもしょうがないというようにぶ厚そうな本を取り出し読み始めてしまった。彼女はいつも話しかけてくる割にはすぐに会話を断ち切ってしまう。訪れる沈黙はやはり居心地が悪い。

 

 

まあ確かに今日のスリザリンチームのボロボロ具合は目を背けたくなるほどだ。試合が始まって約15分。グリフィンドールチームが一方的に攻撃し、スリザリンチームはただただ得点を許している。というのも、普段スリザリンチームの前衛に立っているフリントを筆頭とする選手達が、クアッフルの奪い合いに参加せずに渦中から離れた外野をウロウロしているのだ。

 

傍から見れば致命的なポジション配分ミスか、フリントらの役割ボイコット。

だが、僕はこれが“作戦”の一環だと知っている。

 

 

「アストリア、この試合を見逃すのは惜しいよ。そんな本なんていつでも見れるがクィディッチは二度と同じプレイを繰り返してくれない。僕の兄の勇姿を拝んでくれるんだろう?試合はこれからだ」

 

「……試合はこれから、ですか」

 

本から顔を上げたアストリアの瞳には興奮の欠片もない。酷くつまらなさそうに目を細める。

 

「では、面白い展開になれば教えてください」

 

あっけなく再び本に目を戻してしまうアストリア。正直僕は他の多くの生徒たちと同様この試合にかなり気分を高揚させていた。だと言うのに、取っつきようのない彼女の酷い冷め具合にこちらのテンションまで下げられてしまう。本当に何で興味ないくせに試合を見に来てわざわざ僕の隣に座るのか。

 

「ねえ、ご存知のことだと思うけど残念ながら君と僕の関係はそう深いものじゃないんだ。僕なんかの傍にいても楽しくないだろう?もっと仲良い人と見たらどうだい?まずまず君に観戦を勧めたのは(ダフネ)なんだろう?」

 

彼女と観れば良いじゃないか、と言ってみたが

 

「スリザリン生は基本皆私を煙たがっています。話してくれるのは姉だけです。その姉が友人と観戦しているので私は一人で観るしかない。なので人気が少ない場所を探していると比較的親交のあるあなたの隣が空いていましたので」

 

と返された。姉に「正義感が強い」と評されるアストリアは当たり前だが絶望的にスリザリン寮の気質と合わないらしく交友面に難のある学校生活を送っているようだ。澄ました表情から毒ある正論を吐く様子からプライド高いお坊ちゃんお嬢様から嫌われることは容易に想像できる。

 

というかよく周りの席を見ると同級生のセオドール・ノットといった僕が言えたことではないが根暗そうでパッとしない奴らばかりが座っていた。噂に聞いて試合を観に来てみたは良いものの連れなんていない悲しき者たちが少しでも落ち着いた場所を求めて集っているらしい。つまりここは陰キャ空間。僕は何となくいたたまれない気持ちになった。

 

「まあ折角来たんだ。少しぐらい試合を楽しんでも損は無いと思うけどね」

 

ドラコの晴れ舞台を切り捨てられるのは、ちょっと嫌だった。

 

 

 

「クィディッチに元々興味が無いのもありますけど……単純に気に食わないんですよ」

 

アストリアはそう言って憎々しげに空を仰ぐ。その視線の先にはスニッチを探して高所を巡回するドラコがいた。その表情はいたって真剣でフィールドの変化を一つも漏らすまいと静かに目を配らせている。

 

「普段どうしようもない子悪党のくせして試合の時だけまるでヒーローのように振る舞う。その態度がどうしても気持ち悪い。あの誠実さを少しでも他のことに回せたら……」

 

彼女は勢いよく本を閉じたかと思うと僕にもその苛立った瞳を向けてきた。

 

「私はあなたのことも気に入りません。こうやって兄や家族の批判をしても決して反論しない。あなたは家族の悪行を理解しているのでしょう?いつも見て見ぬふりをして情けない」

 

この子中々面倒くさいぞ、と僕は思ってしまった。

 

「ううん……何かごめん」

 

勢いに押され特に言い訳は思いつかなかったので取り合えず謝っておいた。そんな僕の様子にアストリアは呆れたように鼻を鳴らす。しかし彼女は「そうだ…」と何か思い悩むように小さく呟くと僕の顔を再度見てきた。

 

「中身の無い謝罪は結構です。ですが丁度あなたの兄のおかげで困っていることがあるんです。そうですね、賭けをして私が勝ったらその悩みの解決を手伝ってはいただけませんか?」

 

「賭けだって?」

 

「あなたの言う通りスリザリンが巻き返せばあなたの勝ち。このまま負ければ私の勝ち。あなたが勝てば私があなたのお困りごとを手伝いましょう。……賭け事にするにはいささか私が有利すぎるかもしれませんが」

 

こうして話しているうちにもグリフィンドールチームの数字が次々と増えていく得点板を見てアストリアは薄く笑う。僕の知らないうちにドラコはまたアストリアと揉めたのだろうか。彼女には何やかんや僕の不調を調べて貰った借りがあるしお礼にドラコの尻ぬぐいぐらい言ってくれればするのだが、賭けにすることで少しでも盛り上がった雰囲気で観戦できるのは良いことだろう。

 

 

「そんなことは無いさ。君が言った通りドラコは人間としての誠実さをほとんどクィディッチだけに捧げている。その誠実さ(狂気)を舐めちゃいけない」

 

 

この賭けはそう僕に分が悪いものでは無い。

 

 

 

 

グリフィンドールチームの得点が70点になり、会場が一段と高揚する。理由はグリフィンドールチームがスリザリンチームに50点以上の差をつけたからだ。ホグワーツのクィディッチの寮対抗戦は勝ち星数ではなく試合の総計得点数で順位が決まる。この試合までにスリザリンチームは200点グリフィンドールチームを勝ち越していた。捕ると試合が終了するスニッチの得点は150点。

 

つまりこの試合はグリフィンドールは200点以上リードしなければスニッチを捕ったとしても総点数負けてしまうスリザリンが優位の条件だった。しかし、その優位をグリフィンドールは覆した。これでスニッチを先にとった方が勝ちという明快なゲームとなったのだ。

 

グリフィンドール側の観客席は歓声に溢れ得点をきめた選手の名前を叫び、絶対的な優位をあっけなく失ったスリザリンチームを冷笑する。それもそうだろう。彼らのチームのシーカーはスニッチ争奪戦では負け知らずのハリーだ。

 

 

 

だが、試合はまだまだこれから。

 

「ここまではドラコの予想通り」

 

 

 

 

グリフィンドールチームが更にシュートを決めたとき、遥か上空で二人のシーカーがほとんど同時に動きだした。

 

 

 





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