ハリーとドラコがほとんど同時に動いた。……いや、ハリーの方が若干反応が早かったか。
スニッチが現れたのはグリフィンドールのゴール付近。二人は他のポジションの選手たちを潜り抜けて近づいていく。
このスニッチを捕ればその瞬間優勝チームが決まるのだ。グリフィンドールの観客たちは熱烈なコールを繰り返し、スリザリンの観客たちは青ざめた顔で口を覆いながら何とかドラコを目で追う。
しかしスニッチは二人がたどり着く前に姿をくらましてしまった。
会場全体が緊張の糸が切れて「ああ…」と呻きながら肩をおろす。
この後何度もスニッチが現れるがハリーもドラコも捕まえきることができない。緊迫した戦いが起こるたび観客は息をのむが決着がつくことはなく会場全体が疲れ切っていた。
「グリフィンドールのケイティ・ベルがまた決めた!これで彼女がこの試合で奪った総点数はなんと40点。試合はグリフィンドールが圧倒的な攻勢に回りもはやスリザリンは打ち上げられたグリンデローのような有様。しかし今日は両チームともシーカーの調子が悪いのでしょうか?一向にスニッチが捕まりません。試合は長期戦へと持ち込まれています……」
実況もなんども叫びすぎて声がかすれてきてしまっている。グリフィンドールはずっと得点を奪い続け遂にはスリザリンに150点差をつけるまで猛進しているが、クィディッチはどれだけ時間が経とうがシーカーがスニッチを捕まえるまで終わらないルール。公式試合の最長時間は三か月間という相変わらず狂ったスポーツだ。
試合時間はもうすぐ四時間となる。選手たちも最初より動きが悪くなっていったがグリフィンドールはそれでも猛攻を続けスリザリンを追い詰めている。アストリアも飽きてしまっているかと様子を窺えば、以外にも彼女はしっかりと選手たちの動きを追っていた。
アストリアは眉をひそめながら呟きを漏らす。
「スリザリンチームが得点を馬鹿みたいに奪われ続けているのは選手のポジションが定まらず愚鈍に散らばっているから。だけど、その烏合の衆が邪魔となりシーカーはスニッチへとたどり着けない」
彼女の言う通りスリザリンの選手たちをよく観察すると、彼らは攻めてくるグリフィンドールのチェイサーを前にしてチラチラとハリーの方を確認してはハリーが動きだすと一定の距離をとりながらも大きく迂回して、時には訳の分からない場所めがけてブラッジャーを打つ。だがそれらは全て遠回りにハリーが飛ぶ軌道を妨害していた。
「だからといってこれを作戦と呼ぶにはお粗末過ぎる。だってスリザリンのシーカーのあの人もスニッチへたどり着けない……」
確かに無造作に選手たちやブラッジャーが行き交うフィールドは敵味方関係なく動きづらい。実際ドラコがこの作戦をキャプテンのフリントに打診した時もそれはスリザリンの総得点の優位性を無駄にして試合を長引かせることとなると指摘された。だが、それでもスリザリンはこの作戦を選んだ。
「今年のチームの技量はグリフィンドールの方が上回っていて順当に勝負すればどうしてもスリザリンは負ける。ドラコもシーカーとしての実力がハリー・ポッターに届いていないことは理解していた。だから、自分の得意で勝負が出来るようにこの作戦にしたんだ!」
視界の端が煌めく。またスニッチが現れた。場所は地上すれすれの位置。
ゴールよりも更に上を旋回していたシーカー二人は地面に向かって箒の先端を向ける。
「この瞬間をドラコは待っていたんだ!」
シーカーとしてハリーはその小柄さを活かした精密な箒のコントロールは勿論、眼鏡をかけている癖にスニッチを見つける感と目が抜群に良い。そのためドラコはスタートダッシュは中々勝てないと判断した。
だが、日々の特訓の中でドラコはハリーに勝てると確信する得物も見つけ出した。それが急降下。
思い返せばハリーが一年生ながらシーカーに選ばれたのは、ドラコがネビルへの嫌がらせに上空から落とした物をキャッチした際の見事な急降下を見初められたからだった。ちなみにその時ハリーは初めて箒に乗った日だったのだが……。
しかしドラコは前回の試合でそれにも勝るとも劣らない見事な急降下を披露した。空気の抵抗を流す技術と頭から真下に突っ込んでいく勇気を会得したあの時、ドラコは一つ壁を乗り越えたのだ。
急降下で決まる瞬間を作るためにスリザリンはただハリーの動きを止めることに専念し続けた。この瞬間までの賭けをしたのだ。
「突っ込め!ドラコ!!」
僕は叫ぶ。隣でアストリアが「うるさ…」と耳を塞ぐがお構いなしだ。
ドラコとハリーはクァッフルやブラッジャーが飛び交う間を二人は駆け抜ける。ハリーはファイアボルトの小回りを存分に活かして俊敏に、ドラコは急角度の体勢のまま僅かに自分の身体の位置をずらしながら大胆に障害物を避けて接近していく。
ドラコの方が速く高度を落した。あとは直線に飛ぶだけ。
しかし、後ろから追ってくるハリーのスピードが想像以上に速い。深紅のローブをなびかせて迫りくる姿はまさしく炎の雷。
「ドラコ、逃げ切れ!掴むんだ!!」
「ハリー、行け!行け!」
両チームの観客も手を振りかざし吠えるように声援を送る。
二人が並んだ。スニッチはすぐそこ。
二人が手をのばす。
どちらかの指が触れるか、という時にスニッチは直角に方向を変えさらに下へと向かう。また逃がしてしまうかと全員が思った時、ドラコは腕、身体を箒から乗り出したままの体勢で膝を伸ばし箒から真下に宙づりになった。
伸ばされた指は黄金のボールの表面に触れる。
が、指は空を切った。
体勢が無茶すぎたのだ。死に物狂いで乗り出したドラコはもう箒をコントロール出来ていないのだ。
「ああ……」
とアストリアがうめく。
ドラコは落下していく。いくら地上に近いとはいえ頭からは不味い。
そして地上に近すぎて魔法をかける暇もない。
ドラコが、
ぞっとするほど冷たい何かが胸をよぎる。
僕の視界は暗転した。