ポラクス・マルフォイは陰キャを極めたい   作:於涼

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アストリア・グリーングラスと凍星の兄弟

 

 

この上ない晴天の空。

そんな天気に反してアストリアの気分は最低に近かった。

 

理由は単純明快。せっかくの休日だというのに、微塵も興味がないクィディッチの試合に「今ホグワーツではクィディッチがトレンドなのよ!」と熱弁する姉によって無理やり連れだされててしまったからだ。しかも肝心の姉は会場に連れてくるだけして、同級生の友人のもとに行ってしまった。

 

 

「……」

 

 

姉はアストリアに秘密の友人がいるとでも思っているのだろうか?残念なことに、社交的な姉と違って彼女に一緒に観戦するような友人は存在しなかった。

つまるところ、姉がいなくなったことでアストリア・グリーングラスの「ぼっち」は確定した。

 

 

普段は「好きで独りでいるのだ」と家族に向かって豪語している彼女だが、青春の熱がこもるこのクィディッチ会場で胸を張って歩けるほどの余裕は無かった。少しでも静かな場所を求め自寮のスリザリンの観客席をさ迷っていると、どうも他とは様子が異なる一角を見つけた。

 

先生たちに用意された席の後ろ。

観戦にて羽目を外したい生徒たちには大変不評であろう場所には、もの静かな生徒たちが集まっているようであった。

 

そして、その中に一人見覚えがある顔があった。

 

今日の眩い太陽が絶望的に似合わない青白すぎる肌に、くまが染みついた虚ろな灰色の目。

最近アストリアにとって気掛かりな二つ年上のスリザリン生、ポラクス・マルフォイがベンチの隅の方に座っていた。彼の隣は空席。

 

他の喧騒に包まれた場所よりは良いだろうとアストリアはそこで観戦することに決めた。

 

 

「お隣、失礼しますよ」

 

と、一言入れながらも返事が来る前に腰をかける。

ポラクス・マルフォイが不満の声を上げてきたが適当にあしらう。アストリアは彼が本気で自分を追い払う度胸がないことを、短い交流期間ながらよく知っていた。

 

アストリアとポラクスは顔なじみではあるが、特段親しい訳ではない。

沈黙の中、アストリアはポラクスの横顔をぼんやりと眺めながら、「やはり似ていない」と思った。

 

彼には双子の兄に学内で有名人の、ドラコ・マルフォイがいる。このドラコという男は顔はそっくりだが、目の前の地味な弟と性格は全く違って目立ちたがり屋で偉そう、口を開けば自慢か嫌味しか出てこない奴だ。奴の最悪な性格や言動は”マルフォイ家”というイギリス魔法界において最上クラスの家柄からきている。

 

そんな男と同様の立場であるはずなのに、異様に目立つのを嫌う態度を見て、アストリアはポラクスに興味を持った。

 

そして、「マルフォイ家の次男は致命的な病を抱えている」という噂により、アストリアは彼に話しかけずにはいられなくなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

試合開始の号令が響き渡る。

 

しばらくはスニッチを目で追っていたアストリアだったが、10分経つ頃には飽きてしまった。あまりにも単調で、一方的な試合だったからだ。もちろんボコボコにされているのは自寮のスリザリンチームの方だ。

 

姉から今回の試合は絶対に面白い、と断言されていたせいか案外自分は期待を抱いていたらしい、と彼女は自身を分析しながら本を読み始めた。

 

ポラクスはそんなアストリアに「試合はこれからだ」と、青白い頬をわずかにピンクに染めて語る。だが、アストリアはもう人気シリーズの最新刊『妖精とゴーストの貴公子の恋物語2』の世界に夢中になっていた。彼の呼びかけを邪険にいなす。

 

しかし、ポラクスは珍しく食い下がりきらなかった。

 

「まあ折角来たんだ。少しぐらい試合を楽しんでも損は無いと思うけどね」

 

心底勿体ないというような口ぶりで、曖昧な笑みを浮かべる。

 

 

アストリアはそんな彼の笑みが気に入らなかった。

アストリアは知識欲旺盛な少女だ。だからこそ、不可解な部分がある彼に関心を持った。同時に、

 

アストリアはどこか彼に同族意識を抱いていた。

 

家族と考え方が違って、周りと上手く馴染めなくて……そして、恐らくどうしようもない病に侵されていて。

 

 

しかし、目の前の彼はどうだろうか。

柄にもなく興奮して、兄の活躍に一喜一憂している。そこにアストリアが家族に対して抱くような薄暗い葛藤は見受けられない。

 

アストリアの胸には失望感と、わずかな羨望が浮かんだ。何とも勝手なものだ、と自嘲するしかなかった。

 

 

気に入らない、ポラクスの試合に対して熱が籠った視線を紛らわせたくて。アストリアは「賭けをしないか?」と声をかけた。

 

このまま相手チームが勝てばアストリアが勝ち。万が一スリザリンが逆転すればポラクスの勝ち。

ポラクスはやはりテンションが上がっているのか、意気揚々と賭けにのってきた。

 

 

そうこう話しているうちにやっと、試合が動き始めたらしい。

どうやら、本当にスリザリンチームは作戦を持ってこの状況にあるらしかった。細々とした得点は全て棄て、とれば150点の黄金のスニッチに全てをかける。

 

何ともピーキーな作戦だが、現実としてスリザリンチームはその勝ち筋を拾っていた。

両チームのシーカーによるスニッチ争奪戦。

 

グリフィンドールチームのシーカーはかの有名なハリー・ポッター。スリザリンチームのシーカーはドラコ・マルフォイ。会場は二人の動きに釘付けになった。

 

ドラコ・マルフォイは最高に嫌な男だが、どうもクィディッチに関しては本当に実力があるらしい。両者一歩も譲らない真向でのスピード勝負だ。

 

 

 

会場の熱が最高潮に達したとき。

 

 

 

自分の目に映る光景にアストリアの喉はくぐもった悲鳴を絞り出した。

 

シーカー二人ががスニッチに手を伸ばした時。ドラコ・マルフォイが体勢を崩し箒からその身が空に放り出されてしまったのだ。

 

無茶なプレイによる過失だと責め立てることは出来なかった。何故ならアストリアもその熾烈なスニッチの奪い合いのギラついた熱に取り込まれていた一人だったからだ。

 

学校の催し事に興味を示さず参加しないことを姉に心配され、あの憎らしい割にクィディッチではやたらちやほやされているドラコ・マルフォイの実力はいかにと高みの見物を決め込んでいた最中の、思わず引き込まれた世界。

やたら心臓がうるさく観衆の叫び声でさへ遠くに聞こえただ二人の選手のプレイがスローモーションのように進んだ。

 

 

 

その世界は一瞬にして冷たく現実に引き戻された。

 

ドラコ・マルフォイは新緑のローブをなびかせ落ちている。対戦相手であったハリー・ポッターは右手を伸ばしながらも呆然とした様子で静止している。その手はスニッチを捉えようとしていたのか、また別のものを捉えようとしたのか。

落ちていく目に映る人物はほんの数秒で無惨なこととなるのは明らかだ。

 

 

「人が死ぬ」、という恐怖がアストリアの脳裏によぎる。

 

 

 

アストリアは目を瞑った。両手で顔を隠した。

それと同時にアストリアは強烈な突風が自身に吹き付けるのを肌で感じた。それは吹雪のような冷たさで、息苦しくなるようなおどろおどろしい風だった。

アストリアは全てから逃げるように固く目を閉じた。

 

 

静まり返った会場。

 

 

 

突然、歓声が沸いた。

その声量は耳を塞ぎこんでいた手を貫通して、アストリアの鼓膜を破らんとする大きさ。

 

アストリアは何が起こったか分からず、恐る恐る目を開け周りを窺う。

 

 

「ドラコがスニッチを取った!!」

 

 

「見たか?スニッチが急に角度を変えて、それを宙づりで落ちてたドラコが嚙みついて取って、そのまま身体を捻って着地!オレじゃなきゃ見逃しちゃうね!!」

 

 

「スリザリンの勝ちだ!!」

 

 

ドラコが死んでない?勝った??

 

グラウンドに目を向けるとそこにいたのは土埃で幾分汚れているもののピンピンした様子で満面の笑みを浮かべてスニッチを掲げたドラコ・マルフォイ。

 

 

ガタ、っとアストリアが座るベンチが揺れた。

隣を見るとポラクスが倒れ込んでいた。頭から床に当たるすんでで彼の身体は硬直する。

 

 

「まったく、気の弱い奴だ」

 

低くねっとりとした声。

気づけばアストリアたちの横には寮監のスネイプ先生がいた。

 

どうやら彼がポラクスを浮遊呪文で助けたらしい。ポラクスは兄の危機的な状況の前に気絶してしまったようで、力なく浜辺で干上がったヒトデのような体勢で浮かんでいる。

 

「どうやら吾輩たちは君の兄を侮ってしまっていたようだ。しかし、我々以上に侮っていたグリフィンドールは哀れな静寂に……ー」

 

 

 

包まれていなかった。

 

 

 

グリフィンドールの観客席はたった今、人生の全ての望みが叶ったと言わんばかりのお祭り騒ぎの状態だった。

スリザリン生はその光景にふと冷静になり得点板を見る。

 

 

 

グリフィンドール 250 vs スリザリン 180

 

クィディッチの寮対抗戦は勝ち星の数ではなく総合得点で勝敗が決まる。スリザリンは今までの得点で200点リードをしていたため、点数差が50点以内であればこの試合に負けても、対抗戦で優勝だった。

 

 

「250ー180は、えっと……30!やった!オレたちの勝ちだ!!」

 

 

「バカ!70よ!!」

 

ドラコ・マルフォイの取り巻きのゴイルが間抜な計算にパンジー・パーキンソンはヒステリックな声を上げる。

 

 

グラウンドの上空ではグリフィンドールの選手である赤毛の双子と女性がハイタッチをしている。観客全員がシーカーに注目していた中、グリフィンドールチームはスニッチが取られる直前まで愚鈍なスリザリンチーム相手に着実と点数を稼ぎ続けたらしい。

 

スリザリンの選手たちは自分たちもスニッチ争奪戦に夢中になっていたのか、得点が取られ放題になっていることに試合後の今ようやく気づいたありさまで、目を白黒させている。

 

スリザリンの観客席は再び無言となった。

 

 

前の教員用席でダンブルドア校長が「ホグワーツ史上最も良い試合じゃった」と鼻声混じりで語り、マクゴナガル先生が半狂乱でよく分からない言葉の羅列を叫んでいるのが聞こえてくる。

 

 

「ああ、ポラクス!しっかりして頂戴!!ホントに貴方って人はアタシがいないとダメなんだから……!」

 

ふと隣を見るとアストリアと同じ年ぐらいのブロンドの髪の少女が、ポラクスを肩で支えながら甘い声で語りかけていた。彼女と目が合ったかと思うと、何故か強く睨みつけられた。

 

そして彼女は自我呆然となり動かなくなってしまったスネイプ先生を押しのけてポラクスをどこかに連れて行ってしまった。

 

 

 

アストリアは今視界に移る全ての状況についていくことができなかった。

 

 

 

 

 





ストーリーは固まっているものの、それをどう描写するかで悩みに悩みはや二年以上。

現実生活が落ち着いたタイミングで丁度感想を頂いたので書こう!と決心したのですがやっぱり文章力の無さを痛感し……。

アストリア目線で何とか描き切りました。自分的にはアズカバンの囚人の山場は乗り切ったので、次からはもっと楽に進められそうかなと思っています。

久しぶりながらも、読んでくださってありがとうございました!
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