ポラクス・マルフォイは陰キャを極めたい   作:於涼

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44話 僕は迷える子羊を導きたい。

 

連れ出してやる、という僕の言葉を未だ吞み込めていないのかアストリアはポカンと僕を見つめる。彼女の意識が飛んでいるうちにと僕は小声でローブのフードに隠れたリャナンシーに耳打ちをする。

 

 

「箪笥の右の引き出しにいれているあの薬をポケットに転移させてくれ」

 

「しょうがないわねえ」

 

リャナンシーの返答とともに、ローブのポケットに確かな重みを感じた。

 

 

「ポラクス先輩……急になにを……」

 

「時間が無いんだろ!これを飲んで、透明薬だから!」

 

ポケットから銀色の液体が入った小瓶を取り出し、一つを彼女に押し付けるように渡す。

 

姿を消すだけでなく臭い、熱も隠せなおかつ効果時間も1時間ある優れモノ……流石にゴーストみたいにすり抜けはできないけど。毎度ながらも家のコネで手に入れた高級品の透明薬だ。持っていた理由はもちろんカンニングのため。

真面目なアストリアには言えない理由だが、幸い彼女はそんなことを気にしている余裕はないようで、僕に急かされるまま薬を飲んだ。

 

僕の一口で薬を飲み干す。身体が溶けて流れていくような奇妙な感覚を無視して、透明になっても見失わないようアストリアの手首を掴み外へと走り出す。アストリアが驚いたように小さく悲鳴を上げたが構わず足を進める。

 

……夜のホグワーツを出歩くと碌な目に合わないのは諺か慣用句にすべき常識だ。ゴーストの姿でもない、しかも人を連れてなんて普段は絶対しないことだ。

 

 

ああ、何であんなカッコつけてこんなことを自分はしてるんだか……

 

数分前の自分の言動を早くも後悔して僕は半分ヤケになりながらも、僕は禁断の森の手前にある森番ハグリッドの小屋を目指した。透明薬をお互い飲んでいるためアストリアの表情は少しも窺うことができないが、彼女は無言で大人しく僕に引っ張られるままだった。

 

 

確か、ハリーたちグリフィンドールの3人はハグリッドの様子を見にいくらか前に小屋に向かっている筈。そしてややこしいことに未来のハリーとグレンジャーも小屋の近くに訪れてヒッポグリフの処刑を止めることを試みている筈だ。

 

グレンジャーが複数の科目を受けるために学校から支給されていた、時間を巻き戻す逆転時計を使って……。

 

 

透明ではあるが万が一にも彼らと鉢合わせないよう、僕は小屋の裏口は見えないがヒッポグリフが縄で括り付けられたかぼちゃ畑を一望できる茂みへとアストリアを連れていく。

 

ヒッポグリフの処刑は日暮れ。今、太陽はすでに沈みかけている。処刑はもうすぐ始まるだろう。

 

5分もしないうちに、4人の男が訪れてきた。

最も目立つのは長い白髭を蓄えたダンブルドア校長。そしてやせ細った老人に、その後ろに控えているヒキガエルのように縦に潰れた顔で大きな斧を持った男……確か冬休みにうちの屋敷で催されたパーティーに来ていたマクネア氏だ。

最後に少し距離をとって立っているのがコーネリウス・ファッジ魔法大臣だ。たまに屋敷に訪れるため顔は知っている。もちろん僕は別の部屋に逃げ出すため話したことはほとんどない。

 

「魔法大臣までがわざわざ来るなんて……!本当に貴方の父親は権力だけはありますね!」

 

多少気を持ち直したらしいアストリアがそう吐き捨てる。

まあ父上魔法省のお偉いさんの大半に献金してるしな……魔法大臣もそのうちの一人で父上に言われたら動くしかないのだろう。

 

 

「小屋に入った……。今のうちにヒッポグリフを解放すれば……!」

 

そう言って腰を上げようとするアストリアを僕は強引に手首を掴み続けることで押しとどめる。

 

「ダメだ。言っただろう?僕が手伝うのは”恐怖”を吞み込むことだって。

僕らは今透明で確かに他人から見えないが、それはヒッポグリフからもだ。ヒッポグリフはただでさえ認めた相手の言うことしか聞かないらしいじゃないか。アストリア、君はそんな動物を声だけで連れ出せるほど信用を得ているのかい?

助けようとしたって暴れられてその騒ぎで大人たちに気づかれるのがオチだ。僕らの足がつくことは絶対させないよ」

 

”怒り”による無謀な行動は許さない。

そんな僕の言葉にアストリアは目をかっぴらき下唇を強く噛む。

 

「……嫌らしい人!わざわざ処刑の瞬間を見せつけるためだけに私を連れてきたのですか!!」

 

「とりあえずもう少し声量を下げてくれ……あっ!ほら来た!

 アストリア、ヒッポグリフのいる方を良く見てみろ」

 

 

僕が指す方向(指は見えないが)では、ハリーとグレンジャーがヒッポグリフを括り付けた綱を解こうとしていた。

 

「えっ!先輩方!?」

 

アストリアは僕の手を振りほどこうとしていた腕の力を緩め、気の抜けた声を漏らす。

 

ハリーたちはヒッポグリフを急かすように何度も綱を引っ張り、小屋の裏の木立へと去って行った。彼らの背中が見えなくなってほどなく小屋からマクネア氏たちが出てきた。

 

ヒッポグリフがいないことに気付いた様子で、老人や魔法大臣は騒ぎ立て、マクネア氏は地面へと斧を叩きつけ、ダンブルドア校長は愉快そうに笑っていた。相変わらず怖い爺さんだ。

 

 

「これで君にとってはめでたしめでたし、ってとこじゃないか?」

 

アストリアは無罪のヒッポグリフが処刑されることに心を痛めていたようだった。これで気が晴れただろうと僕は軽い調子で話かけたが、アストリアは黙りこくっていた。

 

数分の沈黙の後、やっと彼女は口を開いた。

 

「……ポラクス先輩は知ってたんですか?こうなることを……」

 

「大広間でたまたまグリフィンドールの奴らの秘密話を聞いてしまったものでね」

 

僕は事実を知っていただけだが、適当に誤魔化しておく。しかしアストリアは腑に落ちないような顔をした。

 

 

「では、なぜそのことを処刑人たちに伝えなかったのですか?貴方はグリフィンドールを目の敵にしていて、それにマルフォイ家の人間でしょう?」

 

なんだ、そっちのことか……。

ハリーたちの動きを知った理由を深堀されず、僕は内心胸をなでおろした。

 

「クリスマスパーティーの時の言ったじゃないか。僕は周りに興味がないだけだって。そりゃあヒッポグリフの処刑失敗で家が没落するとか言われたら止めるけど、実際問題ヒッポグリフが逃げたって僕らの生活にそう変わりはない。だから言い方は悪いかもしれないけど、僕からしてみればどうでもいい話だった……」

 

ヒッポグリフに襲われて父上に泣きついたドラコ本人だって、クィディッチの練習が始まればすっかりとそのことを忘れていた。そんな程度の些細な見栄の問題。

 

 

……この前ドラコがこんなこと(意訳)をグレンジャーに言ってビンタを喰らっていたが、もしかして僕も同じ失敗をしたか?

 

 

言わぬが吉だったか。僕は若干身を構えながら、アストリアがいるであろう目の前の様子を窺った。

しかし、僕の警戒に反して彼女は何もしなかった。

 

 

不意に、ポツリと足元に水滴が落ちた。

 

 

雨が降ってきたかと空を見上げたが、ほとんど日が暮れかかった瞑色の空にそれほど雲は見当たらなかった。

 

「なぜ、なぜ!」

 

アストリアが荒い吐息とともに悲痛に満ちた呻きを漏らした。

朱色の光が彼女の影を映し出し、今度こそ涙に溢れてしまった漆黒の瞳が露わとなった。

 

……思っていたより薬の効果が短い!

僕は自身の白い細腕を確認し、首筋に汗を垂らす。

 

 

「どうして、ポッター先輩たちは私に何も教えてくれなかったの?私がまだ1年生だから?……いや、やっぱり私がスリザリン生だから……?」

 

留めなく彼女の頬には涙が伝う。

 

 

 

「じゃあ、スリザリンは最悪の寮のはず。だから私がどれだけ全力で手助けしたいと思っていても信用を勝ち取れない……。でも、じゃあ、じゃあ!どうしてドラコ・マルフォイはクィディッチで英雄扱いされているの?どうしてポラクス・マルフォイ……貴方は私の手を引っ張てくれたの?」

 

 

 

 

黄昏の森。

そこで目元を赤らめ涙する彼女を僕はふと「美しい」と感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

いや、しっかし……

 

悲哀の感情を爆発させてしまったらしいアストリアに僕はたじろぐ。

思い出せ……前にリャナンシーとジニーがやっていた恋愛講座の話を!!

 

女性に相談されたら否定から入るのは絶対にダメ。とにかく向こうの話を聞く、そして頷く。どんな優れた解決案をだすよりもこれが一番重要……。

 

 

「……とりあえず、君の事情を聞かせてよ」

 

脳内に羅列されるリャナンシーの文言をもとに、僕は言葉を絞り出す。

耳元に「ギリ合格」とリャナンシーの不機嫌そうな声が小さく聞こえた。

 

 

 

ぽつりぽつりと話し出したアストリア。

話を聞く限り、どうやら彼女はヒッポグリフの裁判のための資料作成に追われるハリーたちに自らが手伝うことを申し出ていたらしい。だが彼らはあまりいい顔をせず、アストリアは資料作成にはかなり貢献したものの今日処刑があることは教えてもらえなかったと。

 

なるほど、だからよく図書館で彼女を見かけたのか。僕は一人で納得する。

 

 

「どうして他寮の学年も違う奴のためにそんなことを?」

 

「貴方の兄が家の権力を振りかざして不当なことをするのが許せなかった……。それに、憧れていたんです。ポッター先輩たちに」

 

ハリーたちは去年ドラコを結果的に助けた秘密の部屋の件で、ホグワーツ内では称賛されまくっていた。その姿は特に後輩からしてみればとんでもなく立派な魔法使いに映るだろう。

 

「私、スリザリンで全然馴染めなくって。入学式の時もグリフィンドールに行きたいと思っていたんですけど、いざ組み分け帽子を被ったら家族が皆なスリザリン出身なことが頭によぎってしまって……そのことをずっと後悔しているんです」

 

アストリアはローブの襟を握り締めてうつむく。

殊勝なことだ。僕なんて寮の理念、風潮など気にせずとにかくスリザリンに入ることしか考えてなかった。

 

 

「私はまっすぐ生きたい。恥を晒さずただ真っ直ぐ。スリザリンでこの思いが受け入れてもらえなくても、グリフィンドールの人なら、って……」

 

そこまで言って彼女は突然座り込んだ。

僕はぎょっとして彼女の顔色を窺おうとしたが、立ったままではうつむいた彼女の顔はよく見えなかった。

 

「……分かってたんです。結局私は彼らを助けたいんじゃなくて、自分を救ってもらいたかったから近づいた。

人を利己のために利用しようとする最もスリザリンらしい行動でしたね。……ふふ、だからポッター先輩たちには信じてもらえなかった」

 

アストリアは自虐的に笑った。

そんな彼女の姿に、僕の脳裏には恋愛講座に続いて昔クリスマスにドラコからプレゼントされた『トロール並みでも出来る友達テクニック』という本の文章がよぎった。

 

 

「別に……利己的なところが悪かったんじゃないと思うよ」

 

しまった。否定形から入ってしまった。

だが言い出してしまったものは仕方がない。そう思って僕は言葉を続けることにした。

 

 

「……君は思い込み過ぎだ。ポッターは凄い完璧人、ドラコは極悪なやつ……そんな風に良くも悪くも極端な人間そうそういない。君は自分も他人もカテゴライズしすぎなんじゃないか?

だから、縛りつけようとして人に避けられ、自分も雁字搦めになって苦しい……」

 

 

って本が言ってた。

というのは喉で留めておく。

 

実際僕がジニーと話せているのはグリフィンドールでウィーズリー家の末っ子、なんていう世間的な彼女のカテゴリを見ているのではなく、リャナンシーに弟子入りする変な子という側面で見ているからな気がする。

 

いや……僕の場合だけではサンプルが少なすぎて本が言っていることが正しいのか分かんないけどさ。

 

 

 

とにかく、

 

 

「よく相手と目を合わせて話してみたら?意外と人間ってキャラクター設定適当(多面性があって)で面白いよ」

 

 

去年のアナタは下を向き過ぎて色んなモノを見落としていたものね、なんて茶々を入れるリャナンシーの囁きは無視する。

 

 

「目……」

 

アストリアは無垢な幼子のように僕をポカンと見上げる。

凝視されるのはあまり居心地が良いものではなく、僕は一歩後ずさり「そこまで見なくても……」と呻いた時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポラクス、逃げて!!」

 

リャナンシーの叫び声。

 

 

 

同時に酷い冷気が全身を襲った。

いつの間にか、あたりは灰色の霧に包まれている。

 

 

それに気づいた瞬間、僕の心は恐怖に染まる。

 

 

なんで、アレはここには来ないはず……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吸魂鬼(ディメンター)よ!!!」

 

 

 

霧の中に、いくつもの黒い影が薄っすらと見えた。

 

 





あと2話でアズカバン終わりの予定です……!
筆がのっているうちに頑張れ自分
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