俺の家について話しておこう。オブセシオン家はここバシレウス王国において結構な権力を持つ名家らしい。つまりボンボンもボンボン。この家に生まれた限り、よっぽどの事がなきゃ食いっぱぐれないというわけである。
がはは勝ったな、風呂入ってくる。いやぁこれで底辺貴族かなんかでいつ首を切られるかも分からんっていうならさ、俺も腹括ってなんかせにゃならんかなぁとか思ってたけど、杞憂だったね。
優秀な兄上もいるし、顔だけはいい妹もいるし、俺が何もやらずともウチは安泰というわけだ。よかったよかった。これで俺も気兼ねなくニート生活を送れるというものだ。
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
先ず言っておくことがある。この世界には魔法というやつが存在していて、それに伴って魔力というものも存在する。
で、貴族連中っていうのは大抵この魔力が高い。というのも当然で、貴族になるってのは莫大な財をどっかで生み出したとかでもない限り、先祖が戦争で結構な功名を立てたとかで成ることが多いわけだ。そんで戦争するってなったら、この時のメイン兵装が槍とか剣とか弓矢なわけで、めっちゃ強い魔法が使えたらそりゃもう無双ルートにいくわけ。
魔力の質や高さはかなり血筋に依存するところも多いから、そんなメチャ強先祖の血筋を引いてる貴族の人間はそりゃもう優秀な魔力を持って生まれてくる。
そういう傾向が強いと、貴族社会で魔力の質や量の高さっていうのは本人の評価に直結することに繋がってくる。一目置かれるようになる。
逆に低かったらそりゃもう侮られまくる。ぶっちゃけいじめられる。家族にも腫れ物扱いされるようになるしでいい事なし。
とまあこの世界ではそういうふうな背景があるわけだ。
正直ね、この話を知ったときは俺は鼻ほじ状態でしたね。なんでって、俺エリート貴族だからさ、完全に無関係の話だと思うよね。しかもだよ、神様とかそういうのに遭遇はしてないけど我転生者やぞ。絶対チート級の才能が俺の体に眠ってるって、そんときは信じて疑わなかったよね。
ここまで話して、薄々気付き始めた人も居るだろうから本題に入ろう。
俺氏、魔法の才能なしw
びっくりするよね。俺もびっくりしたし、俺の魔法適性見てくれたセンセイもびっくりしてたもん。これマジ?って感じで俺の方見てた。流石になんかの間違いだろって感じで何回も再診断してくれたけど、物の見事に適性ゼロって事実を突き付けられた。
その時の俺の気持ち分かる? せっかく現代社会から魔法アリのファンタジー世界に来たのにお前魔法使えねえからって言われた俺の気持ちが。
精神年齢とっくに大人な俺が久方振りに覚えた高揚感どうしてくれんの?
遠足前に眠れなくなる子供の気持ちでワクワクが止まらなかった俺のこの気持ちはどうすればいいの?
終わったわ。マジで。
そんな訳で、今現在俺は実家でネグレクトを受けております。
なんだろうね、この距離感。今飯食ってるんだけど、一応は家族と同じ食卓を囲ってはいるんだ。でもね、結構近い距離で食ってる他の家族連中に対して俺の席はこのクソデカテーブルの反対方向にある端ときた。これ一緒に食う意味ある? イヤミですかそうですか。死ね。
「ご馳走様」
なんか和やかに話してる脇で輪にも入れず飯を淡々と食うのも気まずいんで、さっさと食って早々に自室に戻るに限る。
あ〜イライラするぜ。何が悲しくて異世界に来てまでンな幼稚な嫌がらせを受けにゃならねえんだ。
「あらお姉様、もう食べ終わりましたの? 相変わらずですわね。そんなにお腹が減っておりましたの?」
そしてコレだよ。席を立って背を向けた俺にそう声を掛けてきたのは我が妹、アロガシアちゃんだ。まだ11歳だというのにもう淑やかな嫌味が言えるまで成長している。いや、姉として妹の成長が目覚しいようで鼻が高いよ。未来の社交界は君に任せた。
「ん、まあそんなところよ。にしても随分とまぁお上品な物言いが出来るようになったじゃないアロガシア。褒めてやるわ。次は下劣な性根が隠せるようになったらやっと及第点ね」
俺にはお嬢様言葉というのが分からんので直截な物言いで返しておく。
あからさまにアロガシアの目に敵意が滲み出て俺を睨みつけてきたので結構効いたらしい。相も変わらず煽り耐性は低いな。お姉ちゃんお前のそういうところ好きだぜ。変にスカされるより、そんな感じに悔しさを剥き出しにされた方が気持ちがイイわ。
それはそれとしてこの糞ガキ、いつか目に物見せてやるから覚悟しとけよボケ。
そんな俺達を見る目は様々だ。
お兄様は手のかかる妹連中を見るような目で苦笑いを浮かべている。彼は落ちこぼれ扱いの俺に対しても普通に接してくれるし何かと気に掛けてくれる人格者だ。自分の立場もあるし、親父の機嫌取りで俺の扱いに関して大きい声は上げられないらしいが、めっちゃいい子なので全然気にしてない。寧ろ好き。お前なら未来のオブセシオン家を安心して預けられるよ.........。
次に母上殿。この人は目に見えておどおどしておられる。なんか言いたげに口を開こうとするが、親父の方をチラチラ見てて機嫌を窺ってる。俺が一番イラつくタイプだ。言いたいことがあるならはっきり言えや!
「エンビディア、そういう言い方は無いだろう。アロガシアに謝りなさい」
そしてこいつ、親父。こいつに関して言うことは特にない。いつも通り。いつも通り俺以外の肩を持つ。
まあ今回に限ってはそう言われても仕方がない物言いをした俺も俺なので一応謝っておく。
「ハイハイ、ゴメンなさい。ちょっと思ったこと直接的に言い過ぎたわね。次はもうちょいオブラートに包んで言うことにするわ」
そういう問題じゃないことは分かっている。敢えて言った。
家長に向かって俺のような小娘がこんな口をきくなんて、家族の間柄であっても結構な問題に発展しかねない。そんなことは承知の上だ。
正直な話、普段の俺ならンなわざわざ立場を悪くしかねないマネはしない。だから理由はある。
親父は俺にあまり深く干渉できない。強く言えない。たまにこうして威厳保つために小言を挟んでくるが、実力行使には移れない。それを知っているからだ。
私には魔法の才能がない。それは確かに、一般の基準に当て嵌めたらそうだ。でもね、使えないわけじゃない。使える場面は本当に限られるが、それでも、人の一生を台無しにするだけのチカラは備わっているのだ。
それを、私と私を診たセンセイ、そしてセンセイ伝てに詳細を聞いた親父だけが知っている。
癪だけどね。出来ることなら、普通の魔法が使えるようになりたかったと、心底からそう思うよ。